〇京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会『国宝』(2017年10月3日~11月26日)(第3期:10月31日~11月12日)
国宝展第1期、第2期に続き、第3期も行ってきた。第1期は土曜の夕方だったが、待たずに入れた。第2期は平日の夕方で、正面ゲートは待たずに入れたが建物に入ってから10分ほど並んだ。第3期は三連休の初日で、覚悟はしていたものの、公式ツィッターを眺めていると、午後になっても一向に混雑の収まる様子がない。16時頃、博物館に着くと、チケット売り場前で警備の人が「70分待ちです!」「70分待ちです!」と触れ回っていた。
正面ゲートはスムーズに入れたが、建物前に長い待ち列ができている。建物の中にも折り返しの列があるようだ。しかし、そろそろ帰る人が多いのか、70分は待たずに40~50分で先頭に到達した。第1期、第2期は、基本的に観客をエレベーターで3階に誘導していたが、「3階は大変混雑しております。1階からもご覧いただけます」という案内を聞いて、半分くらいの人が1階に流れていたのは、柔軟な対応でいいと思った。私は絵画の2階から見ることにする。
【2階】
・仏画:東寺の『両界曼荼羅図』は何度か見ているが、細部の色彩の美しさにあらためて気づく。西大寺の『十二天像』から閻魔天と火天、京博(東寺旧蔵)の『十二天像』から火天・水天・風天。西大寺の閻魔天は正面向きの黄牛(あめうし)に乗り、火天は左向きの白牛に乗る。おおらかで躍動感があって好き。東寺旧蔵の十二天像は、動きが少なく、闇に浮かぶ宝石のように謎めいた感じ。水天のぽっちゃりした色っぽさ、風天の風になびく天衣や袖の美しさは何度見てもイイ! 次に奈良博の『十一面観音像』は、白とピンクの肉身がなまめかしい。頭上には長い瓔珞を垂らした天蓋、蓮華座の花びらからも露のように瓔珞が垂れている。赤に截金を配した衣、だいぶ退色しているが緑色の天衣を胸の前でリボンのように結ぶ。法起寺→井上馨→益田鈍翁という伝来も慕わしい。『不動明王像(黄不動)』は三井寺(園城寺)の秘仏ではなく、曼殊院のもの。摸本でも十分すぎる迫力。Wikiによれば「京都・曼殊院等に伝わる多くの模写像は磐座上に立つが、本像は円珍が実際に感得した際のさまを表現しているため、虚空上に立つ姿を本紙いっぱいに描いている」という見分け方を覚えておこう。第3期は(第4期も)密教色が濃厚でたいへん素晴らしい。
・肖像画:第1-2期で「六道と地獄」だった部屋がテーマ変更。右手には、歴史の教科書でも美術史でもおなじみ『後鳥羽院像』に『花園法皇像』。中央にいわゆる神護寺三像、左から伝源頼朝像・伝平重盛像・伝藤原光能像だったと思う。大きいので、人混みの後ろからでもよく見えて、ありがたかった。神護寺三像は、わりとよく見ている気がして、あまり感動しなかったのだが、調べたら、今年2017年と2009年に訪ねた神護寺の宝物風入れでも、2014年の京博・平成知新館オープン記念展も、2008年の京博・旧平常展示館ファイナル展でも、見ているのは源頼朝像と平重盛像の2幅だけだった。藤原光能像は、私は2007年に東博の国宝室で見ている。2014年にも国宝室に出ているが、これは見逃しているかも。3幅揃いは初めてだったかもしれない。もっと感動してくればよかった。なお、左手には『随身庭騎絵巻』。これが出る展覧会なら必ず見に行っちゃうくらい好きな作品だが、こういう大展覧会では映えないのが残念。
・中世絵画:『瓢鯰図』など。初めて知った金地院の『渓陰小築図』は明清の山水図みたいな個性的で不思議な味わいのある作品。伝・周文が2点あり「周文作の可能性が最も高いもの」という解説がついていた。狩野正信の『周茂叔愛蓮図』は淡い緑色がきれい。「万人受けする狩野派画風の特徴がすでに備わる」という解説は、誉めているのかいないのか、ちょっと苦笑した。永徳は超ラブリーな『花鳥図襖』。大井戸茶碗『喜左衛門』もこの部屋に出ていた。
