○奈良国立博物館 特別展『天竺へ~三蔵法師3万キロの旅』(2011年7月16日~8月28日)
大阪の藤田美術館が所蔵する国宝絵巻『玄奘三蔵絵』全12巻の全場面を、前後期で公開する展覧会。昨年9月、藤田美術館で、初めて『玄奘三蔵絵』を見て、もっと多様な場面を見たいなあ、と思っていた矢先だったので、すごくうれしい。
見どころは、何といっても鮮やかな色彩。さらに、登場人物が身にまとう衣服は、趣向を凝らした文様に飾られている。動物文あり、草花文あり、星座文(?!)あり。狩野一信の『五百羅漢図』でも、衣服や調度の文様の多様さに驚いたが、あれは決して「空前」ではなかったんだな、と思う。
それから、登場人物の容貌と表情の描き分け。うーん、すごい。よく見ると、隅々の小者までキャラが立っていて、それぞれ「小芝居」をしている。パレードに参加する象や馬の1頭1頭まで、見交わす視線が意味ありげだ。階段の下であくびをする男の口からは、のんびりした稲妻のような墨線が引かれていて、言葉にならない「ふあ~ぁ」という声が聞こえてきそう。現代マンガと同じ表現をするんだなあ。
私は、もっと玄奘の苦難が描かれた絵巻かと思っていたが、そうでもなかった。「西遊記」の(もしくは「西遊妖猿伝」の)相次ぐ危機と苦難のイメージに毒されすぎだろうか。以下はメモ。
巻1=幼少期、旅立ち、石槃陀に馬を貰う
巻2=玉門関、沙漠、高昌国
巻3=高昌国、亀茲国、雪山越え、鉄門、北天竺
巻4=仏跡を拝す、中天竺、河で海賊に遭う
巻5=舎衛国、祇園精舎跡地、鹿野園
巻6=正法蔵に瑜伽論を学ぶ、ナーランダ寺
巻7=戒日王が正法蔵に小乗僧と議論する僧の派遣を求める、玄奘が名乗り出るが延期となる
巻8=玄奘は鳩摩羅王の招請に応じる、戒日王が玄奘と鳩摩羅王を王城に招く
巻9=戒日王の無遮大施
巻10=長安に帰国、経典の翻訳始まる
巻11=唐太宗崩御、翻訳完成
巻12=玄奘の死、葬儀、後日談
苦難と言えるのは、沙漠~雪山越えと巻4の海賊くらい。実は、巻3の後半で、早くも天竺に到着すると、楽しそうな仏跡巡礼が始まる。さすがに玄奘の表情は真剣だが、付き添う従者の僧侶は、無邪気な観光客っぽい。絵巻を見た人々も、インドの観光案内を眺めるような気持ちで、胸をときめかせたのだろうか。
巻8~9は、華やかなパレードと祭典(無遮大施)の描写で、僧侶たちに美麗な袈裟が与えられる図が面白いと思った。戒日王(ハルシャ・ヴァルダナ)が、着ていた衣服を脱いで僧侶に施すシーンは、感動のクライマックスなんだけど、ちょっと笑ってしまった。
このほか、藤田美術館の名宝である奈良朝写経の『大般若経(魚養経)』387巻を一堂に展示。地味だけど、こういうのは、なかなか見る機会がないので好きだ。東博の笈を背負った『玄奘三蔵像』も展示されているが、この夏、流行のレギンスにサンダルみたいな足元に笑ってしまった。
「西遊記への道のり」のセクションでは、玄奘三蔵伝から、私たちのよく知る「西遊記」誕生までを、戯曲や説話の版本と図像で振り返る。このへんは、むかし、中野美代子先生の研究を夢中で読んだ。『安西楡林窟壁画(第2窟 水月観音図)』(薬師寺蔵)は、久しぶりに見る。岩の上の取経僧と並んで、サル顔の行者が描かれているのを、中野美代子先生の本の口絵で見て、ホンモノを(できれば敦煌まで行って壁画を、叶わなければ模写でも)見たいと、どれだけ願ったことか!
