見もの・読みもの日記

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茶会記と茶菓子/国宝 雪松図と明治天皇への献茶(三井記念美術館)

2019-12-24 22:05:40 | 行ったもの(美術館・見仏)

三井記念美術館 『国宝 雪松図と明治天皇への献茶』(2019年12月14日~2020年1月30日)

 年末年始の展覧会は、恒例『雪松図屏風』を中心に。応挙作品としては唯一の国宝指定だが、正直、そんなに好きではないので、どうしようかなと思いながら出かけた。そうしたら、最初の展示室から、なんだか珍しい茶道具が出ていて面白かった。江戸後期から明治にかけての新しい道具が多い。

 『青磁二見香炉』は、青磁の香炉自体は明時代(16世紀)のものだが、その上を覆う銀製の蓋に、二見ヶ浦の夫婦岩のミニチュアをあしらい、ご丁寧に金の注連縄で結んでいる。かわいい。『桐木地菊置上茶箱』は北三井家旧蔵の茶箱。木目そのままのシンプルな木箱に、丸い白菊を散らしたデザインが新鮮。永楽和全とか大西浄玄などの作者名を見て、ああ、千家十職の仕事って面白いなあと思いながら進む。

 展示室4に入ると、正面に応挙の『雪松図屏風』が見えたが、まずは明治元年の明治天皇御東幸(京都から東京への行幸)を描いた浮世絵が数点。さらに『東京汐留鉄道蒸気車往返之図』(三代歌川広重、明治6年)があり、明治5年の鉄道開業式に明治天皇が臨席されたこと、その際、御休所で使用された椅子が三井文庫に伝来していると説明に書かれていた。え?ほんと?と思って目を上げたら、本当に『明治天皇御召椅子』が展示されていてびっくりした(初公開)。仮の休憩用なのか、背もたれは低く(飾りの房がついている)ひじ掛けもない、小さい椅子だった。

 東京奠都以後の京都の発展を期して、三井高福(たかよし、1808-1885)と息子たちは、京都博覧会の開催に尽力した。明治5年の第1回から数えて第16回となる明治20年(1887)の京都博覧会では、明治天皇皇后両陛下を京都御所御苑内の博覧会場に迎えて、三井高朗と高棟による献茶が行われた。会場では国宝『雪松図屏風』が囲い屏風に使われたという。へえ!

 それだけでなく「献茶会記」によって、どのような茶道具や掛物が用いられたかも分かるので、実際に使われた『赤地金襴手鳳凰文天目』(永楽和全作)や『色絵鶏香合』(仁清作)、日の丸釜(辻与次郎作、桃山時代)、小倉色紙「うかりける」などが展示されていた。「献茶会記」は「献茶」と「真台子」の小見出しのもとにそれぞれ茶道具等が記載されている。「献茶」のほうが赤地金襴手の天目茶碗など華やかなのに比べて、「真台子」には、御所丸茶碗(黒っぽい)や黒楽茶碗「メントリ」(長次郎、ただしあまり長次郎らしくない)など落ち着いた選択。どちらにも「菓子」が記載されていて、「献茶」は「紅餢飳、雪餅」、「真台子」は「紅餢飳」だったと思う。「餢飳」が読めなくて、しばし眺めてから、奈良・萬々堂通則の銘菓「ぶと饅頭」の「ぶと」だと気づいた。

 また、高朗と高棟は、明治23年(1890)には京都府高等女学校で皇后への献茶もおこなっている。このときは『白地金襴手鳳凰文天目』(永楽和全作)が使われ、応挙の『福禄寿・天保九如図』や沈南蘋の作品が飾られたようだ。気になる菓子は、「献茶」は「井手里、山路餅、花衣、木賊饅頭、春の空」など「黒川製」(虎屋か?)、「御席」は「良則製」(亀屋良則?)とあった。甘いもの好きは、菓子に注目しながら茶会記を読むのも面白いかもしれない。

 このほか、主に三井家旧蔵の明治の絵画、工芸が多数。「帝室技芸員の作品」では、安田靫彦の『九郎義経』がよかった。「ラスト・ウキヨエ」で見てきたばかりの水野年方の「三井好(このみ)都のにしき」シリーズも複数出ていた。三井呉服店(三越)の宣伝用の摺りもの、ただし宣伝臭をあまり強く出さず、女性や子どものファッションを美しく描いた作品になっている。

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