「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

愛聴盤紹介コーナー~ベートーヴェン・後期弦楽四重奏曲~

2008年03月30日 | 愛聴盤紹介コーナー

前回の愛聴盤紹介コーナーでベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」を19種類聴いた結果、生意気にも完成度が物足りないと豪語した自分だが今度は「後期弦楽四重奏曲」(12番~16番)への挑戦。

ベートーヴェン(1770~1827)最晩年の1825年から26年にかけて作曲された後期の弦楽四重奏曲(5曲)については、「巨匠への畏敬の念とともに
正座して聴かねばならない」、「あまりの完成度の高さに手も足も出ない感じで、以降の作曲家たちに作曲する意欲を失わせた」など数々の伝説(?)に彩られている。

ベートーヴェンにとってこの時期はソナタ形式との格闘も既に遠い過去のものとなり、既成概念や因習というものから解き放たれて、
その精神を思うがままに飛翔させることのできる至高の境地に達していた。

しかし、少なくともこれらの曲は一般的な意味で親しめる音楽ではないことはたしかで、周囲のAさんもMさんも、口をそろえて「難しい曲」「楽しめる音楽ではない」と言われる。

一般的なクラシック愛好家にとっても「ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲」をレパートリーにしているのはおそらくほんの一握りの方だけではなかろうか。

自分もレコードとCDを両方持ってはいるが、好きで購入したわけでもなく
五味康祐さんの著作「西方の音~天の声~」の12節の同曲に関する記事に触発されてスメタナ四重奏団の「第14番」をレコードで購入したが、結局(良さが)分からずじまいで1~2回聴いてお蔵入り。

CD盤が発売されると、これまた性懲りもなく同楽団に加えて、ほかにもウィーン・アルバン・ベルク四重奏団の後期全集を手に入れたがこれもあまり手が伸びないまま今日に至っている。

これまでの体験で「どうもこの曲は馴染めないな~」というのが本音であり、したがって何も無理してこういう曲にあえて挑戦することもないのだが、クラシックの鬼といわれる方々は口をそろえてこれらを名曲だと言う。

特に五味さんはベートーヴェンからただ一曲を取るとすれば「第14番嬰ハ短調作品131」とまで極言する。~「西方の音」~

ということで、このまま後期弦楽四重奏曲をやり過ごして生涯を終えてしまうのも何だかシャクである。若い時分と今とでは鑑賞の傾向がどう変わっているかについても自分自身で興味があるところ。

あれからいろんな曲の鑑賞体験や人生経験も積み、それに黄昏どきの年齢にもなったことだし、とりわけオーディオ装置の音も当時とではまるっきり変わっているので好みの曲目の傾向も当然違ってこようというもの。

たとえば、つい最近の事例でいえば
女流ヴァイオリニストのジネット・ヌヴーの演奏にこの上なく魅せられるが、これはあえて言わせてもらえれば、ある程度の音楽鑑賞体験と人生経験、それにオーディオ装置の三位一体がそろってはじめて理解できる類の演奏だと思う。

※偶然目に入ったのだが「西方の音」(単行本)248頁に「ジネット・ヌヴーの急逝以来ぼくらは第一級のヴァイオリニストを持たない」とあったが、五味さんの考えが自分と同じだったのがうれしかった。

とにかく、こういう真面目でかた苦しくて聴いても楽しくない敬遠しがちな作品はこうやってブログを利用して自分にプレッシャーをかけながら鑑賞しなければ永遠に俎上には上らない可能性が高い。

さて、能書きはこの辺にして、さっそく試聴に入ろう。ここでは後期弦楽四重奏曲の5曲の中でも取りわけ名品とされる「第14番作品131」「第15番作品132」にしぼってみた。

この四重奏曲の編成は、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとなっている。

自分の現在の手持ちのCDは、

☆1 スメタナ四重奏団 「第14番」  録音:1970年

☆2 ウィーン・アルバン・ベルク四重奏団 「第14番」「第15番」 録音:1983年

Aさんからお借りしたものが

☆3 バリリ四重奏団 「第15番」 録音:1956年

☆4 ジュリアード弦楽四重奏団 「第14番」「第15番」 録音:1982年

       

     ☆1           ☆2           ☆3            ☆4

≪試聴結果≫

「第14番」について
この作品は途切れることなく続く7つの楽章から出来ていて、ある楽章の終わりが、ごく自然に次の楽章を促すように書かれている。

全体的に形式の自由、精神の自由が一体となった音楽で、以前聴いたときのあの深刻な印象は今回一切感じられず、むしろ
軽妙洒脱という表現がピッタリくると思った。やはり時の移ろいとともに作品への印象も変わっていくものでこれは実にうれしい傾向。

全編を通じて天上にいる仙人が思うがままに音符を操っているという至高の境地が感じとれたが、特に第三楽章(47秒)と第六楽章(1分51秒)のつなぎの役割を果たす楽章が極端に短いにもかかわらず、美しいメロディとともにキラリとひときわ輝く光彩を放っていてこれはもうたまらない躍動感!

