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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

文書と絵画資料で読み解く/開国への潮流(神戸市立博物館)

2017-08-22 23:45:09 | 行ったもの(美術館・見仏)
神戸市立博物館 特別展 神戸開港150年記念特別展『開国への潮流-開港前夜の兵庫と神戸-』(2017年8月5日~9月24日)

 岡山の林原美術館を見終わったあと、次の目的地に行けそう、と思って新幹線に乗る。岡山観光も考えていたのが、次の機会を待つことにする。本展は、神戸港が1868(慶応3)年の開港から150年を迎えることを記念し、18世紀半ばから19世紀にかけて、日本が新たな国際関係に歩みを進める模索の時代を、約100件の資料を通じてたどる特別展。

 文書資料が多いので、全体に地味な感じ(でも絵画資料は多め)だが、私は嫌いじゃない。むしろ大好物である。プロローグは18世紀末(天明~寛永年間)、異国船来航の第一波として、ロシア船が出没し始めた時期から始まる。林子平の『三国図説略説』(版本)には「下品女夷、鮭魚ヲ負テ運送スル体」の挿し絵が描かれている。日本では絶版にされたが、オランダ、ドイツ、ロシアで翻訳されて読まれたというのが面白い。いつの時代も、政府の都合で情報の流通は止められないのだ。『海国兵談』は版本が展示されていた。

 「鎖国」という言葉の由来とされる志筑忠雄の『鎖国論』(抄本)も展示。江戸時代中期以降、「鎖国は攘夷へと姿を変え」るという解説が興味深かった。本来の「鎖国」は、完全な排外体制ではなかったのだ。丹後国田辺藩の藩士が庶民向けにアヘン戦争の概要を叙述した『海外新話 及拾遺』も面白かった。挿絵は、清国人、イギリス人をそれらしく描いている。何か種本があったのだろうか。

 絵画資料は、めずらしいものが多数あって楽しかった。ロシア施設レザノフの肖像(芸妓?を連れている)、持ちもの、気球や船のスケッチを貼り交ぜた『レザノフ屏風』は広島県立歴史博物館寄託資料。また、レザノフ一行のほか、唐船、イギリス船、オランダ船などを描いた図巻『外国船之図』は神戸大学所蔵で、神戸で最初の図書館「桃木書院」の印が押されている、という解説も気になった。関西については知らないことが多いなあ。もっとも、東京の品川区立品川歴史館から来ていた資料も知らないものばかりだった。

 嘉永6年(1853)ペリー来航、相前後して、ロシアのプチャーチンも大阪湾に来航する。本展には、プチャーチンに関する資料が非常に豊富だった。関西人にとっては、ペリー船団の浦賀来航より、ずっと切実だったのではないか。中でも感銘を受けたのは、たちを束ねていた天王寺善次郎が、外国船に関する情報を大坂町奉行所に届けたことを伝える資料『乍恐口上』(墨書、冊子本)。奉行所がを通じてたちを情報収集に使っていたことが分かる。かつて同館の第100回特別展で「天王寺文書」を見た記憶がよみがえって、感慨深かった。

 これと同じくらい興味深かったのは、文久遣欧使節団関係の資料である。すでに約束した開市開港の延期を願うため、フランス、イギリスほか諸国を歴訪した使節団で、福沢諭吉や福地源一郎が加わっていたことで有名だが、後世にあまり名を残さなかった正使・副使たちの写真や、随行者の日記、手紙などが豊富に残っていることを初めて知った。この展示は「幕末」といえばすぐに名前が浮かぶような著名人はほとんど登場しない。だが、その潔さがむしろ好ましく、ふつうの人々が開国への潮流をどんな関心で眺め、どんなふうに関わったか、少し想像ができた気がした。

 開港延期の間に、兵庫・神戸には砲台が設けられ、灯台が整備され、蒸気船の燃料である石炭を確保するため、炭鉱の開発が進んだ。また海軍操練所と造船所の建設が検討された。そして「安政の五ヵ国条約」で定められた兵庫開港は、慶応3年、神戸開港として実現する。そうか、最初は「兵庫」だったのだな。まあ何もない神戸のほうが、新しい街をつくるには適していただろう。それから、神戸(兵庫)は天皇の住む京都に近いという点で、横浜の開港などよりずっと問題も抵抗も大きかったというのは、あまり考えたことがなかった。

 明治10~11年、イギリス人実業家が居留地周辺をスケッチした水彩画が展示されていたが、ひろびろした道路や緑地の端に瀟洒な洋館が並んでいて、とても極東の新開地とは思えない美しい風景だった。あと、明治元年、五代友厚が小松帯刀に宛てた手紙というのが、さりげなく展示されていた。後藤子(象二郎だろう)、陸奥(宗光)、伊藤輩(博文)と一緒に神戸を訪問する(取り立てて用事はないが、発展の様子を見に行く)ことを告げている。このメンバー、私の好きな人物ばかりなので、ちょっと嬉しかった。

 なお、3階では『南蛮古地図企画展 絵画と地図で読み解く日欧交流』(2017年8月5日~9月24日)を開催中。コレクション展だが、これもいい。 狩野内膳の『南蛮屏風』を左右揃いで見たのは久しぶりではないか。『都の南蛮寺図』は複製でちょっと残念(なぜか展示リストに「複製」注記がない)。『世界四大洲・四十八カ国人物図屏風』はいいなあ。花も動物も異民族も盛り盛りで、祝祭的な華やかさが微笑ましい。
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