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見もの・読みもの日記

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失われた少年時代/中華ドラマ『非常目撃』

2021-04-29 23:42:58 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『非常目撃』全12集(愛奇藝、2020)

 昨年、サスペンスドラマの佳作を次々に生み出した「迷霧劇場」枠の作品である。日本で放映が決まった『隠秘的角落』や『沈黙的真相』ほど評価は高くないが、これも良作という感想を読んで視聴してみた。

 舞台は長江流域の巫江県(重慶市がモデル)。山林で女性の遺体が発見された。女性の名は秦菲。劇団員・李鋭の妻である。市警察から派遣された山峰刑事(宋洋)は、現地の江流刑事(袁文康)らとともに捜査を開始する。山峰をはじめ、多くの人々は、20年前の未解決事件との類似性に気づいていた。

 1998年、小白鴿(白い小バトちゃん)の愛称で呼ばれていた18歳の少女・白歌が、同じように雨の夜、何者かに殺害され、山林で遺体となって発見された。その直前、白歌は野外映画の上映会に出かけたが、仲のよい男友達が来ないことが分かり、ひとりで帰ったのである。少年時代の山峰はその場に居合わせ、憧れの白歌の後を着いていったが、途中で見失っていた。

 今なお小白鴿事件にこだわる人々は他にもいた。白歌の父親である白衛軍老人は、ひとりで犯人を捜し続けていた。アルツハイマーを発症して記憶も不確かな老刑事・葉永年も、長年の考察をノートに書き留めていた。葉永年の娘・葉小禾と恋人の周宇も白歌と同世代だった。葉小禾は、白歌と秦菲が、どちらも李鋭を好きだったことを覚えている。あの日、秦菲は白歌に「李鋭は来ない」と告げ、先に帰った白歌は何者かに殺害された。10年後、秦菲は李鋭と結婚したが、罪の意識に苛まれ、二人の結婚生活はうまくいかなかった。全てを清算するため、李鋭は妻の秦菲を殺害したのである。

 では小白鴿は? 葉小禾の恋人・周宇は、自分が殺したと告白する。周宇を溺愛する兄の周勝は、口封じのため、葉小禾を殺そうとヤクザ者たちを送り込み、乱闘の中で周宇は落命する。怒りに震える周勝は、彼らにつきまとっていた白衛軍老人に真相を告げ、爆殺する。あの晩、周勝と周宇は、ぐったりした白歌を乗せた竹筏が川岸に流れついているのを見た。気の優しい周宇は彼女を助けようとしたが、周勝は、川岸に建設中の観光ホテルにケチがつくことを恐れ、息を吹き返しかけた白歌を絞殺し、遺体を山林に棄てたのだ。

 周勝が小白鴿事件にかかわったと知った殺し屋の石磊は、なぜか執拗に周勝を狙い始める。一方、山峰、江流らの捜査チームも、あの晩、白歌を竹筏に乗せた何者かがいることを突き止め、さらに当時、竹筏に遺体が放置される事件が他にも(男性2人、女性1人)あったことを発見する。そのひとつ、呉翠蘭事件の遺族を訪ねた山峰らは、呉翠蘭の息子である石磊が、今も母親殺しの犯人を追っていることを知る。

 呉翠蘭は、殺害される前に張漢東という運転手と会っていたことが分かっていた。山峰らは張漢東を探し当てるが、彼は事件前に免許証を盗まれたと主張する。犯人は運転手仲間か? そこへ新たな殺人が発生する。山峰が通っていた麺料理屋の店主・謝希偉の養女の遺体が、竹筏に乗せられて発見された。山峰は、謝希偉を慰めようとして、その反応に不可解なものを感じ取る。その後、養女の謝甜甜を殺害したのは、夫の趙傑だと判明するが、謝希偉は娘婿の趙傑を監禁し、半殺しの状態にしていた。かつて張漢東の免許証を盗んだのも謝希偉であることが判明する。

 【本格的ネタバレ】謝希偉は十代の頃に養子に出された。難病に苦しむ末の弟の手術代を工面するためだった。しかし養家が合わずに逃げ出し、ただ1枚の写真、両親、兄、姉、妹、弟、そして自分という家族の記憶だけを支えに孤独に生きてきた。そして、ある時から、写真の中の家族になぞらえて、人を殺し、竹筏に乗せて、長江下流の故郷・巴都に送り出すという儀式を始めた。家族の揃う「全家福」を夢見て。すでに5人を流し終えて、あとは弟1人である。

 捜査チームが邪魔になった謝希偉は、山峰の老母や江流の妻子に近づく。山峰は、謝希偉の実の両親を探し出し、お前の家族はここにいると言って説得に当たるが、聞き入れない。いったん姿を消した謝希偉は、両親たちが暮らす巴都に現れる。折しも祭りの夜。遊園地で、乳母車に寝かされた、実の妹の子供をうっとり眺める謝希偉に向けて銃の引き金を引いたのは石磊だった。

 序盤で、秦菲事件の犯人が判明し、周宇が小白鴿殺害を告白したときは、え?これからどうするんだ?と慌てたが、後半の意外な展開はとても面白かった。謝希偉を演じた焦剛は『摩天大楼』でも極悪な父親・顔永原を演じているが、本作はさらに強烈な役柄である。上記のあらすじでは唐突に感じられるだろうが、実際は序盤から画面に登場している。はじめは流行らない麺屋のぼんやりした店主という感じなのだが、中盤からじわじわと狂気が増し、大写しの笑顔が怖くなっていく。

 本作の評価が高くない理由として、リアリティに欠けるという批評を読んだ。確かにミステリーやサスペンスにリアリティを求める視聴者には、失った家族を取り戻すため、人を殺して竹筏で流すなどという動機は受け入れにくいだろう。しかし私は、こういう「つくりごと」の物語が嫌いじゃない。ちょっと横溝正史に通じる感じがした。

 こんな殺伐とした物語だが、画面は美しくて旅情豊かである。急斜面に張り付くように細い小路に面して建つ家、入り組んだ坂と階段、そして悠々と流れる長江。あらすじでは省略したが、山峰も葉小禾も、最終的に20年前の遺恨や葛藤を解消することができてよかった。

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真相探しと自分探し/中華ドラマ『侠探簡不知』

2021-04-21 17:07:15 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『侠探簡不知』全24集(優酷他、2020年)

