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見もの・読みもの日記

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ブロマンス古装劇?/シネマ歌舞伎・アテルイ

2024-02-17 23:30:15 | 行ったもの2(講演・公演)

〇シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』(東劇)

 2015年7月に新橋演舞場で上演された作品で、シネマ歌舞伎(映像作品)としての公開は2016年6月だという。ただし、いま調べて思い出したのだが、もとは2002年に劇団☆新感線が上演した舞台劇である。私は題材に興味があって、舞台劇のときも歌舞伎になったときも、見たいと思いながら果たせなかった。シネマ歌舞伎になってからも、上映予定ないかな~と、時々チェックしていたのだが、先日サイトを見たら、久々の上映が2/15(木)で終わっていた。え!?と慌てたが、幸い、東劇では上映延長になっていたので、さっそく見てきた。面白かった!!! 10年越し、いや20年越しの大願成就だが、実は、具体的にどんなストーリーなのかは全く調べていなかったので、新鮮な気持ちで見ることができた。

 京のみやこでは、蝦夷(えみし)を名乗る立烏帽子党が盗賊行為を働き、人々を苦しめていた。そこに現れたのは、本物の立烏帽子党の女首領・鈴鹿。彼らが偽者であることを見破り、問い詰める。彼らは、帝の側近である無碍随鏡の手下だった。彼らチンピラの処分を請け合ったのは、「みやこの虎」を名乗る若きサムライ・坂上田村麻呂。そこに居合わせたのは「北の狼」流れ者の蝦夷のアテルイ。アテルイは、かつて蝦夷の娘・鈴鹿と恋に落ち、山に迷い込んで、アラハバキの神の怒りに触れたため、名前も記憶も失って、みやこに流れついたのだった。しかし鈴鹿と巡り合い、名前と誇りを取り戻したアテルイは、故郷へ戻る決意を固める。

 一方、田村麻呂は征夷大将軍に任ぜられ、叔父の藤原稀継とともに東北へ赴く。温和な人格者に見えた稀継は、ひそかに田村麻呂を殺害し、その弔い合戦と称して全軍の士気を高めようと画策していた。稀継役は『鎌倉殿の13人』で覚えた坂東彌十郎さん。真っ黒い本性を現わしてからがすごくよかった。曹操とか似合いそうだな~。

 田村麻呂は舞台の奥に向かって崖落ち。この作品、まず衣装が全体的に中華ファンタジーふう(冒頭で出て来た立烏帽子党も錦衣衛みたい)である上に、田村麻呂とアテルイの関係が、どう見ても「ブロマンス」なのである。そこに「崖落ち」が来たので、にやにやしてしまった。これは生きているだろうと思ったら、案の定、田村麻呂は、鈴鹿という娘に助けられる。鈴鹿はかつてアラハバキの神の怒りに触れ、アテルイという青年から引き離されて、隠れ里でひっそり暮らしていた。ではあの立烏帽子は? そこに稀継の兵が踏み込み、鈴鹿は殺害される。

 田村麻呂は、蝦夷と帝軍の戦場に戻り、全軍の兵士に稀継の陰謀を暴露し、アテルイに和睦を勧める。正体を現した立烏帽子は、東北の大地の化身であるアラハバキの神で、アテルイに戦いの継続を迫るが、アテルイは和睦を選ぶ。しかし京に戻った稀継と、田村麻呂の姉・御霊御前は、田村麻呂の嘆願を聞き入れず、アテルイを死刑に処する。いったんは処刑場を逃れたアテルイだが、田村麻呂と剣を交え、その刃の下に倒れる。

 アテルイ(染五郎→幸四郎→現・松本白鸚)と田村麻呂(中村勘九郎)が、ともに青年の純粋さを体現していて、とにかくいいのだ。スピーディで切れ味のよい殺陣には惚れ惚れした。先だって、中国の春節晩会をネットで見ていて、こういう総合舞台芸術って、日本では見る機会がないなあと思っていたのだが、いやいや歌舞伎があったのを忘れていた。あと、パンクな髪型で蝦夷と帝軍を右往左往し、軽蔑と笑いを誘いながら、最後は見事な最期を遂げる蛮甲(バンコー、片岡亀蔵)も面白かった。妻のクマ子(クマの着ぐるみ)を演じていたのは誰w

 物語的にスゴイと思ったのは、アテルイが必死に会うことを望んだ帝の玉座がもぬけの空だったこと。御霊御前は平然と、見える人には見えるのです、とうそぶく。ドラマとしての面白さをとことん追求しながら、同時にかなり強烈な政治的メッセージも感じられる。2000年代の初頭だから作れた作品かなあ、とも思ったが、最近の演劇を知らないので間違っているかもしれない。

 あらためて、アテルイ、田村麻呂の伝説を調べていたら、鈴鹿山の女神である鈴鹿御前は、悪路王アテルイの妻とも、坂上田村麻呂の妻とも言われているのだな。鈴鹿山の立烏帽子という盗賊の話は『宝物集』にあり、『保元物語』にも登場する。アラハバキは、記紀神話には登場しない謎の神だという。本作では、大和朝廷と蝦夷を単純な善悪の構図とせず、蝦夷の神・アラハバキも、人間に理不尽を強いる存在として描かれているのもよかった。そういう深みもあるのだが、誰か日本発のブロマンス古装劇としてリメイクしてくれないかな…。