法隆寺蔵『五天竺図』は初見だと思う。日本人が描いた最古の世界地図。うう、面白い! いちばん古い甲本は後期展示。いちばん古いと言っても「本図の制作年代については、鎌倉時代前期から江戸時代まで研究者の意見が分かれている」というから、まだ分からないことが多いようだ。大雪山の隣り、蚊取り線香のようにとぐろを巻いた水源は何だろうとか、いろいろと気になる。複製パネルの上に、旅する玄奘のシルエットを映写する演出もよかった。
大阪の藤田美術館が所蔵する国宝絵巻『玄奘三蔵絵』全12巻の全場面を、前後期で公開する展覧会。昨年9月、藤田美術館で、初めて『玄奘三蔵絵』を見て、もっと多様な場面を見たいなあ、と思っていた矢先だったので、すごくうれしい。
見どころは、何といっても鮮やかな色彩。さらに、登場人物が身にまとう衣服は、趣向を凝らした文様に飾られている。動物文あり、草花文あり、星座文(?!)あり。狩野一信の『五百羅漢図』でも、衣服や調度の文様の多様さに驚いたが、あれは決して「空前」ではなかったんだな、と思う。
それから、登場人物の容貌と表情の描き分け。うーん、すごい。よく見ると、隅々の小者までキャラが立っていて、それぞれ「小芝居」をしている。パレードに参加する象や馬の1頭1頭まで、見交わす視線が意味ありげだ。階段の下であくびをする男の口からは、のんびりした稲妻のような墨線が引かれていて、言葉にならない「ふあ~ぁ」という声が聞こえてきそう。現代マンガと同じ表現をするんだなあ。
私は、もっと玄奘の苦難が描かれた絵巻かと思っていたが、そうでもなかった。「西遊記」の(もしくは「西遊妖猿伝」の)相次ぐ危機と苦難のイメージに毒されすぎだろうか。以下はメモ。
巻1=幼少期、旅立ち、石槃陀に馬を貰う
巻2=玉門関、沙漠、高昌国
巻3=高昌国、亀茲国、雪山越え、鉄門、北天竺
巻4=仏跡を拝す、中天竺、河で海賊に遭う
巻5=舎衛国、祇園精舎跡地、鹿野園
巻6=正法蔵に瑜伽論を学ぶ、ナーランダ寺
巻7=戒日王が正法蔵に小乗僧と議論する僧の派遣を求める、玄奘が名乗り出るが延期となる
巻8=玄奘は鳩摩羅王の招請に応じる、戒日王が玄奘と鳩摩羅王を王城に招く
巻9=戒日王の無遮大施
巻10=長安に帰国、経典の翻訳始まる
巻11=唐太宗崩御、翻訳完成
巻12=玄奘の死、葬儀、後日談
苦難と言えるのは、沙漠~雪山越えと巻4の海賊くらい。実は、巻3の後半で、早くも天竺に到着すると、楽しそうな仏跡巡礼が始まる。さすがに玄奘の表情は真剣だが、付き添う従者の僧侶は、無邪気な観光客っぽい。絵巻を見た人々も、インドの観光案内を眺めるような気持ちで、胸をときめかせたのだろうか。
巻8~9は、華やかなパレードと祭典(無遮大施)の描写で、僧侶たちに美麗な袈裟が与えられる図が面白いと思った。戒日王(ハルシャ・ヴァルダナ)が、着ていた衣服を脱いで僧侶に施すシーンは、感動のクライマックスなんだけど、ちょっと笑ってしまった。
このほか、藤田美術館の名宝である奈良朝写経の『大般若経(魚養経)』387巻を一堂に展示。地味だけど、こういうのは、なかなか見る機会がないので好きだ。東博の笈を背負った『玄奘三蔵像』も展示されているが、この夏、流行のレギンスにサンダルみたいな足元に笑ってしまった。
「西遊記への道のり」のセクションでは、玄奘三蔵伝から、私たちのよく知る「西遊記」誕生までを、戯曲や説話の版本と図像で振り返る。このへんは、むかし、中野美代子先生の研究を夢中で読んだ。『安西楡林窟壁画(第2窟 水月観音図)』(薬師寺蔵)は、久しぶりに見る。岩の上の取経僧と並んで、サル顔の行者が描かれているのを、中野美代子先生の本の口絵で見て、ホンモノを(できれば敦煌まで行って壁画を、叶わなければ模写でも)見たいと、どれだけ願ったことか!
法隆寺蔵『五天竺図』は初見だと思う。日本人が描いた最古の世界地図。うう、面白い! いちばん古い甲本は後期展示。いちばん古いと言っても「本図の制作年代については、鎌倉時代前期から江戸時代まで研究者の意見が分かれている」というから、まだ分からないことが多いようだ。大雪山の隣り、蚊取り線香のようにとぐろを巻いた水源は何だろうとか、いろいろと気になる。複製パネルの上に、旅する玄奘のシルエットを映写する演出もよかった。
今回は、全巻展示とのことですが、前半・後半のどちらにしようかまず迷いました。
しかも会期中は仕事が忙しく、結局講演会のある7日に強行日帰りで行ってきました。
(実は、こちらの行きたくなるようなレポートを拝読して悶々としておりました。笑)
私は、大震災以降考えが変わりまして、見たいと思ったものは「いつか見ることができるだろう」ということは、やめようと思っています。本当に人生いつどうなるかわからないですからね。
で、開場とともに入館して、絵巻だけで2時間夢中で見て、昼食を館内でとり、若杉先生の講演を聞いて、仏像を見て4時に出ました。
ほぼ丸1日過ごしたことになります(疲れ果てて帰りの電車内では爆睡…)。
前半を通覧しての感想は、緻密な大和絵本来の美しさが十分堪能できたこと。絵師が言ったこともない西域や天竺の描写に相当苦心したこと(インドに松の描写は苦笑しましたけど)。大作のため一部で単調な構図になった部分があること(今回入滅の場面のあっけなさが一番驚いた!)。などです。後半も行きたいので、これから4時間探しです。
本当に贅沢な至福のひと時を過ごせました。
また、レポートを楽しみにしております。