しかも、いずれの楽章ともに俗世を突き抜けた不思議な明るさに彩られていながら、それでいてものごとを深く考えさせるものを持っている。

交響曲「第九番」とは違った意味で、この作品はベートーヴェンの「究極の音楽」と呼ぶにふさわしい内容を備えていると思った。

とはいっても、皆が言うようにたしかにしょっちゅう手もとにおいて聴く音楽ではない。俗な表現だが淫することを冷静に拒むある種の高潔さというか覚めたものが内在していて、節目節目に折り目正しく接する音楽といってよいと思う。

さて、そこでどういう状況のときに聴けばいい音楽だろうかと自分自身の場合に置き換えて自問自答してみた。

少なくとも癒し系の音楽ではないことはたしかで、救いを求めたり深刻に悩んでいるときに聴く音楽ではないと思う。

~「人生にゆとりができていろんな悩みから解放され、充実感や幸福感に包まれているときの自分を確認したいとき」~

こういう状態のときに聴くのが一番ピタリと波長が合う気がして、これは何だかベートーヴェンが作曲したときの心境そのままという感じがする。

演奏の方は、この範囲ではウィーン・アルバン・ベルクが一番いいと思った。

ベートーヴェン特有のあの緊張感を漂わせながら微妙なニュアンスと息遣い、第一ヴァイオリンのギュンター・ピヒラー(ウィーン・フィルのコンサートマスター経験者)を始めとして名手ぞろいの4人の呼吸がピッタリと合っている。

ただし、やや「真面目すぎて神経質」の趣もあるので、五味さんが推奨する「神韻ひょうびょうたる幽玄の境地」を奏でる
カペー四重奏団やほかの演奏も一度聴いてみたいもの。

「第15番」について

この作品は14番と違って、非常に暗いオープニングに象徴されるように一転して重々しくなる。全体は五楽章で構成されているが第一、第二楽章ともに難しくとっつきにくいが何回も聴くうちに味が出てくる音楽なのだろう。

救いは第三楽章。全体で41分ほどの内15分を占めている最大の楽章。

「モルト・アダージョ」(とてもゆっくりと)の指示のもとで、この楽章の冒頭には「病から治癒した者の神に対する聖なる感謝の歌」という言葉が記されている。

当時、ベートーヴェンは体調を崩し(腸カタル)、作曲を中断せざるを得ない状態だったが、やっと回復し、創作力を蘇らせたことをきっかけに当初予定のなかったこの楽章を挿入した。

「病の治癒を心から感謝して神に捧げた音楽」とは一体どういうものか、これはとても自分の筆が及ぶところではない敬虔な調べで、機会があれば一度聴いて欲しい音楽とだけいっておこう。

この楽章だけとってみれば癒し系で、身体の病、心の病から治癒したときはもちろんだが、悩みを抱えているときにも慰めてくれる音楽といえる。

ただし、この部分だけ取り出して聴くのはやはり安易の謗りを免れず、全体を通して聴く中で初めて存在価値が出てくる楽章だと思った。

演奏はアルバン・ベルクもバリリも良かった。前者はデジタル録音で音質が鮮明で思わず手を合わせて祈りたくなるような感動に満ちているし、後者はモノラル録音だが、闊達さと力強さがある。

一般向きにはアルバン・ベルクだろうが、バリリもなかなかいいので今度は14番も聴いてみたいと思い、HMVを覗いたところ、あった、あった、何と14番と16番のカップリング!躊躇なくクリックしてカートに入れた。

以上、第14番と第15番(実際の創作は14番が後)を聴き終えたが、自分は14番の方が明らかに全体の完成度が高いと感じた。それぞれの7つの楽章に意味があって、きちんとそれなりの順番の位置に納まっている印象を受ける。

しかし、いずれにしてもやっぱり「ヴァイオリン協奏曲」なんかと比べるとはっきりと峰の高さが違うというのが実感!作曲時期の約20年の差はそのまま作曲家としての成熟度の差になっていると思う。

今からすると約200年前の作品になるわけだが、どのような時代であれ「
人は1回限りの自分自身の人生を生きるしかない、前向きにならないと・・・・」といった哲学的(?)な心境に浸らせてくれる特上ともいえる音楽だった。

                     
           西方の音                 ~天の声~

 

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