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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

深川古石場で無声映画観賞会

2023-03-01 21:45:01 | 行ったもの2(講演・公演)

江東区古石場文化センター 第775回無声映画観賞会「ふるさと深川で楽しむ小津安二郎の世界」(2023年2月26日)

 日曜の午後、近所の文化センターの催しで、弁士つきの無声映画というものを見てきた。上映作品は2本で、はじめの『子宝騒動』(昭和10/1935年)は喜劇というより、アメリカ風のスラップスティックコメディと呼んだほうがぴったりくる。貧乏子だくさんの福田さんは、産気づいた奥さんのために産婆さんを呼ぼうと奮闘する。無声映画だから可能なナンセンスギャグの連発は、現代の目にも新鮮で面白かった。監督は「喜劇の王様」と呼ばれた斎藤寅次郎だが、無声喜劇のほとんどが散逸しており、現存するのは本作を含む数作品だけだという。

 次の『出来ごころ』(昭和8/1933年)は小津安二郎監督。東京下町の日雇い労働者で男やもめの喜八は息子の富夫と暮らしており、なじみのめし屋のおかみさん、ふらりと現れた若い娘の春江、喜八の隣人の次郎などが登場する。コメディ要素もあるけれど、全体としては、しっとりした人情ドラマの趣き。私は映画の歴史はよく知らないのだが、1930年代前半には、すでに小津安二郎は批評家から高い評価を受けており、本作はキネマ旬報ベストテンの1位にも選ばれているそうだ。

 1930年代といえば、産業化が急速に進み、洋風のライフスタイルが一般化した時代というイメージだったが、映画の中のように、シャツにステテコの長屋暮らしが庶民の多数派だったのかな。工場に仕事に行くときはシャツにズボンだが、ここぞという時は着物に羽織、という描写も面白かった。あと、金策のために喜八が選んだのが「北海道くんだり」まで行って蟹工船に乗ることというのも時代である。

 この無声映画観賞会は、無声映画専門の「マツダ映画社」が、シリーズで各地で開催しているものらしい。同社のページに弁士や伴奏音楽演奏者の紹介も掲載されている。私は人形浄瑠璃とか落語とか朗読とか、ひとりが複数の人格を語り分ける、語りもの文芸が全般的に好きなので、また機会があったら見てみたいと思った。

 鑑賞会のあとは、誘ってくれた友人と「華蔵」で軽く呑み。春らしいおつまみの3点セットが美味しい。

春はもうすぐそこ。

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不良息子の破滅/文楽・女殺油地獄

2023-02-12 22:38:41 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 令和5年2月公演(2023年2月11日、18:30~)

・『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)・徳庵堤の段/河内屋内の段/豊島屋油店の段』

 今月は「近松名作集」で『心中天網島』『国性爺合戦』『女殺油地獄』と好きな演目が揃ったが、迷った末に第3部にした。私はだいたい陰惨な演目が好きなのだが、特に『女殺』は大好物なのだ。調べてみたら、今回見るのが5回目で、主役の組合せが毎回違っているのも面白い。
・1997年:初代吉田玉男(お吉)×吉田蓑助(与兵衛)
・2009年:桐竹紋寿(お吉)×桐竹勘十郎(与兵衛)
・2014年:吉田和生(お吉)×桐竹勘十郎(与兵衛)
・2018年:吉田和生(お吉)×吉田玉男(与兵衛)
・2023年:吉田一輔(お吉)×桐竹勘十郎(与兵衛)

 勘十郎さんの与兵衛を見るのは9年ぶり。前回、油店の凶行シーンで派手につるつる滑りまくっていたのを覚えているが、今回はやや抑えた動きで、逆に人間臭さを感じた。勘十郎さん、10年くらい前だと、遣っている役柄の気持ちが自分の表情にも出てしまうきらいがあったが、今回は淡々と表情を変えず、しかし人形の与兵衛には、生気が宿っていた。着物の着くずれ方とか、親の話を聞くときの顔のそむけ方、ぬっとした立ち姿にも、悪党らしさが芬々と漂っており、ずっと見惚れていた。吉田一輔さんのお吉は、若さと可憐さが感じられて哀切だった。

 床は、河内屋内の段の口を咲寿太夫と団吾、奥を靖太夫と清志郎、豊島屋油店の段を呂太夫と清介。靖太夫さんの語りはとても聴きやすい。呂太夫さんはもう少し声量がほしいと思ったが、きちんと聴き取ろうと集中してしまったので、それはそれでよいのかもしれない。

 しかし近松の作劇はすごいなあ。不良息子の与兵衛に対して、実母のお沢も、継父の徳兵衛も、道理を説いて厳しく叱責するが、場面が変わると、実は二人とも息子に(ほとんど盲目的な)愛情を抱いていることが示される。その親心に深く感服するお吉。お吉が、お沢と徳兵衛が残していった金子八百匁を与兵衛に渡せば、与兵衛も心を入れ替え、めでたしめでたしで終わっても全くおかしくない展開。しかし与兵衛は「あと二百匁」を無心し、お吉は態度を硬くする。

 与兵衛の詞章「ただ今より真人間になって孝行尽くす合点なれども肝心御慈悲の銭が足らぬ」「与兵衛も男、二人の親の詞が心根に沁み込んで悲しいもの」「自害して死なうと覚悟しこれ懐にこの脇差は差いて出たれども、ただ今両親の嘆き御不憫がりを聞いては死んでこの金親父の難儀にかくること、不孝の塗り上げ身上の破滅。思ひ廻らせば死ぬるにも死なれず」というのは、自分勝手な理屈だが、彼にとっては詭弁ではなく、真実だったのかもしれない。けれどもお吉は「夫の留守に一銭でも貸すことは、いかな、いかな」と拒絶する。もう少し年のいった女性だと、自由になる金銭も持てたのではないかと思うが、嫁のお吉の立場では店のお金は動かせないのだな。そして与兵衛は「これほど男の冥利にかけ、誓言立ててもなりませぬか」と凶行を決意する。与兵衛のセリフで、冒頭から、男、男が繰り返されているのは、その価値のない者ほど、こういう物言いをするという、作者近松の皮肉のような気もする。