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原作改変の二作品/文楽・平家女護島、伊達娘恋緋鹿子

2024-01-15 21:23:05 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和6年初春文楽公演 第3部(2024年1月6日、17:30~)

 2年ぶりに初春文楽公演を見た。大阪で見る文楽、特に初春公演は格別。いつものお供え餅とにらみ鯛。

 大凧の「辰」の揮毫は、京都・壬生寺の松浦俊昭貫主による。そういえば、12月に同劇場で壬生狂言の公演があったのだ。壬生狂言、見たことがないので一度見たいと思っている。

・『平家女護島(へいけにょごのしま)・鬼界が島の段』

 名作なので何度か見ている。前回は2018年の初春公演で、俊寛僧都は今回と同じ玉男さんだった。前回の記憶は曖昧だが、舞台に登場した俊寛のたたずまいにすぐに引き込まれた。11月の文楽公演のプログラムに玉男さんのインタビューが掲載されていて、聞き手が「近年ますます、初代玉男師匠に似てこられたように感じます」と話を向けていたのを思い出した。端正で静かな威厳を感じさせる雰囲気が、確かに初代の想わせて嬉しかった。床は織太夫と燕三で、私の推しコンビ。

 鬼界が島に流された三人の罪人、俊寛、康頼、成経。高校の古文で習った『平家物語』では、俊寛以外の二人の名前が記された赦免状が届き、残された俊寛は足摺りして悲憤慷慨するという物語だった。文楽では、清盛の赦免状には二人の名前しかないが、重盛の添え状によって、三人とも乗船を許される(さすが、情に厚い小松内大臣)。しかし成経が夫婦の契りを結んだ海女の千鳥は乗船を許されない。千鳥を娘のように慈しみ、自分を父親と思ってほしいと言ってきた俊寛は苦悩する。決定打となるのは、京で自分を待っていると思っていた妻のあづまやが清盛に背いて自害したと知らされたこと。妻のいない京へ帰る意味を失った俊寛は、自分の代わりに千鳥を連れていってほしいと懇願する。使者の瀬尾が拒絶すると、瀬尾を斬り殺し、罪を重ねた自分は京へは帰れないと主張する。そして人々を乗せた船が俊寛ひとりを残して去っていくと「思い切っても凡夫心」で岩に登り、松の木を掴んで立ち尽くす。

 俊寛の行動が、正義感や功名心でなく、若い成経・千鳥夫妻への情愛や、愛妻を亡くした絶望で決まっていくのがとてもおもしろい。江戸時代の人々にとっては、そのほうがリアルで共感を寄せやすかったのだろう。

・『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)・八百屋内の段/火の見櫓の段』

 この作品は、たとえば甲斐荘楠音が絵に描いていたり、おおむかし(1980年代)薬師丸ひろ子が人形振りでお七を演じるCMがあったり、それなりに有名だと思うのだが、私は一度も上演を見たことがなかった。今回は、どうしてもこの演目が見たくて第3部を選んだ。

 しかしこれも西鶴の『好色五人女』とはずいぶん異なる味付けになっていた。お七は吉祥院の小姓・吉三郎と恋仲だったが、吉三郎の主人・左門之助は殿から預かった「天国(あまくに)之剣」を紛失してしまい、明日の明け方には主従とも切腹を決めていた。お七は借金のかたに親に定められた嫁ぎ先・武兵衛が天国之剣を持っていることを知り、これを盗み出す。心は急くが、すでに町々の木戸は鎖されていた。そこでお七は火の見櫓に登って偽りの鐘を打ち、木戸を開けさせて、吉三郎のもとへ急ぐ。

 偽りの鐘を打てば火炙りになることは承知の上、とお七の一途な心情が描写されているが、「恋人に会いたくて放火を犯してしまう」という、善悪を突き抜けた恋の強烈さはなくなって、恋人とその主君を救う貞女ものになってしまっている。え~舞台正面から這うように櫓に登るお七の振り付け(櫓の裏側から人形を遣う)はとても面白いのに、通俗道徳的な物語はちょっと残念だなあ、と思った。

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浅はかさといじらしさ/文楽・冥途の飛脚

2023-11-27 21:49:01 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和5年11月文楽公演 第3部(2023年11月8日、17:45~)

・近松門左衛門三〇〇回忌『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)・淡路町の段/封印切の段/道行相合かご』

 今秋の大阪公演は行かれないかな、と思っていたのだが、直前に調整をつけて、見に行くことにした。直前でも席が余っていたので心配したが、まあまあ後ろのほうまで埋まっていたように思う。近松門左衛門(1653-1725)三〇〇回忌の今年、春に『曽根崎心中』、秋に『冥途の飛脚』を見ることができて嬉しい。

 私は、学生時代に『曽根崎心中』で文楽の面白さを知ったが、年齢を重ねるにつれ、一番好きなのは『冥途の飛脚』になってきた。忠兵衛は、救いようもなく浅はかなのに、なぜあんなにいじらしいのだろう。忠兵衛を囲む人々は、みな道理をわきまえた大人である。息子の嘘に騙される母親も、忠兵衛の行く末を案じて遊女たちに言いつけに来る八右衛門も、自由のない身の不幸を嘆きつつ、じっと耐える梅川も。けれども、その予定調和の世界を踏み破って、梅川をさらって破滅に突き進んでいくのが忠兵衛である。

