〇三井記念美術館 特別展 国立劇場開場50周年記念『日本の伝統芸能展』(2016年11月26日~2017年1月28日)
昭和41年(1966)11月に開場した国立劇場が、今年、開場50周年を迎えたことを記念する展覧会。内容をよく把握せずに行ってみたら、冒頭には、真っ赤な顔に金色の眼、黒い乱れ髪の異形の面。日光輪王寺が所蔵する「抜頭」の面である。以下、舞楽面や雅楽器が並ぶ。なるほど、国立劇場というか日本芸術文化振興会の演目ジャンルである「雅楽」「能楽」「歌舞伎」「文楽」「演芸」「琉球芸能・民俗芸能」を全て扱う展覧会なのだな、ということを理解する。
美術館や博物館で見る舞楽面は、ぼろぼろになって役目を終えた歴史的資料であることが多いが、この展覧会では、まだ実用に耐える美々しい面が多かった。熱田神宮の「陵王」とか「納曽利」は眉や髭の植毛がちゃんと揃っている。一方、三井美術館所蔵の「崑崙八仙」は平安時代とあってびっくりした。手向山八幡伝来らしい。
「紀州徳川家伝来」という説明つきの雅楽器がいくつか出ていたのにも驚いた。国立歴史民俗博物館が一括所蔵していると思っていたが、伝来の過程で流出したものがあるそうだ。そして、紀州徳川家の雅楽器コレクションって、どうせ江戸ものだろうと思っていたら、十代藩主徳川治宝(1771-1852)が勅許を得て(!)集めたもので、平安~鎌倉時代の楽器が含まれているのか。知らなかった。平安~鎌倉時代の琵琶「実性丸」(四弦)は、実用的で簡素な作りだった。撥面には皮を張ってあるのかな。
次いで、能面と能楽で用いる笛(能管)、蒔絵の鼓胴。女性の能面「孫次郎(オモカゲ)」は怖いほど美しい。特に横顔。少し受け口なのは、視点を低くして見上げると気にならない。左右の目のかたちが微妙に非対称なのが、人間味を感じさせる。じっと見ているとまばたきそうである。
次の展示室は、屏風が多数でうれしい。日光輪王寺の『舞楽図屏風』、描かれている演目はだいたい分かったけど、ふつうの衣冠束帯姿の四人が舞う「新靺鞨(しんまか)」は知らなかった。ネットで検索したらいろいろ面白い所作があるみたいで、一度見たいなあ。神戸市立博物館の『観能図屏風』は、豊臣秀吉が開催した天覧能を描くと聞いて、秀吉のまわりにいる人々、階(きざはし)の下に侍する人々は誰だろうと、つい「真田丸」の面々を当てはめてみたりする。出光美術館の『阿国歌舞伎図屏風』は、帽子と手ぬぐいで目元以外を隠し、短めの着物の裾からスパッツみたいなものを見せる阿国のファッションがカッコよくて好き(前期)。髪を下し、朱鞘の刀をかつぐ阿国を描いた京都国立博物館の重文屏風は、後期(1/4-)に出るようだ。
歌舞伎は、遊女歌舞伎、若衆歌舞伎(前髪がある)を経て、成人男性が演ずる野郎歌舞伎へと発展(?)した。しかし、素人が絵画資料を見ても、ほとんど区別がつかないなあと思う。西尾市岩瀬文庫寄託の『四条河原遊楽図屏風』は、以前どこかで見たとき、女歌舞伎の舞台に大頭の小人のような人物が描かれているのを珍しいと思った記憶がある。芝居小屋や役者を描いた錦絵も多数あって面白かった。
文楽は、黒子のマネキンによる三人遣いの参考展示が行われていた。これは、大阪梅田の阪急百貨店で展示されていたもの(※『文楽の世界』展)だ、とすぐに思い出した。監修は桐竹勘十郎師。足遣いの黒子が、前後に(自分の)足を大きく開いて踏ん張っているあたりが地味にスゴイと思う。人形首もいろいろ出ていたが、図録を見直したら、現代(大江巳之助)の作に混じって、明治時代の「婆(時代)」や江戸時代の「検非違使」が使われていることを感慨深く思った。
次の小さな展示室は「演芸」で、先日、岩波新書『江戸の見世物』で読んだばかりの軽業師・早竹虎吉が! 本の図版では白黒だった錦絵をカラーで見ることができて、嬉しかった。最後は、華やかな歌舞伎の衣装、文楽の着付人形(展示専用に作られたそうだが、舞台に立ちたいだろうなあ、と人形の心中を思う)。
そして、民俗芸能の資料。長田神社(神戸)の追儺の鬼面7種は、それぞれ個性的で面白かった。赤鬼・青鬼のほか、餅割鬼、尻くじり鬼などの名前がついているのは、何か所作事があるのだろう。室町~江戸時代の作という説明がついていた。東栄町(愛知県)の花祭の榊鬼の面、衣装なども。意外なものが見られて面白かったが、民俗芸能の代表として、なぜこれらを選んだのかは、ちょっとよく分からなかった。琉球芸能からは、古典舞踊や組踊で使われる衣装。やっぱり、民俗資料の紅型(びんがた)に比べると、舞台映えを意識したデザインになっていると感じた。歌舞伎の衣装も同様であるが。