 あと、どんなに深い親の愛情があっても、それをもったいないと思う子供の気持ちがあっても、お金の問題はお金でしか解決しないという、冷え冷えした合理性は、近世だなあと思う。今回は2009年と同じで、事件解決を語る「逮夜の段」がなく、悪人が闇に消えていくところで終わるので、悪酔いみたいな余韻が後を引いた。

 なお、今回の公演プログラムには「初代国立劇場さよなら公演特別インタビュー」と題して、吉田玉男さんと桐竹勘十郎さんへのインタビューが掲載されている。これは保存版だと思うのだが、私は保存しておく自信がないので、どこかに(オープンアクセスで)残してほしい! お二人は現・国立劇場の開場(昭和41/1966年)間もない頃から出演されているとのこと。当時、大阪道頓堀の劇場はみな狭くて「古い芝居小屋」という雰囲気だったので、国立劇場の広さにびっくりしたとか、皇居の近くで周りに何もなかったとか、昔話がおもしろい。むかしは序幕の頭巾を着けて舞台に出るとき、師匠方の遣う役を若手が遣わせてもらうこともあったとか。

 勘十郎さんが思い出話の中で、新作文楽『天変斯止嵐后晴(てんぺんすとあらしのちはれ)』や『不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)』について「新作って、その時の勢いがないとできないんですよ」と述べていらっしゃるが、両作とも鑑賞した私には懐かしかった。また再演してほしいなあ。今年10月で改修のために閉場する国立劇場が再開場するのは6年後=2029年の予定らしい。みなさんお元気でいてほしい。私も他人事でなく元気でいなくっちゃ。

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戦国大名たちの謀略ドラマ/文楽・本朝二十四孝

2022-12-17 23:25:36 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 令和4年12月公演(2022年12月17日、17:00~)

・『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・二段目:信玄館の段/村上義清上使の段/勝頼切腹の段/信玄物語の段・四段目:景勝上使の段/鉄砲渡しの段/十種香の段/奥庭狐火の段/道三最期の段』

 面白かった! 近松半二らの合作『本朝二十四孝』は何度も見ているので、どうしようかと思ったが、「十種香の段」と「奥庭狐火の段」以外はほとんど見たことがなかったので、こんな込み入った物語であることを初めて知った。記録を振り返ると、私は2020年に「景勝上使の段」と「鉄砲渡しの段」を見て、これらの伏線が最後にどう回収されるのか気になる、と書いているのだが、2年越しで、全く予想外の「回収」を知ることができた。

 二段目の冒頭、将軍「義晴」が暗殺されたという噂話が語られる(ただし史実の足利義晴(1521-1546)は病没とされている)。その犯人捜索が捗らないため、将軍家の名代として現れた村上義清は勝頼の首を差し出すことを迫る。母の常磐井御前は、板垣兵部に命じて勝頼の身代わりを探させており、勝頼を腰元の濡衣とともに出奔させようとするが、万事休す。

 一足遅く、勝頼そっくりの百姓・蓑作を連れ戻った板垣兵部。しかし信玄によれば、蓑作こそ真の勝頼であり、自害した勝頼は板垣兵部の実子で、17年前、板垣が我が子を主家の跡取りにしようとして赤子をすり替えた結果であり、信玄は真実を知りながら、ずっと黙っていたのだった。この悪人・板垣兵部のモデルは誰なんだろう。板垣信方じゃないよね?

 四段目は長尾謙信の館から。長尾家も将軍殺害犯の捜索が捗らず、将軍家の上使として登場した景勝が、自分自身の処分を謙信に迫るが、花守り関兵衛が場を収める。謙信は、将軍殺害の物証である鉄砲を関兵衛に渡し、詮議を命ずる。

 そしておなじみ「十種香」の段。華麗な装束をまとって登場する美青年・蓑作(実は勝頼)を中心に、恋にときめき、運命に苦しむ二人の女性、濡衣と八重垣姫。二段目の筋書きを知ると、濡衣への同情が深まる。「奥庭狐火」で八重垣姫が去ったあと、被衣(かづき)で顔を隠した女性が登場。語りが手弱女御前(将軍義晴の奥方)と紹介したと思ったら、鉄砲を携えた花守り関兵衛があらわれ、手弱女御前を一撃で殺害。いちおう、花守り関兵衛=斎藤道三という種明かしは知っていたのだが、この展開には、え?どういうこと?とびっくり。

 そして長尾謙信館の御殿。奥へ進む斎藤道三を留めようとする勝頼と景勝。さらに襖が開いて登場したのは、武田家の軍師・山本勘助。いや全く予想していなかったので、びっくりして椅子からずり落ちそうになった。さらに謙信も登場。将軍義晴を殺害したのが、天下掌握を狙った道三であることを喝破し、さらに手弱女御前と見せかけたのが、道三の娘・濡衣であったことを明かす。悪運尽きたことを自覚した道三は、北条氏の小田原城の攻略法を武田家・長尾家に伝授して自害する。なんだか中国ドラマみたいによくできた謀略劇である。

 私は大河ドラマ『風林火山』が大好きだったので、武田家・長尾家には親しみがある。本作では両家は敵対しているように見えて、どちらも悪者にならず、丸くおさまる。一方、斎藤道三はずいぶんな悪役扱いである。これは江戸の人々の一般的な感覚なのだろうか。史実では、斎藤道三(1494-1556)って信玄(1521-1573)・謙信(1530-1578)より少し上の世代なのだな。

 文楽12月公演は若手・中堅中心に出演者が組まれるのが恒例で、みんな力をつけてきているなあと感じられて嬉しかった。「十種香」は、呂勢太夫さんの安定した語り、ノリのいい藤蔵さんの三味線が気持ちよかった。人形は腰元・濡衣の一輔さんよかったなあ。蓑二郎さんの八重垣姫は若々しくて可愛いけれど、蓑助師匠の妖艶な八重垣姫をなつかしく思い出してしまった。

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エキセントリック前九年の役/文楽・奥州安達原

2022-09-21 20:07:30 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 令和4年9月文楽公演(2022年9月19日、17:15~)

・第3部『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)・朱雀堤の段/敷妙使者の段/矢の根の段/袖萩祭文の段/貞任物語の段/道行千里の岩田帯』

 国立劇場が改修のため長期休館に入るというニュースは聞いていたので、「初代国立劇場さよなら公演」の冠付きと聞いて、これは行っておかなければと思い、慌ててチケットを取って、大型台風が日本列島を縦断中の9月19日に見に行った。そうしたら、小劇場を使う文楽公演は、12月も国立劇場で行われるみたいで拍子抜けした。ちょっと詐欺にかかった気分だが、まあいいことにしよう。

 『奥州安達原』は近松半二作。プログラムの解説によれば「奥州に独立国家樹立をめざす安倍氏の策略が、源義家によって挫折に追い込まれてゆくまでを描く」物語である。史実を核に、空想のコロモでくるんで味付けする手際が実にダイナミック。ただ、登場人物が多く、人間関係が複雑なので、筋書を手元に置かないと最初はかなり混乱する。

 はじめに盲目の物乞い女・袖萩と、その娘の幼子・お君が登場。平傔仗(けんじょう、実は袖萩の父親)と八重幡姫(源義家の妹)が通りかかり、さらに人目を忍んで駆け落ちに急ぐ生駒之助と傾城・恋絹がやってくる。八重幡姫は生駒之助に思いを寄せながら身を引いた過去があり、恋絹は、恩のある八重幡姫と生駒之助のために「来世の祝言」を執り行う。そこに追手が現れるが、袖萩は二人を小屋に匿い、逃がしてやる。追手の侍・瓜割四郎と平傔仗の会話から、袖萩は、さきほどの老侍が自分の父親であることを知る。

 平傔仗は、帝の弟・環の宮の傅役(もりやく)だが、環の宮は三種の神器の一つである十束の剣とともに行方知れずになっていた。傔仗の娘二人のうち、袖萩は素性の知れない浪人侍と深い仲になって出奔し、敷妙は源義家に嫁いでいた。その敷妙が使者として現れ、宮の捜索の猶予も今日限りという義家の意思を伝える。内心では傔仗に同情している義家は、奥州から連行した鶴殺しの罪人・外が浜南兵衛の詮議に望みを託す。

 衣冠束帯姿の桂中納言則氏が登場。則氏と義家は、南兵衛の正体が安倍宗任であることを見抜き、奥の間に引き立てる。則氏は傔仗に、宮の失踪の責任をとって、いさぎよく切腹することをほのめかす。

 御殿の裏木戸にたどりついた袖萩とお君。袖萩は三味線をつまびき、祭文に託して親不孝を詫びるが、母の浜夕は厳しい言葉を浴びせるばかり。お君の父親である侍の素性を記した手紙を見せるが、そこには安倍貞任の名前があった。進退窮まった傔仗は切腹、絶望した袖萩も懐剣で自害。それを見届けた則氏が去ろうとすると、義家が登場。南兵衛こそ安倍宗任、則氏こそ安倍貞任であることを喝破し、戦場での勝負を誓って別れる。

 〇〇実は△△、の目まぐるしい交錯。敵と味方のダイナミックな対峙。いかにも「つくりもの」だけど面白い。いま好きで見ている金庸先生の武侠ドラマに似通ったところもあるように思う。

 私は『奥州安達原』を初見と思って見に行ったのだが、途中でおや?と思った。実は2017年に「環の宮明御殿の段」(=袖萩祭文の段?)だけ見ていたのだ。素人には、今回のほうが物語の設定が分かりやすくて、ありがたかった。

 しかし最後の「道行千里の岩田帯」(生駒之助と八重幡姫の道行)は、何のために上演されたのかよく分からなかった。プログラムの解説を読むと、傾城・恋絹、実は安倍頼時の娘で貞任・宗任の妹なんだな。さらに道行の先に二人を待ち受ける運命は、久しく上演をみない「一つ家の段」に描かれているのだそうだ。一つ家!そういうことなのか…南無阿弥陀仏。

 人形は袖萩を桐竹勘十郎さん。冒頭の「朱雀堤の段」は全員黒子姿だったのに袖萩の表現が群を抜いていて、出遣いになって、ああやっぱりと思った。桂中納言則氏=実は安倍貞任は吉田玉男さん。久しぶりに大きな立役で見たが、やっぱり見栄えがする。

 あと、久しぶりに(?)購入した国立劇場の文楽公演のプログラム、値段は上がったが、吉田和生さんのインタビュー(カラーページ)など読み応えがあってよくなったと思う。

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アイスショー"THE ICE 2022" 愛知公演2日目

2022-07-25 22:18:46 | 行ったもの2(講演・公演)

THE ICE(ザ・アイス)2022 愛知公演(2022年7月24日 12:00~)

 2018年、2019年と見に行っているアイスショー。2020年は中止、2021年は国内選手のみの変則開催だったので観戦を見送ったが、今年は「完全復活」となったので、さっそく見てきた。

