見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

奈良博『平安古経』、奈良県美『奈良礼讃』、大和文華館『風俗画と物語絵』

2015-05-12 22:23:01 | 行ったもの(美術館・見仏)
○5/3(日)万葉植物園→春日大社・国宝御本殿特別参拝→東大寺→(※ここから)奈良国立博物館→奈良県立美術館→大和文華館→大阪・天王寺泊

奈良国立博物館 特別展『まぼろしの久能寺経に出会う 平安古経展』(2015年4月7日~5月17日)

 日本には、天平・奈良あるいは隋唐の古写経も伝わっているが、あえて「平安古経」に的をしぼった展覧会。優しい文字、繊細な美意識。財と労力を傾けて、限りなく美しい経典を作り出す行為に込められた真摯な信仰に打たれる。見どころの『久能寺経』は、静岡県の久能寺(現在は鉄舟寺)に伝わった法華経の装飾経。鳥羽法皇や皇后の待賢門院(璋子)、女御(美福門院得子)、その側近等が結縁して作られたもの。26巻が現存する。本展には、鉄舟寺蔵2巻、五島美術館蔵2巻、東博蔵2巻、さらに名品として名高い「個人蔵」4巻が展示されている。ただし五島美術館蔵と個人蔵の巻は展示替えあり。「個人」って誰なのかなあ、業界に詳しい人たちは知ってるんだろうな…と、つい下世話なことが気になる。

 各巻の末尾には結縁者が後筆で書き入れられている。展示品ではないが、結縁者の一覧に信西入道(藤原通憲)の名があったことに興味を持ち、図録を買って、解説を読んだ。西行、俊成、白河院、崇徳院など、この時代のオールスターが入り乱れて登場する解説で、非常に面白かった。ひとつ書き留めておくと、久能寺経の結縁者には平実親の一族が多く(説明をはしょると)平実親の近縁には清盛の室となった徳子がいる。のちの平家納経は久能寺経の先例にならったものと見られている。あるいは清盛は知己の間柄であった西行から久能寺経の情報を得た可能性もある。以上、梶谷亮治氏の解説から。

 参考文献にあがっていたマイケル・ジャメンツ氏の「信西一門の真俗ネットワークと院政期絵画制作」という論文を読みたいと思い、駄目もとで検索してみたら、奈良国立博物館紀要「鹿園雑集」10号に発表されたもので、全文PDFファイルが公開されていた。うわーオープンアクセス万歳! 展示図録は図版もよい。ページをめくるたびに、ため息が出る美しさ。展示室で見た現物より見やすいものもある。

奈良県立美術館 特別展『奈良礼讃』(2015年4月11日~5月24日)

 天心、フェノロサによる奈良での文化財の再発見を起点に、狩野芳崖や横山大観らによる奈良の歴史や文化財に着想を得た日本画、彫刻、美術工芸品を集めた展覧会。日本画の名品をいろいろ見られて嬉しかったが、いちばん興味深かったのは、岡倉天心関連資料である。茨城大学から出陳されているものが多かった。実は、茨城県北茨城市にある天心遺跡(旧天心邸・六角堂・長屋門)は、横山大観からの申し出によって茨城大学に寄贈され、茨城大学五浦美術文化研究所として管理されている。東京芸大は悔しいだろうなあ…。

大和文華館 特別企画展『風俗画と物語絵』(2015年4月3日~5月10日)

 久しぶりの大和文華館。桃山~江戸時代前期の風俗画が楽しかった。最も早い時期の『阿国歌舞伎草紙』(桃山時代)。ゆったりした時間の流れを感じる『輪舞図屏風』。あと、何と言っても空前絶後の『婦女遊楽図屏風(松浦屏風)』が素晴らしい。類似の作品を描く追随者が出なかったのは何故かなあ、と不思議に思う。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする