〇静嘉堂文庫美術館 『江戸のエナジー 風俗画と浮世絵』(2020年12月19日~2021年2月7日)
近世初期風俗画の名品とあわせて、秘蔵の肉筆浮世絵や浮世絵版画を多数初公開。同館がこんなに浮世絵を所蔵しているという認識はなかったので、かなり意外だった。冒頭には円山応挙の『江口君図』。普賢菩薩に見立てて、白象にもたれた美女を描く。これは静嘉堂の名品としてゆるぎないところ。隣りの英一蝶『朝暾曳馬図(ちょうとんえいばず)』は、貫頭衣みたいな粗末な衣の子どもが馬を曳いていく。中国ドラマにありそうな、ほのぼのした風景。
展示室に入ると大きな屏風が目につく。寛永期の『四条河原遊楽図屏風』は二曲一双だが、完全に絵がつながっているので四曲に見える。以前にも見たことがあって、徐々に記憶がよみがえる。中央をやや斜めに細い川が流れ下っており、両岸にさまざまな娯楽の小屋が掛かっている。犬(?)の曲芸やヤマアラシの見世物、小弓の射的場もある。駕籠かき男の赤いゆるふんが気になったり、左上の舞台で揃いの着物で踊る女性たちはアイドルグループに見える。伊達を気取った朱鞘の刀が多いのは時代色か。
『歌舞伎図屏風』も江戸時代前期(17世紀)の作。三人娘の「ややこ踊り」の躍動感がすごい。衣装はバラバラだが、三人とも日の丸の扇を持っている様子(真ん中の娘は日の丸が見えないが)。囃し方(バンド)も前髪の若い男性が多いようだ。これらに比べると、元禄・享保期の『上野隅田川図屏風』は、余白が多く上品で洗練された雰囲気。
錦絵は、享保・宝暦・明和など、古いものが多くて珍しかった。墨刷版画に手彩色をしたもの(紅絵)で、黒色に光沢を出すため、黒漆または膠入りの墨で筆彩したものを漆絵ということを初めて知った。手の込んだ技法である。二世鳥居清信の『三世沢村小伝次の奴与勘平』(宝暦後期)は優男の与勘平でびっくりした。歌舞伎・文楽『蘆屋道満大内鑑』の与勘平は、あから顔の三枚目なのに?
肉筆浮世絵は美麗な作品が多くて眼福だった。古山師房の『石山寺図』はずいぶん色っぽい紫式部だなと思ったら、このひと、好色本の挿絵などを多く手掛けているらしい。中国故事の「見立て」の美人画が目立ったのは、江戸人の趣味か、それともコレクターである岩崎家の趣味だろうか? 硬い中国古典とやわらかい美人画が交錯するのが面白いのだろう。「見立て張果老」(瓢箪から駒でなく牛)とか「見立て邯鄲の夢」とか。好きなのは歌川豊広の『見立て蝦蟇鉄拐図』。李鉄拐役の美女は魂を吐き出し、蝦蟇仙人役の美女は白いガマを肩に載せている。どちらもすらりとした細身の美人。私は版画よりも肉筆浮世絵の女性図のほうが、全般的に好みである。