 男子は、宇野昌磨、友野一希、ネイサン・チェン、ヴィンセント・ジョウ、ジュンファン・チャ、ジェイソン・ブラウン、ダニエル・グラスル、マッテオ・リッツオ、ケヴィン・エイモズ、イリア・マリニン。女子は、坂本花織、宮原知子、三原舞依、本田真凜、アリサ・リウ、マライア・ベル。それにペアのりくりゅう(三浦璃来&木原龍一)とチョクベイ(マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ)。また、開演直後の次世代スケーター枠では、上薗恋奈ちゃんが演技を披露した。

 出演者は、基本1プロだが、ところどころに意外なコラボプロが挟み込まれていた。ジェイソンの美麗プロ「I lived」(FaOIと同じ)にうっとりしたあと、突然、吉本新喜劇の音楽が流れて、白髪のカツラとちゃんちゃんこで茂造に扮した坂本花織ちゃんが登場、二人でコミカルな動きを見せる。マリニン君の演技のあとに、ちょっとお兄さんのダニエル君が登場して、仲良し中学生が張り合ってるようなコラボも可愛かった。本格的だったのは、ネイサンと昌磨くんのコラボ。重厚なクラシックの楽曲は「ガブリエルのオーボエ」だそうだ。しかしソロパートはともかく、二人が同時に滑り始めると、どちらを見ていいのか、目が泳いでしまう。

 今年は、ヴィンス、エイモズくん、ジュンファンと、私の好きな選手が揃っていて嬉しかった。ゴリゴリに強さとスピードで押していくタイプでなく、しなやかさの中に強さを感じる選手たちである。特にジュンファンは、これから強く推していきたい。現役選手が今シーズンの競技プロを披露してくれるのもTHE ICEの楽しみ。大トリの昌磨くん、初日の昼・夜は新フリーの「G線上のアリア」だったらしいが、日曜は新SPの「Gravity」だった。私は初見だったので大満足。しかしネットの情報によると、やや体調不良で「G線上のアリア」を諦めたとか。心配。

 心配といえば、りくりゅうの「You'll Never Walk Alone」も名プロ誕生の予感がひしひしと伝わってきたが、仕上がりはいま一つで、璃来ちゃんが転倒して肩を痛めてしまい、フィナーレに姿を見せなかったのが気になる。フィナーレでは王子様とお姫様の扮装で登場すると聞いて、楽しみにしていたのに…。坂本花織ちゃん、三原舞依ちゃんも新プロ披露。花織ちゃん、FaOIではオーバーウェイト気味で心配したけど、ちゃんと身体を絞って、キレのある動きを取り戻していて、さすがだと思った。プロ転向の宮原さんは、両腕の動きの美しさに見とれた。しかし、THE ICE名物(仮装)ダンスバトルでは、タイガーマスクの扮装で登場。意外な弾けっぷりが可愛かった。

 ネイサンの「モーツァルト」は、噂は聞いていたが圧巻。モーツァルトのさまざまな楽曲の詰め合わせに、まぎれもなくネイサンのスケートを掛け合わせる。天才×天才みたいなプログラムだった。オープニングでバックフリップも跳んでくれたし、フィナーレでは夏をテーマにした創作ダンス(なつかしのマサルダンスの別バージョン)を真面目に踊っていた。日本滞在を楽しんでくれたら何よりである。

 モリコロパークは、2018年のTHE ICE以来4年ぶりで、新しい施設が増えたように思った(2018年は、まだ温水プールが営業していたな)。今回、SS席にしたのは失敗だった。どうしても前方のアクリル板で視界が遮られてしまうのだ。次回は、よく考えて席種を選ぼう。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2022 静岡"

2022-06-28 21:19:34 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2022 in 静岡、初日(2022年6月24日 17:00~)/3日目(6月26日 13:00~)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)2022静岡公演を現地で見てきた。何度もこのブログに書いたとおり、幕張、名古屋、神戸のチケットが全く取れなくて、今年は生観戦は無理かと思っていたら、最後に2日分が当たった。どちらもステージから遠いB席、初日は東側の最後列から3番目、3日目は西側の最後列から2番目だったが、会場に入れただけで大満足である。

 出演スケーターは、Aツアー(幕張、名古屋)との違いだけ記録しておくと、三浦佳生、河辺愛菜、松生理乃、デニス・バシリエフスがOUT、宮原知子、ジェイソン・ブラウン、カッペリーニ&ラノッテ(カペラノ)がIN。現役若手がいないので、開演直後にエラジ・バルデや田中刑事くんが登場する、やたら豪華な構成だった。ゲストアーティストは新妻聖子さん、宮川大聖さん、バイオリニストのNAOTOさんに交代した。

 宮川大聖さんと羽生結弦くんのコラボ「略奪」「レゾン」は神戸初日から大反響を呼んだ。私は神戸公演をライブビューイング(6月19日、TOHOシネマズ新宿)で予習していたが、やっぱり現地では固唾を飲んでしまった。「略奪」は、黒を基調に赤を効かせた妖艶なオープニング衣装のまま、群舞で始まり、次第に羽生くんが前に出ていく。短めのトップスをまくり上げる腹チラと4Tに話題が集中したが、男子グループ、女子グループそれぞれに見せ場があり、流れるような全体のコンビネーションも美しかった。

 大トリの「レゾン」は上下白(上衣のみ左半身が紫)のゆったりした衣装。氷上に仰向けに倒れ込み、ゆっくり起き上がるとか、前傾姿勢のまま後ろに滑っていくとか、挑発的な振り付けが話題をさらった。No.1ホストみたいな色気という感想もあり、芸術性の極みという批評も見たが、どちらも当たっていると思う。現地で高い視点から見ていると、一挙手一投足に音楽を感じさせる身体の使い方の上手さ、動きに従ってふわりと広がる衣装の美しさが印象的だったが、危険な男の色気たっぷりだったことは否定しない。私がフィギュアスケートに魅せられた最大のきっかけである、プルシェンコの「タンゴ・アモーレ」を思い出した。今の羽生くん、バンクーバー五輪当時のプルシェンコと同じ27歳だと思うと感慨深かった。

