前回からの続きです。
福岡から持って来ていただいたKさんの真空管アンプ3台はいずれもSN比がよくて雑音が皆無なので安心してテストが続行できた。3日(水)の11時半から開始した試聴だが、JBLの375ドライバーに3時間ほどかけて、次はいよいよ真打の「AXIOM80」(以下「80」)の試聴へ。
我が家の2系統のシステムのうち、お客さんが見えたときに最初に聴いていただくのは必ずJBL3ウェイシステムにしている。大概の方から「もうこれで十分ですね」と仰っていただくのだが、次に「80」システムを聴いていただくと「音楽を聴くのならやはり80ですかね~。」
この日のKさんも同様だった。お互いに「80」の同好の士として心ゆくまでの納得と安心の展開である。
なお、本日のテスト盤として大活躍したのがKさんが持参された次のCD。小さい頃から耳に馴染んだ「日本歌曲」はやはり永遠の心の歌である。第1トラックの「花の街」は昔から大好きな曲だが、17トラックの「子守唄」を聴いていると思わず涙した。Kさんもときどき涙されるので、この日はいい歳をした「泣き虫男」が二人!
はじめに現在鳴らしている「80」のWE300Bアンプ(モノ×2台)の真空管テストをしてみた。手持ちの「WE300Bオールド」「WE300B1988年製」「中国製4300BC」の3種類。「80」は神経質でアンプのえり好みが激しく、それぞれの違いを明確に出すので実に判定しやすい。結果はもう“言わずもがな”だが、意外に中国製が善戦。
「結構聴けますよ。音色にもっと艶が乗ってくれれば言うことなしですが値段を考えると上出来です。」と、Kさん。WE300Bが高騰している状況では存在価値十分。
なお、現在「80」の超高域を補完するためにJBL075ツィーターを使っているのだが、この必要性と使い方についても意見交換。
Kさんから「075はツボにはまるとこのうえなく素晴らしいツィーターですが、能率が110dbもあるので鳴らし方が難しくて苦労されている方が多いです。これをうまく鳴らす一番のコツは小出力の真空管アンプを使うことだと思います。本日持参した“71A”アンプを075用としてテストしてみましょうか。」とのご提案。
「71A」アンプは出力わずか0.5ワットなのですぐに交換し、以降のテストはずっとこれで固定。
その後、持参された真空管アンプの入れ替え試聴を行ったが、JBL375のときと同様に、ここでも「245(なす)」真空管アンプの独壇場ともいえる展開になった。音の抜けといい、透明感も素晴らしいが、何よりも「これでずっと音楽を聴いていたい」という気にさせるところが凄い。まったく自然な鳴りっぷりなので音質がどうのこうのという次元を明らかに越えている。
もともと「80」(イギリス製)の開発は「45」真空管アンプで進められたので、相性がいいのは当然のことだろう。
今や伝説の人となったオーディオ評論家の瀬川冬樹さんが「80」を愛聴されていたのは有名な話だが、アンプはプリの「マランツ7」にパワーは「245(なす管)」を使っておられたというから、この組み合わせは十分保証付きの話ではある。
しかし「どうだ、参ったか!」といわんばかりの展開に、心中穏やかならぬものが漂う(笑)。
是非ともここで一矢報いたいところなので、頼みの綱として登場したのが「WE300B(アメリカ)」と並んで名三極管の双璧とされる「PX25(イギリス)」真空管アンプ。
ここで、ものはついでとばかり手持ちの「PX25」の中から3種類の球のテストをしてみることにした。
左から「GECのなす管」「テスラのRD25A直筒管」「オスラムのドーム管」だが、結果的にはいずれも甲乙つけ難し。
GECは独特の艶があって肉付きが豊かで好ましいし、テスラは細身で品のいい鳴り方をするし、この両者の長所を2で割ったのがオスラムのドーム管。
Kさんによると「WE300Bはありのままを素直に表現する武骨な正直者といった印象です。これに比べてPX25は己の見せ所を知っている千両役者ですね。これを開発したイギリス人の耳とセンスの良さに改めて感心しました。オスラムのドーム管は245と鳴り方がすごく似てます。こなれてくると245よりも、もっとうまく鳴る気がします。たぶんクオリティは上ではないでしょうか。それにしてもWE300BやPX25の名管を「80」でこんなに沢山試聴できるなんて、まったくオーディオ冥利に尽きます。」
とまあ、こういうわけで我が家のアンプの編成もとうとう変更することに相成った。
JBL375ドライバーには、同じアメリカのWE300Bアンプをあてがい、「80」には同じイギリスのPX25アンプを持ってくることにした。考えてみるとアメリカとイギリスのお国柄の違いが文化として音質に反映されるというのも興味深い話。「音」の世界にはそれだけ奥の深いものがあるのだろうか。
ただし「80」用としてのWE300Bにはこれまで「オールド」を使ってきたが、375用となるととても使う気になれず「1988年製」を使用することにした。
理由はもうお分かりですよね(笑)。
なお、Kさんによると「80のオリジナルを持っている方はよく自慢なさいますが、復刻版とそんなに変わりませんよ。しいて言えば低音の出方がちょっと違うくらいです。ましてや〇〇さんの場合、3ウェイで鳴らしてあるのでまったく違いが分かりません。現実にオリジナルを使っている私が言うのですから間違いありません。」には勇気づけられた。
ただし、我が家の「80」システムにもまだいろんな課題があるようで、アンプによっては「80」とウーファーとの異質感がつきまとうようだ。それと適切な信号入力によるエージングの必要性も指摘された。とにかく気難しいユニットなので完全に乗りこなすのには引き続き苦労しそうだ。
鳴らし方が悪いと「キンキン、キャンキャンした音が出る、低音がまったく出ない、実に扱いにくい“じゃじゃ馬ユニット”」と、散々な悪評がつきまとう「80」だが、Kさんは独自のボックスを使ってフルレンジで見事に手なずけているそうで、とりわけ豊かな低音のせり上がってくる響きに見るべきものがあるというから凄い。
「80」単独で不足のない低音が出せるなんて、理想的な鳴らし方なのでこれは是非、福岡のご自宅に近々お訪ねせねばなるまい。