「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

あいまい・ぼんやり語辞典~終~

2022年10月02日 | 読書コーナー

「智に働けば角が立つ、情に掉させば流される、意地を通せば窮屈だ、とかくこの世は住みにくい」とは、ご存知の方も多いと思うが「草枕」(夏目漱石)の冒頭の一節です。



こういう世知辛い世の中を上手く渡っていくには、ときには気長に構えて「あいまい・ぼんやり」させておくのも一つの手段だと思いますよ~

前回の曖昧言葉「どうも」が好評を博したので味をしめて「第2弾」といこう。(以下引用)

2 「ある程度」(8頁)

ある程度というのは、どの程度のことなのだろうか。「ある人」「あるところ」のように具体的なことを言わない表現だから、具体的に程度を言わないというだけを表すはずだ。

その点では「ある程度」というのは相当ぼんやりした意味しかないように思われる。しかし、「ある程度」の意味には注意すべき範囲がある。

例えば、「ある程度協力してもらわないと困る」と言われたのである程度掃除しておいた。のように言う場合、「ある程度」はただのいい加減な程度ではない。

一応の「想定される水準までの程度」という意味である。完全完璧でなくても良いが、「最低合格点」以上の程度である、といった意味はあるのだ。

したがって、ただ何でも良いというわけではない。ぼんやりした意味の語ではあるがそれなりの水準を要求する言葉なのである。

いわば「ある程度」は許容範囲の水準を問題にしている点で「ある程度」(?)いい加減にしても良いという程度ではない。

3 やれやれ(192頁)

「やれやれ」を「新潮現代国語辞典」で引くと「深く物に感じた時、疲れた時、失望した時などに発する声」とある。

(自分もよく使っており、ネット記事などを見ながら、「やれやれどうしようもないな~」とか独り言を洩らしている~笑~)

というわけで、現代では「やれやれ、くたびれた」(疲れ)、「やれやれ、ようやくメドが立った」(安堵)、「やれやれ、また失敗か」(失望)といった用方が主であろう。

こうしてみると否定的な意味で用いられることが多いように見えるが、必ずしもそうではない。

「あなたにしかできない仕事ですよ」などと頼みごとをされた場合に、「やれやれ、しかたがないなあ」と、まんざらではない表情をして引き受けることもある。

表向きは「失望」のように見せながら、その実は相手に対して優位に立っていることに心地よさを感じているものである。「やれやれ」には少し余裕がある。

また、「やれやれ」と聞くと村上春樹作品を想起する人も多いであろう。心中の描写、実際の発話を問わず「やれやれ」が多用され、たとえば「ノルウェイの森」だけでも10を超える用例がある。

一例では「そんなに永沢さんのことが好きなんですか?」「好きよ」と彼女は即座に答えた。「やれやれ」と僕は言ってため息をつき、ビールの残りを飲み干した。「それくらい確信をもって誰かを愛するというのはきっと素晴らしいことなんでしょうね」

「やれやれ」に類似する感動詞として「あ~あ」があり「あ~あ、くたびれたorまた失敗か」(疲れ・失望)のように言うことはできるが、「あ~あ」に安堵の用法はない。

「やれやれ」の表す感情の領域はなかなかに複雑な形をしているようである。

4 ちょっと(100頁)

「ちょっと」の用法はちょっと(?)多岐にわたっている。

1 この服はちょっと大きい。ほかにも、ちょっとお腹がすいた、ちょっと遅れます、など

2 (上司が部下に)この書類、ちょっとわかりにくいね。

3 「今夜飲みに行かない?」「今夜はちょっと無理かな」

1,2の用法では「ちょっと」を「少し」と置き換えることができる。その一方、3のちょっとは断りによる相手の負担への配慮と考えられる。

「ちょっと映画でもどうですか」のように勧誘の場合に使うのも同様である。これは具体的な時間や量を想定しているのではなく、依頼や勧誘によって生じる負担が大きくないことを表そうとして「ちょっと」を使っていると考えられる。

「ちょっと~、なんでそんなことを言うのよ」のように文句を言うときにも使われるがこれらも相手に負担をかけない場合の用法から広がったものだろう。

さらには「今日はちょっと・・」「彼はちょっと・・・」などと曖昧にして続きの理解を聞き手に委ねることもある。

「ちょっと」の用法は幅広く、ときにちょっと(?)曖昧な印象をもたらしている。

以上、3つの「曖昧言葉」を挙げてみましたがいかがでしたか?

前回投稿した「どうも」も含めて、外国語でこれらの用語に直接該当する言葉はないようです。

今さらながら日本人独特の繊細かつ微妙な気配りに満ちた「社会感覚」に驚かされます。



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