 宮川大聖さんは「Z世代に絶大な人気を誇る」と紹介されていたが、大英断の起用だったのではないか。これまでFaOIのゲストアーティストは、客層の中心(中高年女性)になじみのある、80~90年代のヒット歌手が多かったように思うのだ。過去の公演に全く不満はないが、羽生くん世代にとっては、本当に感性を共有できるアーティストとのコラボだったのではないかと思う。千秋楽、宮川さんが登場直後のMCで「終わるのが寂しいです」と涙声だったのが忘れられない。

 静岡初日は、終演後の一芸大会で羽生くんが4T-4Tを連続で跳んで、小さくガッツポーズしていたのが可愛かった。千秋楽は、終演後のジャンプ披露はなかったが、「レゾン」の後、鳴りやまない拍手に推されるようにして、舞台に新妻聖子さんとNAOTOさんが登場。演奏と歌唱が始まり、会場がどよめく。私は何の曲か分からなかったが、隣のお客さんが「ノートルダム・ド・パリ?」とすぐに反応した。ステージ奥から「レゾン」衣装のままの羽生くんが登場。歌い続ける新妻さんと、情感たっぷりに顔を見交わしていたかと思ったら、おもむろにリンクに下り、リンク中央で激しく美しいスピン。そうだ、2012-2013年の1シーズンだけFSで滑っていた曲なのだ。とんでもないサプライズ・プレゼントに、会場全体が魂を抜かれたようになってしまった。

 しかし本公演の素晴らしさは、羽生くんだけではない。パパシゼは全公演で、北京オリンピック金メダルのリズムダンス、フリーのショーバージョン2演目を披露。回を重ねるごとに味わいが増し、観客の反応にも熱が加わった。カペラノは、前半がフランク・シナトラの「I've Got You Under My Skin」によるおしゃれプロ、後半は「道化師」の「衣装をつけろ」で、久しぶりにオペラが聴きたくなった。全体にAツアーから持ち越しのプロが多かったが、ステファンの2プロは、初見こそ「フィギュアスケートらしくない」と思って戸惑ったが、静岡では、様式美と様式を踏み越える力が拮抗して、完成度の高いものになっていた。こういうプログラムを日本で演じてくれたことに感謝。ちょっと田中泯さんの舞踊を思い出していた。

 新妻聖子さんの迫力ある歌唱も素晴らしかった。ハビエルとは「ラ・マンチャの男」、ジェイソンとは「メモリー」でコラボ。ステージ上から歌声でスケーターを操る魔女か女神のようだった。荒川静香さんとは、この時代だからこそというメッセージを込めて、中島みゆきの「ひまわり」で共演。歌の力とスケートの力に泣いた。

 Bツアーではアンサンブルスケーターズの紹介(ひとりずつ名前をコール)があったり、アクロバットやエアリアルに素直な歓声をあげるお客さんが多かったのも嬉しかった。アクロバットのポーリシュク&ベセディンは、いまお幾つなのだろう? 私は2010年から見ているのだ。彼らは、ネットの情報によれば、いまはアメリカ国籍だが、ウクライナ出身であるとのこと。ああ、だから出演できたのだな。今年のFaOIの復活、とても嬉しいけれど、個人的には、いつかロシアのスケーターたちにも戻ってきてほしい。ロシア大好きジョニーのポップでキュートな「Dancing Lasha Tumbai」が、ウクライナの歌手の楽曲だったこともここに記録しておく。

 フィナーレの群舞は新妻さんの「誰も寝てはならぬ(Nessun dorma)」で、羽生くんが神々しいようなY字バランスを披露。そして周回から、全ての出演者が輪になって抱き合ったのも初めての光景だった。羽生くんの最後の挨拶「ありがとうございました!」は恒例のことながら、千穐楽はその前に、ちょっと涙声の「本当に幸せでした」「またファンタジーに来てください」が付いた。遠かったけれど、西側だったのでよく見えた。また来年!

↓これは開演前の視界。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2022"ライブビューイング

2022-06-05 23:10:34 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2022ライブビューイング(幕張:2022年5月28日、名古屋:2022年6月5日 13:00~)

 私の一番好きなアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)が3年ぶりに開催されることになった。今年は、幕張、名古屋、神戸、静岡の4会場で3公演ずつ。しかしチケットが全く取れない。私が初めてFaOIを見に行ったのは2010年の新潟公演で、当時は開催直前でもチケットが買えたのだ。ところが、2014~15年くらいからか、「羽生結弦のアイスショー」的な位置づけが定着してからは、チケット争奪戦が激化し、正直、この数年はチケット売買サイトで、定価の2~3倍で購入するのもやむなし、という感じだった。しかし、あまりにもひどい転売の横行に規制がかかり、今年のチケットは全て抽選販売、入場時には本人確認が必須となった。

 基本的には、多くのファンが納得できる方式になってよかったと思う。しかし私はくじ運がなくて、先行・一次・二次・リセールなど、何回申し込んだか分からないが、どの会場も落選を続けている。CSチャンネルは契約していないので、生中継も見られないし…と落胆していたら、なんと映画館でライブビューイングを行うという発表があった。これもチケットは抽選で、先週の幕張公演は、第1希望の都内の映画館は駄目だったが、柏の葉MOVIXが取れた。名古屋公演は安全策で柏の葉MOVIXを第1希望にした。ということで、久しぶりにつくばエクスプレスに乗って、2週連続でららぽーと柏の葉に行ってきた。

