見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

生けるものの愛おしさ/ほとけの国の美術(府中市美術館)

2024-03-21 22:55:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

府中市美術館 企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)

 恒例・春の江戸絵画まつり。まだ桜は咲いていないが、さっそく見てきた。怖い絵、変な絵、かわいい絵(=図録のオビの宣伝文句)、来迎図から若冲まで「ほとけの国」で生まれた、美しくアイディアに溢れた作品を展示する。入口にはクリーム色の壁にキラキラ輝く金色の「ほとけの国の美術」の文字。そして、無地の壁に挟まれた細長い通路を進んでいくと、金身の菩薩たちが舞い踊る『二十五菩薩来迎図』17幅を掛け並べた空間が出現する。京都・二尊院に伝わる、土佐行広(室町時代)の作だという。

 二尊院には何度か行っているが、こんな作品を所蔵しているとは聞いたことがない。それもそのはず、あとで会場ロビーで関連ビデオを見たら、経変劣化のため、長らく展示ができなかったそうだ。このたび、修復・調査が完了し「数百年ぶり」(二尊院のホームページ)に公開が可能になった。寺外で公開されるのは、もちろん初めてである。二尊院は釈迦如来と阿弥陀如来を本尊としており、須弥壇の左右に菩薩たちの画軸を配することで来迎図が完成する。会場では、展示室の角に釈迦・阿弥陀二尊の写真パネルを置き、90度に交わる左右の壁に画軸を並べていた。背景に本堂の襖(自然の風景が描かれる)がそのまま使われていて、現場の雰囲気の再現に役立っていた。金色の菩薩たちは、長い黒髪と天衣をひるがえし、ふっくらした頬に山形の眉、赤い唇が印象的。室町時代の仏画って、こんなに優美だったかしら、と認識を改める。

 ほかにも会津若松市・高厳寺伝来の『阿弥陀二十五菩薩来迎図』(福島県立博物館)とか、敦賀市・西福寺の『観経変相曼荼羅図(当麻曼荼羅)』(福井県立歴史博物館寄託)とか、地方に伝わる逸品を見ることができて、とてもありがたかった。後者は浄土の蓮池に立派な船が浮かんでいるのを珍しく感じた。今年の「江戸絵画まつり」は、鎌倉・室町時代の作品がいつもより多く出ている。楽しみにしていた金沢市・照円寺の『地獄極楽図』は後期展示(4/9-)だったが、後期もまた行くので問題ない。

 禅画では、仙厓義梵の『豊干禅師図』は、崩れかけた泥人形みたいな豊干禅師も、地球外生命体みたいな虎も好き。逸見一信の『降竜伏虎羅漢図』は全体に劇画調だが、虎のモフモフ具合がかわいい。若冲の『石峰寺図』は久しぶりに見た。若いお客さんが、文殊の獅子と普賢の白象を目ざとく見つけていて、嬉しかった。

 最終章は「涅槃図と動物絵画の時代」を特集する。たくさんの動物を描いた涅槃図は、日本独特の絵画であり、情感豊かな動物絵画が描かれたのは、江戸時代の人々の心に涅槃図の光景が染みわたっていたからではなかろうか、という。毎年この「江戸絵画まつり」で見て来た作品を思い返すと、共感できる説だった。柴田義童『動物図押絵貼屏風』は初見かなあ。カワウソがかわいい。蘆雪『藤花鼬図』のイタチも、アップで見ると悶絶するほどかわいい。応挙や蘆雪の仔犬は言わずもがな。

 あと、毎年、洒脱な作品で楽しませてくれる上田公長の『芭蕉涅槃図』も楽しかった。門人たちに加えて、芭蕉の俳句に読まれた動物たち(蛙、烏、蓑を着たサルなど)が殊勝に集まっているのが可笑しくてかわいい。

 図録を眺めていると後期も楽しそうだ。もちろん再訪の予定。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 8K映像で訪ねる/中尊寺金色... | トップ | 2024桜はまだ咲かない »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事