見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

金地屏風に囲まれて/静嘉堂文庫美術館

2006-05-17 22:02:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
○静嘉堂文庫美術館 『国宝 関屋澪標図屏風と琳派の美』

http://www.seikado.or.jp/

 日曜日、久しぶりに遠出をするか、この展覧会の最終日を見に行くか、迷った末に後者に決めた。展示室に入って、ほっと息をついた。正面に大きな六曲一双の『関屋澪標図屏風』。その隣も光琳の『紅白梅図屏風』『桜鹿・紅葉鶴図屏風』と続き、展示室全体が金色に照り映えているのである。しかし、屏風の金色は、メタリックな金とは明らかに違う。なるほど、金地屏風や障壁画というのは、暗い日本家屋に、品のよさと優しいぬくもりを加えるものだったのだな、ということを実感する。

 今展の見ものである『関屋澪標図屏風』。こんなにいいとは思わなかった。大きな画面に少ない色で描かれた作品である。山・海・橋などの景物は大胆にデザイン化されている。人物は小さくて、広い箱庭に置かれたフィギュアみたいに頼りない。しかも、源氏をはじめとする主要人物は、全て車や船によって暗示されているだけで、表に出てこない。「主人公の不在」が、画面に茫漠としたムード(日本人好みの情趣)を与えているように思う。

 というようなことを考えながら、壁の解説を読んでみた。この屏風の特徴として、まず、金雲が一切使われていないことが挙げられている。なるほどね。にもかかわらず、主人公の姿が画面のどこにも見えない、というのが、ポイントなのではないかしら。

 それから、人物の大部分と景物の一部は、古い絵巻物を典拠としているという指摘。これは、いちいち具体例が示されていた。すごいなあ~。日本の絵画が、このように先行作品を利用していることは、私も気づいていたけれど、文字資料と違って索引が作れないから、結局、記憶をたよりに探していかなければ、典拠は発見できない。よくこれだけ見つけたなあ、と思った。

 また、この『関屋澪標図屏風』は、どちらが右隻・左隻か、分かっていないので、前期と後期で、並べ方を変えてみたそうだ。なかなか面白い試みである。うーむ。私はパネルで見る限り、後期の並べ方(左:澪標-右:関屋)のほうがいいと思う。「源氏物語」の進行では、第14 帖「澪標」→第16帖「関屋」だから、逆ですね。

 後半は、酒井抱一、鈴木其一らの彩色画に、茶道具・蒔絵なども展示されていた。圧巻だったのは、酒井抱一の『波図屏風』。銀地に墨筆で波を描いたもの。彩色は、わずかに波頭に胡粉(白絵具)、全体に淡い緑青が塗られているだけである。触れば掌が張り付きそうな、ひやりとした金属的な触感がある。

 このあと、最初に戻って、好きな『平治物語絵巻・信西巻』をじっくり見たが、それはまた別稿にて。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする