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見もの・読みもの日記

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法の正義を求めて/中華ドラマ『沈黙的真相』

2021-01-07 23:07:01 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『沈黙的真相』全12集(愛奇藝、2020)

 レビューサイト「豆瓣」で2020年中国ドラマ2位にランクインした人気作。お試しで見てみたら面白くて、年末年始でイッキに視聴してしまった。

 2010年、江潭市(杭州市がモデル)の地下鉄の駅に大きなキャリーバッグを引きずりながら現れた中年男が「これは爆弾だ!」と騒ぎ出す。男は警察に確保され、バッグの中からは、爆弾ではなく、若い男性の絞殺死体が発見された。中年男は、もと大学教授で現在は弁護士の張超。遺体で見つかった男性は、教え子の江陽と判明した。自分が江陽を殺したと認めていた張超は、裁判で供述を覆し、犯人は他にいると主張する。

 同じ頃、江潭晩報(新聞)の女性記者・張暁倩のもとに写真の断片が届く。匿名の投書には、これから24日以内に送る9枚の断片を組み合わせて1枚の写真にすれば「江陽を殺した真犯人が分かる」とあった。江潭晩報は、写真の断片を受け取るたびに第一面に掲載しなければならない。そうしなければ市内で大爆発が起きて多数の死傷者が出るだろう。投書はそう予告していた。

 この事件を担当することになった江潭市の警官チームは、江陽が平康県の検察官だった当時、大学の同級生だった李静に頼まれて、ある事件にかかわったことを知る。

 発端は2000年。李静の恋人の侯貴平は、平康県の苗高郷中学に支援教員として派遣された。理想に燃える侯貴平は、子どもたちだけでなく、村の縫製工場で働いている若い女性たちにも学習の機会を提供することにした。やがて侯貴平は、女工たちが性被害に遭っていることを知り、証拠を捉えて告発しようとするが、逆に婦女強姦の罪を被せられ、溺死体となって発見される。侯貴平の死は自殺として処理された。

 2003年、平康県の検察官となった江陽は、李静の頼みに動かされ、検死医の陳明章、警官の朱偉とともに侯貴平事件の再調査を開始する。しかしチンピラの所業と思われた事件の背後には、公安局の大隊長や江潭市のトップ企業の経営者など、高い社会的地位と権力の持ち主たちが絡んでいることが判明する。やっと掴んだ手がかりや証言者は次々に抹殺され、気がつけば江陽は、恋人も、家族も、検察官の地位も失い、さらに収賄罪を着せられて、刑務所を出たのは2009年のことだった。獄中で覚えた携帯電話の修理技術で細々と暮らし始めた江陽は、ようやく侯貴平事件の真相に迫る証拠写真を手に入れる。

 しかし江陽の身体は癌に犯され、余命6ヶ月と告げられていた。以下が本格的【ネタバレ】。告発を絶対に成功させるには、この事件に対する社会の関心を強く喚起しなければならない。江陽、陳明章、朱偉、そして江陽の恩師である張超、もと侯貴平の恋人で今は張超の妻となっている李静、さらに平康県で性被害に遭っていた女工の李雪。彼らは張超のシナリオに沿って、奇想天外な計画を実行に移す。江陽は自ら命を断つことによって、社会の不正を訴えたのだ。その告発は成果を収めた。張超、陳明章、朱偉は偽証罪などの罪に問われたが、7年後、刑期を終えた彼らは江陽の墓の前に集う。全ては終わった。

 前半は、2000年、2003年、2010年の3つのドラマが同時に進行していく描き方がスリリングで面白かった。2003年の登場人物がドアを開けると2010年の登場人物が顔を出すとか、かなり込み入った作劇なのに、不思議と混乱しないのである。

 はじめは貧しい農村の小さな性被害事件だと思ったのが、大きな社会不正(政界と財界と公安の権力がつるんでいる)の告発につながっていくのは、中国ドラマらしい展開だと思った。それと、日本なら巨悪に立ち向かうヒーローは一匹狼タイプが好まれると思う。このドラマでは、江陽、陳明章、朱偉という、年齢も性格も異なる3人の男たちが、7年にわたって固い結束(友情?)を保ち続ける。最後は、張超、李静らも加わり、みんなで(警察さえも欺き)社会不正と戦うのだ。ドラマ『摩天大楼』でも思ったが、この熱く濃密な人間関係こそ中国文化なのではないかと思う。

 江陽役の白宇は、明るい未来を信じる青年検察官として颯爽と登場するが、数々の辛酸を舐め、最後は何もかも剥奪された人間の哀しさをにじませ、法の正義を希求して殉教者のように死んでいく。ジェットコースターのような変化をきちんと演じ分けていて見事だった。警察官の厳良(廖凡)、女性隊長の任玥婷(呂暁霖)もキャラの肉付けがしっかりしていてよかった。

 中国語Wikiには、ドラマと原作小説『長夜難明』の違いについて、原作では性被害を受けたのは幼女であるとか、原作では最大の黒幕は周永康(汚職で失脚した政治家)であることが暗示されているとか、気になる記述がある。ドラマもよいが、現代中国の社会派ミステリー、もっと翻訳で読みたい。

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一千年の友情/中華ドラマ『棋魂』

2020-12-24 23:55:05 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『棋魂』全36集(愛奇藝、2020)

 10月27日にネットで配信が開始されてすぐ、中国でも日本の原作ファンの間でも大好評の噂が流れてきたので見てみた。そうしたら本当に素晴らしい作品で、ちょっとまだ語る言葉に困っている。

 原作は1999年から2003年まで「少年ジャンプ」に連載されたマンガ『ヒカルの碁』で、2001年にはテレビアニメにもなった。マンガは香港・台湾・中国でも出版され、アニメ版も広くアジア圏で人気になったようである。しかし私は、これまで原作にもアニメにも触れたことがなく、囲碁の面白さもよく分からないので、大丈夫かな?と心配したが、あっという間にドラマの魅力に巻き込まれた。