 ゲストアーティストは広瀬香美さん、スガシカオさん、遥海(はるみ)さん。音楽監督は鳥山雄司さん。出演スケーターは、羽生結弦、織田信成、田中刑事、三浦佳生、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、ジェフリー・バトル、ジョニー・ウィア、デニス・バシリエフス、エラジ・バルデ、荒川静香、坂本花織、河辺愛菜、三原舞依、松生理乃、パパシゼ(パパダキス&シゼロン)、アクロバット(ポーリシュク&ベセディン)、エアリアル(アゼベド&キャンパ)。予定されていた樋口新葉ちゃんは怪我のため欠場。常連の海外男子スケーターが顔を揃えてくれたのは嬉しいが、例年に比べると、やはり海外組が少なく(FaOIにしては)日本人スケーターが多いかな、という感じがした。

 ジョニーは第1部が「Siren Song」、第2部がスガシカオさんとのコラボで「夜空ノムコウ」で、これまで通り、ファッショナブルでエモーショナル。後者は歌詞をよく咀嚼して演じてくれていた。ランビは「Lost」「This Bitter Earth」、どちらも音楽に身を任せる「ダンス」ではなく、むしろ音楽を裏切り、氷の上に倒れたり叫んだりする「演劇」的なプログラムだった。ジェフの「In My Life」は、現役時代さながらの優雅で軽快な滑り。彼ら30代後半のスケーターたちが、それぞれ自分の滑りたいスケートに向かって進化を続けていることが分かって、感慨深かった。ライブビューイングなので、画面にスケーターの年齢が表示されるのだが、荒川静香さん、もう40歳なのか。第1部の「Nella Fantasia」は女神のように気高く、第2部の広瀬香美さんとのコラボ「Promise」は小悪魔のように可愛かった。大技には挑戦しないが、構成に入れた技はきちんと決めて、決して外さないのがすごい。

 ハビはスペインらしい「ラ・マンチャの男」とロックな「Kiwi」。久しぶりに見る彼のスケートの心地よさ。正統的な古典音楽のプロや、コミカルなプロも見たくなった。あ、デニスくんが、すっかり青年らしくなっていたのにはびっくりした。織田くんの「キンキーブーツ」は伝説のプロになるだろうなあ。三原舞依ちゃんは、広瀬香美さんとのコラボ「ゲレンデがとけるほど恋したい」が最高にキュート。パパシゼが、さすが超一流の現役ど真ん中の演技を見せてくれたのも眼福だった。

 羽生くんは、まずオープニング直後、スガシカオさんとのコラボ「午後のパレード」で群舞の先頭に立って演技。ライビュのカメラは、羽生くんを正面から捉えてくれるのがうれしい。今日の名古屋公演では、バサッと上着を脱いでノースリーブの両肩を見せつけたと思ったら、また上着を着るのに手間取っていて微笑ましかった。

 大トリもスガシカオさんとのコラボ「Real Face」。激しい曲調に乗って会場を煽り、カメラに向かっても煽り、弾けまくっていた。今日、名古屋公演最終日、最初の3Aは失敗し、2本目の3Aはなんとか堪えたもののクリーンな成功ではなかった。そうしたら、フィナーレのおまけで、果敢に連続ジャンプに挑戦し(舞依ちゃんみたい)SNSの判定によれば、4T-3A-3T-3Aを跳んだとのこと。すごいわ。その前、エンディングの群舞「ロマンスの神様」では、白シャツにピンクとブルーの襟巻みたいなふわふわのついた衣装で、カメラに向かってハートマーク、投げキッスなど、やりたい放題。まあ、君が楽しければ何をやってもいいよ。恒例「ありがとうございました!」も聞くことができた。

 もちろん、同じ空間を共有できる生観戦が一番いいのだが、初体験のライビュも悪くなかった。でも、ちょっと音声が画像より遅れる感じがあったかもしれない。

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アイスショー"Stars on Ice 2022"東京公演千秋楽

2022-04-12 12:11:24 | 行ったもの2(講演・公演)

SOI(スターズ・オン・アイス)Japan Tour 2022 東京公演(2022年4月10日 13:00~、代々木第一体育館)

 フィギュアスケートの観戦記事は、昨年のNHK杯以来であるが、その後の全日本選手権、北京五輪、世界選手権は、もちろんテレビやネットで観戦していた。この間の出来事について言いたいことはいろいろあるが、全て胸の奥に封じて、久しぶりのアイスショーを楽しんできたことを報告する。

 出演者は、宇野昌磨、鍵山優真、友野一希、島田高志郎、田中刑事、ネイサン・チェン、ヴィンセント・ジョウ、チャ・ジュンファン、樋口新葉、河辺愛菜、三原舞依、宮原知子、紀平梨花、アリサ・リウ、ペアのクニエリム/フレイジャー、アイスダンスのチョック/ベイツ、ホワイエク/ベイカー、小松原美里/小松原尊、村元哉中/髙橋大輔(かなだい)。

 東京公演最終日は、三浦璃来/木原龍一(りくりゅう)組がエントリーしていないのが残念だったが、それでもペア+アイスダンスが5組! かなだい人気の余波かもしれないが嬉しい。カップル競技にはシングルとは違った魅力があるので、もっと日本のアイスショーで海外の超一流選手の演技が見られるようになってほしい。今回、私はホワベイの燕尾服プロ「Black and Gold」が特に眼福だった。

 そのほか、このショーを見に来てよかった、としみじみ思ったのは、ヴィンセント・ジョウ「Lonely」、チャ・ジュンファン「Boy with a star」(韓国語の曲)、宮原知子ちゃん「スターバト・マーテル」。しっとり系の曲と滑らかスケーティングが私の好みなのだ。ヴィンスは、イーグルでゆっくり円を描くだけの動作が、なぜこんなに心を打つのか。白シャツ衣装のチャ・ジュンファンは、輝くような王子様オーラ。知子ちゃんは、裾丈長めの白いワンピースで、中世カトリック教会の荘重な聖歌で滑る様子が神々しかった。

