見もの・読みもの日記

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江東から多摩まで/水都東京(陣内秀信)

2021-02-23 21:42:27 | 読んだもの(書籍)

〇陣内秀信『水都東京:地形と歴史で読みとく下町・山の手・郊外』(ちくま新書) 筑摩書房 2020.10

 陣内さんの著書は、むかし単行本を読もうとして、最後まで読めなかった記憶がある。これが最初の1冊かもしれない。本書は著者による長年の東京研究の「総集編ともいえるもの」であることが冒頭に示される。各章は東京の東から西へ、「隅田川」「日本橋川」「江東(深川・清澄白河)」に始まり、「ベイエリア(品川・お台場)」「皇居と濠」を経て「山の手」「杉並・成宗」から「武蔵野(井の頭池・神田川・玉川上水)」「多摩(日野・国分寺・国立)」に至る。

 私は、もともと東京東部(江戸川区)の生まれだが、4年前から門前仲町に住んでいることもあって、「隅田川」の詳細はとても興味深かった。世界の代表的な都市の多くは大きな川に面して誕生し、発展したが、パリのセーヌ川やロンドンのテムズ川が重要な都市機能や権力中枢と結びついていたのに対し、隅田川は江戸の外縁にあって、非日常的な開放感、歴史の記憶や聖性を担っていた。その名残りは今でもあると思う。また、隅田川のまわりには漁師町の記憶が潜んでいるというのも面白かった。富岡八幡宮の深川八幡祭で神輿の連合渡御の最後を飾るのは「深濱」(深川濱=1962年に解散した深川浦漁業組合)の神輿だという。2020年は3年に一度の本祭りが中止になってしまったが、今年は見られるかなあ。

 聖性の隅田川に対して、物流と経済を主に担ったのが日本橋川。今は高速道路の影になった日本橋川だが、明治後期、(大河ドラマで話題の)渋沢栄一郎は「東京をヴェネツィアのような国際都市にしようと夢見」て、辰野金吾にヴェネツィア風の自邸を川端に作らせている。ただし水上から直接アプローチするのではなく石の階段をのぼる形式との由。この建物、ドラマで再現されるかしら?

 そして今、江東では、「水都」の遺伝子が再び呼び覚まされつつある。近年の東京では「西側に向かう郊外発展の夢は完全に薄れ」、都心回帰あるいは「東に向けて風が吹き始めている」というの観測には完全に同意。清澄白河だけでなく、深川、木場も住む町として、とても魅力的だ。

 一方、私は20代から30代は住まいや仕事場が東京西部だったので、「山の手」「武蔵野」にも親近感がある。武蔵野台地には豊富な湧き水があり、多くの池や川が存在する。流域には遺跡や神社、名所などが分布し、古代や中世に遡る歴史の記憶を伝えている。つまり東京は、ベイエリアや下町だけでなく、「山の手」「武蔵野」も含めて「水の都市」なのだと著者は考える。本書には、白黒ではあるが、井の頭池や玉川上水、野火止用水など、見覚えのある懐かしい水辺の写真も掲載されている。江戸川橋の関口水神社(神田上水の守護神)は、永青文庫に行くときにいつも横を通っているのだが、今度、ちゃんとお参りしておこう。

 最終章の「多摩」に書かれた日野、国分寺、国立は、何度か訪れたことはあるが、あまり縁のない地域である。しかし、実は4月から立川方面に転職の予定なのだ。日野用水にお鷹の道。落ち着いたら、水辺を求めて歩いてみることにしたい。


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