見もの・読みもの日記

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贅沢な空間演出/新春の国宝那智瀧図(根津美術館)

2013-01-26 21:46:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『新春の国宝那智瀧図-仏教説話画の名品とともに-』(2013年1月9日~2月11日)

 折りしも「大寒」の東京は、先週末の雪がまだたっぷり消え残っていた。根津美術館のアプローチに雪が積もった風景は、初めて見たが、なかなか素敵だ。



 新春を寿ぐコレクション展は、中世仏教説話画の名品とともに、国宝『那智瀧図』が登場。2009年秋の同館新創記念特別展以来の公開だと思う。うれしい。

 冒頭は『絵過去現在因果経』(鎌倉時代)。かなり長めに開いているので、物語の筋を絵で追うことができる。8巻本の4巻目にあたり、釈迦の出家を描いた巻だそうだ。釈迦(太子)は白服・角髪(みずら)姿で登場。愛馬カンタカをはじめ、馬の描写がかわいい。途中に剃髪する太子の図があるのだが、その後も角髪姿で登場し続けているように思う。後半に、野人のような仙人が三人組で登場し、だんだん増えていく。ドワーフみたいで、これもかわいい。

 「南都眉間寺」の墨書を持つ『羅漢図』2幅(鎌倉時代)は、かなり変わっていると思った。丸顔・太りじしの羅漢たちが、ほとんど余白なく、画面いっぱいに描かれている。調べたら、大和文華館にも同一セットの作品が3幅あって、1999年に展示公開されている。(季刊「美のたより」No.129/PDFファイル)。

 色彩の美しい明兆筆『羅漢図』2幅(南北朝時代)は、安定の定番図様。50幅セットで、うち45幅が東福寺、2幅が根津美術館にあるそうだ。画中に「東福寺」の墨書(印?)あり。右側の画幅の右下隅に落款みたいな文字があったけど読めなかった。

 『天狗草紙絵巻』は、評定の場に集まった天狗たち(仏教の諸派を代表)の名前を面白く眺める。『矢田地蔵縁起絵巻』は、地獄の鬼たちに愛嬌があってかわいい。絵師がいい人だったのかなーと思ったりする。9/11、10/9、11/19など、この日に参詣すると特別のご利益がある地蔵縁日が記されているが、12/24に参詣すると「往生確定」だそうだ。知らなかった!クリスマスイブを祝っている場合じゃないぞ。

 『融通念仏縁起絵巻』は、勧進僧の良鎮が大量に制作した肉筆諸本の一だそうで、真面目に描いているが下手。建物がゆがんでいるし、阿弥陀来迎の聖衆ダンスも変。そこが味わいでもある。それに比べると、『高野大師行状図画』は巧いなーと思う。特に「神泉祈雨事」の条、立ち起こる風を紙垂(しで)のなびき方で表現していたり、画面の縦幅いっぱいに広がった青い水面が波立ち、金色の小蛇を乗せた大蛇(善女竜王)が現れた場面は、美しくて感動した。

 それにしても、第1室に肝腎の『那智瀧図』がないので、あれっ?と思いながら見て進んだ。第2室で驚愕。今回は、この一室をまるごと『那智瀧図』だけの展示に使っているのである。初の試みじゃないだろうか。東博の国宝室みたいだ。邪念なく作品と向き合うことができて、素晴らしい演出だと思った。滝の周囲の岩壁や樹林に、点々と青い飛沫だか水苔だかが流れ下るように散っていて、視線の向きを上下に誘うので、本当に水流が動いているように感じられた。そして、非常に敬虔な気持ちが湧いてきて、画幅の前に礼拝具があっても違和感がないような気がした。『那智瀧図』ファンの皆さんには、ぜひこの贅沢な空間演出を味わってほしい。

 いま根津美術館のトップページでは、『那智瀧図』部分の超拡大図が提供されているが、山上の紅葉がとてもきれいだ。気になるのは右肩に顔を出している「月輪」で、私はどうしても「日輪」に見えてしまう。たぶん熊野→八咫烏→太陽の連想があるためだろう(※以前の記事『春日の風景』)。

 3階、展示室5は「吉祥文様のやきもの」。日本・中国・朝鮮のやきものが並んでいたが、やっぱり「吉祥」という言葉がふさわしいのは中国陶磁である。展示室6は「寿ぎの茶会」。めでたさを表現するには、あまり個性を主張せず、伝統や格式にのっとった安心のデザインが一番。そんな取り合わせだった。
コメント
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