 武侠ファンタジー世界を舞台にした古装犯罪推理ドラマ。いま、CSで『侠客探偵簡不知』のタイトルで放映中らしいが、視聴者は、以下の【ネタバレ】を読まないことをお勧めする。最終話に驚きの仕掛けが隠されているので。

 かつて江湖の人々は鬼面の殺人鬼・王画に苦しめられていた。神機谷の谷主・簡尽歓は、仲間たちとともに王画に決戦を挑み、相討ちになって果てた。ただし王画の遺体は見つかっていない(ここまでは第1話の冒頭、アニメで語られる)。簡尽歓の息子・簡不知は激戦の場に居合わせ、生き延びたが記憶を失くしていた。八年後、若き探事人(探偵)として成長した簡不知(于済瑋)は、神機谷の戦いの真相を求めて、四人の生き残り、寒月山荘の李二爺、燕州の白大侠、常楽賭坊の巧手唐、三通鏢局の王老大を訪ねる旅に出る。

 寒月山荘の李二爺のもとには、武芸比べのために腕自慢の侠客たちが集まっていた。そこで起きる連続殺人事件。混乱の中で、簡不知は灼心蠱という蠱毒を飲まされてしまう。丐幇の胡長老は寒氷掌によって、簡不知に寒毒を打ち込む。これによって、簡不知は寒さに苦しまなければならないが、蠱毒の孵化を抑えることができる。蠱毒を解くことができるのは黒霧峰に住む黒霧娘々だけだという。連続殺人の犯人を解き明かした簡不知だったが、一瞬の隙をついて、李二爺は何者かに殺害されてしまい、神機谷の話を聞くことはできなかった。

 次に簡不知は、巧手唐の足跡を求めて傀儡島を訪ねるが、巧手唐はすでに死んでいることが判明する。傀儡島で、また帰途に立ち寄った杜鵑湾の宿屋で、簡不知は次々に難事件を解決するが、神機谷の真相に達することはできない。この頃までに簡不知のまわりには、頭脳は単純だが武闘派の趙我還(王燕陽)、殺人組織「十殺門」から逃亡した女殺し屋の展十七(王若珊)、神医・葉笑笑など、個性的な仲間たちが揃う。

 燕州では、白大侠はすでに何者かに殺害されたと燕山派一門の弟子たちに告げられる。最後の望み、三通鏢局の王老大からは、真相を語る条件として三つの難題を与えられ、簡不知はそれらを全てクリアするが、またも一瞬の隙をついて王老大は殺害されてしまう。しかし簡不知は、寒月山荘の李二爺殺害と王老大殺害の現場に居合わせた丐幇の胡長老こそ犯人であり、その正体は、死亡を装って身を隠していた白大侠であることを見抜く。白大侠は、神機谷の戦いに参加した仲間たちが王画を恐れて簡尽歓を助けなかったこと、それを深く恥じていることを語り、自決する。

 ショックで昏倒した簡不知が目覚めると燕州に運ばれており、小妖女こと宮雀が黒霧娘々(実は男性)を連れてきていた。黒霧娘々の医術で蠱毒と寒毒を除くことができ、燕山派の侠客たちの協力で「十殺門」の刺客を撃退することもできた。そして簡不知と仲間たちの新たな旅が始まる。

 と、さわやかに終わるのかと思ったら、突然、亡き白大侠が画面に出てきて独白を始める。【ネタバレ】神機谷の戦いで、白大侠たちは鬼面の殺人鬼・王画の素顔を見ていた。それはすなわち簡不知だったのだ。寒月山荘で簡不知(王画)に出会った白大侠(胡長老)は、彼を殺そうと思ったが、彼が自分を簡尽歓の息子と心から信じ、探事人のつとめを誠実に果たしているのを見て、彼を生かすために、自分を含め、王画の顔を知っている生存者たちを抹殺することに決めたのだった。

 ええ~!! なんというトリッキーな設定。しかし改めて見直してみると、ところどころに隠されていたヒントに気づく。寒月山荘の李二爺は、神機谷の戦い以後、盲目になっているのだが、簡不知の顔を触らせてもらい、驚いた素振りを見せ、その直後に殺害されてしまう。だいたい、簡不知は武術はからきし駄目という設定なのに、演じている俳優さんのガタイがよすぎると思っていたことも最後に納得。それから白大侠の独白では、本物の簡不知は東瀛(日本)にいるらしいのだが、最後の最後、日本刀を提げた人物がシルエットで登場し「私がこの目でヤツ(簡不知)に会いに行こう」と不敵につぶやくのである。これは!?

 本作は低予算のウェブドラマで、特に人気俳優も出ていないが、個性的なキャラが多くて面白かった。特に女性たちの造形は現代的。展十七は、愛する簡不知を守り抜くための行動が全て男前でよい。目力の強さが印象的な女優さんだった。趙我還が惚れた唖の美少女・明月は、実は「十殺門」の一員で、次第に趙我還に惹かれていくが、最後まで任務との間で葛藤する。江湖の記録を使命とする録院の司馬当、イケメン神医・葉笑笑に成りすまして、その医術まで習得してしまった千面人、LGBTを意識した黒霧娘々なども、お笑い要素と同時に、ちゃんと見せ場がある。これで終わらせるのはもったいない。ぜひ第2季を制作してほしい。

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陳情令スピンオフ「生魂」「乱魄」を見る

2021-03-30 21:52:37 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『陳情令之生魂』(愛奇藝、2019)『陳情令之乱魄』(愛奇藝、2020)

 2019年の中国ドラマ『陳情令』は、今も熱狂的なファンを世界中で増やし続けている、武侠ブロマンスファンタジーである。私がネットで同作品を視聴したのは2020年4-5月だが、このときスピンオフ(番外編)『生魂』があることは聞いており、のち『乱魄』が制作されたことも聞いていた(各編90分くらい)。時間のあるときに見ようと思って先延ばしにしていたら、この日曜にWOWOWで初放映されるという。我が家はWOWOWは見られないのだが、これは乗らなきゃ!と思って、同じ日にネットで中国語原版を探し当てて視聴した。年度末の週末に何をやっているか…と苦笑しながら。でも後悔はしていない。