 1997年、9歳の時光は、おじいちゃんの家で古い碁盤を見つける。このとき、格澤曜日(超新星爆発)の閃光がきらめき、時光の前に白い衣をまとった貴人が現れる。彼は南梁の囲棋(囲碁)の第一人・褚嬴と名乗る。梁武帝の碁の指南役であったが陰謀に嵌められ、命を断とうとして異空間に迷い込んだのである。清の康熙帝の時代に一度この世に現れ、天才棋士・白子虬を指導したが、白子虬の死後は、再び異空間をさまよっていたのだ。褚嬴の姿は時光にしか見えず、褚嬴はこの世の物体に触ったり、動かしたりすることができない。

 やんちゃだが、気のやさしい時光は、囲碁が打ちたいという褚嬴を囲碁教室に連れて行き、同じ年頃の少年・俞亮に相手を頼む。褚嬴の指示のとおりに石を置いた時光は、当然、勝ちをおさめるが、プロ棋士を父に持ち、天才少年を自負していた俞亮は愕然とする。その後も褚嬴は、なんとか時光に囲碁を学ばせようと画策するが、褚嬴の求める「神の一手」が、一生かけても見つからないものだと聞いて、時光は断然囲碁を止める決意をする。時光に「お前なんか嫌いだ!」と言われて姿を消した褚嬴。

 6年後、15歳(中学三年生)になった時光は、幼なじみの友人を助けるため、将棋部の部長と囲碁で勝負することになる。その勝負の最中に時光のもとに降臨する褚嬴。ここから時光は次第に囲碁の面白さに目覚めていく。翌年、高校に進学し、仲間たちと囲碁部(囲棋社)「四剣客」を設立。本物の囲碁が打てない褚嬴のため、対戦型のネット囲碁に「褚嬴」の名で登録し、連戦連勝して囲碁ファンを騒然とさせる。腕を磨きたい時光は囲碁教室の夏期合宿に参加。さらに高校を中退して、プロ棋士の育成道場に入学する。

 時光が少しずつステップアップするたび、個性的で魅力的な友人が次々に現れる。派手なルックスの何嘉嘉(のちに美容師になる)、ちょっと斜に構えた谷雨。ともにプロ棋士を目指す洪河と沈一朗。ある者は自分の囲碁の実力をわきまえて、囲碁を止めて大学受験に臨む。ある者は高い能力を持ちながら、父親の介護のためプロ棋士をあきらめる。現実味のあるエピソードばかりで胸に応えた。若者たちを見守る囲碁道場の教師たち(板老師と大老師)、時光のお母さんとか白潇潇など、数少ない女性の描き方もよい。憎まれ役の岳智も憎めなかった。

 そして時光のそばにはいつも褚嬴がいて、俞亮がいた。俞亮は「神童」の面影を失った時光に失望しながら、諦めずに彼を追いかけてくる時光の存在を気にし続ける。時光が褚嬴に見守られ(視線が母性的なのだ)仲間たちともみくちゃになりながら才能を伸ばしていくのに対して、俞亮は孤独に戦い続ける。唯一の癒しは、師兄の方緒。

 プロ棋士となった時光は、ついに俞亮の父・俞暁陽名人と対戦の機会を得る。果敢に戦った時光の実力を認めた俞暁陽は「僕の友人と対局してほしい」という願いを聞き入れ、ネットで褚嬴と対局する。褚嬴の勝利。しかし「神の一手」は見つからなかったという褚嬴に、時光は俞暁陽が勝っていたかもしれない一手を指摘する。勝負を離れた者だからこそ見出すことのできる「一手」に褚嬴は満足する。このドラマでは、少年たちだけでなく褚嬴も成長し変化していく存在である。時光との交流を通して、人生には囲碁以上に大切なものがあることに気づくのだ。

 2005年の端午節、再び超新星爆発の到来が予測されていた。褚嬴は最後の一日を自分の誕生日と偽って、時光と思い出の地をめぐり、楽しく遊び暮らす。そして疲れた時光が眠りについたあと、褚嬴は静かに姿を消す。このときの独白が素晴らしくいいのだが、あれを時光に聞かせてあげないのはズルいと思う。これが第32回。

 そのあと、時光は碁を打てなくなってしまう。この絶大な喪失感の描写もよい。洪河が、谷雨が、沈一朗が、時光を立ち直らせようとするのだが全く効き目がない。結局、時光は自分で碁盤に向かって、そこに褚嬴がいることを実感し、深い谷底から戻ってくる。その手を引いて走り始めるのが俞亮。最終話は、時光と俞亮のイチャイチャにニヤニヤしながら幸せな気分で終わる。遠い空の上から二人を見守っているであろう褚嬴の存在も感じながら。

 このドラマ、知っていた俳優さんは時光役の胡先煦くんと谷雨役の紀李くんだけだが、みんな大好きになった(特に若手男優陣!)。俞亮役の郝富申くんは、三枚目の役もできる子で、ちょっと高橋一生に似ていると思っている。褚嬴役の張超氏は絵に描いたような、いや名画から生まれたような美形なのに、素はボンヤリしたところが可愛い。低音砲と言われる声も好き。ぜひ古装劇に出てほしい。

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まだ終わらない物語/中華ドラマ『将夜2』

2020-12-06 20:21:49 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『将夜2』全43集(騰訊視頻、2020)

 2018年に制作・放映されたファンタジー古装劇『将夜』の第2季。第1季を今年の夏に見て、面白いところもあるけど、なんだか煮え切らない終わり方だったので、続きを見てみた。主人公の青年・寧缺は、幼い頃に両親を失い、拾い子の桑桑とともに育つ。唐国王や公主・李漁の知遇を得、書院に入学して戦闘能力を磨き、ついに両親の敵である夏侯を倒すまでが第1季。

 第2季。第1季では寧缺が、この世に永遠の夜をもたらす「冥王之子」ではないかと疑われていたが、実は桑桑こそ「冥王之女(むすめ)」であったことが明らかになる。冥王とは天(昊天光明)と一体であり、人間の文明が隆盛を誇ると、天は人間の勢いを削ぐために不毛の長夜を下すことを喝破した書院の主・夫子は、桑桑と戦って相討ちとなり、姿を消す。残された弟子たちは夜空の月を見て夫子を懐かしむ。(このへんの妙に哲学的な設定が、子供向けの戦隊ドラマみたいな安っぽい画面で語られる違和感が、面白いといえば面白い)