 人形は忠兵衛を勘十郎さん。私は2021年2月にも勘十郎さんの忠兵衛を見ていて「封印切の場面では、切るぞ切るぞという気構えが外に現われ過ぎな感じもする」と感想を書いているが、今回は全くそんな雰囲気はなかった。近年の勘十郎さんは、どんな配役でも、すっかり気配を消してしまうようになられた。ちなみに私は、2017年2月に玉男さんでも見ていて、玉男さんの忠兵衛、また見せてくれないかな、と思っている。

 本公演のプログラム冊子「技芸員にきく」は、吉田玉男さんへのインタビューで、聞き手の坂東亜矢子さんが「近年ますます、初代玉男師匠に似てこられたように感じます」と話を向けている。玉男さんが「これから、師匠が遣われた役はもちろん、なさっていない役にも新たに挑戦したいと思っています」と応じていらっしゃるのが興味深い。初代玉男師匠が遣っていない役って、何があるのだろう。

 床は、淡路町が安定の織太夫と燕三。織太夫さんの語りを聞いていると、あまりにも気持ちよくて、自分も声を出したくなってしまう。封印切が千歳太夫と富助。床の脇に控えていた若手の太夫さんは誰だっけな? むかし千歳太夫さんが床の脇に控えていたのを覚えているので、世代が一回りしたことを感じて、しみじみしてしまった。

 国立文楽劇場、飲食について検索すると「劇場内にレストラン、またお弁当の販売は有りません」という古い記事が上がってきてしまうが、お弁当の販売は復活していた。次回は劇場でいただこう。

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アイスショー"Carnival on Ice 2023"

2023-10-09 21:24:34 | 行ったもの2(講演・公演)

Carnival on Ice (カーニバル・オン・アイス)2023(2023年10月7日、18:30~、さいたまスーパーアリーナ)

 今年の三連休は遠出の予定がなかったので、直前に流れてきた広告を見て、衝動的にチケットを取ってしまった。COIは何度か見に来たことがあると思って記録を探ったら、2010年、2011年、2015年に観戦していた。8年ぶりか~さいたまアリーナへのアクセスもすっかり忘れていた。

 出演者は、宇野昌磨、島田高志郎、友野一希、坂本花織、宮原知子、吉田陽菜、りくりゅう(三浦璃来&木原龍一)、吉田唄菜&森田真沙也、イリア・マリニン、ジェイソン・ブラウン、ケヴィン・エイモズ、モリス・クヴィテラシヴィリ、イザボー・レヴィト、マライア・ベル、ルナ・ヘンドリックス、キミー・レポンド、パパシゼ(パパダキス&シズロン)。そして、ちょっと別格な感じのステファン・ランビエル、荒川静香。注目の若手、現役バリバリ、レジェンドがバランスよく揃っていたので、これは見に行って損はないと判断し、その判断は間違っていなかったと思う。

 圧巻だったのは、前半最後のコラボプロ、ステファン、知子ちゃん、静香さんによる「ミス・サイゴン」。2022年のFOI(フレンズ・オン・アイス)で演じたプロの再演だという。噂には聞いていたけど、見ていなかったのでありがとうございます。フィギュアスケートの名プログラムって、伝統芸能みたいに何度でも再演してほしいし、別のスケーターに受け継がれてもいいと思う。はじめはステファンと知子ちゃんが登場。リフトもあり、スピンの共演もあり、アイスダンスみたいだった。それから二人が下がったあと、若草(若竹?)色のコスチュームの荒川静香さんが登場、パッショネイトなソロパート。再び二人が登場し、爆撃音の中、知子ちゃんと静香さんが氷の上に倒れるフィナーレ。だったかな? いろいろなメッセージがストレートに伝わってきて泣けた。

 その知子ちゃん、後半には全身ショッキングピンクのパンツルックで登場し、キュートに踊りまくってくれた。プリンスの「It's About That Walk」という曲だそう。この振り幅、素晴らしい。ステファンの「Simple Song」、パパシゼの長机プロ(今回は机でなく黒い布で覆った長箱)は、今年のFaOIの再演だったが、どちらも好きなプロなので、得をした気分だった。3階席ならではの見応えというか、氷上に身体を倒したステファンの妖艶なこと。現役選手たちの、高難度ジャンプを次々跳びまくるプロももちろん凄いのだが、私の見たいのは、そっちじゃないんだなあ…ということをあらためて感じてしまった。

 なお、ゲストアーティスト(EXILE TAKAHIRO、ハラミちゃん)が突如追加されたり、当日に座席の振替があったり、運営にはやや混乱した印象があった。一方で、コアなスケートファンでない観客を呼び込もうという努力は買う。今回、周りに男性客を複数見かけて新鮮な感じがした。

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初代国立劇場の思い出

2023-09-04 21:27:02 | 行ったもの2(講演・公演)

  半蔵門の国立劇場が、老朽化に伴う建て替え工事のため、2023年10月で「閉場」することになった。いまの劇場は1966年11月に開場したものだという。

 私が初めて国立劇場に入ったのは、高校生のときだ。高校1年生のときに歌舞伎教室で『俊寛』を見て、高校2年生のときに文楽教室で『伊賀越道中双六』を見た。歌舞伎はわりあい面白かったが、文楽は全く面白くなくて、実はずっと演目を忘れていた。馬が出てきた記憶だけはあり、塩原太助ものか?などと思っていたが、文化デジタルライブラリーの「公演記録を調べる」で検索したら、どうやら『伊賀越道中双六』らしい。高校生には地味すぎて退屈だった。