 『生魂』は、鬼将軍・温寧と思追が主人公。『陳情令』本編の終幕で、岐山温氏の生き残りである温寧は、姑蘇藍氏の若き仙師・蘇思追(実は出自は同じ温氏)とともに旅立った。その二人が、たまたま立ち寄ったのが扶風城。人々は日が暮れると、悪鬼に怯えて真っ暗な家に閉じこもっていた。温寧と思追は、蕭家の古屋敷で、蕭憶と名乗る青年に出会う。蕭憶には蕭情という美しい姉がいたが、周子殊という青年に騙され、殺されてしまう。周子殊は悪鬼となり、さらに蕭家の人々を皆殺しにした上に、今も蕭憶を責め立て続けているという。

 それを聞いて、蕭憶を守ろうとした温寧と思追だが、調べるとどうもおかしいところがある。結局、蕭憶の正体は趙憶という下僕で、蕭情に身分違いの恋をし、陰鉄(陰虎符)によって、死せる周子殊を傀儡として操っていたことが分かる。

 ストーリーはわりと単純で、SFXとワイヤーアクションを駆使した激しいバトル映像が見どころ。中華ホラーのおどろおどろしい演出も好きな人には楽しめる。『陳情令』本編では可愛い癒し系だった二人が、別人のようにタフで自立した闘士ぶりを発揮するのは感涙もの。そして、蕭憶(趙憶)に精神的に捕らわれた温寧が、魏公子の励まし(後ろ姿と声だけの出演)で自分を取り戻すのがクライマックス。総じて『陳情令』ファンの「見たいもの」がよく分かっている番外編である。

 『乱魄』は清河聶氏の明玦・懐桑兄弟の物語。武勇に優れた激情家の兄・明玦と柔弱で風流人の弟・懐桑はしばしば対立していた。あるとき、聶氏歴代の陵墓(祭刀堂)で怪しい動きがあったことから、宗主の明玦は、弟と武士たちを連れて様子を見にいく。心配そうに送り出すのは、当時、聶氏に同居していた金光瑶。祭刀堂では制御の効かなくなった刀霊が暴走を始めており、聶氏の武士たちは次々に命を落とす。なんとか助け合って危機を脱し、幼い頃からの強い絆をあらためて思い出す明玦・懐桑兄弟。

 しかし暗転した画面に表示された筋書きによれば、祭刀堂の事件以後、明玦は日増しに激怒しやすくなり、ついに「爆体而亡」つまり健康を害して死んでしまう。『陳情令』本編でも謎の死として描かれていたものだ。明玦の葬儀で、金光瑶の悔やみの言葉を受けながら、あることに思い当たる懐桑。その最後の表情が素晴らしくいい!

 この作品も、ある意味、『陳情令』ファンの「見たかったもの」で、本編では物足りなかった描写を補完する内容になっている。ただ、『生魂』が本編を知らなくても楽しめるのに対して、『乱魄』は本編とあわせて見る必要があるだろう。本編では、え?と思ってしまった懐桑の豹変ぶりが、『乱魄』を見ると腑に落ちる。しかし『陳情令』は魅力的なキャラを無数に揃えているので、この調子ならいくらでも番外編が作れそうだ。

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皇帝襲撃を阻止せよ/中華ドラマ『成化十四年』

2021-03-21 01:36:46 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『成化十四年』全48集(浙江冠亜文化伝媒股份有限公司、愛奇藝、2020年)

 久しぶりに軽い古装劇が見たくなって、昨年、一部で評判になっていたこのドラマを見始めた。時代は明の成化年間。主人公の唐泛(官鴻)は、殿試二甲第一に選ばれた抜群の頭脳と推理力を誇る天才だが、武芸はからきし駄目。平和主義者で、美味しいものが大好き。小さいときに両親を亡くし、離れて暮らす姉のことをいつも思っている。いまは下級官吏として、人々の訴えを聞いたり、事件を捜査したりしている。

 ある殺人事件の調査から、唐泛は錦衣衛北鎮撫司の小隊長格の隋州(傅孟柏)と知り合う。隋州は、かつて辺境に従軍し、瓦剌人(オイラート)との激しい戦闘を経験したことがあり、いまも悪夢に悩まされている。あまり他人を寄せ付けないが、熱い心情の持ち主。特技は武術と料理。なぜか唐泛は、小侍女の冬児を連れて隋州の家に転がり込み、奇妙な共同生活が始まる。一方、成化帝の信任する若き太監・汪植(劉耀元)は、特務機関である西廠の提督(督公)として、同じ事件にかかわり、唐泛と隋州に一目置くようになる。

 最初の事件が3~4話を使って一件落着したあと、舞台と趣向を変えて、次の事件が起きる。そしてまた次の事件という具合で、ははあ、こうやって短い謎解きエピソードをつなげていく展開なのだなと、10話くらい見たところで理解した。特定のエピソード限りで退場する人物もいるが、唐泛・隋州の周辺に居残る人物もいる。

 鉄市と呼ばれる異民族の集住地域(北京城内にあったのだろうか?)に暮らす、オイラートの少女・ドゥルラと巨漢の従僕・ウユン。婚家を追い出された唐泛の姉・唐瑜とその連れ子・澄児。唐瑜に惚れた天才医師の老裴など。そして一件落着すると、みんなでテーブルを囲み、肩を寄せ合って賑やかに食事をするのだ。時には、隋州の下僚の薛凌、皇帝に伺候しているはずの汪植も加わっていて、楽しそうだった。

 さて【ネタバレ】終盤は、それまで独立に見えていた個々のエピソードが一気に集約していく。序盤から、さまざまな事件の裏に見え隠れし、じわじわと存在感を増していくラスボスは李子龍(王茂蕾)。唐朝の末裔で明朝の転覆を狙っているという設定だったかな。むしろ「我是生意人(私は商売人だ)」とうそぶくのが憎々しい。成化帝に恨みを持つ人々、父を殺された青歌姑娘や、先々代・景泰帝の長公主でありながら郡主に降格された固安郡主を抱き込み、明に敵対する異民族オイラートを手玉に取り、さらに宮中の三悪人、首輔の万安、東廠の尚銘(太監)、錦衣衛の万通を利用して、皇城を襲撃する。

