見もの・読みもの日記

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サソリ女の章・石人原の章/西遊妖猿伝・西域篇(5)(諸星大二郎)

2014-04-13 22:43:57 | 読んだもの(書籍)
○諸星大二郎『西遊妖猿伝・西域篇』5 講談社 2014.3

 実は著者の別の本を探しに行って、青年コミックの棚をきょろきょろしていたら本書を見つけた。もう~待たせすぎだろう、第4巻から1年7ヶ月ぶりである。気が急いて、あわただしくページを開いたが、例によって前巻のストーリーを忘れている。ん? サソリ女が突っ込んでいく先に待っているのはソグド兵。悟空を相手にしていたのではなかったっけ。玄奘と沙悟浄が同じ屋敷内にいるのは何故だったかな?という具合。前巻までを復習(読み直し)してから、読み始めればいいものだが、引っ越し以前の蔵書は全て段ボール箱の中なので、見つけ出すには少々手間がかかるのである。

 しかし、最新巻を何度か読み返しているうちに、いくらか記憶が戻ってきた。鄯善人とソグド人の武力衝突のどさくさに紛れて、玄奘一行は伊吾城を後にする。ソグド人傭兵隊長のヴァンダカに傷を負わされ、悟空との戦いで消耗したサソリ女は、羊力大仙に保護されて養生する。西に向かう玄奘一行は、灼熱の天山南路を避け、天山北路を選びかけるが、高昌国王の使者だというソグド人の安吐窟(トルークシュ)が追いかけてきて(久々の登場!)、高昌国に立ち寄るよう懇願する。

 謎の少女アマルカも再登場。「斉天大聖」への興味が抑えられず、悟空を挑発し、怒らせて、その姿を見ようと試みる。羊力大仙が、アマルカの軽率を諫めながら語る言葉が興味深い。「人間というものはその環境でずいぶん違うものになる」「妖魔の類も同じじゃ その世界の人間たちの考え方やあり方に左右されるものじゃ」「魔も人間たちがいるからこそ生まれ 人間たちとの関わりの中で 強大になったり弱くなったりするからの…」。そして、悟空の中に潜む「斉天大聖」が、アエーシェマ(ゾロアスター教の「狂暴」の悪神)の属性と同時に、スラオシャ(ゾロアスター教の「忠直」の善神)の属性を持つことを垣間見て、いぶかる。「あるいは、これはあの孫悟空という容れ物に…?」

 散らかった謎のうち、ひとつ解決を見たのは、4巻で正確無比な射撃(弓)で悟空をおびやかした射手の正体。「遠矢のリシュカ」と呼ばれる、気の強いキルク族の女性イリューシカで、カマルトゥブの姉だった。あわや殺し合いになりかけた悟空とイリューシカを引き分けたのは、突厥の若者イリク。大唐篇の後半(河西回廊篇)に登場したというが、覚えていない…。検索をかけたら「悟空に命を助けられ恩に着ている。紅孩児と顔なじみでもある」と。うーん、紅孩児は印象鮮烈なのだが。

 終盤には、予言を商売とする呪術師、鹿力大仙も登場。東突厥と西突厥の間で居場所を失ったキルク族の滅亡を予言する。「石人原」というのは、キルク族と突厥の衝突が予想される土地の名。突厥の古い石人像(石碑)がたくさん建っているという。「突厥の石人像」ってどこかで見たなあ、と思って、自分のブログを調べたら、橿原考古学研究所附属博物館の『大唐皇帝陵展』で、唐・昭陵(李世民墓)の神道に建てられた「五条の弁髪を垂らした突厥人の石像」を見ていた。むしろ「突厥 石人」で画像検索すると、興味深い写真がいろいろ出てくる。円空仏みたいな味わい。

 それから「キルク族」が分からなくて、いろいろ調べてみたのだが、「キルギス人」のことと考えていいのだろうか。Wiki「キルギス」の説明には、クルグズ(キルギス)の語源は「кырк(クィールク)」が40の意味で、40の民族を指し、また中国人にかつて「гунны(グンヌィ、匈奴)」と呼ばれていた背景から、それらを合わせてクルグズとなったと言われている。(中略)40を意味する「クゥルク」に、娘や女の子を意味する「クゥズ」をあわせた「クゥルク・クゥズ」は、“40人の娘”という意味になり、中央アジアに広く伝えられるアマゾネス伝承との関連をうかがわせる、とある。「アマゾネス伝承」というのは、よく分からないが、イリューシカの造形に影響しているのだろうか。西域編は、大唐編ほど元ネタがすぐに分からないので、調べながら読み進むのが楽しい。
コメント
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