見もの・読みもの日記

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金色の妖狐再び/文楽・生写朝顔話、玉藻前曦袂

2017-09-16 23:52:57 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 人形浄瑠璃文楽 平成29年9月公演

・第1部『生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)・宇治川蛍狩りの段/明石浦船別れの段/浜松小屋の段/嶋田宿笑い薬の段/宿屋の段/大井川の段』(9月10日、11:00~)

 『生写朝顔話』は初めて見る演目。今期は『玉藻前』を絶対見たかったので、先行予約開始日に速攻でチケットを取り、『朝顔』も比較的いい席が残っていたので行くことにした。大内家の家臣・宮城阿曽次郎と、秋月弓之助の娘、深雪(のち朝顔)のすれ違い悲恋の物語。阿曽次郎は宇治川のほとりで、舟遊びに来ていた深雪と出会うが、国許からの呼び出しで即座に京を離れることになり、阿曽次郎が和歌をしたためた朝顔の扇が、深雪の手元に残る。

 のちに二人は月夜の明石の浦でめぐり合うが、再び分かれ分かれになってしまう。このとき朝顔の扇は、阿曽次郎の手に渡る。さらに年月を経た後、阿曽次郎を追って家を出た深雪は、街道筋で盲目の女乞食となっている。嶋田宿の戎屋に投宿した阿曽次郎(改名して駒沢次郎左衛門)は、座敷の衝立に覚えのある朝顔の和歌があるのを見つける。宿の亭主を問いただし、盲目の朝顔を呼び寄せて琴を弾かせ、身の上話を聞くが、連れの手前、自分が阿曽次郎であると言い出せない。扇と目薬を渡して宿を立つ。駒沢の正体に気づいた朝顔は後を追ったが、大井川で足止めされる。悲しみにくれるところ、戎屋の亭主が、深雪の父親に大恩のある身で、都合よく「甲子の年の生まれ」だと分かる。その血を目薬と一緒に飲むことで、朝顔の目は全快する。

 ストーリーは、何だか他の名作の見どころをごちゃまぜにしたような感があって、あまり感心しなかったが、プログラムの解説に、もとは中国の戯曲『桃花扇』だとあるのが気になった。これが読本『朝顔日記』になり、演劇化されたとのこと。桃花が日本では朝顔になるのかな。劇中の朝顔の扇が「金地に朝顔」と聞いて、鈴木其一の『朝顔図屛風』を思い出していた。

 「嶋田宿笑い薬の段」は、駒沢(阿曽次郎)を毒殺しようとした萩の祐仙が、逆に笑い薬を飲まされるというチャリ場で、萩の祐仙を勘十郎さん。勘十郎さんのチャリ場はほんと楽しくて好き。床は咲太夫さんと燕三さんだった。また、深雪は「浜松小屋」だけ蓑助さんだった。家老のお嬢様が、恋ゆえに全てを捨てて落ちぶれた哀切さと妖艶さ。忠義の乳母・浅香は和生さん。7月に人間国宝になられて、初めて見る舞台である。おめでとうございます。
 
・第2部『玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)・清水寺の段/道春館の段/神泉苑の段/廊下の段/訴訟の段/祈りの段/化粧殺生石』(9月16日、16:00~)

 そして、今日は『玉藻前』を見てきた。やっぱり面白いわー。国立劇場での上演は昭和49年(1974)9月以来だというが、私は平成27年(2015)秋の大阪公演を見ているのである。プログラムの勘十郎さんインタビューで聞き手の方が「公演期間中に口コミでチケットの売り上げがぐんぐん伸びたと伺っています」と話している。勘十郎さんも「お陰様でご好評をいただきました。『こんなん見たことないわ』って」とおっしゃっている。

 自分のブログを読み返すと「何度も見たい演目ではない」と書いているが、いや、やっぱり二度目も面白かったし、三度目も見たい(実は、細かい筋はけっこう忘れていた)。2015年の上演記録を確認すると(※文化デジタルライブラリー)、今回、主要な役どころはほとんど変わっていないようだ。人形はもちろん、「道春館」の奥はやっぱり千歳太夫さんの熱演。「神泉苑」の咲甫太夫さん、「祈りの段」の文字久太夫さんも好き。「道春館」中の希太夫さんも細身なのに声量があって聞きやすい。今回は、床のすぐ下の席で、浄瑠璃と三味線を全身に浴びることができ、至福の時間だった。

 最後の「殺生石」(七化け)はほんとに楽しかった。昭和49年の舞台では、先代の玉男師匠が妖狐(現在の人形)を遣ったそうだが、この曇りのない楽しさは勘十郎さんならではである。力のある若手・中堅が並ぶ床も楽しく、特に咲甫太夫さんは声が陽性で、こういう景事向きだと思う。藤蔵さんの三味線ものっていた。最後に岩の上に玉藻前がしずしずと姿を現し、一瞬で妖狐の顔に変わる(実によくできた仕掛け)。淋しいススキの枯野が菊花でいっぱいになり、舞台が明るくなって客席から万雷の拍手。いやいや、妖狐ちゃん(勘十郎師の呼び方)に拍手していいのか、と思ったが、最後の詞章は「稲荷山稲荷山、幸先吉田の末社にて、誓ひ新たな新御霊、祝ひ祭れる朝吉と、守らせ給ふぞめでたけれ」と、御霊も妖狐も寿いで終わるのである。

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