ずっと以前の記事にチェリビダッケ指揮の「交響曲第8番」について搭載したことがある。
「はるか忘却のかなた」のことなので、おそらくご記憶にある方は少ないと思う。ちょっと長くなるが再掲させていただこう。
東京フィルハーモニーのコンマス(当時)「荒井英治」氏が理想のオーケストラとして「チェリビダッケ〔指揮者)+ミュンヘン・フィル」を挙げていた。
ウィーン・フィルやベルリン・フィルとかの超一流オーケストラなら分かるが、なぜ、ミュンヘン・フィルを?
実は思い当たる節があるのである。
チェリビダッケはフルトヴェングラー亡き後、ベルリンフィルの常任指揮者のポストをカラヤンと争って敗退した。〔楽団員の投票によるもの)。敗因の一つにスタジオ録音をことさら嫌悪し排除したことが上げられているが、いわば音楽にコマーシャリズムの導入を認めなかった頑固者。
後年「自分がベルリンフィルを継いでいたら、もっとドイツ的な響きを失わずに済んだであろう」と豪語した話は有名だが、ともかくミュンヘンで「配所の月」を眺めつつ徹底的に楽団員をしごき上げ、理想の響きを追求した。
つい「悪いオーケストラはない、悪い指揮者がいるだけだ。」という言葉を思い出す。
そして、その成果ともいえる「名演奏」が誕生した。
それはブルックナーの「交響曲第8番」のリスボンでのライブ演奏。世に言う「リスボン・ライブ」である。
チェリビダッケは録音を許さなかったし、ライブでもあるのでこの演奏は後世に残るはずがなかったのだが、何と海賊盤が存在しているのだ。
誰かが当日、こっそり録音機器を持ち込んで録音したという曰くつきのCD盤〔2枚組)。正式に陽の目を見ない盤だが、知人によると過去にオークションで法外な価格〔1万円以上)で登場していたという。
念のためネットで「HMV」を確認してみたがやはり「正規盤」としては流通していない。
巷間、ブルックナーの交響曲のうち最高傑作は8番と9番〔未完成)とされており、この8番は100分ほどに及ぶ大作だが幾多の名指揮者の録音があるものの、この「リスボン・ライブ」を一度聴いておかないと話にならないそうなので、まあそれ相応の価格と言っていいかもしれない。
フッ、フッ、フ・・、実はこの「リスボン・ライブ盤」を持っているのである。
手に入れた経緯? 海賊版なのでそれはヒ、ミ、ツ(笑)。
荒井さんの記事に触発されて久しぶりにこの「リスボン・ライブ盤」にじっくりと耳を傾けてみた。(音楽には刷り込み現象があるので最初に聴く演奏が大切だが自分の場合この演奏だったので助かった。)
やはり、旋律を楽しむのではなくてたっぷりと大きなスケールで豊かな響きを楽しむ音楽である。はじめからお終いまで「豊潤な美酒」(五味康佑氏)という言葉がピッタリ。
取り分け3楽章と4楽章が圧巻でオーケストラの躍動感に痺れてしまった。
通常、チェリビダッケの指揮はテンポが遅すぎると敬遠される方が多い。
それはオーケストラの直接音とホールの残響音とを綿密に考慮して「響き」を重視した指揮をしているからで、良し悪しの問題ではなくて各人の好みの問題なのだが、その点、このリスボン・ライブはホールの響きとのマッチングもあってかテンポもそれほど遅すぎず、絶妙〔だと思う)なので人気がある所以だろう。
しかも、鮮明に録れているのでおそらく最高の位置で録ったものだと推測される。
とはいえ、チェリビダッケの意図した響きを我が家のオーディオシステムがきちんと再生しているかどうかとなると別問題。
オーケストラのトゥッティ〔総奏)ともなれば、どんなシステムだって五十歩百歩で、〔生演奏に)とても及ぶところではないが、少しでもうまく騙されたいものである。
「このリスボン・ライブを聴いて退屈したら、それはシステムがダメな証拠」と知人は断言するのだが、はたして我が家のシステムはどうかな~?(笑)。
という、内容だった。
ところがこの曲について、「日経新聞」の日曜版(2022・4・10)に新たな情報が掲載されていたのである。
何と、このほど「遺族の許可」を受けてこの「リスボン・ライブ版」が正式なCD盤として発売の運びに至ったというのだ。
嬉しいやら、悲しいやら複雑な心境である(笑)。
P.S
「モーツァルトは好まないけどブルックナーは好き」という「T」さんからメールが届いた。それも充分ありでしょうよ(笑)。
サービス精神旺盛なので、新聞記事の活字部分を拡大して再掲してみたのでご一読してください。