 しかし、大学院生時代に「文楽を見たい」という留学生に付き合って『近江源氏先陣館』を見たら面白くて、文楽ファンになってしまった。以後、ちょっと間遠になった時期もあったけれど、だいたい年1回くらいは文楽を見に通ってきた。舞楽や声明、民俗芸能、わずかながら歌舞伎公演を見たこともあるが、圧倒的に大劇場より小劇場に足を運んだ回数のほうが多い。

 学生時代は平日に来ることができたので、席を選ばなければ当日券で入ることができた。当時は、芝居見物とはそういうものだと思っていた。いま思い出したのだが、一度だけ、劇場に来てみたら満員御礼で呆然としていたら、知らない人に「余っているから」と券を譲ってもらったことがあったように思う。

 国立劇場は2階に大きな食堂があり、3階に喫茶室があって、カレーとスパゲティミートソースとそば・うどんなどが食べられた。確か初期の頃は、国会図書館の喫茶室と同じ業者で「MORE(モア)」という名前だったと思う。私は3階の愛用者で、幕間にずいぶんお世話になった。よく通る声のマスター、どこかでお元気にされているかしら。

 国立劇場へのアクセスは、半蔵門駅を利用することが多かった。なので、国立劇場の正面を見た記憶はほとんどなく、思い浮かぶのは、裏門の風景ばかりである。

 直線だけで構成された無駄のないデザイン、特に校倉造りを模した壁面はとても美しい。建て替えで、これ以上の建物ができるとはとても思えない。どうして、この芸術的な建物を「建て替え」なければならないのか、理解に苦しむところである。やっぱり、ホテルやレストランをつくって収益性を上げるため?

 それから、国立劇場のロビーは、大劇場も小劇場もさまざまな絵画や彫刻作品で飾られている。小劇場は文楽にちなんだ作品が多く、私が好きだったのは森田曠平による『ひらがな盛衰記(笹引の段)』。腰元お筆を遣うのは文雀さん。平成元年(1989)の作である。新しい劇場にも、どうかこれらの作品がきちんと引き継がれますように。

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(たぶん)さよなら初代国立劇場/文楽・寿式三番叟、菅原伝授手習鑑

2023-09-03 11:40:57 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 人形浄瑠璃文楽 令和5年8・9月公演 第2部(2023年9月2日、15:00~)

 建て替えに伴う「初代国立劇場さよなら特別公演」。2022年の9月公演からこのカンムリが付いていたので、慌てて見に行ったら、休館はまだ先と分かって拍子抜けしたが、いよいよ文楽は、今期が本当の「さよなら公演」になるはずである。演目は、第1部と第2部が『菅原』の通し。第3部が人気の『曽根崎心中』。私は『寿式三番叟』のおまけつきの第2部を選んだが、これがとんでもなく贅沢なおまけだった。

・『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』

 私の席は下手の端で、床(ゆか)から遠かったが、開演前、ずらり並んだ三味線の数で、これが「特別公演」であることが感じられた。プログラムの記載に従えば、鶴澤燕三、鶴澤藤蔵、野澤勝平、鶴澤清志郎、野澤錦吾、鶴澤燕二郎、鶴澤清方の7名。太夫さんは、プログラムだと、翁・豊竹咲太夫、千歳・豊竹呂太夫、三番叟・竹本錣太夫と千歳太夫、ほかに豊竹咲寿太夫、竹本聖太夫、竹本文字栄太夫となっているが、実際は、翁・咲太夫、千歳・錣太夫、三番叟・千歳太夫と織太夫だったと記憶する。1つの舞台で、このメンバーの声の聴き比べができるなんて、普通ありえない。すごい! みんな質の異なる美声である。咲太夫さん、舞台と床の間から出ていらしたとき、遠目に分からなかったが、声を聴いたら私の知っている咲太夫さんで安心した。人形は、千歳を桐竹紋臣、荘重な舞を舞う翁を桐竹勘十郎。かなり激しい動き(体力がないとできない)の三番叟を吉田玉勢と吉田蓑紫郎。華やかでめでたくて、楽しかった。

・『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)・北嵯峨の段/寺入りの段/寺子屋の段/大内天変の段』

 以前にも書いたことがあるが、私は小学生のとき、家にあった「少年少女世界の名作文学全集」の日本編でこの「寺子屋」の物語を読んだ記憶がある。同じ全集には秋成の「白峯」や「菊花の契」なども入っていて、なんというか名作(古典)というのは、いまの感覚とはずいぶん違うところがあるのだな、というのを子供ながらに学んだ気がする。

 「北嵯峨の段」は、菅丞相の御台所が隠れ住む山里に、時平の家来たちが現れる。八重(桜丸の妻)は奮戦むなしく命を落とし、御台所も絶対絶命と思われたところ、謎の山伏が時平の家来たちを蹴散らし、御台所を連れて去る(全編の筋を知っていると、山伏の正体は松王丸だなと想像がつく)。

 そして武部源蔵夫婦の家を舞台にした「寺入り」「寺子屋」。ものすごい悲劇なんだけど、無邪気な子供たちの様子が緊張の緩和剤になっていて、何度も笑いが起こる。吉田蓑二郎の女房千代は凛として美しかったし、吉田玉助の松王丸は(我が子の最期の様子を聴いたときの動揺と悲しみなど)現代人にもある程度納得できて、感情移入がしやすかった。「寺子屋」の切は呂太夫さん。むやみに声を張るタイプではなく、静かに語り始めるのだが、いつの間にか物語に没入させられる。

