見もの・読みもの日記

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日本とイスラエル/こんにちは、ユダヤ人です(ロジャー・パルバース、四方田犬彦)

2015-01-07 21:14:18 | 読んだもの(書籍)
○ロジャー・パルバース、四方田犬彦『こんにちは、ユダヤ人です』(河出ブックス) 河出書房新社 2014.10

 私がユダヤ人について知っていることはきわめて少ないが、四方田犬彦さんがイスラエル滞在について書いた本(『心は転がる石のように』2004)が面白かったことを思い出して、本書を読んでみることにした。第1章はユダヤ人(アメリカ生まれ、オーストラリア国籍、日本在住歴50年)のパルバースさんの家族史。第2章は、イスラエル国家の歴史。第3章は、ハリウッドのユダヤ人を中心に。第4章は、三人のユダヤ人、マルクス、シェーンベルグ、フロイトについて語る。

 ユダヤ人とイスラエルについて、実にたくさんのことを学んだので、第2章を中心に、時系列順に整理しておく。まず国家を持たなかった、したがって他の国に侵入して暴力をふるうことはなかった二千年のユダヤ人の歴史があり、オスマン帝国(文中ではオットマン帝国)のもと、ユダヤ人もアラブ人も仲良く一緒に暮らしていた時代があった。19世紀の民族主義のひとつとして、政治的シオニズムが起こり、最初はウガンダに建国予定で(!)ブラジルやアルゼンチンも候補だった。西洋的・無神論的なシオニズムの信奉者は、古臭いユダヤ教を嫌っていたのに、最後は「しかたなく」「偶然」パレスチナに建国することになった(ああ、なんという不幸な巡りあわせ)。

 イスラエルは、ユダヤ教の伝統を断ち切り、完全な世俗国家として誕生した。それゆえ、ユダヤ教徒はイスラエルを悪魔の発明と考えている(ううむ、ユダヤ人=イスラエル人が等号では結べないことは、なんとなく理解していたけど、そこまで深い文化的断絶があるとは知らなかった)。不自然な建国ゆえに、1948年からずっと戦争状態を続けてきたイスラエルでは、「フッパ」(厚かましい、荒っぽい、恥知らず)な性格が増幅されていく。ユダヤ人は、世界の歴史における一番の犠牲者であったのだから、こうして強い国家をつくらなければならない、という考え方が、1960年頃から強まる。被害者意識とセットになった、強さへの願望。今の日本社会にも似ている。

 四方田さんは、イスラエルと日本の相似点を、以下のように語る。両国はユーラシア大陸の極西と極東にるアメリカの同盟国で、周りの国々から嫌われて孤立している。両国とも国内に民族差別がある。イスラエル国内には「イスラエルアラブ」と呼ばれる人々が住んでいるが、子供のときからヘブライ語を教えられ、さまざまなハラスメントにさらされ、教育上でも言語の上でも公然と差別が行われている。彼らの存在は、日本における在日韓国人とよく似ている。

 80年代になると、イスラエルのユダヤ人は少子化が進行し、兵役を終えた若者は海外に出て行って、イスラエルに戻ってこない。イスラエルという国は、もうユダヤ人国家として成り立たなくなってしまうという説もあるほど。近年、中国人、タイ人など、アジア系の労働力が大量に流入しているという(へえ~思ってもみなかった)。

 本書は対談本なので、以上のような話題は、全くランダムに現れる。パルバースさんの家族や血縁者、四方田さんがイスラエルで会った学生、あるいはアメリカの映画俳優やコメディアンなど、どれも具体的な人物の顔を伴って、生々しい語りが続く。そして、他の国でありながら、日本との類似性に、考えさせられる点が多い。

 第2章に述べられた、イスラエル国の現状は、げんなりするものだった。パルバースさんが「それは非ユダヤ的です」という気持ちは分かる。私が、いまの日本の反知性的で不寛容な人々(彼らは自分たちこそが「日本」だと思っている)を見ていて「それは非日本的だ」とつぶやきたくなるようなものだろう。

 パルバースさんは、「ユダヤ人」とは、ひとことで言うならアウトサイダー(異邦人)だという。弱者、社会に適応しない人、大変な目に遭っている人たちの悔しさ、悩みを皆に語ろうとする者。自分の苦しみのプリズムを通して、相手の悲しみを考える者。「いつまでも自己憐憫の気持ちになって、一番ひどい目に遭ったのは自分だと言い続けるのは、ぼくは逆にユダヤ人じゃないと思います」というのはいい言葉だ。残念ながら、日本人のマジョリティに、こういう資質はないな。でも、井上ひさしや宮沢賢治が、かなりユダヤ的だという指摘には共感した。

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