・近世絵画:右に長谷川等伯の『松林図屏風』、中央に息子・久蔵の『桜図壁貼付』(智積院)、左に応挙の『雪松図屏風』。三横綱揃い踏みみたいな贅沢空間である。そして志野茶碗『卯花墻』は1~4期まで通期展示なのだな。きっと茶碗も嬉しかろう。『松林図屏風』は照明がよいのか、料紙の色がやわらかく感じられ、溶け込むような墨色も優しかった。松の根っこのラフな表現に目が留まった。
・中国絵画:大徳寺の牧谿筆『観音猿鶴図』3幅対(まとめてこう呼ぶのか)が来ていた。東博の『出山釈迦図・雪景山水図』3幅、小品の『林檎花図』『鶉図』も。アルカンシエール美術財団の『青磁下蕪花入』も美しかった。
【1階】
・陶磁:第2期と同様、通路に列ができている。今期の見ものは東洋陶磁美術館の『油滴天目』だという。何度も見ているなあと思いながら、並んで一度は最前列で見た。銀色の油滴がぎっしり詰まった華やかな茶碗、ただし覗き込むと底には油滴がなく、夜の海のような黒一色が広がっている。展示ケースのまわりかたが第2期と逆(時計まわり)になっていたのは、こっちのほうが合理的だと思った。墨蹟は宋・高宗の真筆『徽宗文集序』など。
・絵巻物:徳川美術館の『源氏物語絵巻・柏木』、大和文華館の『寝覚物語絵巻』が来ていたが、混雑でほとんど見えず。でも『信喜山縁起絵巻』の「延喜加持の巻」が見られたので満足。『扇面法華経草子』も美しい場面が開いていた。
・染織:熊野速玉神社伝来の古神宝類など。
・金工:厳島神社の『紺糸威鎧』は変わらず。
・漆工:なぜかここに妙法院の『ポルトガル国王印度副王信書』が出ていた。
・彫刻:あまり変化なし。新たな見もののひとつは浄瑠璃寺の多聞天立像。
【3階】
・書跡:『日本霊異記』『今昔物語』など。今期は「書跡」の美を愛でるというより、文学研究、伝本研究の面で価値ありとされた文献資料が多かった。ちょっとこの展覧会のジャンル分けには無理がある。
・考古:土偶や土器が減り、福岡市博物館から『金印』が来ていた。これを「最前列で見るための列」は、3階から階段を下って2階へ伸び、20~30分待ちの札が出ていた。私は何度か見ているので、遠目に見るだけにした。印の本体は意外と薄い感じがした。
第4期にも行ってコンプリート記録をつくるかどうかは、いま考えているところである。
国宝展第1期、第2期に続き、第3期も行ってきた。第1期は土曜の夕方だったが、待たずに入れた。第2期は平日の夕方で、正面ゲートは待たずに入れたが建物に入ってから10分ほど並んだ。第3期は三連休の初日で、覚悟はしていたものの、公式ツィッターを眺めていると、午後になっても一向に混雑の収まる様子がない。16時頃、博物館に着くと、チケット売り場前で警備の人が「70分待ちです!」「70分待ちです!」と触れ回っていた。
正面ゲートはスムーズに入れたが、建物前に長い待ち列ができている。建物の中にも折り返しの列があるようだ。しかし、そろそろ帰る人が多いのか、70分は待たずに40~50分で先頭に到達した。第1期、第2期は、基本的に観客をエレベーターで3階に誘導していたが、「3階は大変混雑しております。1階からもご覧いただけます」という案内を聞いて、半分くらいの人が1階に流れていたのは、柔軟な対応でいいと思った。私は絵画の2階から見ることにする。
【2階】
・仏画:東寺の『両界曼荼羅図』は何度か見ているが、細部の色彩の美しさにあらためて気づく。西大寺の『十二天像』から閻魔天と火天、京博(東寺旧蔵)の『十二天像』から火天・水天・風天。西大寺の閻魔天は正面向きの黄牛(あめうし)に乗り、火天は左向きの白牛に乗る。おおらかで躍動感があって好き。東寺旧蔵の十二天像は、動きが少なく、闇に浮かぶ宝石のように謎めいた感じ。水天のぽっちゃりした色っぽさ、風天の風になびく天衣や袖の美しさは何度見てもイイ! 次に奈良博の『十一面観音像』は、白とピンクの肉身がなまめかしい。頭上には長い瓔珞を垂らした天蓋、蓮華座の花びらからも露のように瓔珞が垂れている。赤に截金を配した衣、だいぶ退色しているが緑色の天衣を胸の前でリボンのように結ぶ。法起寺→井上馨→益田鈍翁という伝来も慕わしい。『不動明王像(黄不動)』は三井寺(園城寺)の秘仏ではなく、曼殊院のもの。摸本でも十分すぎる迫力。Wikiによれば「京都・曼殊院等に伝わる多くの模写像は磐座上に立つが、本像は円珍が実際に感得した際のさまを表現しているため、虚空上に立つ姿を本紙いっぱいに描いている」という見分け方を覚えておこう。第3期は(第4期も)密教色が濃厚でたいへん素晴らしい。