 夫子とともに姿を消した桑桑は、天界でもうひとりの自分「天女」と出会う。西陵国で天女と出会った寧缺は、彼女こそ桑桑と信じて一緒に帰ろうと口説くが、天女は冷たく拒絶するばかり。最終回の中盤までこの調子で、これどう結末をつけるんだろう?と思っていたら、突然、天女が桑桑の記憶を思い出して、寧缺に従うことであわただしいハッピーエンド。真面目に見ているとガッカリするドラマなので、万事鷹揚な気持ちで受け入れるのがよい。

 しかし唐国王の死後の政変は生臭くて面白かった。公主・李漁は実弟を皇位につけるも、暗愚な新王は西陵国の侵攻になすすべもなく、前王后と幼い太子を連れて帰還した寧缺の剣によって葬り去られる。皇太子の即位を見届けて自害する前王后。公主は恩讐を捨てて幼い弟王を補佐することを決意する。

 あと第1季では何のためにいるのか分からなかった書院の兄弟子・姉弟子たちが、西陵国と戦う姿が見られたのもよかった。三師姐は、皇后と同じ魔宗の出身だったことが判明する。敵にも味方にも、強大な超能力を備えた達人が次々に登場する(少年マンガみたい)のだが、中でも最強だったのが知守観主の陳某。『琅琊榜之風起長林』の墨淄侯を演じた成泰燊さんが演じていて、たたずまいに説得力がある。

 第1季と第2季では、主人公・寧缺役が陳飛宇から王鶴棣に交替。そんなのありかと思ったが、意外と違和感がなかった。中国ドラマでは、こういう続編のつくりかたはよくあるのだろうか。唐国王家の人々は第1季のほうがよかったなあ。特に善悪を定めがたい複雑な役柄の公主は、第1季の童瑶で見たかった。西陵国の人々、葉紅魚は雰囲気が変わり過ぎてとまどったが、第2季の女優さんはキリッとした大人っぽい雰囲気でだんだん好きになった。劉珂君さん、覚えておきたい。第1季ではずっと仮面を被っていた掌教大人は、第2季では余皑磊が演じており、にじみでる小者らしさが大変よかった。

 しかし全然まとまりのつかない終わり方だったが、原作はどうなっているのだろう? ドラマは第3季もつくるのだろうか。

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忘れ得ぬ日々/中華ドラマ『在一起』

2020-10-16 22:19:20 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『在一起』全20集(上海広播電視台等、2020)

 新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大に遭遇した中国の、さまざまな人間模様をオムニバス形式で描いたドラマ。脚本は創作だが、取材に基づき、事実を取り入れているところもあるため「時代報告劇(ルポルタージュ?)」という冠が付いている。上下2集で1話を構成しており、「生命的拐点」「摆渡人」「同行」「救護者」「捜索24小時」「火神山」「方艙」「我叫大連」「口罩」「武漢人」の10話から成る。監督・脚本、そして出演者も1話ごとに異なり、いずれも、いま中国で人気の(あるいは定評のある)スタッフ・キャストが関わっている。

 「生命的拐点(命のターニングポイント)」「救護者(看護師)」「火神山」は、真正面から医療現場の緊張と労苦を扱う。「火神山」は、わずか10日間で武漢に建設された新型コロナの専門病院。そこに配属された人民解放軍の医療チームの女性兵士たちにスポットを当てる。「方艙(避難所)」は軽症者の臨時受入れ施設を舞台に、医師と看護婦たちの奮闘を描く。「我叫大連(私の名前は大連)」は大連人の青年が、封鎖中の武漢で高速鉄道を下ろされ、病院の清掃員として働くことになる物語。

 おかげさまで、この病気の恐ろしさ、医療現場の大変さはよく分かった。病状が急変しやすく、午前中は普通に会話できた病人が午後には帰らぬ人になっていたりする。症状が悪化すると、心臓マッサージやAEDを繰り返しながら、気管挿管を行うので、1人の患者に3人や4人の医師・看護師の対応が必要になる。重症者が多ければ、次々に処置の必要が発生して休む暇がない。

 エピソード「救護者」では「沈黙型低氧血症」という症状が描かれていた。外形的に明らかな症状がなく、付き添い人も気づかないうちに、急激に血氧(血中酸素)が低下してしまう。緊急処置に取り掛ったときはもう手遅れで、無言で立ち尽くす医師。看護師の女性が幼い声で繰り返す「他已経没了(もうお亡くなりになりました)」が耳に残ってつらい。このドラマ、基本的に人々が困難を乗り越える姿を描くことが目的で、どのエピソードも明るく終わるのだが、「救護者」は肺腑を抉られる展開で、さすが『長安十二時辰』『九州・海上牧雲記』の曹盾監督だと思った。

 一方で、軽症者の現場を舞台にしたエピソードでは、高齢者のわがまま、大小便の世話やトイレの清掃など、きれいごとで済まない話題もよく拾ってあった。

 「同行」は、上海の研修医の青年と荊漢市の実家に里帰り中だった医師の女性が、ともに武漢を目指す物語。道中、よそ者を村に入れないように三国志の英雄よろしく長刀(の模造品)を構えて道を塞ぐおじさんに出会う。当時のB級ニュースで話題になっていた一件だ。都市部の発展はすっかり日本を追い越してしまった中国だが、農村部はまだまだ昔のままで、他のドラマではめったに聞くことのない、訛りのきつい中国語も珍しくて面白かった。

 「摆渡人」は封鎖された武漢でデリバリーサービス「美団」の配達員として働く男性が主人公。「捜索24小時」は、北京の疾病予防管理センター(中国版CDC)のチームが、ショッピングセンターで発生したクラスタの感染ルートを捜索する。「犯人」と目された男性の検査結果が陰性で落胆するシーンがあり、核酸検査(PCR検査)の「偽陰性」問題も学べる仕掛けになっている。

