「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「アンプ転がし」と「球転がし」

2013年04月06日 | オーディオ談義

前回からの続きです。

福岡から持って来ていただいたKさんの真空管アンプ3台はいずれもSN比がよくて雑音が皆無なので安心してテストが続行できた。3日(水)の11時半から開始した試聴だが、JBLの375ドライバーに3時間ほどかけて、次はいよいよ真打の「AXIOM80」(以下「80」)の試聴へ。

我が家の2系統のシステムのうち、お客さんが見えたときに最初に聴いていただくのは必ずJBL3ウェイシステムにしている。大概の方から「もうこれで十分ですね」と仰っていただくのだが、次に「80」システムを聴いていただくと「音楽を聴くのならやはり80ですかね~。」

この日のKさんも同様だった。お互いに「80」の同好の士として心ゆくまでの納得と安心の展開である。

なお、本日のテスト盤として大活躍したのがKさんが持参された次のCD。小さい頃から耳に馴染んだ「日本歌曲」はやはり永遠の心の歌である。第1トラックの「花の街」は
昔から大好きな曲だが、17トラックの「子守唄」を聴いていると思わず涙した。Kさんもときどき涙されるので、この日はいい歳をした「泣き虫男」が二人!

           

はじめに現在鳴らしている「80」のWE300Bアンプ(モノ×2台)の真空管テストをしてみた。手持ちの「WE300Bオールド」「WE300B1988年製」「中国製4300BC」の3種類。「80」は神経質でアンプのえり好みが激しく、それぞれの違いを明確に出すので実に判定しやすい。結果はもう“言わずもがな”だが、意外に中国製が善戦。

「結構聴けますよ。音色にもっと艶が乗ってくれれば言うことなしですが値段を考えると上出来です。」と、Kさん。WE300Bが高騰している状況では存在価値十分。

なお、現在「80」の超高域を補完するためにJBL075ツィーターを使っているのだが、この必要性と使い方についても意見交換。

Kさんから「075はツボにはまるとこのうえなく素晴らしいツィーターですが、能率が110dbもあるので鳴らし方が難しくて苦労されている方が多いです。これをうまく鳴らす一番のコツは小出力の真空管アンプを使うことだと思います。本日持参した“71A”アンプを075用としてテストしてみましょうか。」とのご提案。

「71A」アンプは出力わずか0.5ワットなのですぐに交換し、以降のテストはずっとこれで固定。

その後、持参された真空管アンプの入れ替え試聴を行ったが、JBL375のときと同様に、ここでも「245(なす)」真空管アンプの独壇場ともいえる展開になった。音の抜けといい、透明感も素晴らしいが、何よりも「これでずっと音楽を聴いていたい」という気にさせるところが凄い。まったく自然な鳴りっぷりなので音質がどうのこうのという次元を明らかに越えている。

もともと「80」(イギリス製)の開発は「45」真空管アンプで進められたので、相性がいいのは当然のことだろう。

今や伝説の人となったオーディオ評論家の瀬川冬樹さんが「80」を愛聴されていたのは有名な話だが、アンプはプリの「マランツ7」にパワーは「245(なす管)」を使っておられたというから、この組み合わせは十分保証付きの話ではある。

しかし「どうだ、参ったか!」といわんばかりの展開に、心中穏やかならぬものが漂う(笑)。

是非ともここで一矢報いたいところなので、頼みの綱として登場したのが「WE300B(アメリカ)」と並んで名三極管の双璧とされる「PX25(イギリス)」真空管アンプ。

                     

ここで、ものはついでとばかり手持ちの「PX25」の中から3種類の球のテストをしてみることにした。

           

左から「GECのなす管」「テスラのRD25A直筒管」「オスラムのドーム管」だが、結果的にはいずれも甲乙つけ難し。

GECは独特の艶があって肉付きが豊かで好ましいし、テスラは細身で品のいい鳴り方をするし、この両者の長所を2で割ったのがオスラムのドーム管。

Kさんによると「WE300Bはありのままを素直に表現する武骨な正直者といった印象です。これに比べてPX25は己の見せ所を知っている千両役者ですね。これを開発したイギリス人の耳とセンスの良さに改めて感心しました。オスラムのドーム管は245と鳴り方がすごく似てます。こなれてくると245よりも、もっとうまく鳴る気がします。たぶんクオリティは上ではないでしょうか。それにしてもWE300BやPX25の名管を「80」でこんなに沢山試聴できるなんて、まったくオーディオ冥利に尽きます。」

とまあ、こういうわけで我が家のアンプの編成もとうとう変更することに相成った。

JBL375ドライバーには、同じアメリカのWE300Bアンプをあてがい、「80」には同じイギリスのPX25アンプを持ってくることにした。考えてみるとアメリカとイギリスのお国柄の違いが文化として音質に反映されるというのも興味深い話。「音」の世界にはそれだけ奥の深いものがあるのだろうか。

