見もの・読みもの日記

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カウンターと法整備/ヘイトスピーチとたたかう!(有田芳生)

2015-10-20 00:03:03 | 読んだもの(書籍)
○有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう!:日本版排外主義批判』 岩波書店 2013.9

 振り返って、そうか2013年(2年前)だったか、と思った。著者が、作家の柳美里さんのツイッターによって、東京・新大久保で韓国・朝鮮人を標的にしたヘイトデモが行われていることを知ったのが、2013年2月。それからわずか7ヶ月後に本書は刊行された。

 ただし、もう少し古い話もレポートされている。過激なヘイトデモの中心勢力である在特会(在日特権を許さない市民の会)は2007年設立。著者は、2011年6月「すべての拉致被害者を救出するぞ!国民大行進」のデモで、在特会に出会っている。「朝鮮人を東京湾に叩き込め」などのシュプレヒコールを上げる集団に、横田夫妻が困惑し、「救う会の活動が誤解されるから、すぐにやめさせてください」と救う会の関係者に抗議したことが記されている。

 在特会は、2009年にフィリピン家族の不法滞在問題からリアルなデモ活動を始め、同年に京都朝鮮第一初級学校「威力業務妨害」事件、2010年に徳島県教組「威力業務妨害」事件等を起こしている。私はすでに安田浩一氏の『ネットと愛国』で会員たちの不思議な素顔に触れているが、本書のほうが淡々と彼らの主張や行動、起こした事件などをまとめており、この問題を初めて考える人には読みやすい資料である。

 2013年2月には、ヘイトデモに対するカウンター勢力が登場する。私は「カウンター勢力」の種類や登場の経緯について、よく知らなかったので、本書は参考になった。在特会はデモの前後に「お散歩」と称して少人数で新大久保界隈の路地を練り歩き、韓流ショップの店員を罵り、買い物に来ている日本人を怒鳴りつけることを通例としていた。これを阻止するため、ツイッターの呼びかけで集まったのが「レイシストをしばき隊」で、以後「プラカ隊」「お知らせ隊」「ダンマク隊」などが発生した。こうした個人を単位とした自然発生的な運動のかたちは、現在につながっていると思う。

 国会議員である著者は、この国のヘイトスピーチが、拉致問題解決の障害であるばかりでなく、大きな社会問題であるという認識に至り、2013年3月「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会議員集会」を開催する。これをきっかけにマスコミ報道も始まる。同時に著者に対する執拗な攻撃も始まった。今でもネット上では、著者の発言に攻撃が続いているが、有田さんタフだなあ。もう馬鹿馬鹿しくて気にならなくなっているんだろうか。

 日本は国連の定めた「自由権規約」と「人種差別撤廃条約」に加入している。法令には守るべき順位があって、憲法>条約>国内の法令の順だという(おお、知らなかった)。「人種差別撤廃条約」に加入している日本は、人種差別の廃止に努力しなければならず、必要があれば、国内法を整備しなければならない。にもかかわらず「憲法が保障する表現の自由に抵触する恐れがある」ことを理由に日本政府は法整備を留保し、2013年に至っても、外務省の官僚は「留保を付した当時と比べて、現時点においても大きく状況が変わっているとは認識していない」(≒規制が必要な差別は存在しない)と答弁しているのだ。諸外国の法整備状況など、より詳しい解説は本書を参照してほしい。

 ネット右翼の闇よりも、政府の公式見解が抱える闇のほうが深いような気がする。普通に考えて、おかしいだろう。具体的に「○○小学校を襲撃する」と発言すれば逮捕されるのに、「韓国人を殺せ」と叫ぶことは(不特定多数が対象だから)規制されない。しかし、現にコリアンタウンに住んでいる韓国人・朝鮮人の目の前で、その発言がされているのである。人権(人格権)の侵害でなくて何か、と思う。

 安保法制に揺れた先の国会で、著者の推進するヘイトスピーチ禁止法案(人種差別撤廃施策推進法案)は採決が見送られたが、なんとか継続審議に残った。この国の法制度が、より一層、人権に配慮したものになることを私は望んでいる。

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