○スティーヴン・フリアーズ監督 映画『クィーン』
※公式サイト(音が出ます)
http://queen-movie.jp/
久しぶりに映画を見てきた。いや全く、イギリス人って食えないヤツらだなあ~と呆れてしまった。1997年8月、元皇太子妃ダイアナがパリで交通事故に遭って死亡。エリザベス女王は沈黙を通そうとするが、ダイアナの死を悼む国民は、王室に対して不満と反感をつのらせていく。女王を演じるのは、1945年生まれのヘレン・ミレン。この作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。女王の服装から表情、しぐさ、喋り方までを徹底的に研究し尽くし、エリザベス女王に「なり切った」演技が話題を呼んでいる。
そこまでは私も知っていたのだが、この映画、「なり切った」演技を見せてくれるのは女王役のヘレン・ミレンだけではない。冒頭からブレア首相のそっくりさん(顔だけでなく、雰囲気全体が!)が現れて、女王とタッグを組んで大活躍するのには、びっくりした。ブレアさん、こんなに国民に愛されていたのか!? いや、愛されているのか、馬鹿にされているのかは、微妙なところだ。自宅では、サッカーのユニフォームみたいな趣味の悪いTシャツを着て、安っぽい朝食を取ってるとか(部屋の隅にはエレキギター)。「革新」が旗印の労働党党首だけど、根は王室びいき。女王の古風で控えめな芯の強さに敬意を抱くところを、妻のシェリーに「マザコン」と揶揄される。
シェリー・ブレアのことは、全然知らなかったけど、いかにも政治家の妻っぽい。若作りで、鼻っ柱が強そうで。女王の夫君エディンバラ公の淡々とした演技もいいし、老皇太后は怪演! 私はよく知らないが、みんな、舞台やTVドラマで活躍する俳優さんらしい。さすがイギリスの演劇界は層が厚い。
しかし、なんといっても女王である。毎日、新聞に目を通し、首相とのミーティングをこなし、休日には四駆(だよね?)を運転して、ひとりで原野に乗り出す。孫たちと野外でキャンプ料理を楽しむことも。自由で自立したタフな女性である。昨今、女性の社会進出にはロール・モデルが必要だと言うけれど、こういう人物が社会の頂点にいるっていうのは、すごいことだなあと思った。
日本では、皇室を題材にこんな映画を作ろうとしても、まず不可能だろう。イギリスにおける王室と国民の距離の近さが、ちょっと羨ましい。だが、イギリス人は、いつも王室に敬意を払っているわけではない。時には、残酷な笑いの餌食としてしまう。富山太佳夫『笑う大英帝国』(岩波新書 2006.5)にも、王室を徹底的にネタにしたユーモア小説の例が上がっていた。忘れてはならない、ダイアナ王妃だって、生前はずいぶん悪意に満ちた冷笑を浴びせられたはずだ。そして、この容赦ない「笑い」を甘んじて引き受けたとき、政治家であれ、王侯であれ、イギリス国民との間に不離不即の「親愛」が生まれるのである。だから、イギリス人は食えないというのである。
※公式サイト(音が出ます)
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久しぶりに映画を見てきた。いや全く、イギリス人って食えないヤツらだなあ~と呆れてしまった。1997年8月、元皇太子妃ダイアナがパリで交通事故に遭って死亡。エリザベス女王は沈黙を通そうとするが、ダイアナの死を悼む国民は、王室に対して不満と反感をつのらせていく。女王を演じるのは、1945年生まれのヘレン・ミレン。この作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。女王の服装から表情、しぐさ、喋り方までを徹底的に研究し尽くし、エリザベス女王に「なり切った」演技が話題を呼んでいる。
そこまでは私も知っていたのだが、この映画、「なり切った」演技を見せてくれるのは女王役のヘレン・ミレンだけではない。冒頭からブレア首相のそっくりさん(顔だけでなく、雰囲気全体が!)が現れて、女王とタッグを組んで大活躍するのには、びっくりした。ブレアさん、こんなに国民に愛されていたのか!? いや、愛されているのか、馬鹿にされているのかは、微妙なところだ。自宅では、サッカーのユニフォームみたいな趣味の悪いTシャツを着て、安っぽい朝食を取ってるとか(部屋の隅にはエレキギター)。「革新」が旗印の労働党党首だけど、根は王室びいき。女王の古風で控えめな芯の強さに敬意を抱くところを、妻のシェリーに「マザコン」と揶揄される。
シェリー・ブレアのことは、全然知らなかったけど、いかにも政治家の妻っぽい。若作りで、鼻っ柱が強そうで。女王の夫君エディンバラ公の淡々とした演技もいいし、老皇太后は怪演! 私はよく知らないが、みんな、舞台やTVドラマで活躍する俳優さんらしい。さすがイギリスの演劇界は層が厚い。
しかし、なんといっても女王である。毎日、新聞に目を通し、首相とのミーティングをこなし、休日には四駆(だよね?)を運転して、ひとりで原野に乗り出す。孫たちと野外でキャンプ料理を楽しむことも。自由で自立したタフな女性である。昨今、女性の社会進出にはロール・モデルが必要だと言うけれど、こういう人物が社会の頂点にいるっていうのは、すごいことだなあと思った。
日本では、皇室を題材にこんな映画を作ろうとしても、まず不可能だろう。イギリスにおける王室と国民の距離の近さが、ちょっと羨ましい。だが、イギリス人は、いつも王室に敬意を払っているわけではない。時には、残酷な笑いの餌食としてしまう。富山太佳夫『笑う大英帝国』(岩波新書 2006.5)にも、王室を徹底的にネタにしたユーモア小説の例が上がっていた。忘れてはならない、ダイアナ王妃だって、生前はずいぶん悪意に満ちた冷笑を浴びせられたはずだ。そして、この容赦ない「笑い」を甘んじて引き受けたとき、政治家であれ、王侯であれ、イギリス国民との間に不離不即の「親愛」が生まれるのである。だから、イギリス人は食えないというのである。