■東京国立博物館 本館2室(国宝室) 『千手観音像』(2021年1月19日~2月14日)
先々週のことになるが、あまり見たことのない平安仏画の『千手観音像』が国宝室に出ていると知って、見に行った。円筒形のような白蓮華の上に立つ千手観音像。丸顔で、平板なアイラインと微笑むようなピンクの唇が親しみやすくてかわいい。さまざまな宝物を持つ脇手は、形式に流れず、表情豊か。陰影を意識した彩色なので、生身の人間の腕のように肉感的だ。高精細画像で見ると、截金の精密さにため息が出る。足元には、左右に小さな功徳天と婆藪仙を配する。素晴らしいものを見せてもらった。いま、ネットで調べてみたが、旧蔵者や来歴が全く分からないのが気になる。
■本館 特別1室+特別2室 特集『木挽町狩野家の記録と学習』(2021年2月9日~3月21日)
狩野尚信を祖とし、江戸幕府の奥絵師の筆頭を務めた木挽町狩野家。東博が所蔵する、模本や下絵など5,000件近い木挽町狩野家伝来資料の一部を「記録と学習」というキーワードから紹介する。門人教育に用いられた絵手本、唐絵の模写、御用日記、将軍吉宗が筆で修正を加えた鷹図草稿など、面白い資料がいろいろあったが、最も目をひいたのは『長篠合戦図屏風下絵』と『長久手合戦図屏風下絵』。将軍家斉周辺からの注文で、養川院惟信を中心に制作が進められたが、完成に至らず、(ほぼ)墨画の下絵のみが残されている。下絵ならではの躍動する墨線が、見ていて気持ちいい。しかし『長久手合戦図屏風下絵』に「初公開」とあるにもかかわらず、私はこれを見たことがあるような気がしたのだ。何故? わずかに彩色された紅旗の先頭に、赤に黄(金)の井桁の井伊家の旗が見える。その先、馬上の赤備えの武者は井伊直政だ。
これ『おんな城主直虎』特別展で見ていないだろうか? いや、長篠・長久手合戦図屏風は、いろいろ類例があるらしいから、別物かなあ。
■東洋館8室 特集『清朝書画コレクションの諸相-高島槐安収集品を中心に-』(2021年1月2日~2月28日)
前回参観時(1月)から大幅に展示替えがあり、清代18~19世紀の作品が中心になった。趙之謙の『花卉図四屏』(2件あり)の大胆な構図はちょっと若冲っぽい。銭維城筆『塞圍四景図巻』、張若澄筆『江村漁浦図巻』どちらも好きだ。特に後者かな。丁寧につくられた絵本のようで、物語を想像しながら眺めてしまう。
おまけ:5室(中国の染織)に出ていた『袍 紅繻子地花卉文様刺繡』が、人気の中国ドラマ『瓔珞(エイラク)』の衣装っぽかった。狙って展示しているとしか思えない。