見もの・読みもの日記

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2017年11月@関西:正倉院展(奈良国立博物館)

2017-11-09 22:11:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
奈良国立博物館 『第69回正倉院展』(2017年10月28日~11月13日)

 今年も正倉院展に行ってきた。前日は京博の国宝展でくたくたになり、奈良・新大宮泊。日曜の朝、早めに宿を出て、7時半頃、博物館に到着すると、先頭から20~30人目くらいに並ぶことができた。その後も列の伸び方が遅いので、今年はみんな京都に行っているのかなあと思ったりした。しかし8時を過ぎると、ぐんぐん人が増えてきて、開館時にはピロティの下(3列)をはみ出ていたと思う。やっぱり、並ぶなら8時前からが正解である。

 おかげで、まだ比較的、人の少ない会場に入ることができた。冒頭には大きな鏡や『羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちのびょうぶ)』が出ていることを確認し、もう少し先から見始めることにする。尺八が二件。『樺巻尺八(かばまきのしゃくはち)』は竹製で樹皮を巻いてボーダー模様にしたもの。アイボリー色の『玉尺八(ぎょくのしゃくはち)』は聖武天皇遺愛の品だという。白玉製だと思ったので、「東邪」黄薬師を思い出してニヤついていたのだが、図録の解説によれば大理石製と鑑定されているそうだ。前回出品が1999年というから、たぶん私は初見。

 『漆槽箜篌(うるしそうのくご)』は飛天や来迎図などに描かれる竪琴である。原品はかなり破損して「残欠」と呼んだほうがいい状態である。明治年間の復元品も展示されていたが、描き装飾の図柄など、ちょっと違和感がある。解説にも「推定を含んだ復元模造である」と記されていた。これも前回出品は1994年という珍しいもの。ほかに伎楽面、楽舞用の布製品などがあった。

 続いて西新館へ。最初の部屋は仏菩薩への献物に使われた箱や台など。『碧地金銀絵箱(へきじきんぎんえのはこ)』は何度も見ているが、大人可愛いデザインで大好き。花を咥えて向き合う二羽の水鳥、手描きのあたたかみが感じられる。緑色の綾を張った『黄楊木几(つげのきのき)』、脚がヒョウ柄っぽい『蘇芳地六角几(すおうじのろっかくき)』もいいが、私は何の変哲もない『花籠(けこ)』(竹籠)に魅入られてしまった。浅いものとやや深いものの二種類が出ていた。どちらも底は四角く編み始め、縁は円形に整えてある。目が詰まっていて均一である。螺鈿や銀工のような華やかさはないけれど、実用的なものづくり技術の高さに感心した。

 次室の冒頭に、今期の見ものである『緑瑠璃十二曲長杯(みどりるりのじゅうにきょくちょうはい)』があった。口縁は長円形で十二の屈曲を持つことからこう呼ぶのだそうだ。かなり濃い緑色である。側面には金魚藻のような草と、横向きのウサギが刻まれている。まん丸い目で、アニメのキャラクターのように単純化された姿だ。正倉院の展示ケースは、ほぼ全て展示台の下に鏡が仕込まれていて、あらゆる方向から立体的に鑑賞できるのが素晴らしい。私は隣りの『玉長杯』もいいと思った。乳白色の玉を刻んだシンプルな長杯で、いかにも酒が美味そうに感じる。『金銅八曲長杯』や『犀角杯』など、なぜか今年は酒杯シリーズが揃った。このへんまで進んでも、まだ周りに人が少ないので気持ちがよかった。

 鳳凰の顔を持つ長い注ぎ口のついた『金銅水瓶』はどこか西域風である。『玳瑁杖』『琥珀誦数(数珠)』など上品な工芸品が続く。西新館の後半には、各種の刀子、帯など。ここにも用途のよく分からない白玉器(舟形?の中央に長方形の穴)があった。極細の竹を色糸で編んだ『竹秩(じす)』は、チロリアンテープのようで愛らしかった。経典を包むものである。

 このあと、混雑し始めた会場内を冒頭まで戻り、はじめに見逃した東新館の冒頭を見る。『鳥花背八角鏡(ちょうかはいのはっかくきょう)』はとにかく大きい。鈕(つまみ)の左右には向き合う鳳凰、上に鹿?、下に角のある獅子?を配する。こういう大きな鏡は、ほぼ正倉院展でしか見られない宝物だと思う。『槃龍背八角鏡(ばんりゅうはいのはっかくきょう)』は、ひとまわり小さいが、直径30センチを超える。二匹の龍が向き合って首をからめあい、足もとには山岳。周囲には八卦文。優美な『鳥花背八角鏡』に比べると、古風で呪術的な雰囲気が漂う。前者は2004年、後者は2005年以来の出品とのこと。

 『羊木臈纈屏風』も可愛くて大好き。羊の背後の樹に二匹のサルがいる。ペアとなる『熊鷹臈纈屏風』は、前景に鷹(クマタカ)、後景に樹と麒麟とイノシシを描く。いま図録を(しかも眼鏡をはずして)見て、ようやくイノシシの姿を認識できた。図録の解説によると、立派な巻角、三角形の斑文を持つヒツジは、ゾロアスター教の神の化身であることを表しており、ソグド人の都アフラシアブ遺跡(ウズベキスタン)で見つかった壁画によく似ているという。面白い~。漠然と「シルクロードの終着点」と言われてきた正倉院であるが、西域文化を東方に運んだソグド人の存在を意識すると、さらに発見があるのではないか。

 あと、アンパンみたいな蜜蝋が山ほど展示されていたのは微笑ましかった。解説によれば、西域以西に生息するセイヨウミツバチではなく、中国など東アジアに生息するトウヨウミツバチのものであることが有力と分かったそうだ。科学が進むといろいろ新しい発見があるものだなあ。楽しい。
コメント (1)
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