・肖像画:第1-2期で「六道と地獄」だった部屋がテーマ変更。右手には、歴史の教科書でも美術史でもおなじみ『後鳥羽院像』に『花園法皇像』。中央にいわゆる神護寺三像、左から伝源頼朝像・伝平重盛像・伝藤原光能像だったと思う。大きいので、人混みの後ろからでもよく見えて、ありがたかった。神護寺三像は、わりとよく見ている気がして、あまり感動しなかったのだが、調べたら、今年2017年と2009年に訪ねた神護寺の宝物風入れでも、2014年の京博・平成知新館オープン記念展も、2008年の京博・旧平常展示館ファイナル展でも、見ているのは源頼朝像と平重盛像の2幅だけだった。藤原光能像は、私は2007年に東博の国宝室で見ている。2014年にも国宝室に出ているが、これは見逃しているかも。3幅揃いは初めてだったかもしれない。もっと感動してくればよかった。なお、左手には『随身庭騎絵巻』。これが出る展覧会なら必ず見に行っちゃうくらい好きな作品だが、こういう大展覧会では映えないのが残念。
・中世絵画:『瓢鯰図』など。初めて知った金地院の『渓陰小築図』は明清の山水図みたいな個性的で不思議な味わいのある作品。伝・周文が2点あり「周文作の可能性が最も高いもの」という解説がついていた。狩野正信の『周茂叔愛蓮図』は淡い緑色がきれい。「万人受けする狩野派画風の特徴がすでに備わる」という解説は、誉めているのかいないのか、ちょっと苦笑した。永徳は超ラブリーな『花鳥図襖』。大井戸茶碗『喜左衛門』もこの部屋に出ていた。
・近世絵画:右に長谷川等伯の『松林図屏風』、中央に息子・久蔵の『桜図壁貼付』(智積院)、左に応挙の『雪松図屏風』。三横綱揃い踏みみたいな贅沢空間である。そして志野茶碗『卯花墻』は1~4期まで通期展示なのだな。きっと茶碗も嬉しかろう。『松林図屏風』は照明がよいのか、料紙の色がやわらかく感じられ、溶け込むような墨色も優しかった。松の根っこのラフな表現に目が留まった。
・中国絵画:大徳寺の牧谿筆『観音猿鶴図』3幅対(まとめてこう呼ぶのか)が来ていた。東博の『出山釈迦図・雪景山水図』3幅、小品の『林檎花図』『鶉図』も。アルカンシエール美術財団の『青磁下蕪花入』も美しかった。
【1階】
・陶磁:第2期と同様、通路に列ができている。今期の見ものは東洋陶磁美術館の『油滴天目』だという。何度も見ているなあと思いながら、並んで一度は最前列で見た。銀色の油滴がぎっしり詰まった華やかな茶碗、ただし覗き込むと底には油滴がなく、夜の海のような黒一色が広がっている。展示ケースのまわりかたが第2期と逆(時計まわり)になっていたのは、こっちのほうが合理的だと思った。墨蹟は宋・高宗の真筆『徽宗文集序』など。
・絵巻物:徳川美術館の『源氏物語絵巻・柏木』、大和文華館の『寝覚物語絵巻』が来ていたが、混雑でほとんど見えず。でも『信喜山縁起絵巻』の「延喜加持の巻」が見られたので満足。『扇面法華経草子』も美しい場面が開いていた。
・染織:熊野速玉神社伝来の古神宝類など。
・金工:厳島神社の『紺糸威鎧』は変わらず。
・漆工:なぜかここに妙法院の『ポルトガル国王印度副王信書』が出ていた。
・彫刻:あまり変化なし。新たな見もののひとつは浄瑠璃寺の多聞天立像。
【3階】
・書跡:『日本霊異記』『今昔物語』など。今期は「書跡」の美を愛でるというより、文学研究、伝本研究の面で価値ありとされた文献資料が多かった。ちょっとこの展覧会のジャンル分けには無理がある。
・考古:土偶や土器が減り、福岡市博物館から『金印』が来ていた。これを「最前列で見るための列」は、3階から階段を下って2階へ伸び、20~30分待ちの札が出ていた。私は何度か見ているので、遠目に見るだけにした。印の本体は意外と薄い感じがした。
第4期にも行ってコンプリート記録をつくるかどうかは、いま考えているところである。