 「口罩(マスク)」は寧波の女性経営者がマスク製造工場を立ち上げる物語。「武漢人」は封鎖を命じられた団地の女性管理人の献身的な仕事ぶりを描く。このドラマ全体を通して、気が強くて、弁が立って、働き者の女性が多くて気持ちよかった。しかし「口罩」の女性経営者は、家庭より仕事好きを自覚していて、夫に切り出された離婚を受け入れる。「武漢人」の女性管理人はシングルマザーで、偶然、団地に引っ越してきた前夫と出会ってしまう。このほかにも父と息子、嫁と姑など、家族関係を味付けにしたエピソードが多く、変わらない人情と変わりゆく社会を感じるドラマでもあった。

 この作品、国家広播電視総局の指導の下に制作されているので、中国政府のプロパガンダといえばそのとおりで、触れてはいけないことには一切触れない。当時、国家の上層部が何をどう判断したかは霧の中だが、危機に臨んだ庶民と医療関係者の踏ん張りはよく描けていると思う。あと、妙にカップラーメンを食べるシーンが多いのはスポンサーの関係、という情報には笑ってしまった。政府の指導よりスポンサーの意向に影響されやすいのかもしれない。

 ドラマの完成度としては、やはり「救護者」が出色で、次に好きなのが「武漢人」。団地の住人で、息子がこの世にいないことを忘れかけている、アルツハイマーの老学者を演じる倪大紅が実によい。主人公の前夫役・王茂蕾のコミカルな演技には何度か爆笑。憎まれ役を演じても憎まれない、愛嬌のある俳優さんである。

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闘う女性たち/中華ドラマ『摩天大楼』

2020-10-04 23:53:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『摩天大楼』全16集(企鹅影視、聯播伝媒、2020)

 中国ドラマ、今年は犯罪ミステリーやサスペンス系のドラマが次々に話題をさらっている。本作も評判どおり、とても面白かった。ある晩、高層マンションで停電が発生し、20階の住人で、マンション併設カフェの若い女性店長である鍾美宝が自室で死んでいるのが発見された。鍾刑事(中年男性)と部下の楊警察官(若い女性)は、二人三脚で捜査を開始する。

 全16話は、事件の関係者への聴き取り(1人2話ずつ)で構成されている。1人目・謝保羅はマンションの保安員で、事件の第一発見者となった。鍾美宝に好意を持ち、何らかの秘密を共有していたと考えられる。2人目・16階に住む建築家の林大森は、世界的な大建築家の娘・李茉莉を妻に持つが、夫婦仲はよくない。幼なじみの鍾美宝にこのマンションで出会ってから、不倫の関係にあったことを告白する。3人目・マンションの管理人で12階の住人でもある林夢宇は、23階に住む丁小玲と愛人関係にあり、二人で他人の留守宅に忍び込み、変態プレイを愉しんでいた過去がある。最近は鍾美宝に心を奪われ、天井裏を伝って、換気口から鍾美宝の部屋に入り込んでいたことを告白する。林夢宇の妻の沈美琪は、夫が鍾美宝に惹かれていることには気づいていたが、犯人ではあり得ないと証言する。

 このへんまでは、マンションの住人たちの、嫉妬や虚栄、情痴や仮面夫婦ぶりなど、ドロドロした暗黒面が噴出し、中国も「都市化」したなあと感慨深く思った。しかしドラマの見どころは、前半に埋め込まれた「虚」と「実」が次第に明らかになっていく後半である。

 以下は【ネタバレ】あり。4人目は鍾美宝と同じ階に住む女性小説家の呉明月。彼女の作品『祥雲幻影録』の主人公・美玉公主は、弟の隽辰皇子を助けるため、残虐な魔君の后妃となり、隙を見て魔君を殺害する(この劇中劇はアニメで表現されている)。鍾美宝はこの結末をとても喜んだという。彼女にも父親の違う弟がいた。

 鍾刑事と楊警察官は、鍾美宝の家族を追って、5人目・彼女の阿姨(家政婦)だった葉美麗を訪ねる。葉美麗は幼児誘拐の罪で刑務所にいた。葉美麗は、かつて医師として働いていた頃に、美宝と弟の顔俊、母親の鍾潔と知り合った。母子三人は、凶悪で暴力的な父親・顔永原から逃げようとしていた。葉美麗はそれを手伝おうとして失敗し、顔俊だけを連れ出したのである。6人目の顔俊は葉美麗に育てられ、将来を嘱望される若手ピアニストに成長していた。しかし実父の顔永原は葉美麗を誘拐罪で訴えて遠ざけ、息子に金の無心を繰り返していた。

 7人目として顔永原が現れ、いかに自分が誤解を受けているかを縷々説明する。確かに法律を「正確」に適用すれば顔永原を罪に問うことはできない。それでは「正義」はどこにあるのか?と悩む楊警察官。感情に動かされるな、と諫める鍾刑事。楊警察官は、関係者の証言の中に小さな疑問を発見し、そこを糸口として、ついに事件の真相の「目撃者」がいたことを突き止める。

 8人目、最後の証言者となるのは鍾美宝自身。継父を避け、母親の親戚のもとに転がり込んだ美宝は寄宿制の女子校に入れられ、そこで初めて心を許せる女友だち二人と出会う。彼女たちは、卒業後も互いに助け合い続けた。停電の夜の真相とは、弟を守るため、悪魔のような父親・顔永原を監禁し、殺そうとした美宝が、逆に顔永原に殺されたのだった。美宝の「潔白」を守るため、二人の女友だち、李茉莉と丁小玲、その夫と情人である林大森と林夢宇、美宝に憧れていた謝保羅も、全て嘘の証言をしていたのである。

 最後は鍾美宝が店長をしていたカフェ(彼女の小さな写真が飾られている)の店番に立つ謝保羅、それを手伝う呉明月、そのほかマンションの住人たちの明るい表情で終わる。大都会の高層マンションを舞台にしながら、実は濃密な「友情」と熱い「互助」の精神がつくった事件というのが面白く、特に女性三人の絆の強さ、たとえ法律を犯しても仲間を守る鉄壁の「同志愛」が印象的だった。なお、原作小説は台湾の女性作家の作品である。

