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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

NHKの冒険/『獄門島』と『シリーズ横溝正史短編集』

2016-12-01 22:10:20 | 見たもの(Webサイト・TV)
○NHK BSプレミアム 『獄門島』(2016年11月19日放送)、『シリーズ横溝正史短編集 金田一耕助登場!』(11月24日~26日放送)

 NHKが横溝正史づいている。と言ってもBS放送の話なので、自宅に視聴環境のない私には関係ないか、と思っていたら、11月19日はちょうど旅先のホテルで『獄門島』を見ることができた。終戦直後の瀬戸内海の孤島で、俳句に見立てられた奇妙な連続殺人が起き、復員したばかりの金田一耕助が謎解きに奔走する。…という説明が必要ないくらい、日本の推理小説の古典中の古典といえよう。犯人もトリックも分かっていても、映像化の出来栄えを確かめたくなる、今なお新鮮な魅力に満ちた作品である。

 金田一耕助を演じたのは、個性派俳優の長谷川博己。ちょっとイケメンすぎないか?と思ったが、それなりに「汚し」て「やつし」ていた。そして、このドラマの金田一耕助は「戦争でトラウマを抱え、心に空いた穴を埋めるため、取り憑かれたように事件を解明しようとする」人物と設定されており、精神的に不安定で、ときどき感情が爆発して、相手かまわず攻撃的になるあたりの演技が、さすが巧い。原作の設定をギリギリ逸脱せず、しかし解釈で魅力ある金田一耕助像を作り出した脚本(喜安浩平)と演出(吉田照幸)、そして長谷川博己の力量に唸った。

 見立て殺人はどれも映像的に美しくて満足できた。最初の殺人で了念和尚がつぶやく「きちがいじゃが仕方がない」を原作どおり言わせたことは、すぐにSNSで話題になった。私もそこは感心したのだが、なぜ「きちがいだから」でなく「きちがいじゃが」仕方ないなのか、と訝るシーンはあったかしら。それから、つぶやきを聞きとがめられた和尚が顔を覆うのを、金田一は図星を刺されて狼狽したと受け取るのだが、あとになって、金田一の見当違いを笑っていたのだと気づく、というのが原作の謎解きシーンにあったはずなのに、ドラマにはなかった。これは了念和尚の性格を表すエピソードでもあって好きだったのに。

 翌週末には三夜連続で『シリーズ横溝正史短編集 金田一耕助登場!』が放映された。私は第2回「殺人鬼」(演出:佐藤佐吉)を旅先で見て、第1回「黒蘭姫」(演出:宇野丈良)と第3回「百日紅の下にて」(演出:渋江修平)はNHKオンデマンドで視聴した。これはすごかった。ドラマは各回30分、原作の文章をそのまま朗読するかたちで進行する。紙芝居を見ているような感覚だ。映像も舞台のように実験的で象徴的だった。「百日紅の下にて」では、淫靡な男女関係が、二枚の布団のからみあいで表現されていて笑ってしまった。なぜか金田一耕助はクマ(?)のぬいぐるみを背負っているが、理由は聞かない。もう「こういう映像が撮りたかった」でいいんじゃないかと思う。雪舟の絵みたいに。

 金田一耕助役の池松壮亮は、ふわふわした空気を身にまとい、癒し系でかわいい。でもむちゃくちゃ汚い。ドラマに登場するのは、ミュージシャン、芸人、作家、モデルなどで、本職の俳優さんがほとんどいないのもこのドラマの「異世界」ぶりを際立たせている。その中で、普通に「異世界」の住人を演じている嶋田久作は相変わらずの怪優である。

 長谷川博己の『獄門島』は、いかにも次回作の期待をもたせた終わり方だったけど、私はどちらかというと池松壮亮の続編が希望だ。1年後くらいに3話くらい新作を作ってくれたらNHKに大感謝である。こういうドラマを見ると、テレビは決して「終わったコンテンツ」ではないと思う。
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