ただし「80」用としてのWE300Bにはこれまで「オールド」を使ってきたが、375用となるととても使う気になれず「1988年製」を使用することにした。

理由はもうお分かりですよね(笑)。

なお、Kさんによると「80のオリジナルを持っている方はよく自慢なさいますが、復刻版とそんなに変わりませんよ。しいて言えば低音の出方がちょっと違うくらいです。ましてや〇〇さんの場合、3ウェイで鳴らしてあるのでまったく違いが分かりません。現実にオリジナルを使っている私が言うのですから間違いありません。」には勇気づけられた。

ただし、我が家の「80」システムにもまだいろんな課題があるようで、アンプによっては「80」とウーファーとの異質感がつきまとうようだ。それと適切な信号入力によるエージングの必要性も指摘された。とにかく気難しいユニットなので完全に乗りこなすのには引き続き苦労しそうだ。


鳴らし方が悪いと「キンキン、キャンキャンした音が出る、低音がまったく出ない、実に扱いにくい“じゃじゃ馬ユニット”」と、散々な悪評がつきまとう「80」だが、Kさんは独自のボックスを使ってフルレンジで見事に手なずけているそうで、とりわけ豊かな低音のせり上がってくる響きに見るべきものがあるというから凄い。

「80」単独で不足のない低音が出せるなんて、理想的な鳴らし方なのでこれは是非、福岡のご自宅に近々お訪ねせねばなるまい。

 


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7時間ぶっ続けの試聴

2013年04月04日 | オーディオ談義

同じSPユニット「AXIOM80」の同好の士として、3月18日に我が家に試聴に来てくれた福岡のKさん。

その時の顛末は先日のブログ「値千金のひととき」で詳細に記しておいたが、再び昨日(3日)に試聴の運びとなった。

ちなみにKさんは我が家での試聴に刺激されて、あれからすぐに押し入れに直していた「AXIOM80」(オリジナル)を引っ張り出して鳴らし始めたそうで、ようやく最近になってエージングが済んでうまく鳴りだしたとのこと。

そこで、近々、試聴にお伺いすることにしたが、どうやらKさんのオーディオマインドに盛大に火を付けてしまったらしい。うれしい反面、ご家族の方から「責任をとれ」と言われたらどないしよう?

それはさておき、前回は1930年代の貴重な真空管による「球転がし」が中心だったが、今回は3台の真空管アンプと大量の真空管を持参されての、前回以上の盛大な試聴会となった。

11時30分から夕方の6時半まで「7時間ぶっ続けの試聴」だったが、途中で「時間よ止まってくれ」と祈りたいほどの楽しくて充実した時間となった。こんなことは青春時代に誰かさんとデートしたとき以来(笑)。

いやあ、この歳になっても7時間がまるで一瞬のように感じることって、ほんとにあるんですねえ!

Kさんが持参されたアンプは次のとおり。

         

左から順に「2A3用(アクチュラス1枚プレート装着)」「245用(なす管:レイセオン4ピラー装着)」「71A用」の3台。いずれもトランスドライブで、装着している真空管はすべて1940年代前後の古典管。出力は順に3ワット、1ワット、そして「71A」に至っては0.5ワット。

こんな小さな出力で「ホントにスピーカーを駆動できるのかいな?」と、半信半疑だったがこれが想像以上にうまく鳴ったので驚いた。「1940年代に真空管はすでに完成していた。その後は、品質が落ちるばかり」という話はまんざら嘘ではなかった。

はじめの「アンプ転がし」の対象はJBL3ウェイシステムのうちの375ドライバー(16Ω)。能率が110dbあるので小出力のアンプで駆動できるので何よりも助かる。現在我が家では2A3アンプで駆動しているわけだが、これを順次切り替えて試聴。

Kさんによると「375をクラシック向きにこんなにうまく鳴らしている方は初めてです。」とのことだったが、「アクチュラス1枚プレート」の球の音は素晴らしかった。これに比べると、評判がいいRCAの2A3ほどの球でも古色蒼然として聴こえるから不思議。

しかし、それと同等か、あるいはそれ以上に良いと思ったのが「245なす管」だった。これは周知のとおり、2A3真空管の母体となった真空管である。

            

この「245なす管」はKさんが生涯で一番愛されている球とのことだったが、たしかに大いに頷けるものがあった。375がこんなに瑞々しく、そして透明感に満たされた音になるのだから、もう堪えられない。