 くせ者の多いドラマの中で、楊子姗の演じた楊警察官のまっすぐな気性は一種の癒しだった。アンジェラ・ベイビーの鍾美宝は、はかなげで謎めいた雰囲気を漂わせていたが、子役の王聖迪(幼年時代)と張煜雯(少女時代)が持っていた、逆境に負けない強さが欠けていた点が残念。弟の顔俊を演じた曹恩斉は、実際にピアニストでもあるとのことで驚いた。

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歳月が磨く夫婦愛/中華ドラマ『如懿伝』

2020-09-27 21:21:41 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『如懿伝』全87集(新麗伝媒、2018)

 2018年に同じ乾隆帝の後宮を題材にした『延禧攻略』と『如懿伝』が公開されたときは、私はどちらかといえば、こっちに興味があった。主人公の如懿を演じるのが周迅と聞いたからである。周迅、もう40代になるというが、私が中国ドラマにハマった最初期の作品、2003年版『射鵰英雄伝』のヒロイン蓉児を演じていて好きだったのだ。

 食わず嫌いだった後宮もの『延禧攻略』が意外と楽しめたので、本作にもチャレンジしてみることにした。偶然ではあるが、両作品をこの順番で見たのは正解だったと思う。如懿と皇子弘暦(のちの乾隆帝)は幼なじみの相思相愛だったが、若い皇子は自分の意志で正室を選ぶことができず、如懿を福晋(側室)として迎え入れる。如懿は身分を気にせず、二人で支え合って生きることを願う。しかし弘暦の即位により、皇帝の寵愛をめぐる后妃たちの陰謀・暗闘に巻き込まれていく。

 以下、どうしても『延禧』との比較になってしまうが、本作の前半、后妃たちの争いは『延禧』のテイストに近い。ただ、瓔珞が直感と感情で動き、やられたらやり返すのを信条としているのに対して、如懿は沈着冷静。正邪のけじめは付けなければならないと感じているが、復讐で留飲を下げようとは思っていない。幼なじみの皇帝を信じているせいか、后妃たちの争いに対してどこか冷めている。

 史実の乾隆帝には三人の皇后がいた。最初の皇后は乾隆13年に死去。乾隆14年に皇后に立てられ、乾隆30年の皇帝南巡に同行した際、突然「失寵」した二番目の皇后(継皇后)が、このドラマの主人公の如懿である。その後、皇后は立てられなかったが、嘉慶帝の母となった炩妃(延禧攻略では令妃、瓔珞)が死後に皇后を追贈された。

 『延禧攻略』は三番目の令妃が主人公なので、当然、継皇后は悪役だった。本作では炩妃(衛嬿婉)が手段を選ばない野心家の毒婦として描かれる。しかし、本作の終盤がつらいのは、炩妃の奸計とは別に、皇帝自身の如懿に対する愛情と信頼が揺らいでいくことだ。

 あるときは異民族の美女・寒香見(容妃、伝説のホージャ妃がモデル)に一目惚れして、彼女の心を得る方法を考えてくれと皇后の如懿に求める。杭州では青楼の遊女たちと乱痴気騒ぎをしているところを如懿に見つかり、厳しく叱責されて逆ギレする(これはちょっと皇帝も可哀想)。また忠義者の御前侍衛・凌雲徹と如懿の私通を疑い、凌雲徹を宦官にして辱める。そして夭折した五皇子永琪が養母の如懿を恨んでいたという嘘の証言に唆され、如懿から皇后の印璽を取り上げる。

 最後に炩妃の悪行が全て明らかとなり、皇帝は皇后の印璽を戻そうとするが如懿は受け取らない。秋の恒例行事である狩猟に旅立つ前、皇帝は如懿のもとを訪ねて、ぎこちなく短い会話を交わす。力のない微笑で見送った如懿は、すでに重い病に犯されており、侍女の容珮だけに見守られて、往時を振り返りながら静かに世を去る。

 皇帝は如懿の葬儀を、皇后ではなく「烏拉那拉氏」として行うことを命ずる。史実でも継皇后には皇后としての諡号も贈られていない。そのため一般に、継皇后は何か大きな罪を犯して皇帝の怒りを買ったものと考えられている。しかし本作では、非人間的な後宮に閉じ込められ、醜い争いで数々の命が奪われるのを見てきた如懿の最期の願い「自由になりたい」を聞き届けた皇帝の決断と解釈する。如懿と皇帝以外、誰もその本当の意味は理解しないだろうけれど。ダメ男丸出しだった本作の皇帝を、最後にちょっと見直した。全編のラストが、白髪の老人となった太上皇が如懿の形見の断髪を愛おしみながら瞑目するシーンなのもよかった。本作は、登場人物の心情をあまり科白で説明せず、見る者の想像に任せる演出が多かったように思う。

 欠点も多いが憎み切れない皇帝を演じたのは霍建華(ウォレス・フォ)。如懿役の周迅は、ハスキーな低い声がキャラクターによく合っていた。二人とも、序盤の少年少女時代を演ずるにはちょっと無理のある年齢だが、本作の見どころである大人の男女の機微を演ずるには適した配役だったと思う。炩妃(衛嬿婉)は李純。全く同情の湧かない悪女役をご苦労様でした。継皇后の没後は、やっぱり皇帝の寵愛は炩妃に移るのか?と思っていたら、違う展開でほっとした。凌雲徹(経超)、李玉(黄宥明)、進忠公公(蒋雪鳴)、永琪(屈楚蕭)もいい俳優さんだったので覚えておくため、ここにメモ。

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辞書をつくった人々/映画・マルモイ ことばあつめ

2020-07-19 22:30:32 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇オム・ユナ監督『マルモイ ことばあつめ』(2019年)

 近年、連続ドラマは中国ドラマばかり見ているが、映画は韓国映画ばかり見ている。近代史を題材にした、面白そうな映画だったので見てきた。

 1940年代、日本統治下のソウル(京城)。キム・パンスは、劇場のモギリなど安い賃労働で、かつかつの生活をしていた。時には小さな悪事もするが、陽気で話上手で人情家、男やもめのパンスは、京城第一中学に通う勉強好きの息子と幼い娘を育てている。延滞していた息子の授業料を払うため、通りがかりの男の鞄を盗んだことから、鞄の持ち主・朝鮮語学会の代表であるリョ・ジョンファンと知り合う。

