見もの・読みもの日記

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二人の転向者/拉致2(蓮池透)

2010-04-10 21:30:57 | 読んだもの(書籍)
○蓮池透『拉致2:左右の垣根を超える対話集』 かもがわ出版 2009.12

 蓮池透氏の著書を読もうと思ったきっかけは、『拉致』(かもがわ出版 2009.5)の感想に記したとおり。続けて、本書を読んだ。蓮池透氏が、池田香代子氏・鈴木邦男氏・森達也氏と語った3つの対談を収めている。

 最初の池田香代子氏だけは、よく知らなかった。ミリオンセラー『世界がもし100人の村だったら』の著者だというので、ベストセラー作家に偏見のある私は、もしや食わせ者文化人では?と身構えてしまったが、地道な平和運動、難民支援などを続けてきた方らしい。偏見のない、良心的な聞き役として、拉致問題の7年間の経過を、蓮池さんから聞き出しており、たぶん一般読者にとって、最も入りやすい対談になっていると思う。

 続いて登場する「右翼」の鈴木邦男氏と「左翼」の森達也氏は、どちらも私の好きな言論人。鈴木さんは面白いなあ。まず、行動派である。長年の念願がかなって(17回もビザを申請して下りなかった)、2008年4月、実際に北朝鮮に行ってきたという。「右翼の人たちから許せないとかめちゃめちゃ言われると思ったのですよ。下手したら刺されるかもしれないと。まあ、それでもいいやと思ったのです」って…「まあ、それでもいいや」って結論の付け方に吹いてしまった。

 最近は、右翼や左翼と呼ばれる人々に比べると、かえって「一般市民」のほうが、意固地で排他的な印象がある。鈴木氏も「右翼なんかより、市民運動のほうがもっと過激だし、きついですからね」と述べている。変な社会になってしまったものだ。それゆえ、鈴木氏は「善意で国民みんなが家族を支援してくれていますが、応援はありがたいのだけれども、その応援があることで身動きがとれないということはありませんか」と問いかけ、蓮池氏は正直に「そういう面はあると思います」と答えている。とりわけ、「救う会」の活動が、拉致被害者家族である蓮池氏の思いから離れていった過程は、この対談の中で、詳しく語られている(いろいろと腹を括らなければ、語りづらい部分もあったと思うが)。

 さらに森達也氏との対談では、「救う会」の介入が被害者家族の分断を生み、蓮池氏が、言葉は悪いが「家族会」から放逐されていくあたりが、生々しく語られている。森氏は、蓮池氏の遠慮を斟酌した上で、「ならば僕が代わりに言います。北朝鮮の体制打倒は、救う会の母体である現代コリア研究所の運動理念です」と断ずる。もちろん彼らにも拉致問題を解決したいという気持ちはあるが、本音の優先順位は、北朝鮮の体制崩壊こそが先決で、「彼らの運動理念に、結果としては家族会という存在が利用されてしまった」のではないか。この説明に、蓮池氏は「はい、大当たりです」と応じている。

 現代コリア研究所かあ。これがまた、森氏の説明によれば、「かつて帰還運動にかかわって大きな間違いを犯したというルサンチマンがある」人々なのだという。え、どういうこと?と気になったので、調べてみた。すると、Wikiによれば、「現代コリア」主筆の佐藤勝巳氏は、元日本共産党員で、在日朝鮮人の帰還事業に参加し、北朝鮮から2度にわたり勲章を授与され、在日韓国・朝鮮人差別反対運動にも大きくかかわった、とあるではないか。にもかかわらず、その後、北朝鮮の実態に失望し、反北朝鮮的立場へと転向したのだという。これは興味深い。ある意味では、佐藤勝巳氏と蓮池透氏は、ちょうど逆の立場の転向者どうしと言えなくもない。

 なるほど、人間は変われるんだ。ここまで変わらざるを得ない転機ってあるものなんだ。しかし、いま、本当に必要なのは、右の強硬派から左の強硬派(あるいはその逆)のシフトでなくて、左右の思想的対立から、いさぎよく「下りて」しまうことなのではないかと思う。両陣営から、臆病者、変節漢と謗られようとも。蓮池さん、長くて困難な闘いになるだろうけど、がんばって下さい、と小さな声でエールを送っておく。

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