見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

家族、厄介なもの/中華ドラマ『都挺好』

2019-06-30 17:58:18 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『都挺好』(2019年、東陽正午陽光影視有限公司)

 古装ドラマ好きの私だが、評判を聞いて、久しぶりに現代劇を見てみた。舞台は2017年の蘇州。めざましい経済発展を背景に、高層ビルと古い家並み、豊かな自然が併存する都市。蘇州の古い集合住宅に、定年後の蘇大強(倪大紅)は妻の趙美蘭と暮らしていた。アメリカに暮らす長男・蘇明哲は、父からの電話で母の急死を告げられ、急遽帰国する。母の葬式に集まった兄妹三人。

 長男の明哲(高鑫)は子供の頃から成績が良く、一家の期待を担って米国に留学し、現地で就職、結婚して、いまは一児の父となっている。気弱で心優しいが、長男の面子にこだわり、自分の経済力も顧みず、妻の菲菲に相談もせず、父に豪華なマンションを買ってやろうとして、妻から激しい叱責を浴びる。

 次男の明成(郭京飛)は妻の朱麗と共稼ぎの二人暮らし。幼い頃から母親のお気に入りで、欲しいものは何でも買ってもらい、甘やかされて育ったため、子供っぽさが抜けない。幼稚で粗暴。しかし妻と母親への愛情は本物で、妻や母親を侮辱されることは断じて許せない。そのため、とんでもない事件を引き起こす。

 末の妹の明玉(姚晨)は、母親が明成ばかりをひいきにして、自分を大事にしてくれないことに不公平感を抱いて育った。大学受験を前に家出して、全く家に寄りついていない。アルバイトで学費と生活費を稼いで大学を卒業し、その後は「師父」と慕う敏腕経営者・蒙志遠(張晨光)の下で腕を磨き、蒙志遠が理事長をつとめる衆誠集団(グループ企業)の経営の一端を任され、豊かな財産も手に入れたが、ライバル会社との戦いで心の休まらない日々を送っている。あるとき、小さなレストラン「食葷者」の経営者兼料理人の石天冬に出会い、その素朴で暖かい人柄に惹かれる。

 この三人兄妹とその配偶者・恋人の間で、老いた父親の面倒を誰がどのように見るかをめぐって、いざこざが起こり、それが次々に波及していく。父親・蘇大強も弱気なわりに頑固で、子供たちが考える「これが最善」という提案に載らない。言い放題のわがままを言い(特に長男の明哲に対して)、各種の詐欺にコロリと引っかかって、明玉たちに何度も尻ぬぐいをさせる。ちなみに一人っ子政策世代の彼らが三人兄妹であることには、明玉の出生によって、蘇家が莫大な罰金を支払ったという描写がある。

 とにかく蘇家の人々は誰も彼も性格が悪い。しかし、その性格の悪さが、だんだん愛おしくなってくるのだから不思議なドラマだ。あるとき、蘇大強の身勝手な行動で怒りに火のついた明玉は、毒々しい呪いの言葉を父親に浴びせる。蘇大強は青ざめて「お前は趙美蘭だ」と叫んで昏倒してしまう。あれほど憎んでいた母親にそっくりの言動を自分がしていると知って、困惑と絶望に打ちひしがれる明玉。石天冬は明玉を抱きしめて、鄭の荘公の話を語ってきかせる(母を憎んで黄泉の世界=死後でなければ二度と会わないと誓ったが、後悔して改める話)。中国のドラマって、現代劇であっても、こういう古典の挿入があって好きだ。自分の欠点、不完全さを受け入れたとき、人は他人の欠点にも優しくなれるのかもしれない。

 明成は、暴力沙汰で警察の世話になるわ、投資に失敗して全財産を失い、愛妻・朱麗と離婚に至るわ、クズ同然だったが、最後に明玉に謝罪し、自分の成長と再起のため、アフリカへ旅立っていく。泣けた。

 さて妻の死から約1年。蘇大強は次第に物忘れが激しくなり、アルツハイマー症と診断される。明玉は衆誠集団を離職し(いつでも戻ってこいという蒙志遠の男気)、石天冬のレストランを手伝いながら、父を見守り続けた。日常生活にはまだ支障がなさそうに見えた蘇大強だったが、旧正月の大晦日、二人が目を離した隙に姿を消してしまう。明玉が、かつての住まいの近くで父親を見つけたとき、彼は明玉のことを「お嬢さん(姑娘)」と呼び、誰だか分からなくなっていたのだが、娘への愛情は健在だった。この最終話のエピソード(敢えて詳細は書かない)は、冒頭で蘇家の人間関係を説明するのに使われたエピソードと照応していて、見事だった。

 その晩、蘇州の明玉、蘇大強、石天冬とアメリカの明哲一家、アフリカの明成は、スマホの画面三分割でチャットしながら、新年好、過年好を楽しげに言い合う。痴呆の始まった父に寄り添いながら、明玉はしみじみ「こんな幸せな新年は初めて」という。都挺好(All is well)だ。その少し前の場面で明玉は「有家好」ともつぶやいていた。家があることは、家族がいることはいい。単純だが、この言葉に胸を打たれる現代中国人が多いのだろう。たぶん日本でも放映されたら話題になると思う。私自身も高齢の両親と離れて暮らしているので、身につまされ、考えることが多かった。

 また、ドラマの登場人物たちの未来についてもいろいろ想像した。明成が帰国するまで朱麗は待っていてくれるか。蘇大強が大往生したら、明玉は再び経営の仕事に戻るのか。そのとき石天冬との関係は?など。続編は望まないが、みんな幸せになってほしい。


コメント   この記事についてブログを書く
« 唯一無二の「古典中国」/漢... | トップ | 東博常設展・奈良大和四寺の... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

見たもの(Webサイト・TV)」カテゴリの最新記事