 ジョンファンは、小さな書店経営を隠れ蓑に、仲間と謀り、朝鮮語の辞典をつくろうとしていた。パンスは学会の雑用係となり、初めて文字の読み書きを覚える。日本の統治は次第に厳しくなり、公の場では朝鮮語が排斥され、親日派の証として創氏改名が求められ、反体制派の検挙も相次いだ。朝鮮語学会の同志のひとりも捕らえられ、拷問で命を落とす。ジョンファンの父親は息子に辞書作りの中止を厳命し、パンスの息子は父親に学会と縁を切ってほしいと懇願する。どちらも大事な家族が危険に身をさらすことを恐れての行為だ。

 しかし彼らは諦めず、辞書作りのために必要な、標準語を決めるための公聴会をひそかに開催する。そこに踏み込む憲兵たち。ジョンファンとパンスは、辞書の原稿を鞄に収め、なんとか脱出するが、憲兵に追い詰められ、パンスは銃弾に倒れる。

 当時の街並みや風俗は、なるほどこんな雰囲気だったんだろうなあと納得できる再現度だった。貧しいパンス一家の住む古い伝統家屋、小さいが文化の香りのするジョンファンの書店、公聴会の会場となるモダンな大劇場、あと重要な役割を果たす郵便局など。登場人物はみんないい顔をしているが、基本的に善悪がはっきりしていて、大きな変化がないので、ストーリーはやや平板な感じがした。それでも、地味な「辞書作り」をテーマに、これだけ面白い物語を生み出した監督(脚本も同じ)の手腕には感心した。

 ジョンファンらを執念深く追いまわす悪役の軍人・上田は、韓国人俳優が演じている。ほぼ全て日本語のセリフを頑張って喋っているが、ちょっとイントネーションが気になる。しかしあれは、日本人の設定なのか、親日派朝鮮人の設定なのか、よく分からなかった。後者だとすれば、流暢な日本語である必要はなく、かなり皮肉が効いていると思う。

 文字を覚えたてのパンスが、街中で目につく看板の文字を楽しそうに読んでいくシーンは、文字が読める喜びが伝わってくるようだった。かつてハングルをちょっとだけ独学して韓国旅行に行ったときの私自身を思い出した。そして、短い期間で読み書きを覚えたパンスは、息子と娘に手紙を残すことができた。よかった。だが、このエピソードがよすぎて「ことば」の意義と「文字」の意義が混じってしまった気もする。

 余談であるが、パンスの息子たちが、夜更けに帰らぬ父親を案じながら歌をうたうシーンがあって、字幕に「青い空 天の川 白い丸木舟」と出ているのを見て激しく驚いた。先頃見ていた中国ドラマ『隠秘的角落』の挿入歌と同じ(内容)の歌詞、同じメロディだったからである。調べたら、1924年につくられた朝鮮最初の創作童謡『半月』で、1950年代に中国語に訳され『小白船』の題名で親しまれているそうだ。ええ~中韓の間にこんな文化の共有があることを初めて知った。

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少年たちの夏/中華ドラマ『隠秘的角落』

2020-07-10 23:58:13 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『隠秘的角落』全12集(愛奇藝、2020)

 ネットの評判があまりに高いので見てみたら、現代劇を得意としない私もあっという間に引き込まれてしまった。少年少女を主人公にした犯罪サスペンス。たぶん今年の中国ドラマNo.1だと思う。まだこの作品を見ていない人は、以下の文章【ネタバレあり】など読まずに、とにかく作品を見て、驚き、怯え、震えてほしい。

 2005年夏、中国南部の(広東省らしい)のんびりした港町。少年宮で数学教師をつとめる張東昇は、妻の徐静を愛していたが、妻の心は離れ、妻の両親からは離婚を急かされていた。聞き分けのよい婿を演じる張東昇は、妻の両親を山登り観光に誘い、崖下に突き落として殺害する。

 同じ町に住む中学一年生(13歳)の朱朝陽は、数学が得意で成績はよいが内向的な男子。両親は離婚して母親と二人暮らしだった。その朝陽の前に、夏休み前の最後の日、幼い頃の友人・厳良が現れる。厳良は、父親が事件を起こして刑務所に入って以来、福利院(児童保護施設)で暮らしていたのだが、親友だという10歳の少女・普普を連れて脱走してきた。普普の弟は難病に苦しんでおり、手術には30万元の大金が必要だという。気晴らしに山に遊びに行った三人が撮影した記念写真(動画)には、背景に張東昇の殺人シーンが映っていた。

 朝陽は警察に届け出ようとするが、施設を脱走中の厳良と普普は警察を嫌がる。そして、殺人犯が少年宮の数学教師であることを知った三人は、普普の弟の手術代30万元を張東昇からゆすり取ろうとする。

 さて、朝陽の父親は別の女性と再婚し、幼い娘・晶晶と暮らしていた。ときどき朝陽を気にかけてはいるものの、比較にならないほどの愛情を晶晶に注いでいた。寂しい気持ちをうまく表現できない朝陽。正義感の強い普普は、紛れ込んだ少年宮で出会った晶晶を問いつめて反省を迫る。その様子を発見して慌てる朝陽。激昂した晶晶は、二人を脅かそうと窓枠によじ登り、足を滑らせて転落死する。誰にも言えない秘密を背負ってしまった朝陽と普普。

 晶晶の母親は、娘の死に関して朝陽の関与を疑う。しかし父親はそれを否定し、朝陽への愛情を思い出し、父と息子は久しぶりに心の通った時間を持つ。厳良は父親の所在を知っているはずの警察官・陳冠声を訪ねる。厳良の父親は、刑務所を出たあと、精神を病んで病院で暮らしていた。陳冠声は、厳良の保護観察人となることを決意する。一方、張東昇は、最初の殺人を隠蔽するための殺人を次々に重ね、次第に追いつめられて、少年たちとの距離を縮めていく。