 危険に身をさらしながら、皇帝を守り抜こうとする唐泛、隋州、汪植ら。彼らを救うのもまた、これまでのエピソードで培われてきた人のつながりである。その中で、汪植に忠誠を尽くしてきた丁容(余銘玄)が、老獪な尚銘の口車に乗って裏切るのは辛いエピソード。しかし、李子龍の野望を阻止した功績により、兵権を与えられて都を離れることになった汪植は、檻車に乗せた丁容を連れて旅立つ。「私はこいつがいることに慣れすぎているから、離れられない(舎不得)」と言って。これもひとつの「愛のかたち」と思いたい。

 汪植は実在の人物で、中国語wikiには「南蛮を討伐したとき捕獲されて都に運ばれ、宦官にされた」という記述がある。別の記事には、ヤオ族の出身とも。ドラマでは、孤独な小太監時代を万貴妃に救われて以来、貴妃と貴妃の愛する皇帝を守ることを絶対の使命と心得ている。しかし友のいない、孤独な人生を歩んできた汪植は、唐泛、隋州に会えたことに感謝を告げる。聡明で傲岸不遜だが、女子供にやさしく愛嬌があって、魅力的なキャラクターだった。従僕の丁容との関係は『那年花開月正圓(月に咲く花の如く)』の杜明礼・査坤を思い出すところもあった。

 時代背景をよく知らないので、調べてみて初めて、成化帝が自身の乳母で19歳年上の宮女である万貴妃を寵愛したことを知った。「明史」によると、万貴妃は性質が陰険で、他の妃嬪が妊娠すると手下の宦官を使って堕胎させたという。ただし中国語wikiでは、異説もあり「争議」になっている。このドラマの成化帝と万貴妃は(万貴妃と対立したといわれる皇太后も)好感の持てる人物に描かれていた。

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2021東大寺修二会生中継を見る

2021-03-15 23:19:29 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇NHK BSプレミアム『生中継 闇と炎の秘儀 お水取り 〜奈良・東大寺修二会〜』(第1部:2021年3月13日 18:30~19:30、第2部:3月13日 22:30~3月14日 01:15)+YouTube 東大寺公式チャンネル

 東大寺の修二会を初めて聴聞したのは大学生の頃で、以後、3年に1回くらいのペースで、たぶん10回は行っていると思う。直近では、2019年に2日目を聴聞した。2018年にも10日目のお松明を見ている。しかし、2020年はコロナ禍、今年2021年も拝観制限(堂内での聴聞不可)が発表され、予想されたこととは言いながら、がっかりしていた。そうしたら、なんとNHKが史上初めて堂内にカメラを入れて生中継するという情報を得た。

 このほか、東大寺ホームページの情報によれば、3月1日~15日は、ニコニコ動画で二月堂遠景を24時間ライブ配信し、3月12日~14日は東大寺の公式YouTubeチャンネルでも配信するという。素晴らしい。しかし、何といっても見たいのはBS生中継だが、私のマンションはBSが映らないのである。幸い、いまは緊急事態宣言下で、中高級ホテルが安いので、土曜は都心のホテル(大浴場つき)に1泊して、大きなモニタでゆっくりBS中継を見ることにした。

 第1部はお松明の上堂。二月堂の斜面の下からだけでなく、回廊の下で点灯する様子、ゆっくり回廊を上がる様子、お堂の入口まで練行衆を導き、くるりとターンして、手すりから松明を差し出す様子などが、間近で捉えられていて迫力があった。特にこの日は風が強かったため、風に煽られて伸び縮みする炎は、生きもののようだった。匂わないはずの松脂の焼ける匂いが、記憶の中からよみがえった。

 大浴場に浸かって体を温め、缶ビールとつまみで気分を整える。第2部は、半夜と後夜の行法が対象である。カメラは正面の西の局と、さらに内陣(東南か東北の隅?)にも入っているらしい。西の局から眺める内陣の入口には戸張(とちょう=うすぎぬ)がまだ下りているが、カメラが切り替わると。須弥壇の前の練行衆が映ることもある。私は咒師(しゅし)の鈴と唱えごとが好きなのだが、今年の咒師は、オペラ歌手のような美声だった。咒師としては美声すぎるかも。(持寶院・上司永照師とのこと。※奈良倶楽部通信 2020/12/27

 しかしNHKは、行法のすべてを完全生中継するつもりはないらしい。途中で、過去映像や資料映像を使った解説に切り替えたり、ゲスト(東大寺長老・森本公誠、作家・夢枕獏、アイドル・和田彩花)に感想を聞いたりしている。いやそれは、必要なのか? 私はスマホでYouTube 東大寺公式チャンネルにアクセスしてみた。こちらは、基本的に西の局の定点カメラで、一切解説や無駄なお喋りを挟まず、現場の音声を淡々と流している。こっちのほうがいい。そこで、第2部は、テレビの音声を消して、スマホ(YouTube)の音声を聴きながら、テレビの映像を見る方式に切り替えた。ちょっと音声が遅れることが分かったが、大きな問題ではなかった。

 BS中継でいちばん惜しいと思ったのは、法螺貝の吹き合わせの中継を省略したこと。あの、現代音楽みたいな不調和の美しさ、どうして放映しないかな。まあでも、テレビがお経や陀羅尼の内容を現代語で字幕表示してくれるのはありがたかった。韃靼では「八天」がそれぞれ自分の呪物で堂内を清めるというのを初めて学んだ。水天(香水)、火天(火の粉)、芥子(ハゼ=炒り米)、楊枝、大刀、鈴、錫杖、法螺である。水天と火天しか記憶していなかった。韃靼のクライマックス(大きな松明が堂内を何度も巡り、最後に内陣から礼堂に倒されて、火花を散らす)は何度見てもよい。

 結局、翌3月14日もパソコンで公式YouTubeチャンネルにアクセスした。途中、テレビドラマを見たくて中断し、夜10時過ぎから本格的に見始めたのだが、布団に入ってしまったので、だんだん眠くなり、韃靼はうつらうつらの視聴になった。勿体ないことだ。でももう私も若くないので、現場で6時間頑張るには、かなり覚悟がいる。布団の中からリモートで聴聞できるなんて、バリアフリーの極致で、素晴らしいことだと思う。ありがとうございました。

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愛の行方/映画・KCIA 南山の部長たち

2021-03-09 22:45:12 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇ウ・ミンホ監督・脚本『KCIA 南山の部長たち』(2020年)

