見もの・読みもの日記

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史実と伝説/三蔵法師 玄奘(龍谷ミュージアム)

2015-09-11 20:42:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
龍谷ミュージアム 『三蔵法師 玄奘 迷いつづけた人生の旅路』(2015年8月11日~9月27日)

 三蔵法師として知られる中国・唐代の僧、玄奘(602-664)の人生をたどる展覧会。龍谷大学所蔵の文献資料と、法相宗大本山薬師寺に伝わる仏画、仏像等を中心に構成されている。

 薬師寺の名宝はだいたい一度は見たことのあるだった。量感のある、少し異国風な木造十一面観音菩薩立像(奈良時代)は大好きだけど、展覧会に出陳されることが多いので、新鮮味に欠けた。あと、薬師寺は、敦煌の石窟などに描かれた「取経僧」の図の模写をたくさん持っている。楡林窟の水月観音図が好きなんだけど、これは後期か~。前期(~9/6)は東千仏洞の水月観音図などが出ていた。異形の従者をつれた取経僧という「西遊記」伝説の形成過程がうかがえて面白いのである。

 この展覧会は、悩み多き人間・玄奘の実人生を紹介することをうたっているのだが、あまりうまく行っていない印象を受けた。たとえば「天竺に旅立つ決意」に関して、藤田美術館の『玄奘三蔵絵』を展示しているが、夢で須弥山に登る姿は、もう半ば伝説の世界に入っている。旅の苦難といえば『深沙大将図』を出さずにいられないのもそうだ。

 玄奘の旅の軌跡がたどれる『五天竺図』(法隆寺)の存在は、2011年の奈良博『天竺へ』で知った。あのとき見られなかった最古本の法隆寺甲本が今回は見られてうれしい。奈良博の解説には「本図の制作年代については、鎌倉時代前期から江戸時代まで研究者の意見が分かれている」とあったが、今展の出品リストには「南北朝・貞治2年(1364)」と表記されている。会場の床には、原寸大(?)の『五天竺図』が貼られていて、ゆっくり間近で眺めたのも楽しかった。しかし、この地図もかなり空想味が加わっていて、生身の玄奘そのひとにはなかなか着地しない。

 興福寺の『大慈恩寺三蔵法師伝』や法隆寺の『大唐西域記』など、日本国内では有数の古本(平安時代書写)が見られたのはよかったし、玄奘が通過したコータンやトヨク(トルファン)の文化を伝える西域言語の経典(断片)、玄奘が訪ねた仏陀の聖地の写真も興味深かった。しかし、やっぱり面白いのは「西遊記」物語への成長である。日本では、文化・文政・天保にかけて刊行された『絵本西遊記』が比較的早い例らしい。もっと知りたくて、Wikipedia「西遊記の成立史」を読んだら、かなり面白かった。

 唐に帰国後、経典の翻訳に没頭していた老境の玄奘のもとに現れた17歳の少年が、のちの慈恩大師。よほど優秀だったのだろう、一番弟子として、翻訳の統括を努めることになる。このエピソードも好きだ。事実は伝奇小説以上にドラマチックなときがあるなあと思う。

 展示室の外のパソコンに藤田美術館の『玄奘三蔵絵』全12巻の全画像が全て入っていて、自由にスクロールして眺めることができた。ちょっと触ったら懐かしくて、結局、最後まで眺めてしまった。これ自宅に欲しいなあ…。日本絵巻物集成のデジタル版とか出してくれないものだろうか。
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