 結末は、張東昇の死によって訪れた平和な新学期の始まり。陳冠声の家に迎え取られた厳良は「俺は勉強して警察官になりたい」と語って、陳おじさんを喜ばせる。朝陽は以前のとおり、母親の自慢の息子に戻って学校に向かう。朝陽のもとには普普からの手紙。普普は「少年宮の事件を私は誰にも言わない。でもいつか勇気を出して話すべき」と告げる。そして朝陽が、警察官の葉おじさんを伴って、晶晶の転落事件の現場検証をしているシーンで全編が終わる。

 私は初めこのシーンを見たとき、朝陽が「晶晶の転落現場にいた」という秘密を周囲に打ち明ける結末だと思った。殺人犯の張東昇は、少年たちに「お前たちも俺と同じように生きろ」という呪いをかけていく。張東昇が、一見さわやかな好青年なのに、実は若禿げでカツラ愛用者という、本筋にあまり関係のない設定をされているのは、「秘密」(嘘)を持つことの形象化ではないかと思った。朝陽が人に言えない「秘密」を持ち続ける限り、彼は張東昇のようになってしまう危うさを持ち続ける。だから、秘密を告白することでその呪いを解いたのだと思った。しかし、いろいろな考察・感想を読んでいると、真逆の解釈もあることが分かった。ドラマにおける晶晶転落事件の真相は、よく分からないのである。

 このドラマは、少年が父親に出会う物語でもある。厳良は実の父親に失望を味わうが、陳おじさんという新しい父親に出会う。朝陽は、実の父親の愛情を取り戻すが、その父は朝陽をかばって張東昇に殺される。父親を失った朝陽を守るのは、やはり警察官の葉おじさん。射殺された張東昇の姿を朝陽に見せないように、朝陽の顔を覆って連れ去るときの断固とした足取りに父性を感じた。このとき、朝陽の白いシャツが張東昇の返り血を点々と浴びている演出が残酷で美しかった。葉おじさんは、朝陽の同級生の父親でもあるのだ。これからも葉おじさんが傍にいてくれたら、朝陽は決して張東昇のようにはならないだろう。少年たちに比べると、普普の結末は漠然としていて、ただの狂言まわしのように感じられた。

 朱朝陽を演じた栄梓杉くん、実は『那年花開月正圓』の小杜明礼や『軍師聯盟』の小司馬師でも見ていた。これからの活躍が楽しみ。葉おじさんの蘆芳生は初めて現代劇で見たが、自然な演技でよかった。張東昇役の秦昊は、終始微笑みを浮かべ、礼儀正しく理性的な態度を崩さないのだが、ひとりになってカツラを外したときの別人のように陰険な表情がなんとも言えなかった。ドラマの陰惨さとは裏腹に映像は本当に美しい。伝統的な街並みと普及し始めたデジタル機器の共存、十分に豊かで、まだどこかのんびりしていた「あの頃」の生活感が画面に満ち満ちていて、外国人の私がいうのもおかしいが、懐かしい。

 ドラマがあまりにも面白かったので、いまネットで原作小説『壊小孩』を探し出して、読み始めている。私の中国語力で長編小説は無理と思うが、時間がかかってもいいから読んでみたい。もっと現代中国文学の翻訳を出してほしいなあ。日本の小説は、たくさん中国語に訳されているのに!

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変わらない主人公・変わる敵役/中華ドラマ『将夜』

2020-07-03 22:53:24 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『将夜』全60集(騰訊視頻、2018)

 新型コロナの影響で新作ドラマのリリースが停滞していることもあって、気になっていた旧作から。架空世界を舞台にしたファンタジー古装劇である。唐国、燕国、西陵、大河など各国が覇を競う世界。唐国の辺境の一兵士として育った寧缺(陳飛宇)は、都にある人材育成機関・書院の入学試験を受けることを許され、侍女の桑桑を伴って上京する。

 寧缺には敵討ちの宿願があった。狙うのは、かつて林将軍府を襲って寧缺の父母の命を奪った夏侯。唐国皇后の兄でもあり、北の国境を守護する大将軍である。孤児になった寧缺は、やはり夏侯の軍勢に襲われた人々の生き残り、赤子の桑桑を拾って、二人で生き抜いてきた。

 都に着いた寧缺は無事に書院に入学し、書院二層楼の選抜試験にも合格して十三番目の席次を得て「書院十三先生」と呼ばれるようになる。それぞれ特異な能力を持つ十二人の兄弟子・姉弟子と、書院の主である夫子に可愛がられる。また、符道大師・顔瑟に素質を見込まれ、神符術を伝授される。さらに皇帝の特務を請け負う侠客・朝小樹と意気投合して、朝小樹を幇主とする魚龍幇の人々にも助けられる。聡明な名君・唐国皇帝の知遇を得、公主の李漁(先代皇后の娘)からも好意を寄せられる。

 もちろん寧缺を邪魔者と見なす敵もちょこちょこ出てくるが、全体としては、仲間や師匠、支援者がどんどん増えていくので、ちょっとご都合主義ではないかと苦笑してしまった。寧缺のぶっきらぼうで傲岸不遜な性格は、幼い頃からひとりで(桑桑と二人で)生き抜いてきたことを思えば納得もでき、初めは魅力も感じたが、ドラマの中盤、終盤になっても、全く性格が変わらないのはどうなんだろう。若者を主人公にする場合、成長や変化が目に見えるドラマのほうが私は好きだ。

 それでいうと、むしろ敵役の劉慶(孫祖君)のほうが面白かった。燕国の第二皇子で、地位、美貌、才能全てを持ち、昊天を奉じる「光明の子」と呼ばれていたが、書院二層楼の選抜試験で寧缺に敗れ、のち、再び寧缺と争って決定的に敗北し、修行者としての能力を全て失う。彼を気づかう恋人を振り捨て、乞食となって流浪し、たどりついた知守観で、邪悪な方法で強大な能力を手に入れる。いけすかないセレブのイケメン皇子ぶりから、薄汚れた乞食姿、悪のラスボスと、メイクも衣装も別人のように変わるのが面白くて、劉慶を主人公にしたほうがよかったのに、と思った。

 桑桑は「少爺」寧缺のために働くことを喜びとしている幼い侍女だが、寧缺が書院の仲間たちとともに北の荒野へ派遣されて留守の間、西陵の光明大神官に気に入られ、不思議な能力を授けられ、光明大神官の後継者に指名されてしまう。さらに、彼女こそ諸国の伝説にささやかれる「冥王の子」であるというネタバレを途中で読んでしまったのだが、本編では、そこまで話が進まなかった。本編のあとに続く「将夜2」で初めて明らかになるらしい。

 本編は、寧缺が夏侯との死闘を制し、両親の仇をとるところで終わる。戦闘シーンの撮り方は突き抜けていて、古装劇というより、特撮ものみたいだった。まあ夏侯を演じた胡軍がカッコよかったのでよしとする。しかし、いろいろな伏線が置き去りになっているので、「将夜2」が気になるといえば気になる。寧缺の性格も、ここからようやく変わり始めるのだろうか?