 「大内天変の段」はたぶん初めて見た。文楽の狂言にありがちな、最後は無理矢理めでたしめでたしで収めるヤツ。この夏、根津美術館に展示されていた『北野天神縁起絵巻』を思い出した。清涼殿落雷事件に巻き込まれたのは藤原清貫(即死)や平希世(重傷)なのだが、狂言では、死んだのは三善清行(きよつら)になっていて、清行、ちょっと可哀想。時平の両耳から二匹の蛇が現れる場面は、多くの絵巻で描き継がれているが、桜丸夫婦の亡霊ということになるのか。なるほど、なるほど。こういう古い伝説の焼き直し(二次創作)、巧いなあと感心する。

 本公演のプログラム冊子には、山川静夫(元NHKアナウンサー)が「ありがとう、国立小劇場」と題して寄稿し、初代吉田玉男と吉田蓑助の舞台の思い出などが語っている。児玉竜一氏の「初代国立劇場の文楽公演」は「第4回 二十一世紀の文楽」で、私の記憶にも残る新しい話題(テンペストや不破留寿之太夫の新作公演、大阪市の補助金問題、等々)が書かれており、興味深かった。これ、貴重な記録なので、第1回(令和4年12月公演)から全てどこかにアーカイブして、できればオープンアクセスにしてほしいなあ…。

 久しぶりにぎっしり埋まった客席で嬉しかった。まだチケットが取れるなら、ぜひ1人でも多くの方に見てほしい。話題の『文楽名鑑2023』も購入! 忘れるところだったが、隣りの席のお姉さんが幕間に読んでいたので思い出した。

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観音の大慈大悲/声明公演・長谷寺の声明(国立劇場)

2023-08-05 23:42:35 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 第62回声明公演『真言宗豊山派総本山 長谷寺の声明』(2023年8月5日、14:00~)

 長谷寺には何度か行ったことがあるが、これまで声明を聴く機会はなかったので、どんなものか分からないまま聴きに行った。今回のプログラム「二箇法用付大般若転読会(にかほうようつき だいはんにゃてんどくえ)」は、大般若経の転読と二箇法用(唄・散華)を中心とし、豊山派各寺院で、新春祈願などを主として様々な祈願に対応する法会として修されているそうだ。

 幕が上がると、中央には十一面観音の半身を描いた巨大な画幅。現在の本堂ご本尊が、天文7年(1538)に再興されたときに設計図として描かれた、等身大の「お身影(おみえ)」だという。説明してくれたのは、長谷寺・迦陵頻伽聲明研究会の川城孝道氏で、長谷寺の歴史・豊山声明・国立劇場の声明公演の回顧などをお話された。本公演のプログラム冊子には、第1回(昭和41/1966年)から今日まで、全62回の声明公演一覧が掲載されている。記念すべき第1回は、天台宗と真言宗の僧侶たちが協力して実現したもので、真言宗豊山派からは、まさに今回と同じ「二箇法用付大般若転読会」が公開された。法会を舞台上で観客の目にさらすことには、戸惑いもあったようだが、豊山派の青木融光師は、本堂にも劇場にも仏様はいらっしゃる、劇場では観客こそが仏様、とおっしゃっていたそうだ。

 以後、天台・真言の僧侶の交流による声明の研究が進み、国内外の作曲家や他の芸能とのコラボレーション、海外への発信も行われるようになった。プログラム冊子の記述で驚いたのは、中学校の音楽科教科書に東大寺修二会の「観音宝号」(南無観のこと?)が取り上げられたという話。へえ、私の時代は、中学高校の音楽で日本の伝統音楽に触れたことはなかったなあ。

 お話が終わって、あらためて法会の幕が開く。舞台の中央には、観客に正対する導師の壇。この三方を囲むように緋毛氈が敷かれ、大般若経らしい秩が置かれている。舞台奥には、出入り用の中央を空けて左右に7席ずつ。上手側に7席、下手側に8席。導師を含めて30人の僧侶が上堂して着座した。いずれもオレンジ色の袈裟をつけ、衣は黄・緑・紫で、とても華やか。はじめは、梵語の讃、云何唄(うんがばい、漢語の声明)、散華など、重々しく進むので、ちょっとウトウトした。

 それから導師の表白(漢文読み下し調、法会の趣旨などを述べる)があり、おもむろに大般若転読が始まる。長谷寺の転読は初めて見たが、薬師寺などと同じ方式で、黄色い紙の経典をさらさらと滝のように翻す様子がきれいだった。

 楽器はあまり用いないが、摺り合わせて鳴らすシンバルみたいな楽器と、ボーンと鈍い音を出す小さな銅鑼のような打楽器(あわせて鐃鈸/にょうはつ、と呼ぶ?)が、ときどき使われていた。二人組の承仕(小坊主)が黒子のように出入りして、必要なものを届けたり、片付けたりする。いつも顔の高さで合掌し、きびきび動く姿が微笑ましかった。

 転読のあとは「九條錫杖経」という、錫杖の功徳を説いた経典を全員で唱える。毎朝の勤行でも唱えるのだそうだ。4文字句を繰り返すところの多いリズミカルなお経で、承仕の一人が太鼓(釣太鼓)を力強く叩いて拍子をとっていた。特に「大慈大悲(だーいじだいひ)、一切衆生」というフレーズが耳に残ったが、プログラムの解説でも、これが長谷寺の声明の核心であることが述べられていた。