 週末に見た映画の2本目。1979年10月26日の朴正煕射殺事件を、事件の40日前から説き起こす。当時、韓国はパク大統領の絶対的な支配下にあり、大統領直属の諜報機関であるKCIAは「南山(ナムサン)」の通称で恐れられていた。ところが、元KCIA部長パク・ヨンガクはアメリカに亡命し、米国議会において「コリアゲート事件」の証言に立って、パク大統領の腐敗を告発しようとした。パク大統領は、現KCIAのキム・ギュピョン部長をアメリカに派遣し、パク元部長が出版しようとしている回顧録の原稿を手に入れることを命じる。パク元部長は、旧友・キム部長の説得に応じて原稿を渡し、一件落着したかに見えた。

 キム部長が帰国して間もなく、クァク・サンチョン警護室長が大統領官邸でアメリカCIAの盗聴器を発見する。激怒するパク大統領。無能と罵られ、アメリカとの親密な関係を疑われるキム部長。警護室長とキム部長の溝は深まっていく。その後、日本の週刊誌にパク大統領を告発する記事が掲載された。大統領は、パリに逃れたパク元部長の抹殺を指示。キム部長は、これを阻止しようと動くが、力及ばず、パク元部長は永遠に地上から葬り去られた。

 10月16日、野党総裁キム・ヨンサムの議員職除名案を引き金として、釜山と馬山で大規模な民衆デモが発生する(釜馬民主抗争)。強硬派のクァク警護室長は、空挺部隊の投入を主張。デモがソウルに飛び火すれば、民衆を戦車で轢き殺すことも辞さないとうそぶく。キム部長は、必死で融和的な収拾策を提案し「あなたが漢江を渡ったのは、民衆を轢き殺すためですか」(5.16軍事クーデターのこと)と大統領に詰め寄るが、取り合ってもらえない。

 10月26日、パク大統領は、ヘリコプターで公務に向かうが、出発直前、警護室長は大統領に何かささやいた後、キム部長に向かって「お前は来なくてよい」と告げる。ヘリポートに取り残されたキム部長の胸の中でひとつの決意が固まる。その晩、宮井洞の秘密宴会場(畳敷きの和室!)では大統領を囲む、親密な宴会が開催された。銃を携えて乗り込んだキム部長は、亡きパク元部長に酒杯を捧げると、警護室長と大統領を射殺。腹心の部下たちとともに参謀総長を拘束し、南山に向かおうとする。しかし、参謀総長から「事態を収拾したいなら陸軍本部に向かうべき」と請われて、車の行き先を変える。ドラマはここで終わり、その後の顛末は、実際の写真と字幕で淡々と示された。キム部長は逮捕され、裁判を経て処刑されたこと、全斗煥政権が誕生したこと、キム部長のモデルである金載圭は、自分は権力のためでなく、民主化のために大統領を殺害したと証言していたこと。

 全編、重たいドラマだった。政治的な史実が重たいこともあるのだが、登場人物たちは、家族とか学生時代の友人とかが一切描かれず、金や女など欲望の描写も淡泊で、ただ終始一貫して、ホモソーシャルな人間関係に絡めとられている。キム部長役のイ・ビョンホンは、髪をオールバックに固め、レンズの上辺の縁だけ太い眼鏡で表情を隠し、思慮深く、正義感が強すぎて不器用な中年男を好演していた。それ以上に印象的だったのは、パク大統領を演じたイ・ソンミン。『工作』で北朝鮮のリ所長を演じた俳優さんか! 強圧的で冷酷で強欲(元部下が持ち逃げした金の行方だけを気にしている)な独裁者だが、かすかに漂う孤独の影が色っぽい。キム部長とは戦友で、二人でマッサ(マッコリのサイダー割)を飲みながら「あの頃はよかった」(日本語!)と懐旧の情にふけったりする。人々が宴会に集まってくるのを待ちながら、ひとりで古い歌を低く口ずさんでいたり(それを壁越しに聞くキム部長)。

 キム部長の大統領殺害は、政治的な壮挙というより、痴情のもつれみたいな甘美な印象を拭い切れない。昨年の大河ドラマのせいではないが、織田信長と明智光秀の関係もこんなふうだったかもしれない、と想像した。なお、あくまでフィクションであることを示すためか、登場人物の名前は、史実から少し変えてある。

 大統領が殺され、キム部長が去ったあと、官邸でひとり不敵な笑みを浮かべる若い軍人の姿が挿入される。確か警護室長に可愛がられていたチョン(中佐?)という名前だったことは覚えていたが、あれが全斗煥だということは、wikiを見るまで気づかなかった。序盤でパク元部長が、大統領には真の右腕である「イアーゴ」という男がいるらしい、と話していたのも彼のことなのか。しかし右腕に「イアーゴ」(オテロの)と名づける大統領も倒錯している。もうひとつ、在米の韓国系ロビイストが「姓が変わるだけよ」と発言するところがあって、易姓革命のことだとすれば、独裁者・朴正煕のあとを、また別の独裁者・全斗煥が襲うという韓国の歴史を予言する発言だと思うのだが、分かりにくい。

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中国アニメ映画初視聴/映画・羅小黒戦記

2021-03-07 23:13:05 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇MTJJ監督・脚本『羅小黒戦記(ロシャオヘイせんき):ぼくが選ぶ未来』(2019年)

 評判を聞いて気になっていた中国のアニメ映画を見てきた。主人公の小黒(シャオヘイ)は黒猫の妖精で、人間の子どもの姿になることもできる。深い森の中で平和に暮らしていたが、人間に森林を奪われ、街に出てノラ猫に交じって食べものを漁らなくてはならなくなった。

 ある時、人間に襲われかけた小黒は、同族の妖精である風息(フーシー)に助けられ、小さな無人島に連れていかれ、風息の仲間の妖精たちに暖かく迎えられる。居場所と仲間が見つかったことを喜ぶ小黒。しかし、風息たちの対抗勢力「館(やかた)」の執行人で、人間でありながら妖精以上の戦闘能力を持つ無限(ムゲン)が現れ、風息たちは島を逃げ出す。無限は、取り残された小黒を縛り上げ、館に連れていくことにする。二人は小さな筏で海へ乗り出す。

