見もの・読みもの日記

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社会派の群像劇/中華ドラマ『人民的名義』、看完了

2017-09-18 23:50:01 | 見たもの(Webサイト・TV)
〇『人民的名義』全55集(DVD版)(2017年、最高人民検察院影視中心等)

 今年3月から4月に湖南衛視等で放映され、中国国内で大反響を引き起こしたドラマである。私は、中国ドラマは古装劇ひとすじなので、現代劇は他人事だと思っていた。それが、SNSなどでの評判を聞くうちに、だんだん見たくなってきた。優酷(Youku)というサイトで無料配信されていることが分かったので、試しに1話目を見てみたら、なるほど面白い。現代劇に慣れていないため、字幕の助けを借りても理解できない単語が多かったが、なんとか筋を追うことはできた。

 第1話の舞台は北京。最高人民検察院の反貪総局(腐敗=汚職収賄を摘発する組織)に勤める侯亮平(ホウリャンピン)は、ある高官の捜査の過程で、漢東省(※架空の省)京州市副市長の丁義珍の関与が浮かび、漢東省検察院に協力を要請する。漢東省検察院の反貪局局長・陳海(チェンハイ)は、侯亮平の大学時代の親友でもあった。北京の案件はすぐに解決したが、丁義珍はアメリカに逃亡してしまう。

 同じ頃、漢東省京州市では、大風集団(株式会社)服装工場の工員たちが工場を占拠し、失火により負傷者を出す事件が起きる(一一六事件)。大風集団の社長は、侯亮平の幼馴染みの蔡成功だった。事件を捜査していた陳海は、交通事故に遭い、一命はとりとめたものの意識が戻らなくなってしまう。この事故に謀略の疑いを抱く侯亮平は、陳海の後任として、漢東省検察院の反貪局長に着任する。

 漢東省では、彼の大学時代の恩師・漢東大学教授の高育良が、省委の副書記をつとめており、同窓の先輩・祁同偉は省の公安庁庁長になっていた。このほか、腐敗の横行に厳しい目を向ける新任の省委書記・沙瑞金、大胆な改革で京州の経済発展を推し進める市委書記の李達康、才覚ひとつで巨万の富を築いた山水集団の女経営者・高小琴など、所属する階層も境遇も性格も信条も異なる、個性的な人物が多数登場する。果断で天才的なヒーローばかりでなく、地味だが持ち場をしっかり守る人々がちゃんと描かれていたのが印象的だった。

 そして、役者さんはいずれも役にぴったりで、ドラマに現実味を与えていた。ものすごく狡猾そうな顔、欲深そうな顔、良心的な顔を、よくぞ集めてきたものだ。侯亮平役の陸毅(ルーイー)は明朗快活で自信にあふれ、爽やかな主人公を好演。これはそんなに難しい役ではない。沙瑞金役の張豊毅は、無言で立っているだけで絵になり、内心の深い感情が伝わってくる。逆にあまり表情を読ませないところが難しいと思ったのは、高育良役の張志堅である。

 以下はネタバレになるが、できれば本作は事前情報を仕入れずに、まっさらな気持ちで見るほうが楽しいと思う。え?そうくる?どうなる?と、読めない展開に何度も手に汗を握った。カーチェイスとかヘリコプターの出動とか、アクション場面もたくさんあり、(たぶん本職の)隊員たちの見事に訓練された動作から、緊迫感が伝わってくる。

 最終的に、陳海の殺害を企てたのは祁同偉とその愛人の高小琴だったことが判明する。祁同偉は貧しい農民の生まれで、あらゆる手段を用いて富と権力を手に入れ、それを失うことを恐れていた。高小琴に至っては、靴さえ買えない漁家の娘だったが、悪徳商人に見出され、ハニートラップ要員として教育を受け、それを足掛かりに今日の地位を築いた。いま中国では腐敗撲滅キャンペーンが華々しく行われているが、摘発された人々の中には、こんなふうに自分のため、あるいは家族のため、不法行為に手を染めつつ、極貧から成り上がった人々もいるのだろう。ドラマは、主人公サイドの人々が、身命を賭して「正義」と「公平」を求める、純粋で真剣な態度を迷いなく描く一方で、悪人たちにも同情の余地を残している。

 いや、祁同偉と高小琴が最後にお互いの愛情だけは本物だと信じられたのに対して、祁同偉の妻・梁璐、高育良の妻・呉惠芬の描きかたは残酷である。高育良の愛情が他の女性に移り、離婚したにもかかわらず、世間に対して良妻を演じ続けた呉惠芬は、夫の権力や社会的信用を利用していたわけでもあり、侯亮平は「利己主義者」という言葉で呉老師(彼女も漢東大学の教授)を評する。

 本作には、中国の歴史や古典文学の「故事」がちりばめられているのも面白かった。侯亮平のあだなは「猴子(サル)」だが、これはもちろん「西遊記」の孫悟空を意味している。既成の権力・体制をものとせず、天宮さえも大騒ぎさせるのだ。侯亮平の命が狙われる「鴻門之会」の下りはハラハラした。あと、最後まで巧みに使われるのが京劇「沙家浜」である。高小琴はこの登場人物「阿慶嫂」を唱うのを得意としている。これはぼんやり記憶にあったのだが、途中で調べて、日中戦争に取材した革命京劇というやつか!と驚いた。これ全編見たい。

 中国の連続ドラマは、ブツ切り的な終わり方をするものが多いが、本作は、わりときれいにいろいろなエピソードを回収して終わったように思う。鄭乾と張宝宝の現代っ子カップルは、つらい展開が続くときの癒しだったので、無事に結婚してくれてよかった。植物人間状態だった陳海が、老父・陳岩石の命を受け継ぐように意識を取り戻したのは、思いがけない喜びだったが、陳海に思いを寄せていた陸亦可はどうするんだ? その陸亦可に言い寄っていた硬派な公安局長の趙東来は失恋か?と先行きが気になる。

 そうそう、趙東来が陸亦可を誘い出した朗読会の会場は公共図書館だろうか? 画面を通じて、最近の中国の様子がいろいろ見られてよかった。子供も老人もスマホは必携アイテムなのだとよく分かった。漢東省のロケは、主に南京で行われたという。大都会だが緑も多くて、いい街だった。また行きたいなあ。このドラマ、日本での放映を切に望む。

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