 宇野昌磨くんが久々の「グレスピ(Great Spirit)」だったのも嬉しかった。ネイサンの「ロケットマン」は、ショーナンバーらしく、バク宙も入れてくれるサービスぶり。ええ~私は「The ICE」で変な仮装で出てきたネイサンの印象が抜けないのに、どうした、この隙のないカッコよさは。

 前半の最後に、この公演の前に引退・プロ転向を発表していた宮原知子ちゃんのトークショーの時間が設けられており、共演者が日替わりでインタビューアーをつとめたらしいが、この日は高橋大輔さんが登場。冒頭で「トークは上手くないんですけど」と言っていたけど、昨年のNHK杯で、りくりゅうや宇野昌磨くんへのインタビューがとても面白かったのを会場で見ていたので、いやいや何を謙遜しているか、と思った。あまり話上手でない知子ちゃんの緊張をほぐして、うまく話を引き出していた。この二人、同じ干支で12歳差と聞いて驚いたのと、高橋さんが盛んにカップル競技に誘うのが微笑ましかった。知子ちゃんの演技後には、宇野昌磨くんと鍵山優真くんから花束贈呈もあり。

 なお、公演最終日の前日にアリサ・リウが引退を発表。公演後に田中刑事くんも引退を発表した。オリンピック・イヤーって、こういう節目の年になるのだな、と感慨深い。

 今回、出費を抑えて一番安いB席(南側2階)にしたので、スケーターの姿が小さく、群舞だと見分けもつきにくかった。しかしリンク全体が視界に収まるので、動きの魅力がテレビよりずっと分かりやすい。また、照明の効果で、スピンや決めポーズのスケーターの影が大きく逆さにリンクに映るのが、ディズニー映画か何かのようで、うっとりした。

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若者は恋路を急ぐ/文楽・染模様妹背門松

2022-01-11 20:36:15 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和4年初春文楽公演(2022年1月8日、17:30~)

 年の初めは大阪の文楽公演から。そう決めたのはいつだったか、ブログ内で調べたら、2013年が最初のようだ。2020年は三が日を台北で過ごしたあと、2週目の三連休を使って見に行った。新型コロナが騒がれ出す直前だった。2021年は、さすがに東京に引き籠らざるを得なかった。そして今年、1年お休みしただけなのだが、懐かしくて感無量だった。

1階ロビーのお供え(鏡餅)。橙の下の串柿は、大阪では定番だそうだが、東京では見たことがない。

にらみ鯛。

舞台の飾りつけ。

揮毫は住吉大社の髙井道弘宮司による。金色の霞たなびく大凧で、例年にも増してめでたい。

・第3部『染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)・生玉の段/質店の段/蔵前の段』

 今年の初春公演、私は、お染久松いいなあ、と思って第3部にした。しかし、このとき私の頭に浮かんでいたのは『新版歌祭文』だったので、幕が開くと、あれ?思っていたのと違う?と戸惑ってしまった。大阪の大店油屋の娘・お染は、丁稚の久松と恋仲にあり、お染のお腹には久松の子が宿っている。秘密の恋が、すでに人々の噂になっていると知った二人は、もはや死ぬしかないと覚悟し、井戸へ身を投げるが、久松が目を覚ますと夢であった。舞台の中央に「夢」という文字が浮かぶ趣向。

 このあと二人は、かりそめの夢が正夢であったように追いつめられていく。久松は、郷里から出てきた父親に、在所の娘と祝言をあげるよう諭される。お染は母親から、親の決めた相手に嫁ぐよう説得される。説得を聞き入れたかのように振る舞う二人。その夜、お染は、土蔵に閉じ込められた久松のもとに忍んでいき、土蔵の内と外で、決意を確かめ合う。仏間からは、お染の父親が唱える「白骨の御文」の声。早朝、仏間で自害したお染と、土蔵の中で首を縊った久松が発見される。

 初春公演にこんな悲惨な話を持ってきてよいのかとびっくりした。お染と久松を取り巻く大人たちは、決して横暴ではない。長い人生経験を踏まえて、若い二人の幸福を心から願っているのだ。しかし若者は恋に燃え上がり破滅に突き進む。ロミジュリか。蓮如上人の「白骨の御文」の引用が効果的で胸に沁みる。「朝には紅顔ありて夕には白骨となれる身なり/野外に送りて夜半の煙となし果てぬれば、ただ白骨のみぞ残れり」という。

 本作は、同じお染久松ものの『新版歌祭文』に比べると上演回数が少ないが、3~4年に1回は上演されている。私は、平成29年の初春文楽公演(大阪)でも本作を見ており、生玉の段の夢オチで、これは見たことがある、と思い出した。しかし、二人が助かるかどうかの記憶が定かでなく、最後までハラハラしてしまった。ネットで探したら、どうも前回の上演は、二人が逃げおおせて、ひとまず助かる結末を採用していたようだ。今回のプログラム冊子には、わざわざ「原作通りの上演です」という解説がついている。

 質店の段の千歳太夫さん、武張った時代物より、こういうしっとりした世話物のほうが聞きやすくてよい。蔵前の段は織太夫さんが病気休演でがっかりしたが、代演の藤太夫さんもよかった。低く落ち着いた声の「白骨の御文」が耳に残る。

・『戻駕色相扇(もどりかごいろにあいかた)・廓噺の段』

 駕籠かきの二人の江戸自慢、大阪自慢に、駕籠の客である京都・島原の禿が加わっての景事。初春公演の最後らしく、にぎやかに厄払いというところか。

※おまけ:翌日、四天王寺に参拝し、近隣をうろうろしていたら、初代竹本義太夫(1651-1714)の墓のある超願寺に行き当たった。現在の墓石は、義太夫の三百回忌を記念し、2013年に建立されたもので、覆い屋に収まっている。

