見もの・読みもの日記

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ひとつとや~で始まる/古美術かぞえうた(根津美術館)

2024-06-09 20:59:36 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『古美術かぞえうた 名前に数字がある作品』(2024年6月1日~7月15日)

 かぞえうたのように数字をたどりながら、気軽に楽しく鑑賞できる古美術入門編。近年、同館は、さまざまなかたちで古美術の魅力を紹介する展覧会を開催しているが、これはまた新機軸である。

 はじめは「姿や技法を示す数字」で陶磁器や漆工・金工が中心。『青磁一葉香合』に始まり、名前に含まれる数字が徐々に大きくなっていく。『染付二匹鯉香合』は、青色で鱗を描かれた鯉と白い鯉が上下にくっついているのだが、一瞬、腹のふくれたフグかと思った。『青磁三閑人蓋置』は、三人が外側を向いて背中合わせに手をつないでいるのが不思議。画像検索すると、外向きが一般的だが、例外的に内向きの三閑人もあるようだ。三角香炉→四方鉢→六角水注→八角鉢…と、角(かど)を表す数字は、基本的に偶数で大きくなっていく。と思ったら『染付波文十一角皿』(肥前)があって驚いた。ギザギザした縁が、アルミホイルのケーキカップみたいで可愛いのだが、どうやって十一等分の角度を得たのか、とても不思議である。七角、九角も難しそうだが、五角形の『屈輪堆黒五輪花形合子』は、安定感があってよいと思った。それぞれ独特の技法を表す三彩、五彩、七宝の作品もあり。

 後半は主に絵画で、三夕、四君子、六歌仙、七夕などの数にちなんだテーマを、なるほどなるほど、と納得しながら眺める。見慣れない作品があるなと思ったのは、狩野昌運筆『四季耕作図』4幅(江戸時代、17世紀、個人蔵)。淡彩で農村の耕作風景を描いているが、田んぼ(たぶん)が整えられた長方形でなく、水たまりみたいな楕円形なのが面白かった。作者不詳の『四睡図』(江戸時代、17世紀、個人蔵)は、だらしなくバターのように溶けた虎が可愛かった。狩野常信筆『瀟湘八景図』は、比較的コンパクトな図巻におなじみの八景を収めている。漆工の『七夕蒔絵硯箱』には、笹と短冊のほかに、冊子や梶の葉がデザインされているのだが、裁縫や書道などの技芸上達を願う感覚、残念ながら、すっかり忘れられているなあと思った。

 なお、展示ケースのところどころには、展示品を読み込んだ、クスッと笑える「かぞえうた」が添えられていた。担当学芸員の作との由。

 展示室2は「仏教美術にあふれる数字」を特集。時に南北朝~室町時代の仏画が多くて、独特のあやしげな雰囲気が好き。『普賢十羅刹女像』(鎌倉~南北朝時代)は、普賢菩薩の左右に5人ずつ羅刹女を配するが、右3人目の羅刹女だけ和風に長い髪を垂らしている。衣装も女房装束かと思うが、よく見えなかった。『弁才天十五童子像』(室町時代)は、横幅のある、どっしりした弁才天( マツコ・デラックスみたい)を、角髪(みずら)の童子たちが囲む。上方に蔵王権現と役行者が描かれており、吉野・天河弁才天を表したものだという。

 『阿弥陀二十五菩薩来迎図』(鎌倉時代)は、伝統的な図様。最近、だんだん来迎図に惹かれるようになってきたのは、年齢のせいかもしれない。自分の部屋に飾って、日夜眺めて暮らしたい。最後に『華厳五十五所絵』(平安時代、もとは東大寺にあったもの)が3幅出ていた。四頭身か五頭身くらいの鬼たちがかわいい。日本の鬼(邪鬼)は背が低くて頭でっかちが古い伝統なんだろうか。

 上の階に上がって、展示室5は「江戸→東京-駆け抜ける工芸-」と題して、幕末~明治の金工・漆工など。その流れで、展示室6「季夏の茶の湯」の冒頭に、小川破笠『竹翡翠蒔絵手付煙草盆』が出ていた。地味な木製の煙草盆の側面に、ハッとする色あざやかな翡翠(かわせみ)の姿が嵌め込まれている。景徳鎮窯の『色絵竹節形火入』(明時代)ともよく合っていた。


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