goo blog サービス終了のお知らせ 

見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
【はてなブログサービスへ移行準備中】

氷上の光源氏/氷艶 hyoen2019 ディレイ・ビューイング

2019-12-29 23:29:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

〇『氷艶 hyoen2019-月光かりの如く-ディレイ・ビューイング』

 この夏、開催されたストーリー仕立てのアイスショー。主演は高橋大輔。その他にも、荒川静香、織田信成、ステファン・ランビエルなど、トップクラスのスケーターが顔を揃える。しかし、出演者の中には、フィギュアスケートと特に関係のなさそうな歌手、俳優の方々もいて、一体どんな舞台なんだろうと気になっていた。結局、公演は見られずに終わったのだが、年末、映画館で「ディレイ・ビューイング」をやるというので見てきた。最近、歌舞伎やオペラの映画館上映が増えているのはとてもよいことだと思う。今日は400席超の会場がほぼ満員だった。

 物語の始まりは、源氏物語を意識している。ミカドは身分の低い桐壺更衣を愛して男子を設けるが、弘徽殿女御は陰陽師に桐壺を呪い殺させる。母を失った少年は光源氏と名づけられ、弘徽殿女御の息子である朱雀と兄弟のように仲良く育つ。成人した光源氏は、母そっくりの藤壺宮を愛し、藤壺は若宮を出産する。ミカドは真実を知りながら、次の帝に朱雀、その皇太子に若宮を指名する。このへんまでは、多少脚色があっても「フィギュアスケート×源氏物語」のキャッチコピーの範囲かと思っていた。

 ところが、我が子・朱雀を溺愛する弘徽殿女御は、光源氏の抹殺をたくらみ、光源氏は海に逃れ、遭難して海賊に助けられる(女海賊の名が「松浦」なのは松浦党を踏まえたか)。帝位についた朱雀は、光源氏の愛妻・紫の上に横恋慕するなど、だんだん不思議な展開になってくる。圧政に苦しみ、光源氏さまを懐かしむ民衆たち。ついに光源氏は海賊とともに立ち上がり、人々の平和な暮らしを取り戻すが、争乱の中で凶刃に倒れる。

 うーん。いろいろ詰め込み過ぎて感心しない脚本だった。「源氏物語」は、男女の愛の諸相から個人の内面というか実存に迫る物語なのだが、そこの深みが全くなくて、圧政に苦しむ民衆を救うとか、真逆な方向と接続するのは無理があり過ぎる。まあ、キレイな衣装、華麗なパフォーマンスを目と耳で楽しめば、それでよいのかもしれないが。

 衣装は、狩衣や烏帽子など「平安っぽさ」を匂わせながら、舞台映えする色のメリハリ、華やかさを重視していて、結果的に中国っぽくなっているのが面白かった。弘徽殿女御役の荒川静香さん、朱雀帝役のランビエルが、長い袖と裾をひらめかせながら舞う(踊るというより)姿は美しかった。和歌の詠み比べを氷上の演技で表現するところは大変よかった。弘徽殿女御役はかなり怖い悪役で(後宮ドラマ『延禧攻略』を思い出していた)、はじめ荒川さんとは分からなかったくらい。織田信成くんの陰陽師も悪役だが楽しそうだったなあ。

 スケーター以外の出演者は、スケート靴を履いている人と履いていない人がいた。桐壺/藤壺役の平原綾香さんは美しい歌声を聴かせてくれるのだが、場面によってはスケート靴を履いてリンクに立っていた。あと、弘徽殿女御の腹心の従者・長道(もしかして道長を逆にした?)役は、もしやと思ったら波岡一喜さん。好きな俳優さんなので嬉しい。よく喋り、演技し、そして滑りながら殺陣も演じていた。逆にスケーターのみなさんもよく喋り、演技し、歌ってもいた。特に高橋大輔さん、歌もセリフも上手かったなあ。ふつうに舞台もいけるのではないか。紫の上役のリプニツカヤと、朧月夜役の鈴木明子さんがいまいち活かされていなかったのは、脚本が悪い。

 海外では、こうしたストーリー仕立てのアイスショーがけっこうあると聞いている。本作にいろいろ不満はあるが、また新しい作品がつくられることを期待する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする