見もの・読みもの日記

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深まる分断/白人ナショナリズム(渡辺靖)

2020-06-16 22:35:57 | 読んだもの(書籍)

〇渡辺靖『白人ナショナリズム:アメリカを揺るがす「文化的反動」』(中公新書) 中央公論新社 2020.5

 白人至上主義と自国第一主義が結びついた「白人ナショナリズム」のアメリカにおける動向を取材する。はじめに著者は、白人ナショナリスト団体の著名な指導者たちに会いにいく。全米最大規模の白人至上主義団体AmRen(アメリカン・ルネッサンス)を主宰するジャレド・テイラー、米国自由党代表のウィリアム・ジョンソン、KKK(クー・クラックス・クラン)系の有力団体の最高幹部をつとめたこともあるデヴィッド・デュークなど。本書の叙述から、彼らはみな知的で礼儀正しい印象を受ける。しかも非常に親日的だ。

 彼らは一様に「自分は人種差別主義者ではない」という。米国から他の人種を追い出せと主張しているのではない、しかし、白人が罪悪感を感じることなく生活できる空間、白人のエスノステートが我々には必要だと訴える。米国自由党は、米国は外来のイデオロギー(リベラリズム、社会主義、多人種主義、フェミニズムなど)から自由であるべきと説いている。なんだろう、この弱々しい被害者意識。

 彼らが理想とするのは1950年代の米社会で、そこから白人の相対的地位はずっと低下している。バラク・オバマの大統領就任、女性の社会進出、LGBTQへの寛容度の高まり。こうした変化は、白人であることへの「侵略」あるいは「虐殺」と考えられている。こうした不満の受け皿として、2015年頃から「オルトライト」と呼ばれる新しい団体が生まれ、オンラインを中心に活動を活発化している。

 本書には、SPLC(南部貧困法律センター)による白人ナショナリスト団体の分類が紹介されている。いわく、「反移民系」「反LGBTQ系」「反イスラム系」「クリスチャン・アイデンティティ系」「ヘイト全般系」「ヘイト音楽系」「ホロコースト否定系」「クー・クラックス・クラン系」「男性至上主義系」「新南部連合系」「ネオナチ系」「レイシスト・スキンヘッド系」「過激伝統カトリシズム系」「白人ナショナリスト系」。ひとことで白人ナショナリストと言っても、力点を置く活動はさまざまなのだなと思った。

 その中で「人種」に対する執着と、反ユダヤ主義の根強さは強く印象に残った。全体に知的な印象のある白人ナショナリスト指導者も、この点では頑迷である。著者によれば、科学的概念としての「人種」は淘汰されつつあり、人種は「構築」されたものと考える社会構築主義が主流になっているというが、白人ナショナリストたちは人種の優劣を「科学」だと信じている。また、上述のデュークの言説からは(黒人もアジア系もどうでもよく)彼が真の敵と見做しているのは、世界を牛耳るユダヤ人であることが感じられた。

 なお、彼らの主張がトランプ政権の米国第一主義と親和的であることはしばしば指摘されているが、白人ナショナリストは必ずしもトランプ政権を支持していないようである。政治思想の概念図「ノーラン・チャート」(135頁)による分析も面白かった。経済的自由と個人的自由をどちらも重視するリバタリアンは、本来ナショナリズムと相容れない(グローバリズムと親和的)が、白人ナショナリストへ転向していく者もいる。また、欧州の白人ナショナリズムとグローバルな連携が進んでいることも脅威である。

 一方、白人ナショナリズムから「改心」する者もいる。米国の大学や人権団体は「ライフ・アフター・ヘイト」など、暴力的過激主義からの離脱を支援する取組みを行っているが、トランプ政権下で、こうした活動への助成金が減らされているのは悲しい。

 著者は、現代アメリカはトライバリズム(政治的部族主義)の時代だという。人種や民族、宗教、ジェンダー、教育、所得、世代、地域など、各自が所属集団に閉じこもり、自らの部族を「被害者」と考えている。政治家は特定の部族の利益のみを主張する。そのほうが、広く団結を呼びかけるより効果的で、狭くても強固な支持を得られるからだと思う。日本もまたトライバリズムでよいのか。選挙の季節を前によく考えておきたい。


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