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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

新緑の鎌倉・横浜散歩/慶派のほとけ(鎌倉国宝館)ほか

2017-05-17 23:37:38 | 行ったもの(美術館・見仏)
鎌倉国宝館 『鎌倉の至宝-優美なる慶派のほとけ-』(2017年4月22日~6月4日)

 奈良博の『快慶』、東博の『運慶』を意識したのだろうか、慶派のほとけの特集である。だいたい、いつもの収蔵品だったが、見慣れない阿弥陀三尊像が2組。表面の劣化が進んでいるが、よく見ると優美な顔立ちの三尊像は、大町の教恩寺のもの。快慶の作風だというのはどうだろう、そう言われれば、まあ同意しないでもない。平重衡が鎌倉に送られた際の帰依仏だという伝承が奥ゆかしい。秦野の金剛寺の三尊像は、衣のひだが丁寧で装飾的。顔立ちは、中尊と脇侍像に違いが見られ、両脇侍像には定慶の作風との類似が認められるという。実朝の念持仏であったとの伝承を持つ。

 書画はかなりいいものが気前よく出ていた。『浄土五祖絵巻』は善導巻が南北朝で、もう1本が鎌倉時代の成立なのだな。南宋時代の『宝冠釈迦三尊像』(建長寺)は、劣化して見えにくいが、目を凝らすと美形。青色の光背、宙に浮く天蓋、横に広がる華やかな宝冠。伏し目がちで、微笑むような赤い唇。蘭渓道隆の西来庵に伝わったそうだ。元時代の『白衣観音図』が2幅あって、著色画(建長寺)も墨画(円覚寺)もそれぞれ美しかった。南北朝時代の墨画『猿猴図』2幅(建長寺)は軽やかな動きがあって、楽しい。個人蔵の鎌倉彫彫刻作品群(江戸時代)5件の中には、20cmくらいの初江王坐像もあって、とても欲しかった。

 帰り道がてら、旗上弁財天社に寄って、木下直之先生の『せいきの大問題 新股間若衆』に登場した「女性器に似た大石」の存在を確認したことを記録しておこう。確かに、池に落ちそうな位置から眺めないと石の真面目は確認できない。

神奈川県立金沢文庫 特別展『国宝 金沢文庫展』(2017年4月28日~6月18日)

 あまりにも直球なタイトルだが、要するに名品展である。2016年8月、総計2万点余りに及ぶ称名寺聖教・金沢文庫文書が一括して国宝に指定されたことを記念している。紙背文書が多いとか、解説が詳しくて面白かった。氏名未詳の女性の書状に、法要の際「うらべのかねよし(=兼好法師」と読み上げてほしいと記されているとか、藤原通憲(=信西)が編纂した『法曹類林』残巻(当初は730巻!)とか、有名無名の人々の生きた証が、ぽろぽろとこぼれてくる。美しいもの、哀れなもの、恐ろしいもの、危ういもの、など漢字四字で表した『十列集』も面白い。宋版『南史』は他にほとんど知られない書物で、宋・斉・梁・陳という南朝国家の歴史を記したものだという。

 展示室の外の廊下には、昭和7年(1932)4月の「聖教発見」の新聞記事(コピー)も展示されていた。昭和5年(1930)に金沢文庫が創設され、数千通の古文書の整理をしていくうち、次第にその価値が分かってきたらしい。「俵詰めの古文書から国宝に値する文献」「金沢文庫から続々発見さる」等の記事もあった。

神奈川近代文学館 特別展『生誕150年 正岡子規展-病牀六尺の宇宙』(2017年3月25日~5月21日)

 正岡子規(1867-1902)の文学と生涯を振り返るとともに、親友・夏目漱石をはじめとする多くの文学者たちとの交流も紹介する特別展。漱石と子規が同い年だったことから、1867(慶応3)年生まれの日本人を調べてみたら、ほかに幸田露伴、南方熊楠、宮武外骨などがいる。子規の生誕150年を祝ってくれてありがとう、とまずは言いたい。

 正岡子規のことは、もちろん教科書等で習ったが、強く興味を持ったのは、NHKドラマ『坂の上の雲』で香川照之の演じる正岡子規を見てからで、『病牀六尺』『墨汁一滴』『仰臥漫録』を読んで、本当に好きになった。ドラマに登場した子規の家族たち、特に彼を守り続けた母・八重と妹・律に関する写真や資料は、しみじみ懐かしい気持ちで眺めた。気のおけない仲間たちとの書簡を通じたやりとり、特に漱石の句巻に子規が朱筆を入れたものは、読みながら、だいぶ笑った。読みやすい翻刻を添えてくれてありがたかった。図録には、一部分の写真(白黒)しか収録されていないので、ぜひ会場で現物を見てほしい。

 会場のところどころ、子規に対する真摯な愛情であふれた解説文で読ませるなあ、と思ったのは、俳人の長谷川櫂さんの文章だったようだ。久しぶりに根岸の子規庵に行ってみたくなった。
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