見もの・読みもの日記

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東北の霊気/平泉 みちのくの浄土(世田谷美術館)

2009-03-17 23:48:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
世田谷美術館 特別展『平泉~みちのくの浄土~』展(2009年3月14日~4月19日)

 「世界遺産登録をめざして」をキャッチコピーに、奥州平泉ゆかりの名宝や歴史資料などを紹介する展覧会。最初の展示室には、中尊寺金色堂内「西北壇」の仏像11体が、堂内の配置そのままに公開されている。床とか柱とか天蓋とか、全てが金色に輝く金色堂内部と違って、仏像だけ取り出されると、あまり感慨が湧かないものだな、と思った。平安後期の作だというが、時代性がよく分からない。二天(増長天・持国天)の袖の先のくるりと跳ね上がったところが、東北っぽい(類例を思い出す)。

 浄土つながり(?)ということで、京都・清涼寺や和歌山・西禅院の当麻曼荼羅図(建築の描き方が面白い)を見て、第2室を覗くと、長方形の広い室内の壁沿いにぐるりと仏像が並び、思わずたじろぐ。え、平泉に、こんなおびただしい仏像が?!と思ったが、違った。手前には、岩手県二戸の天台寺(寂聴さんの法話で有名)からおいでの吉祥天、聖観音、如来立像。その奥に、東博の常設展示で時々お見かけする福島県会津・勝常寺の四天王像(邪鬼が小太り)。そして、懐かしさに思わず駆け寄ってしまったのは、岩手・立花毘沙門堂の四天王。くるりと跳ね上げた両袖が、歓喜に躍っているように見える。いやいや、まさかこの像に東京で再会できようとは!

 確か2002年の夏だったと思う、友人2人と東北見仏ツアーを敢行して、これらの仏像を訪ね歩いたことがあるのだ。このほか、黒石寺も成島毘沙門堂も、藤里毘沙門堂も行った。誰も運転免許を持っていなくて、タクシーに頼るしかなかったこと、そのタクシーが道に迷って草深い山中で立ち往生したこと、黒石寺では女性のご住職さんにご案内いただいたことなど、さまざまな記憶がよみがえった。

 東北の仏像は、都ぶりの優雅や洗練とは遠いが、神とも仏ともつかない、独特の霊気が満ちている。その霊気(アウラ)に押されたのか、どの観客もシンと押し黙っていたのが印象的だった。今回、初見だったのは、岩手・永泉寺の聖観音菩薩立像。赤い唇、腰高のプロポーション、鄙にはまれな、コケティッシュな美人観音である。岩手・松川二十五菩薩堂からは8体の菩薩像残欠が、あたかも完全な菩薩像であるかのように丁寧に展示されていた。胸から下、あるいは腰から下だけのトルソーであるが、じっと眺めていると、失われた上半身や頭部が白い壁に浮かんでくるように思えた。

 ほかに面白かったのは中尊寺経。Wikiにいうように、初代清衡の発願になる『紺紙金銀交写経』と秀衡発願の『紺紙金字経』がある。このうち、秀衡経が特異なのは、日本の経典の見返し絵は大半が「仏説法図」なのに、これは「経意絵」(経文の内容を表したもの)が多いそうだ。なるほど、なんだか坊主が踊り狂っていたり、地獄の責め苦の図だったりして面白い。あと、秀衡経の底本として明州(寧波)から請来された宋版一切経が伝わっているのも、しみじみと興味深く思った。『伝安倍貞任着用金銅前立』も勇壮で印象的だった(実用にしたとは思えないけど)。伊達正宗の三日月の前立に似ていなくもない。

 最後にもう一度仏像の話に戻ると、先日、大相撲の朝青龍と白鵬が四天王像のモデルになったという記事を読んだ。私は黒石寺の四天王像を見ていると、力強さと愛嬌が、朝青龍に似ているような気がする。

■日刊スポーツ:朝青龍超ご機嫌で仏像「多聞天」モデル(2009年3月6日)
http://www.nikkansports.co.jp/sports/sumo/news/p-sp-tp3-20090306-467924.html

■inoue's website 神と仏の世界
http://www.bken.or.jp/inoue/
東北の仏像の写真は「portfolio」から。

 追伸。出品目録を見たら、東京展では「出品されません」がけっこうある。最近、こういうのが多くてちょっと悔しい。
コメント (2)
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