なお、展示図録に大量の正誤表がついていたのはどうしてなんだろう。準備に時間が足りなかったのかもしれないが、惜しまれる。
昭和41年(1966)11月に開場した国立劇場が、今年、開場50周年を迎えたことを記念する展覧会。内容をよく把握せずに行ってみたら、冒頭には、真っ赤な顔に金色の眼、黒い乱れ髪の異形の面。日光輪王寺が所蔵する「抜頭」の面である。以下、舞楽面や雅楽器が並ぶ。なるほど、国立劇場というか日本芸術文化振興会の演目ジャンルである「雅楽」「能楽」「歌舞伎」「文楽」「演芸」「琉球芸能・民俗芸能」を全て扱う展覧会なのだな、ということを理解する。
美術館や博物館で見る舞楽面は、ぼろぼろになって役目を終えた歴史的資料であることが多いが、この展覧会では、まだ実用に耐える美々しい面が多かった。熱田神宮の「陵王」とか「納曽利」は眉や髭の植毛がちゃんと揃っている。一方、三井美術館所蔵の「崑崙八仙」は平安時代とあってびっくりした。手向山八幡伝来らしい。
「紀州徳川家伝来」という説明つきの雅楽器がいくつか出ていたのにも驚いた。国立歴史民俗博物館が一括所蔵していると思っていたが、伝来の過程で流出したものがあるそうだ。そして、紀州徳川家の雅楽器コレクションって、どうせ江戸ものだろうと思っていたら、十代藩主徳川治宝(1771-1852)が勅許を得て(!)集めたもので、平安~鎌倉時代の楽器が含まれているのか。知らなかった。平安~鎌倉時代の琵琶「実性丸」(四弦)は、実用的で簡素な作りだった。撥面には皮を張ってあるのかな。
次いで、能面と能楽で用いる笛(能管)、蒔絵の鼓胴。女性の能面「孫次郎(オモカゲ)」は怖いほど美しい。特に横顔。少し受け口なのは、視点を低くして見上げると気にならない。左右の目のかたちが微妙に非対称なのが、人間味を感じさせる。じっと見ているとまばたきそうである。
次の展示室は、屏風が多数でうれしい。日光輪王寺の『舞楽図屏風』、描かれている演目はだいたい分かったけど、ふつうの衣冠束帯姿の四人が舞う「新靺鞨(しんまか)」は知らなかった。ネットで検索したらいろいろ面白い所作があるみたいで、一度見たいなあ。神戸市立博物館の『観能図屏風』は、豊臣秀吉が開催した天覧能を描くと聞いて、秀吉のまわりにいる人々、階(きざはし)の下に侍する人々は誰だろうと、つい「真田丸」の面々を当てはめてみたりする。出光美術館の『阿国歌舞伎図屏風』は、帽子と手ぬぐいで目元以外を隠し、短めの着物の裾からスパッツみたいなものを見せる阿国のファッションがカッコよくて好き(前期)。髪を下し、朱鞘の刀をかつぐ阿国を描いた京都国立博物館の重文屏風は、後期(1/4-)に出るようだ。
歌舞伎は、遊女歌舞伎、若衆歌舞伎(前髪がある)を経て、成人男性が演ずる野郎歌舞伎へと発展(?)した。しかし、素人が絵画資料を見ても、ほとんど区別がつかないなあと思う。西尾市岩瀬文庫寄託の『四条河原遊楽図屏風』は、以前どこかで見たとき、女歌舞伎の舞台に大頭の小人のような人物が描かれているのを珍しいと思った記憶がある。芝居小屋や役者を描いた錦絵も多数あって面白かった。
文楽は、黒子のマネキンによる三人遣いの参考展示が行われていた。これは、大阪梅田の阪急百貨店で展示されていたもの(※『文楽の世界』展)だ、とすぐに思い出した。監修は桐竹勘十郎師。足遣いの黒子が、前後に(自分の)足を大きく開いて踏ん張っているあたりが地味にスゴイと思う。人形首もいろいろ出ていたが、図録を見直したら、現代(大江巳之助)の作に混じって、明治時代の「婆(時代)」や江戸時代の「検非違使」が使われていることを感慨深く思った。
次の小さな展示室は「演芸」で、先日、岩波新書『江戸の見世物』で読んだばかりの軽業師・早竹虎吉が! 本の図版では白黒だった錦絵をカラーで見ることができて、嬉しかった。最後は、華やかな歌舞伎の衣装、文楽の着付人形(展示専用に作られたそうだが、舞台に立ちたいだろうなあ、と人形の心中を思う)。
そして、民俗芸能の資料。長田神社(神戸)の追儺の鬼面7種は、それぞれ個性的で面白かった。赤鬼・青鬼のほか、餅割鬼、尻くじり鬼などの名前がついているのは、何か所作事があるのだろう。室町~江戸時代の作という説明がついていた。東栄町(愛知県)の花祭の榊鬼の面、衣装なども。意外なものが見られて面白かったが、民俗芸能の代表として、なぜこれらを選んだのかは、ちょっとよく分からなかった。琉球芸能からは、古典舞踊や組踊で使われる衣装。やっぱり、民俗資料の紅型(びんがた)に比べると、舞台映えを意識したデザインになっていると感じた。歌舞伎の衣装も同様であるが。
なお、展示図録に大量の正誤表がついていたのはどうしてなんだろう。準備に時間が足りなかったのかもしれないが、惜しまれる。