見もの・読みもの日記

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諸行無常、はじまる/国宝 十二天像と密教法会の世界+方丈記(京都国立博物館)

2013-01-16 23:41:48 | 行ったもの(美術館・見仏)
京都国立博物館 特別展観『国宝 十二天像と密教法会の世界』+同時開催『成立800年記念 方丈記』(2013年1月8日~2月11日)

 京博の「十二天像」は私の大好きな作品である。はじめて見たのは、1998年の『王朝の仏画と儀礼』展だったのではないかと思う。その後も京博の平常展示で、ときどき見かけると嬉しかった。2005年には、新春特集陳列で、全12作品が揃って出ていたみたいだ。この12点だけで「特別展にしても惜しくない!」と、常々思っていたので、今回の特別展観は、我が意を得たような気がする。

 私は、日天や月天の右手の侍者の円座が、不安定に少し傾いでいるところが好きだ。どっしり座っているのに、天衣が吹き上がるように靡いている尊像もあって、全身がふわりと中空に浮いている(あるいは漂っている)感じがする。

 この図像が、東寺の後七日御修法(みしほ)(→遭遇したことあり)に用いられたものであることは、なんとなく聞きかじっていたけれど、本展で、その歴史を詳しく知ることができたのはよかった。大治2年(1127)東寺宝蔵は火災に遭い、それまで使用していた絵画を焼失したため、新調が企てられた。はじめ、宇治の平等院に所蔵されていた弘法大師御筆様に従って新調されたが、鳥羽院が「疎荒」と批判し、仁和寺円堂後壁画に基づいて新写したのが本図(大治乙本)であるという。図録の解説を読むと、鳥羽院が前者(甲本)を非難した背景には、政治的意図(摂関家との対立)があったようで、とっても面白い。

 「後七日御修法」が、もとは宮中におかれた真言院という道場で行なわれていたこと、大内裏が廃絶して荒野になっても真言院は旧地に再現され続けたこと、中断を繰り返し、明治以降は東寺灌頂院で行なわれるようになったことも初めて知った。 

 前日の徳川美術館に続いて、再び『年中行事絵巻(模本)』に遭遇! 京大文学研究科図書館からの出陳である。「大極殿御斎会」と「真言院御修法」の場面なので、まさに進行中の行事は謹厳に描かれているが、殿舎の周りには、打ち解けた表情の人々が集っている。後白河=信西の朝儀復興政策と関連があるとか、住吉家模本とは別系統とか、これも図録の解説が面白い。見間違いでなければ「宮崎文庫」という印があったと思う。

 さらに西大寺の(より古い/9世紀後半)十二天像から「火天」「帝釈天」「閻魔天」。これはまた、画面いっぱいに描かれた尊像の、のびのびした迫力が気持ちいい。帝釈天を乗せた三日月眼の白象、閻魔天を載せた牛はすぐ分かったが、火天を載せている動物が、はじめ分からなかった。醍醐寺の『十天形像』を見て、そうか羊か、と気づく。

 中央ホールでは、灌頂の儀式に使われた屏風を特集。正月に東博で神護寺蔵『山水屏風』を見たこともあって、興味深かった。京博の『山水屏風』は、現存最古、王朝時代(11世紀)の調度品なんだ。すご~い。古い山水屏風は、描かれている人物が唐風である。

 神護寺の『十二天屏風』は尊像を立像形式で描いたもの。解説に「西瓜等の唐様の文様が見える」とあって、スイカ?!と思って探したら、確かに、右隻の人頭杖を持った尊像(閻魔天?)の腰布がスイカ柄だった。奈良博の『十二天屏風』は、類例が少ない画像で面白かった。意味ありげに身体をひねったりせず、楽なポーズで突っ立っている。でも手足が大きくて、肉感的。

 このほか、株式会社虎屋(!)から初公開の『弘法大師像』(小さく描かれた嵯峨天皇)、妙に人間臭い表情をした個人蔵(?)の『求聞持虚空蔵菩薩像』も印象的だった。

 最後の2室が『方丈記』展。建暦2年(1212)の成立から、平成24年(2012)に成立800年を迎えたことを記念し、最古の写本(自筆という伝承もあり)「大福光寺本」を公開。へえー巻子本なんだ、と驚く。そして、小さい字でびっしり書いてあるせいもあるけど、全文広げて公開できるくらいの短編作品であること、その密度の濃さをあらためて思う。にしても、なぜ丹波の大福光寺なる寺院に最古本が伝わったのだろう…。

 関連史跡をパネルで紹介するコーナーの床に白いテープで「1丈×1丈」をマーキングしてあったのだが、話題にする人があまりいないのは残念だった。さすがに狭い。家というよりキャンピングカー生活だなあ、と思う。関連展示は、同時代の字片仮名交じり文の書跡など。私は、同じ作者の『無明抄』や『発心集』断簡が見られたのが嬉しかった。

 なお、「諸行無常、はじまる」は、昨年の大河ドラマ『平清盛』の後半のキャッチコピーで、まさにそんな時代の美術と文学作品が集まった展覧会、大満足だった。
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