いやあ、参ったなあ。「このアンプ、しばらく置いていくわけにはいきませんか」と、喉まで出かかったがそこはマニアとしての意地がある。

「な~に、375は我が家では付録的な存在だ!」と、ぐっと踏みこたえて、次はいよいよ真打の「AXIOM80」の「“アンプ転がし”と“球転がし”」へ。

以下続く。
 


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「真空管とトランジスタ」アンプ

2013年04月02日 | オーディオ談義

周知のとおり、オーディオ・システムの中で、「スピーカー」と「アンプ」と言えば、ともに横綱的存在。

ずっと以前に読んだ本には、たとえて言えばスピーカーが「容姿」とするなら、アンプはそれに「魂を吹き込む役目を持つ」とあった。

それほどに大切なアンプにもいろんな種類があるが、大きく分けるとデバイス(増幅素子)の違いで真空管とトランジスタ(以下「TR」)に分けられる。

この2種類のうち果たしてどちらが音の再生に適しているのか、こればかりはほんとにオーディオ愛好家にとって古くて新しいテーマで悩ましい問題となっている。

それぞれに一長一短あって論争は尽きないが、結局のところ、使用しているスピーカーの能率や音色との相性、個人的な好みの違いによる使い分けとなってくる。

一昔前に、オーディオの舞台にTRアンプが登場したときのことをよく覚えている。大方の評論家からは「もうこれで真空管の時代は終わった。」と、言われたものだった。真空管は物理特性がTRに比べて数段落ちるし、出力も稼げずスピーカーを駆動する力も弱いというのがその根拠だった。

現実にラックス社から販売されていた当時の真空管アンプ「SQ38F系」などは、人気があり個人的にも好きだったのに早々に生産中止されてガッカリしたものだった。

ところが、どっこい真空管はしぶとく生き残って現在でも一部のファンを魅了しながら見事に命脈を保っている。ラックス社にしても、いったん終了宣言しておきながら「SQ38F系」の復刻版を次から次に出すという有り様で、まるで定見の無さを露呈しているようなもの。そんなことで一流メーカーと言えるのか(笑)。

はたして、そうまでして生き残った真空管のいったいどこがそんなにいいのかというわけだが、自分は現実に真空管アンプとTRアンプを併用して使い分けしているので、両者の長短について思うところを率直に述べさせてもらおう。

ただし、これはあくまでも一般的なレベルでの話であり、真空管にしろ、TRにしろ、けた外れの「超弩級アンプ」になるとまったく次元が違うので、そういう例外もあることをはじめにお断りしておかねばならない。

まず、真空管は中域から高域にかけての鮮度の高い瑞々しさ、歌手の吐く息の湿り気とでも言えばいいのだろうか、こういう生々しさはTRアンプからはとても伺えない。独特の歪み方がいい方向に作用しているといえる。

しかし、弱点もあってその第一は比較的大きなエネルギーを要する低音域においてダンピング特性が良くない。つまり、音の「立ち上がり」と「収束力」が物足りず、SPユニットを制御する力が非力でこればかりはTRアンプに一歩譲る。

たとえば歯切れのいい低音を期待しても、尾を引いて「ボワ~ン」という“ふやけた”音を出す傾向にある。一方、TRアンプは、これらとはまったく逆の傾向を持っている。

結局、真空管は低音域に弱いが中高域に向いている、一方、TRは中高域に弱いが低音部には強いという構図が成り立つ。

そこで、我田引水のようだが我が家のシステムは、第一、第二システムともに中高域にはすべて真空管アンプ、低音部にはTRアンプを使用している。

現在使用しているTRアンプは30年以上も前のケンウッドの「01-A」(8Ω時、出力100ワット)でプリメイン型式をメイン型に改造してもらっているが、真空管と音色がマッチするので非常に重宝している。電源部は別の筐体に収容されており、本体の方はネジ1本に至るまで鉄を使わないという「非磁性体」構造になっているので、そのせいもあるのだろう。当時はとにかくメーカーが競い合う“熱い”時代だった。

先日、ちょっと思うところがあって「AXIOM80」(以下「80」)3ウェイシステムの低音部に使用しているフォステクスの「SLEー20W」2発を常用のTRアンプに替えて、真空管アンプで駆動してみたところ制動力が弱くて明らかに「80」のスピードに付いていけなかった。

モタモタした印象を受けてとても聴けなかったが、中高域はあんなに美しいのにねえ。ほんとに惜しい!

この「SLE-20W」は強力なアルニコ・マグネットのエッジレスタイプなので、「80」との相性はもってこいなのだが、やや能率が低いのが弱点。そこをTRアンプがうまく補って生き返ったようにシャンとさせたので、改めてその制動力を見直したところ。

さて、最後になったが真空管の最大の弱点を申し上げておこう。

それは一にかかって「値段の高騰」である。

近年、中国などで製造されている近代管はひところに比べて随分品質が良くなったようだが、それとても真空管全盛時代の1930年~1950年代当時の真空管(オールド)に比べると品質がどうしても落ちる。もちろん音質だって落ちる。

真空管の世界ではコピー製品がオリジナル製品を上回ることはまずない。現代の技術力をもってすれば可能かもしれないが、絶対に採算がとれないので賢いメーカーはそんなことはやらない。したがって、需要と供給の関係でオールドの価格が跳ね上がる一方である。

先日(3月18日)、福岡から我が家にお見えになったKさんの情報によると、懐が豊かになった成金の中国人がWE300B真空管を音が分からぬままにステータスとしてお金に糸目を付けずに買い漁っているという。

                          

1988年製のペアで30万円、そして1950年代前後の程度のいいオールドはペアで100万円もするというから驚く。

オールドを持っている方は、球が切れたらもう二度と手に入らないかもしれませんよ。後生大事に、使いましょうね~(笑)。

 


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