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武侠ブロマンスファンタジー/中華ドラマ『陳情令』

2020-05-14 22:45:23 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『陳情令』全50集(騰訊視頻、2019)

 昨年、中国で高い人気を得たドラマであることは知っていたが、原作が耽美BLファンタジーで、若手イケメン俳優が勢ぞろいと聞いて、私が手を出す領分じゃないなと思っていた。しかし、日本でもファンが増えていると聞き、騙されたつもりで見始めたら意外と面白くて、あっという間に最終話まで見てしまった。特に終盤は、そうだったのか!の連続で、泣いてばかりいた。いまWOWWOWで初視聴中の皆さんには、絶対ネタバレを読まないことをお勧めする。

 ドラマは、ある戦いから16年後、莫家荘を訪れた藍氏門下の少年たちが、傀儡(ゾンビ)の跳梁する怪事件に巻き込まれ、莫玄羽という青年に出会うところから始まる。16年前、仙境世界には、五大世家(姑蘇藍氏、蘭陵金氏、清河聶氏、岐山温氏、雲夢江氏)が存在し、とりわけ岐山温氏が他家を圧していた。

 雲夢江氏の江宗主は、娘の厭離、息子の江澄に加えて、友人の遺児・魏嬰(無羨)を育てていた。三人は実の兄弟のように育ったが、江澄は、奔放不羈で才能にめぐまれた魏無羨にどこかコンプレックスを感じていた。あるとき、姑蘇藍氏の山荘「雲深不知処」で学問を学ぶため、名家の子女が集合する。ここで魏無羨は、温家の一族だが宗主一派とは一線を画す、温情と温寧の姉弟と親しくなる。また、藍氏の二公子で無口で真面目な藍湛(忘機、含光君)と知り合い、お互いに惹かれ合う。

 楽しいひとときもここまで。野心家の温宗主は、この世に4枚存在すると言われる陰鉄を各家から奪い取ることを画策し、ドラ息子の温晁を使って、藍氏、聶氏、そして江氏に実力行使をかける。江宗主夫妻は殺され、江澄は仙術の源である金丹を失ってしまう。魏無羨は、温情・温寧の協力を得て、江澄の金丹の復活に成功するが、その直後、温晁一味に捉えられ、夷陵の乱葬(葬送地)に突き落とされる。佩剣を残して姿を消した魏無羨が、戻ってきたのは3か月後。陳情と名づけた横笛を武器に温晁に復讐を遂げ、温宗主打倒にも貢献する。藍湛は、邪法に係わらないよう忠告するが、魏無羨は気に留めない。

 温氏滅亡後は平和が訪れたかに見えた。しかし小人たちの専横、温氏の残党に対する無慈悲な仕打ちに腹を立てた魏無羨は、温情・温寧らを連れて乱葬に籠り、夷陵老祖と恐れられるようになる。一方、江厭離は金氏の御曹司・金子軒と結婚し、長男・如蘭(金凌)も生まれて幸せに暮らしていた。あるとき、魏無羨が山道で行き合った金氏の一党と争っていた際、正気を失った温寧が金子軒を殺してしまう。人々は魏無羨が鬼将軍(傀儡)温寧を操ってやったことと噂し合う。

 かつての温氏の宮城・不夜天では、各氏の代表が集まり、金宗主を中心に団結を固める誓いの式が行われていた。そこに怒りとともに乱入する魏無羨。闇にうごめく別人の影。無羨に一目会おうと混乱の中に飛び込んだ師姐・江厭離は命を落とす。そして魏無羨は藍湛の差し伸べる手をすり抜けるように崖下に落ちて行った。

 16年後、藍湛に再会した莫玄羽(実は魏無羨)は、再び動き出した闇の力、陰鉄で鋳造された「陰虎符」の捜索に乗り出し、16年前から張り巡らされていた陰謀の首謀者を突き止める。

 ドラマは、原作に比べるとBL(ボーイズラブ)描写が薄められているので、原作小説ファンには物足りないらしい。しかし、これはこれで、男性どうしの絆を主題にしたブロマンスファンタジーとして完成度の高いドラマだと思う。正反対の性格を持つ主人公ペアがもちろんよいのだが、それ以外にも、敬意と友情、嫉妬や裏切りなど、さまざまな関係性の組合せがあって、どれもよかった。原作者は若い(?)女性だというが、金庸など武侠小説の王道を踏まえているなと感じた。日本の小説やドラマ(陰陽師とか)の影響もあるのだろうか。

 おちゃめで表情豊かな魏無羨(肖戦)はいつも可愛いし、わずかな表情の変化で繊細な感情を表現する藍湛(王一博)は絵画のように美しかった。90年代頃の中国の風景を思い出すと、女子は可愛くなってきたけど、男子はまだまだだなーと思っていたのが夢のようだ。このドラマも中国の配信サイトで見ていたのだが、藍湛に扮した王一博が登場するカップめんのCMがあって爆笑した。藍湛という役柄、カッコいいのにどこか笑えることを分かって演じているのが賢いと思った。

 女性では温情役の孟子議、2017年版の「射雕英雄伝」で穆念慈を演じていたのを覚えている。強くて幸せになれない女性が似合ってしまうタイプ。私は弟の温寧が好きだったので、ドラマの大結局はよかったと思う。あと前半の巨悪・温宗主役の修慶は、20年近く前の金庸ドラマの悪役ぶりが大好きだった俳優さんなので、こんな佳作で再会できて嬉しかった。

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