見もの・読みもの日記

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文書で読む幕末・明治/旗本御家人II(国立公文書館)

2010-04-11 23:57:02 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立公文書館 平成22年度春の特別展『旗本御家人II-幕臣たちの実像-』(2010年4月3日~4月22日)

 宮仕えの恒例で、新しい職場に近い引っ越し先を物色中。その合い間をぬって、いわば宮仕えの先輩、幕臣(旗本御家人)たちの人生模様を紹介する、国立公文書館の特別展を見に行った。同展のベースになっているのは「多聞櫓(たもんやぐら)文書」といって、江戸城の多聞櫓(多聞=多門、長屋状の建物)に残された文書類。昨年の『旗本御家人(パートI)』の展示解説によれば、「幕末維新期の混乱で江戸城多聞櫓に未整理のまま残された文書の総称。幕末の(江戸前期の文書も若干あり)幕府の公文書がほとんど」だという。

 まず、旗本御家人の誕生・出生届から、素読吟味、学問吟味、就職、結婚、引退と、その人生の節目節目を紹介する。今回の展示は、書籍(冊子)のかたちをしていない資料(書簡や半紙の切れ端のメモなど)が多いことが、公文書館(アーカイブズ)らしくて面白かった。上記の解説には、多聞櫓文書46,600件のうち6,600件近くが「明細短冊」だとある。「明細短冊」とは、よく分からないが、ペラ紙のメモのようなものを言うらしい。

 おお~と感心したのは、学問吟味の試験問題。小さな短冊形の半紙に、読みやすい字で清書されている。受験生の手元に配られたのかな?と思ったが、そうではなくて、紙に大書して、試験場に張り出したそうだ。そうすると、この短冊は問題作成者から、当日の試験監督者への指示文書だったのかな。学問吟味の受験者が、自分の履修歴を記して提出した文書もあった。のちの外国奉行、平山敬忠は歴史科で史記・前漢書・後漢書のほか、三国志と五代史を学んでいる(ちょっとマニアックw)。

 続く「異才の幕臣たち」のセクションでは、多様な才能を発揮した幕臣たちが続々と登場。中川忠英(ただてる)の『清俗紀聞』って、幕府献上本は、こんなに奇麗な彩色本だったのか。天文学者として語られることの多い高橋景保については、『満文強解』『亜欧語鼎』が紹介されている。前者は、ロシアの使節が長崎奉行に呈した満洲語の国書(なぜ?!)の写しを訳したもの。景保自筆本で、繊細な筆跡から人柄をしのぶことができる。後者は、景保が満洲語の学習に用いた私蔵本。それにしても、何でもできた人だったんだなあ。

 その景保がシーボルト事件に連座して逮捕され、獄中で病死、死骸は塩漬けにされたという顛末を記したのが『蛮蕪子』(景保の号にちなむ)。挿絵入りの筆写本であるが、いったい著者は誰なんだろう…。何気なく展示箇所を読んでみたら、死骸の塩漬けのつくりかたが書いてあって、ぎゃっと唸ってしまった。尻の穴へ竹筒をつらぬき、塩を突込むの夥しき、八九計も入ればよし(?)口を開きてここよりも塩を詰めるとぞ云々、という大意である。添えられた現代語訳は、さすがにこの生々しい部分は無視していたけれど。

 異才の幕臣の紹介は、明治以降にも活躍した、大鳥圭介、成島柳北に至る。この人選もなかなかいい。ビジュアル的に面白い資料も一部取り入れられてはいるけれど、むしろ正攻法で、文書(もんじょ)を読む楽しさを体験できる好企画である。

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