 個人的に驚いたことを2つ書き留めておく。今回、舞台で使用した大般若経は、江戸川区小岩の善養寺が所蔵する鉄眼版で、天明の浅間山大噴火の際、江戸川下流にも多くの死者が流れつき、その供養のために小岩・市川の人々が寄進したものという。私は小岩の生まれで、善養寺を遊び場として育った(善養寺のご住職にも可愛がってもらった)ので、浅間山噴火の犠牲者供養碑が境内にあったとことは覚えているが、鉄眼版の一切経があったとは知らなかった。もう1つは、声明公演で新作を手掛けた作曲家の中に近藤譲先生のお名前があったこと。母校の先生で、お世話になったことがあるのだ。

 今年10月から建て替えのため閉場する国立劇場。9月に小劇場の文楽公演は見に行く予定だが、たぶん大劇場はこれが最後だと思って名残を惜しんできた。ロビーに飾られている絵画や彫刻、どこかで預かって公開してくれないだろうか。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 神戸千秋楽"ライブビューイング

2023-07-01 23:16:39 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023ライブビューイング(神戸:2023年6月25日、13:00~)

 私の一番好きなアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)。今年は宮城公演1回と新潟公演2回を現地で見ることができた。最後の神戸公演は、金曜だけチケットが取れたのだが、仕事を休むことができず、泣く泣くリセールに出した(瞬殺で買い手が付いた)。日曜はライブビューイングがあることが分かっていたので、我が家から近い下町の映画館のチケットを確保した。前日にコンビニで発券したら、最前列の席で笑ってしまったが、このアイスショーに関しては贅沢は言わないことにしている。

 この日はFaOI2023の大楽で、プロスケーターのジョニー・ウィアがこのツアーを最後に引退することを表明していたので、何かとんでもなく「特別」なことが起こるのではないかという予感はあった。まず冒頭の群舞「History Maker」から、出演者がみんな特別な気持ちで滑っている感じがした。ディーン・フジオカさんが、歌の間に何かシャウトしたのを私は聞き取れなかったが、「We love you, Johnny, You're the history maker!」と叫んでくれていたらしい。ディーンさん、フィギュアスケートと接点を持ったのはこのツアーが初めてだと思うのに、何の衒いもなく、観客と出演者の思いを表現できてしまう素直な人柄と才能に惚れた。後半のMCでは「終わってほしくないですねえ、終わりたくない」を繰り返していた。

 ジョニーの「Creep」は、ここまで孔雀のような華麗な衣裳が見どころだったが、最終日、照明が明るくなると、リンク上にいたのは、ノーメイクに練習着(くたびれたタンクトップとスパッツ)のジョニーだった。これは泣いた。後半の「clair de lune(月の光)」は最後を飾る純白の衣裳。万雷の拍手を浴び、何度も何度も客席に手を振って退場した。退場口で他のスケーターたちが「Thank you Johnny」の看板?垂れ幕?を持って待っていたのは、このときだったかしら。

 そのほかの見どころを書いておくと、ステファンは「Simple Song」。最後に手首から先にだけ照明が当たる演出が好き。宮原知子ちゃんの「Slave to the music」を見ることができたのは嬉しかった。ディーンさんと田中刑事くんの「Apple」も大画面のおかげで魅力マシマシ。

 大トリは、中島美嘉さんと羽生結弦くんの「GLAMOROUS SKY」。大ヒットした映画『NANA』(2005年)の主題曲であるが、私はマンガも映画も、この頃、あまり興味がなくて、記憶に残っていない。なので、新潟公演で初見のときは置いていかれた気持ちでいたが、だんだん好きになってきた。中島美嘉さんも羽生くんも、軽々とジェンダーを越境していく感じが気持ちいい。ショープログラムとしてはハードな構成で7回ジャンプを跳んで全て成功させた。最後に大きなハイドロを描いて、原点に戻っていくのも美しかった。

 そして演技が終わったとき、羽生くんはすでに泣いていたように思う。フィナーレの群舞「STARS」はなんとか笑顔で乗り切ったんだけど、羽生くん、大丈夫か?と心配しながら画面を見ていた。以下は私の記憶の誤りもあるかもしれないがご容赦を。いつもの周回から一芸大会になり、ジョニーとステファンが向かい合わせのクリムキンみたいなスタイルで一緒に滑る技を披露。そのあと、Tシャツ姿でリンクに戻ってきた羽生くんとジョニーが並んでズサー(仰向けに氷上に滑り込む)を披露。

 それから会場アナウンス(女性)に応えて、ジョニーがマイクを取って会場に挨拶。会場アナウンスが「ジョニー、私たちからのプレゼントがあるのよ(英語)」と呼びかけると、会場が暗転し、観客の皆さんがスマホの明かりを点けて、ペンライトのように振ってくれた、感極まって涙するジョニーを多くのスケーターたちが取り巻き、抱き着き、ぎゅうぎゅうの団子状態になってしまったところに、もう一度、王子様衣装に着替えて、大きな花束を抱えた羽生くんが登場。しばらく気づいてもらえなくて、呆然としていた(笑)。ようやく花束を渡すと、ひとり緊張した面持ちでリンクの中央へ去っていく羽生くん。音楽がかかり、ジョニーのレガシー・プログラム「Otonal」のクライマックスを滑る。ジョニーと他のスケーターたちは、ステージの端に腰を下ろして、それを見ていた。ライビュのカメラは、羽生くんのパフォーマンス越しにスケーターたちを捉えていて、とてもよかった。「Otonal(秋に寄せて)」は競技プロとして羽生くん自身も滑ったことがあるが、分かる人によれば、ジョニー版の完コピ演技だったという。