 船旅の間に、二人の関係に少しずつ変化が生じ始める。やがて筏は福蘭省(福建あたりのイメージ?)に到着。無限は、知り合いの妖精たちにお金を借りて、スクーターを買い、ハンバーガーショップに寄ったり、安宿に泊まったりしながら、龍游と呼ばれる都会を目指す。しかし、そこにはすでに風息と仲間たちが待ち構えており、無限から小黒を拉致する。小黒は、なつかしい風息たちに会えて喜んだのもつかの間、風息が人間を皆殺しにして妖精の楽園を取り戻そうとしており、そのために小黒の潜在能力を求めていたことを知る。風息に手を貸すことを拒絶する小黒。風息は怒りを爆発させ、小黒の潜在能力(領界)を強奪する。

 突如、龍游の都市の大半を、正体不明の黒い球体が覆いつくす。風息が小黒から奪った領界で、この中では風息は無敵のはずだった。無限は、息を吹き返した小黒とともに風息に戦いを挑み、ついに勝利する。樹木の性の妖精である風息は、巨木に姿を変えて消えた。平和の戻った龍游で、小黒は妖精の館で暮らすことを勧められるが、小黒は師匠の無限に着いていくことを選択する。そしてまた二人の旅が始まる。

 いや~面白かった! 私はむかしの日本のアニメ映画しか知らないので、時代錯誤な感想かもしれないが、自然な色彩、滑らかな動き、場面転換の軽快なテンポなど、文句のつけようがない極上のアニメーションだった。黒猫モードのシャオヘイは、マンガっぽくデフォルメした顔つきなのだが、猫らしい体の柔らかさが丁寧に表現されていた。後半の風息と無限の戦いは、都市の現実感がちゃんと出ていて、SF映画大作のようだった。言葉数の少ないムゲンのクールなかっこよさと、シャオヘイの弾けるような子供らしさ。美味しいものや楽しいこと、そして人の温かさには素直に反応し、嫌なことは全力で拒否するシャオヘイが可愛くて、ずっと目を離せない。笑えるシーンもたくさんある。食べものがすべてリアルで美味しそうなのもポイントが高い。敢えて難点をいえば、元来ウェブ上で28話まで公開されている本編があって、その前日譚として作られているため、この作品内で活かし切れていないキャラクターがいることだろうか。

 物語の大きなテーマは、異なる者の共存である。妖精には、長年暮らしてきた自然の洞窟を人間に奪われて、嘆いている者もいる。宅地造成で破壊されるだけでなく、入場料の要る観光資源になってしまったというのが現代的でリアル。一方で、さまざまな人間の発明(スマホとか)を面白がっている妖精もいる。結局、人間にも妖精にも、いい奴もいれば悪い奴もいるので、人間と妖精は共存していくしかないんじゃないか、と館の妖精たちは思っている。実は龍游には、たくさんの妖精が人間に交じって暮らしており、地下鉄に乗ったり、花屋でバイトをしていたりする(多くの人間は気づいていないのかもしれないが)。このゆるい共存関係は理想的に思える。

 私は中国語音声を聴きたかったので字幕版を見てきた。「館(やかた)」と字幕が出ていたのは、原語では妖霊会館という。かつて中国の主要都市に商人たちが業種ごとや出身地ごとに建てた「会館」(さまざまな機能を備えた互助組織)のイメージなのかな、と思った。あと、最後にシャオヘイがムゲンを呼ぶときの字幕は「師匠」なのだが、原音は中国ドラマで聞き慣れた「師父(しーふ)」呼びで、これはどちらも好き。

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山と海の懸け橋/中華ドラマ『山海情』

2021-02-03 21:02:45 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『山海情』全23集(東陽正午陽光影視、2021年)

 ジャンル的には「脱貧劇」とか「扶貧劇」という言葉があるらしい。貧困を抜け出そうとする人々、それを助ける人々の物語である。そんなドラマが面白いのか?と見る前は私も疑問だったが、めちゃめちゃ熱くて面白かった。舞台は黄土高原の広がる、寧夏回族自治区の「西海固」(西吉県、海原県、固原県)と呼ばれる地域。なんと物語の始まりは1991年である。1991年といえば、先日まで見ていたドラマ『大江大河2』では、沿海部の都市住民は、電化製品に囲まれ、豊かで快適な生活を楽しんでいた。ところが、同じ頃、西海固の農民たちは食べるものにも事欠く生活をしていたのだ。

 政府は「吊荘」移民政策を実施。これは、時計の振子が行ったり来たりするように2つの村を往来することを意味する。完全な移民ではなく、一家のうち数人が別の場所に行って荒地を開墾し、もとの村と行き来する移民形態である。楊県長と張主任は、移民地区(玉泉営)の建設を進めていたが、涌泉村の農民たちが逃げ帰ってしまう事態が発生。

 移民地区は平坦で開墾の余地はあるものの、まだ水も電気もなく、砂嵐が吹きすさぶゴビ砂漠の一部だった。張主任の要請を受け、涌泉村の村長・馬喊水(張嘉益)とその長男・馬得福(黄軒)は、自ら村民の一部を率いて、吊荘移民を決行する。数年後、次第に移民も増え、ようやく彼らの移民地・金灘村には電気が通る。

 馬得福の弟・馬得宝(白宇帆)と、従兄弟の楊尕娃、やはり涌泉村出身の李水旺は同世代で、いつも一緒に遊び暮らしていた。村には若者が稼げる仕事がないためだ。あるとき三人は、走る列車から積み荷を盗む仕事を請け負い、警察に捕まりかける。得宝と水旺は逃げたが、尕娃は新彊行きの列車に乗ったまま行方不明になってしまう。尕娃の母親はショックで精神を病み、兄である馬喊水は、妹を連れて涌泉村に戻ることにする。以後、馬得福は、父に托された尕娃と得宝のことを案じながら、金灘村の若き幹部として人々のために奔走する。

 この頃、中央政府による「閩寧協力」プロジェクトが始動。貧困地帯である寧夏を福建省(閩)政府が支援することになる。福建からやってきた陳金山(郭京飛)は、さまざまな脱貧困支援策を実行に移す。まず若い女性の希望者を、福建の電子機器工場に斡旋。得宝の恋人の白麦苗もこれに応募して出稼ぎに行く。

