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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

戦国大名たちの謀略ドラマ/文楽・本朝二十四孝

2022-12-17 23:25:36 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 令和4年12月公演(2022年12月17日、17:00~)

・『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・二段目:信玄館の段/村上義清上使の段/勝頼切腹の段/信玄物語の段・四段目:景勝上使の段/鉄砲渡しの段/十種香の段/奥庭狐火の段/道三最期の段』

 面白かった! 近松半二らの合作『本朝二十四孝』は何度も見ているので、どうしようかと思ったが、「十種香の段」と「奥庭狐火の段」以外はほとんど見たことがなかったので、こんな込み入った物語であることを初めて知った。記録を振り返ると、私は2020年に「景勝上使の段」と「鉄砲渡しの段」を見て、これらの伏線が最後にどう回収されるのか気になる、と書いているのだが、2年越しで、全く予想外の「回収」を知ることができた。

 二段目の冒頭、将軍「義晴」が暗殺されたという噂話が語られる(ただし史実の足利義晴(1521-1546)は病没とされている)。その犯人捜索が捗らないため、将軍家の名代として現れた村上義清は勝頼の首を差し出すことを迫る。母の常磐井御前は、板垣兵部に命じて勝頼の身代わりを探させており、勝頼を腰元の濡衣とともに出奔させようとするが、万事休す。

 一足遅く、勝頼そっくりの百姓・蓑作を連れ戻った板垣兵部。しかし信玄によれば、蓑作こそ真の勝頼であり、自害した勝頼は板垣兵部の実子で、17年前、板垣が我が子を主家の跡取りにしようとして赤子をすり替えた結果であり、信玄は真実を知りながら、ずっと黙っていたのだった。この悪人・板垣兵部のモデルは誰なんだろう。板垣信方じゃないよね?

 四段目は長尾謙信の館から。長尾家も将軍殺害犯の捜索が捗らず、将軍家の上使として登場した景勝が、自分自身の処分を謙信に迫るが、花守り関兵衛が場を収める。謙信は、将軍殺害の物証である鉄砲を関兵衛に渡し、詮議を命ずる。

 そしておなじみ「十種香」の段。華麗な装束をまとって登場する美青年・蓑作(実は勝頼)を中心に、恋にときめき、運命に苦しむ二人の女性、濡衣と八重垣姫。二段目の筋書きを知ると、濡衣への同情が深まる。「奥庭狐火」で八重垣姫が去ったあと、被衣(かづき)で顔を隠した女性が登場。語りが手弱女御前(将軍義晴の奥方)と紹介したと思ったら、鉄砲を携えた花守り関兵衛があらわれ、手弱女御前を一撃で殺害。いちおう、花守り関兵衛=斎藤道三という種明かしは知っていたのだが、この展開には、え?どういうこと?とびっくり。

 そして長尾謙信館の御殿。奥へ進む斎藤道三を留めようとする勝頼と景勝。さらに襖が開いて登場したのは、武田家の軍師・山本勘助。いや全く予想していなかったので、びっくりして椅子からずり落ちそうになった。さらに謙信も登場。将軍義晴を殺害したのが、天下掌握を狙った道三であることを喝破し、さらに手弱女御前と見せかけたのが、道三の娘・濡衣であったことを明かす。悪運尽きたことを自覚した道三は、北条氏の小田原城の攻略法を武田家・長尾家に伝授して自害する。なんだか中国ドラマみたいによくできた謀略劇である。

 私は大河ドラマ『風林火山』が大好きだったので、武田家・長尾家には親しみがある。本作では両家は敵対しているように見えて、どちらも悪者にならず、丸くおさまる。一方、斎藤道三はずいぶんな悪役扱いである。これは江戸の人々の一般的な感覚なのだろうか。史実では、斎藤道三(1494-1556)って信玄(1521-1573)・謙信(1530-1578)より少し上の世代なのだな。

 文楽12月公演は若手・中堅中心に出演者が組まれるのが恒例で、みんな力をつけてきているなあと感じられて嬉しかった。「十種香」は、呂勢太夫さんの安定した語り、ノリのいい藤蔵さんの三味線が気持ちよかった。人形は腰元・濡衣の一輔さんよかったなあ。蓑二郎さんの八重垣姫は若々しくて可愛いけれど、蓑助師匠の妖艶な八重垣姫をなつかしく思い出してしまった。

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