 再び周回。坂本花織ちゃんがスマホを持ってきて、自撮りスタイルでみんなと記念撮影してたのはこのときかな(ジョニーのインスタにそれらしい写真あり)。最後に羽生くんとジョニーは、声を揃えて「ありがとうございました」を言って退場口に消えて行った。

 FaOIは、毎年、忘れられない思い出を残してくれるのだが、とりわけ今年は歴史の目撃者になった気がした。人は出会い、別れても、歴史は続いていく。来年はどんなショーになるだろう。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 新潟"

2023-06-20 19:51:05 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 新潟、初日(2023年6月16日 17:00~)/3日目(2023年6月17日 14:00~)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)新潟公演を見てきた。金曜は全日有休を取ったにもかかわらず、午前中は在宅でオンライン会議、PCを抱えて新幹線に乗り、車中でも仕事のメールを書いていた。それでも6年ぶりの新潟に来ることができて嬉しかった。初日は東側のSS席の真ん中付近。朱鷺メッセのSS席はアイスリンクが近いので、スケーターが大きく見える。「ヒスメ」で周回する羽生くん、「Simple Song」のステファンも間近に見えた。

 2日目はショートサイド後方のA席、やや西側寄り。リンク全景が把握でき、ステージとスケーターが一緒に視界に入るのがありがたい。

 出演スケーターは、Aツアー(幕張、宮城)から、山本草太、友野一希、荒川静香、フィアー&ギブソンがOUT、無良崇人、デニス・バシリエフス、宮原知子、坂本花織、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ(パイポ―)がIN。ゲストアーティストは中島美嘉さん、ディーン・フジオカさん、小林柊矢さんに交代した。音楽監督の鳥山雄司さん、バイオリンのNAOTOさん、キーボードの宮崎裕介さんは継続。

 金曜はBツアーの初日だったので、どんな楽曲・プログラムがどんな順番で来るのか、全く分からず、驚きの連続だった。アンサンブルスケーターが円陣をつくった状態から始まり、黒のボトムにロイヤルブルーの布を巻きつけたような衣装で次々にスケーターが登場。そのまま最初のコラボプロになだれ込む。ステージにはディーン・フジオカさん、アニメ「ユーリ!!! on ICE」の主題歌「History Maker」だった。私は、このアニメ、存在は知っていたけど見たことがなくて、主題歌を聴くのも初めてだった。それとディーンさんも、俳優としては知っていたが、こんなにパワフルな歌唱力の持ち主とは全く知らなかったので、ただ呆然。ディーンさんを載せたステージの一部がリンク中央に移動(ルンバと呼ばれていた)すると、その周りを、スケーターたちが跳びまわり、滑り抜け、技とスピードを競い合う。フィニッシュが各人のレジェンドプログラムの決めポーズだったというのは、あとで知った。

 ディーンさんは後半では、しっとり聴かせる「sukima」をステファンとコラボ、田中刑事くんとは熱い「Apple」を披露。ディーンさん、2日目のMCで、スケーターが素晴らしいので自分も観客のひとりのような気分になってしまう、いや、しっかり仕事しなくちゃ、と自分に言い聞かせていて、微笑ましかった。と思ったら、突然、中国語と英語でもコメント。中国語では、遠くから来てくれてありがとう的なことを言っていたと思うのだけど定かでない。最後の「難忘的表演」しか聞き取れなかった。

 なお、ステファンは、初日が「Simple Song」2日目はマーラーで、Aツアーのプロを2回ずつ見ることができた。ジョニーは2プロとも持ち越し。新潟公演のプログラムに羽生くんとの対談が掲載されていて、二人が最初に会ったのは、羽生くんがシニアに上がった2010年だという。この年はFaOIが始まった年でもあり、Wikiを見たら、最初のFaOI公演の開催地が新潟なのだ。あの頃、女の子みたいに華奢だったジョニーも、年齢を重ねて、ずいぶん体形も変わったけれど、ジョニーのスケートはジョニーのままで、プロスケーターとしての最後の演技を新潟で見ることができて感慨深かった。

 パパシゼは、前半のトリは「Roses」というピアノ曲プロ。甘く仄暗く不穏で、なんというか文学的。後半は映画みたいな長机プロを持ち越し。Bツアーから参加のパイポ―は、中島美嘉さんとのコラボ「桜色舞うころ」がびっくりするほどよかった。

 宮坂知子ちゃんは初日がステファンの「Slave to the music」の「完コピ」。躍動感にあふれ、素晴らしかったんだけど、私の座席は、クライマックスのスピンが正面のライトの直射に邪魔されてよく見えず、2日目こそしっかり見ようと思っていたら、別プロだった。デニスのコラボプロ「茶色のセーター」もよかったなあ。織田くんの「瞳を閉じて」もよかったし、今公演はコラボプロが全て私好みだった。あ~ハビの2プロ、ややエキゾチックな曲と、軽快でおしゃれなショーマン的な曲もよかった。

 それらを全て超えてしまったのが大トリ、中島美嘉さんと羽生くんのコラボ「GLAMOROUS SKY」ということになるのだろう。このプロのことは、今週末、神戸公演のライブビューイングを見てから書こうと思う。私は、初日、衝撃が強すぎて、ポカ~ンという状態だったのだが、徐々に魅力を噛みしめているところだ。