 また、陳金山は大学の恩師である凌一農教授を招いて、金灘村にキノコ(マッシュルーム?)栽培を広める。いち早くこの取り組みに投資した得宝は大儲けをするが、次第に参入する村民が増え、過剰生産になってしまう。教授は専門外の販路の開拓に尽力し、果ては農民が損をしないよう、生産物を自費で買い支えようとする。次々に問題は起きるが、人々の善意と努力によって、少しずつ村は豊かになっていく。序盤で、馬得福との間に淡い恋心を通わせながら、別人に嫁いだ李水花(熱依扎)は、事故で障害者になった夫と一人娘を支えて逞しく生きていく。

 2000年代、閩寧鎮の急速な開発は、さまざまな混乱を引き起こしていた。鎮政府は遅延していた工費の支払いを開始するが、幹部である馬得福は、弟・得宝の会社への支払いを後回しにする。白麦苗との結婚を控え、何かと物入りな状態なのに、兄には人情がないと憤る得宝。得福は、飲めない酒を飲みながら弟に語る。かつて我が家は貧しくて息子二人を学校に行かせることができなかった。母が自分だけに教育を受けさせたのは、一人でも出世させて家族中の面倒を見させるためだった。しかし俺はお前に何もしてやれていない。兄は弟に「対不起(すまない)」を繰り返しながら酔いつぶれる。これは中国の(標準的ではないかもしれないが、ある種、伝統的な)家族のありかたなのだろう。

 そして馬得宝と馬喊水の(ドラマの中での)最後の仕事は、涌泉村に残っていた人々を全て完全に閩寧鎮に移住させることだった。閩寧鎮には病院も学校もある。しかし涌泉村の古老たちは、生まれ育った故郷を離れたくない。自分の家が壊され、先祖の墓が荒れていくのを見るにしのびないという。私は全く故郷愛のない人間だが、人情って、本来こういうものだと思った。

 馬喊水は古い言い伝えを語る。涌泉村にはかつて李姓の人々しか住んでいなかった。二百年前、馬姓の者が流れ着き、村に受け入れられた。李水花は同じ言い伝えを語って、だから馬家の者が李家の人々をよりよい土地に連れて行くのは恩返しなのよ、という。馬得福は村内放送で人々に語りかける。人間は樹木とは違う。人間には二本の根があって、一つは先祖に、一つは子孫につながっているのだ。いまは家郷でない土地も、時間が経てば我が家になる。心を動かされた村人たちは、大宴会を開いて涌泉村に別れを告げる。大結局は2016年、葡萄栽培とワイン製造に成功し、大発展した閩寧鎮。得福、得宝らは、幼い子どもたちとともに涌泉村を訪ね、見違えるように緑化した風景の中でむかしを偲ぶ。

 演者は正午陽光作品でおなじみの名優さんを中心とした贅沢な配役。中でも出色だったのは、主人公・馬得福を演じた黄軒。古装劇の貴公子のイメージはどこへやら、ボサボサ頭で日焼けした、ダサい農村青年がぴったりで、今までで一番ファンになった。弟・得宝を演じた白宇帆も、貧しい農民を演じて違和感のない、いい顔をしている。彼らの喋る中国西北地方の方言と、陳金山役の郭京飛の福建語のすれ違いには大笑いした。

 なお、寧夏と福建の「ペアリング支援」は実話で、これを推進したのは、福建省委副書記を務めていた習近平だという(人民日報 2020/11/25)。つまり、このドラマには習近平の実績を顕彰・宣伝する意味があるのだろう。そういう政治的意図が見えても、やっぱりこのドラマが面白いのは、制作陣が人情の普遍性を分かっているからだと思う。

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疾風怒濤の時代/中華ドラマ『大江大河2』

2021-01-23 20:06:49 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大江大河』第2部:全39集(東陽正午陽光影視、2021年)

 2019-2020年に放映された第1部の続編。登場人物と俳優は全て前作を受け継いでいる(よかった)。第1部は1978年から1988年頃までの物語で、中国南方の農村に育った青年・宋運輝は、都会の大学に進学し、卒業後、金州市の化学工場の技師として次第に頭角を現す。宋運輝の姉・萍萍と結婚した雷東宝は、故郷の小雷家村を豊かにするため、人々を励まし、指導し、奔走する。宋運輝を兄と慕う少年・楊巡は商売人を志し、金州市で小さな日用品市場を経営するに至る。第1部は、知識人で技術者の宋運輝、農民の雷東宝、商売人の楊巡という、異なる生き方を選んだ三人をめぐって物語が進行する。

 第2部では、新たな任務を与えられ、沿海部の東海市に派遣された宋運輝の苦闘が物語の中心となる。東海化工の設立にあたり、宋運輝は最高水準の設備を海外企業から購入しようとするが、突然の輸入禁止措置により挫折。ドラマの中では描かれないが、1989年の天安門事件と、その余波としての国際関係の緊張が理由であることは、中国人なら分かるのだろう。その後、1992年の南巡講話に始まる開放政策を追い風に(この点はドラマで言及あり)、宋運輝は東海化工の第2期整備においてアメリカの洛達(ローダー)社との提携を目論む。ローダー社の交渉代表としてやって来たのは、かつて宋運輝の生徒だった、アメリカ育ちのバリキャリの美少女・梁思申。宋運輝と梁思申は、厳しい交渉を繰り返しながら、祖国の発展を願う気持ちを共有する。

 しかし宋運輝の妻・程開顔は、仕事一筋な夫に不安を感じ始め、そんな娘を心配する程工場長(いまは退職)は、頑固な娘婿に愛想を尽かし、宋運輝と梁思申が怪しからぬ関係にあるという申立て書を党に提出してしまう。宋運輝は田舎の工場に左遷されることになり、妻の開顔とは離婚。

 怒る梁思申は、事実が明らかになるまで業務提携の交渉を停止すると主張。宋運輝は、そんな梁思申を自分の生まれ故郷に連れていき、中国の大半の農村がまだまだ貧しく、教育を受けられない若者が多数いること、個人の名誉よりも祖国の発展が重要であることを語る。説き伏せられた梁思申が交渉の席に戻ることで第2部は終わる。

 一方、雷東宝は韋春紅と再婚し、新たな幸せを手に入れたかに見えたが、小雷家村の事業が大きくなればなるほど、資金繰りが綱渡りとなる。県の役人に見返りの便宜を図ったことから収賄罪で投獄されてしまい、東宝を失った小雷家村は、迷走・停滞する。第2部の最終話でようやく出獄した東宝は小雷家村の人々の気持ちをまとめて再起を誓う。