 しかし調べると、竹本義太夫の墓は四天王寺西門墓地にもあり、東京・両国の回向院にもあるのだな。おもしろい。

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2021フィギュアスケートNHK杯 in 東京

2021-11-15 21:56:32 | 行ったもの2(講演・公演)

2021NHK杯国際フィギュアスケート競技大会(11月12-14日、国立代々木競技場第一体育館)

 最初の売り出しで1日目と3日目(エキシビション)をゲットし、2日目は、トレードを申し込んで粘ってみたが、駄目だった。今年はコロナ対策で入場者を定員のおおむね50%に制限したとという。確かに観客席の最上段や隅の区画はまるごと空いていたが、良席はぎっしり埋まっていた。

 しかし残念だったのは、直前に出場を取りやめる有力選手が相次いだこと。11/4に羽生結弦選手、11/5に紀平梨花選手、11/8のロシアのトゥルソワ、アイスダンスのホワイエク/ベイカー組の欠場が発表になった。その上、初日は、演技直前の6分間練習でウサチョワが転倒、細い体を抱きかかえられて退場し、競技を棄権するのを目の当たりに見てしまった。どうか選手のみなさん、ステイヘルシーで。

 初日の金曜は有休を取ったので、ペアの冒頭から全演技を見ることができた。3位になった三浦璃来/木原龍一組(りくりゅう)の「ハレルヤ」には感動して涙が出てしまった。最終的にSPもFSも順位は変わらなかったが、1位のミーシナ/ガリアモフ、2位のタラソワ/モロゾフ、4位のケイングリブル/レドゥク、みんな美しかった。日本のテレビでは、ペアが放映される機会が少ないので、やっぱり現地に来てよかったと思う。

 アイスダンスは、7位の小松原/コレト組、6位の村元/高橋組(かなだい)ともによく頑張った。個人的には正統派の小松原組のほうが好き。村元組のSP「ソーラン節」はヤンキー風味が強すぎるが、技術的にはずいぶん仕上がっていた。しかし第2グループ5組が登場すると、まだまだ世界上位とは格の違いがあることを思い知らされる。優勝したシニツィナ/カツァラポフ(シニカツ)、2位のチョック/ベーツ(チョクベイ)、3位のフィア―/ギブソン、そして4位のスペインのウルタド/ハリャービンも、みんな美しくて個性的で、ハイレベルなテクニックを堪能した。

 女子シングル、坂本花織ちゃんは期待どおり。欠場の紀平梨花選手に代わってINした河辺愛菜ちゃんの堂々とした演技にびっくりした。男子シングル、宇野昌磨くんはもちろんよかったのだが、その前に、三浦佳生くん、樋渡知樹くんの活躍が嬉しく、山本草太くんの渾身の「Yesterday」には感動した。あと名前は知っていても、生で見るのは初めてだったのが、ヴィンセント・ジョウ(いいなあ)、ナム・ニュエン、カムデン・プルキネン。実は名前も知らなかったのだが、このNHK杯3日間で完全にファンに落ちたのが、韓国のチャ・ジュンファンくん。ロックもクラッシックも行けるが、FS「トゥーランドット(誰も寝てはならぬ)」の王子様ぶりが好き。とにかく男子は楽しくて、忙しかった。

 2日目は、家事と呑み会の合間にテレビとネットで観戦。NHKは、アイスダンス以降の全演技を地上波中継してくれた上に、終わった演技はすぐに特設サイトで動画配信してくれた。感謝、感謝。毎月の受信料が無駄になっていないことを実感した。

 3日目、今年のエキシビジョンは、奇をてらった演出で驚かす選手が少なく、高い技術をしっかり見せてくれた。ただ、楽曲は、お客さんがよく知っていて楽しめるものを選んでいるように思う。河辺愛菜ちゃん、韓流ドラマ「愛の不時着」のテーマだったし(笑)。

 開演前と休憩時間のインタビューコーナーも面白かった。高橋大輔選手は、りくりゅうや宇野昌磨くんへのインタビューアー役も兼任。シングルからペアに転向した木原龍一選手が、身体を作り替えるための筋トレのつらさを告白して「二十歳過ぎて転向するのは」と嘆くのを聞いて、「僕は三十過ぎですけど」とつぶやくので噴き出してしまった。でも笑いごとでなく、高橋選手の肉体改造はすごい。やっぱり一流アスリートなんだと思う。そして、りくりゅうペアはどこまでも可愛い。宇野昌磨くんは、平昌五輪の頃とは別人のように受け答えがしっかりしていて、親戚の子が大きくなったみたいに嬉しかった。

 休憩時間には、荒川静香さんと高橋成美さんが、坂本花織選手、河辺愛菜選手にインタビュー。そのあと、ヴィンセント・ジョウ選手が登場。実は、小さい頃からどーもくんが大好き(ファンの間では有名)だそうで、リアルどーもくんと対面。感想を聞かれて真顔で「Beautiful!」と言っていた。ヴィンス、いい子だなあ。

NHK杯男子2位のジョウ、どーもくんと対面「僕だけが話せるなんて光栄」(スポニチ2021/11/14)

 2022年は札幌だそうだ。自分の生活環境がどうなっているか、出場選手がどうなるか(誰が現役を続けているのか)分からないけれど、できればまた観戦したいな。

 ところで、国立代々木競技場第一体育館は、丹下健三が1960年の東京五輪のために設計した。

 私は半世紀以上、東京に住んでいるが、中に入ったのは初めて。天井がカッコいい。しかしトイレが少なすぎるのが不満。

 羽生くんと梨花ちゃん。叶わなかった夢の痕跡を記念に。

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