 初日の夜公演が終わって、徒歩で新潟駅方面に向かう途中、前方で女の子たちがきゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえたので、近づいてみたらパパシゼのガブリエラさんが、ラフな黒いワンピース姿で、にこにこしながらコンビニに入っていくところだった。水色のTシャツ姿のハビエル・フェルナンデスは、連れの男性と駅のほうに歩いて行った。こういうのも地方公演の小さな楽しみ。

 あやうく書き落とすところだったが、両日とも最後は羽生くん渾身の「ありがとうございました!」を聞けた。初日は「みや!」というみやかわくん(宮川大聖さん)への愛ある呼びかけで場内が騒然となる場面も体験できた。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 宮城"

2023-06-10 20:49:52 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 宮城、初日(2023年6月2日 17:00~)

 今年もアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)の季節が巡ってきた。昨年のチケット争奪戦には泣かされたが、プロ転向を表明した羽生くんが、矢継ぎ早に新たなアイスショーを立ち上げたこともあって、FaOIへの注目は、少しクールダウンしたように思う。それでも、やっぱり土日のチケットは入手困難。宮城公演は金曜しか当たらなかった。私は在宅で12:00まで仕事をしたあと、東京駅から新幹線で仙台に向かった。新幹線の車中でもPCを開いて仕事の続きをしていた。

 この日は台風2号の接近で、線状降水帯が発生し、山陽新幹線や東海道新幹線の運転見合わせが発生する大雨になった。まあ神戸や静岡の公演に当たらなくて幸いだったかもしれない。仙台駅からシャトルバスで、利府町のセキスイハイムスーパーアリーナに到着。FaOI 2019公演で来たときは、真夏のような青空で、お祭りみたいな露店の列をのぞいてまわるのが楽しかった思い出がある。今回は、サブアリーナに駆け込んで雨宿り。そのあと、少し開場を早めてくれたので、アリーナに移動した。座席は東側スタンドA席で、いちばんショートサイド寄り(ステージから遠い)のブロック。

 Aツアー(幕張、宮城)の出演者を書き留めておく。男子は、羽生結弦、織田信成、田中刑事、友野一希、山本草太、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、ジョニー・ウィア。女子は、荒川静香、三原舞依。アイスダンスはパパシゼ(パパダキス&シゼロン)、ライラ・フィア―&ウィル・ギブソン。それにエアリアル(フライング・オン・アイス)のメアリー・アゼベド&アルフォンソ・キャンパと、AiRY JAPAN with BLUE TOKYOのチーム。アーティストはDA PUMPのISSAとKIMI、夏川りみ、福原みほ、バイオリンのNAOTO、そして音楽監督は鳥山雄司。

 私が長年、FaOIをお気に入りにしてきたのは、海外スケーター(特に男子)の演技を見ることが目的だった。それでいうと、今年の布陣はちょっと寂しい。もちろん、久しぶりのフェルナンデスは品よくドラマチックでカッコよかった。ランビエルは前半がマーラー交響曲第5番、後半が「Simple Song」(韓国のソプラノ歌手スミ・ジョーの歌唱)の2プロ。どちらも拍手さえためらわれる至高の演技だった。ゆっくりした一蹴りから、滑らかな軌跡が氷上に生まれ、それが永遠に続いていく。美しい夢を見ているようだった。

 今年でプロ引退を表明しているジョニーは前半がなつかしい「Creep」、孔雀のような虹色の衣装だった。後半は、これもなつかしいレディーガガの楽曲で始まり、しっとり終わる「clair de lune」、白鳥をイメージした純白の衣裳。全盛期に比べれば、体型も変わり、動作もモタつき気味だけど、やっぱりオンリーワンの魅力がある。フィギュアスケートって、少なくともアイスショーでは、こういう男女を超越した表現がありなんだ、ということを教えてもらった。本当にありがとう。

 あとはパパシゼ。前半のトリでは、福原みほさんの生歌「I Will Always Love You」(ホイットニー・ヒューストンの名曲)とコラボの王道プロ。後半の「In Line」は「机プロ」が代名詞になっているみたい。会議室にあるような長机(に見えた)を氷上に持ち出し、これを挟んで二人が演劇的な演技を繰り広げる。机を叩いて言い争ったり、座ったり、寝そべったり。もちろんダンスの見せ場も十分にある。

 荒川静香さんは、年々凄みと深みを増している気がしている。特に後半の「I’d Give My Life for You」(ミス・サイゴンから)は、戦場を思わせるヘリコプターの音、赤い照明から始まる。昨年の「ひまわり」もそうだったが、大きく感情が揺さぶられるプロだった。

 大トリの羽生くんはDA PUMPとコラボの「if…」。大きく身体を使って、激しく動く動く。最後は両足を前後に開脚した決めポーズ。ちょっとおばさんはついていけてないかもしれないが、若い子たちが大喜びだったので何より。そのあと、群舞の「USA」は分かりやすくノリノリで可愛かった。

 今回、ステージの一部がリンクの中央に移動する仕掛けを使っていて、賛否はあったけど面白かった。あと「AiRY JAPAN with BLUE TOKYO」のエアリアルも私は楽しめた。これから出演者も観客も代替わりしていくと思うので、いろいろ試してみていいと思う。でも、会場アナウンスが、いつもの声の方(蒲田さん)から変わっていたのは、ちょっと寂しかった。終演後は雨も小降りに。仙台駅前で遅い夕食を食べ、1泊した。

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