 楊巡は、自転車操業で乏しい資金をまわしながら、東海市に大きな批発市場(卸売市場)を開設する。偶然、梁思申と知り合って、上海の高級ホテルやアメリカの超級市場の話を聞き、さらなる事業拡張の夢を抱くが、実母が癌の末期患者であることを知り、心折れる。楊巡については、あまりにも中途半端な第2部の結末で、第3部をつくってくれないと納得できない。あと、かつては宋運輝のルームメイトで、その後、楊巡の相棒(年上の親友)となった尋健祥(大尋)も。このドラマでは、祖国の発展と個人の(さまざまな意味での)ステップアップが、ほぼ無条件に「善」とされている中で、進歩や変化に関心のない大尋の存在が、一種のバランサーになっている感じがする。彼にも相応の幸せな結末を与えてほしいものだ。

 また、宋運輝の両親が、息子の離婚と左遷を知って、深い悲しみに暮れながら、せめて自分たちは息子の負担にならないように、気強くいようと決心するシーンにも泣けた。この二人は、たぶん抗日戦争、大躍進、文革など、ドラマの外で数々の辛酸を舐めてきた世代のはずである。せめて最後は落ち着いた老後を得てほしい。続編が待たれる。

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法の正義を求めて/中華ドラマ『沈黙的真相』

2021-01-07 23:07:01 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『沈黙的真相』全12集(愛奇藝、2020)

 レビューサイト「豆瓣」で2020年中国ドラマ2位にランクインした人気作。お試しで見てみたら面白くて、年末年始でイッキに視聴してしまった。

 2010年、江潭市(杭州市がモデル)の地下鉄の駅に大きなキャリーバッグを引きずりながら現れた中年男が「これは爆弾だ!」と騒ぎ出す。男は警察に確保され、バッグの中からは、爆弾ではなく、若い男性の絞殺死体が発見された。中年男は、もと大学教授で現在は弁護士の張超。遺体で見つかった男性は、教え子の江陽と判明した。自分が江陽を殺したと認めていた張超は、裁判で供述を覆し、犯人は他にいると主張する。

 同じ頃、江潭晩報(新聞)の女性記者・張暁倩のもとに写真の断片が届く。匿名の投書には、これから24日以内に送る9枚の断片を組み合わせて1枚の写真にすれば「江陽を殺した真犯人が分かる」とあった。江潭晩報は、写真の断片を受け取るたびに第一面に掲載しなければならない。そうしなければ市内で大爆発が起きて多数の死傷者が出るだろう。投書はそう予告していた。

 この事件を担当することになった江潭市の警官チームは、江陽が平康県の検察官だった当時、大学の同級生だった李静に頼まれて、ある事件にかかわったことを知る。

 発端は2000年。李静の恋人の侯貴平は、平康県の苗高郷中学に支援教員として派遣された。理想に燃える侯貴平は、子どもたちだけでなく、村の縫製工場で働いている若い女性たちにも学習の機会を提供することにした。やがて侯貴平は、女工たちが性被害に遭っていることを知り、証拠を捉えて告発しようとするが、逆に婦女強姦の罪を被せられ、溺死体となって発見される。侯貴平の死は自殺として処理された。

 2003年、平康県の検察官となった江陽は、李静の頼みに動かされ、検死医の陳明章、警官の朱偉とともに侯貴平事件の再調査を開始する。しかしチンピラの所業と思われた事件の背後には、公安局の大隊長や江潭市のトップ企業の経営者など、高い社会的地位と権力の持ち主たちが絡んでいることが判明する。やっと掴んだ手がかりや証言者は次々に抹殺され、気がつけば江陽は、恋人も、家族も、検察官の地位も失い、さらに収賄罪を着せられて、刑務所を出たのは2009年のことだった。獄中で覚えた携帯電話の修理技術で細々と暮らし始めた江陽は、ようやく侯貴平事件の真相に迫る証拠写真を手に入れる。

 しかし江陽の身体は癌に犯され、余命6ヶ月と告げられていた。以下が本格的【ネタバレ】。告発を絶対に成功させるには、この事件に対する社会の関心を強く喚起しなければならない。江陽、陳明章、朱偉、そして江陽の恩師である張超、もと侯貴平の恋人で今は張超の妻となっている李静、さらに平康県で性被害に遭っていた女工の李雪。彼らは張超のシナリオに沿って、奇想天外な計画を実行に移す。江陽は自ら命を断つことによって、社会の不正を訴えたのだ。その告発は成果を収めた。張超、陳明章、朱偉は偽証罪などの罪に問われたが、7年後、刑期を終えた彼らは江陽の墓の前に集う。全ては終わった。

 前半は、2000年、2003年、2010年の3つのドラマが同時に進行していく描き方がスリリングで面白かった。2003年の登場人物がドアを開けると2010年の登場人物が顔を出すとか、かなり込み入った作劇なのに、不思議と混乱しないのである。

 はじめは貧しい農村の小さな性被害事件だと思ったのが、大きな社会不正(政界と財界と公安の権力がつるんでいる)の告発につながっていくのは、中国ドラマらしい展開だと思った。それと、日本なら巨悪に立ち向かうヒーローは一匹狼タイプが好まれると思う。このドラマでは、江陽、陳明章、朱偉という、年齢も性格も異なる3人の男たちが、7年にわたって固い結束(友情?)を保ち続ける。最後は、張超、李静らも加わり、みんなで(警察さえも欺き)社会不正と戦うのだ。ドラマ『摩天大楼』でも思ったが、この熱く濃密な人間関係こそ中国文化なのではないかと思う。

 江陽役の白宇は、明るい未来を信じる青年検察官として颯爽と登場するが、数々の辛酸を舐め、最後は何もかも剥奪された人間の哀しさをにじませ、法の正義を希求して殉教者のように死んでいく。ジェットコースターのような変化をきちんと演じ分けていて見事だった。警察官の厳良(廖凡)、女性隊長の任玥婷(呂暁霖)もキャラの肉付けがしっかりしていてよかった。

 中国語Wikiには、ドラマと原作小説『長夜難明』の違いについて、原作では性被害を受けたのは幼女であるとか、原作では最大の黒幕は周永康(汚職で失脚した政治家)であることが暗示されているとか、気になる記述がある。ドラマもよいが、現代中国の社会派ミステリー、もっと翻訳で読みたい。

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