「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

近未来、モーツァルトの新作オペラが聴ける!?

2014年05月18日 | 音楽談義

オヤジに似て、大のミステリーファンの娘からもらった冊子「2014年版 このミステリーがすごい!」。

「よろずのことに気をつけよ」(2014.2.21付)で紹介したように、この本では2013年に発行されたミステリーのうち国内版、海外版に分けてベスト10が紹介されている。

国内版の1位が「ノックス・マシン」(法月綸太郎」、2位が「教場」(長岡弘樹)だった。すぐにネットで図書館に予約したところ、待つことおよそ3か月、ようやく1週間ほど前に「予約本が準備できました」と、メールが入った。

留置期間を過ぎて横流しされると勿体ないので、すぐに取りに行って持ち帰り、このほど2冊とも読破したが、両者とも短編集だったので少々がっかり。たしかに佳作には違いないが、そう取り立てて「傑作」というほどのこともないというのが正直な読後感だった。

むしろ、先月(4月)の下旬に福岡へ「キーシンのピアノリサイタル」を聴きに行ったときに往復の電車の中で読んだ「贖罪の奏鳴曲」(中山七里)の方が面白かった。「切り裂きジャックの告白」もそうだったが、この作家の本はいずれも面白いのにどうも玄人筋の受けがイマイチのようで何とも不思議。

          

まあ、音楽の好みと同じでミステリーも人によって好みが違うのは如何ともしがたいところ。

さて、ここからいよいよ本題に入ろう。

上記で紹介した短編集の中の「ノックス・マシン」だが、その内容をかいつまんで報告しておくと、

近未来の話で2058年の出来事が舞台になっている。主人公は中国人で「数理文学解析」の研究に打ち込む青年である。(なぜ中国人が主人公なのかは非常に面白い理由があるのだが、ここでは触れない。)

「数理文学解析」とは、もともと詩や小説作品に用いられる単語や成句の頻度分析から始まった学問で、計算機テクノロジーの飛躍的な進歩にともなって、その対象は語句のレベルから始まって、文章の成り立ち、さらには作品構造の解析にまで引き上げられ、作家固有の文体を統計学の手法によって記述することが可能になった。

そして、人間の手を借りない完全に自動化された物語の創作、すなわち「コンピューター文学」の制作が開始されるようになり、シェイクスピアやドストエフスキーの新作が次々に発表されて権威ある評論家たちが渋々、その質の高さを認めざるを得なくなったというのがこの物語の設定となっている。

以上のとおりだが、実に面白い着想である。

世界文学史上最高の傑作とされるが、惜しくも未完に終わった「カラマーゾフの兄弟」の続編が、ドストエフスキーになりきったコンピューターによって制作されるかもしれないなんて、まるで想像もできない夢物語のようだが、現在のように留まることを知らないコンピューターの進化を考えると何だか実現しそうな気もする。

さあ、そこで我らがモーツァルトの登場である。

わずか35年の短い生涯に600曲以上も作曲した多作家だが、あと少しでも長生きさえしてくれたら人類は「魔笛」以上のオペラを手にしたかもしれないと思うのは自分だけだろうか。

オペラには幸い脚本というものがある。登場人物の台詞と動作と心理描写などがこと細かく記載されているが、これらを手掛かりにコンピューターがモーツァルトになりきって音符の流れを解析し旋律を作って、新作のオペラを作曲するってのはどうだろう!

ちなみに、ここでモーツァルトが残したオペラを挙げてみよう。(あいうえお順)

「アポロとヒャアキントス」「イドメネオ」「劇場支配人」「賢者の石、又は魔法の島」「後宮からの誘拐」「皇帝ティートの慈悲」「コシ・ファン・トゥッテ」「第一戒律の責務」「ドン・ジョバンニ」「偽の女庭師」「バスティアンとバスティエンヌ」「羊飼いの王様」「フィガロの結婚」「ポントの王ミトリダーテ」「魔笛」

馴染みのないオペラを含めて、何と15ものオペラを作曲しておりコンピューターの解析材料(音符、台詞、登場人物の描写など)としては十分な量である。

また、その昔、モーツァルト関連のエッセイで(たしかドイツ文学者の「小塩 節」氏だったと思うが)、8歳の頃に作曲した一節が、亡くなる年(1791年)に作曲された「魔笛」の中にそのまま使われており、「彼の頭の中でそのメロディが円環となってずっと流れていたのでしょう。」とあって、それを読んで深く、深く感銘を受けたことを覚えている!

「三つ子の魂百までも」で天才モーツァルトなら、その“曲風”は生涯を通して変わらなかったに相違ない。まさにコンピューターによって解析するには最適の作曲家ではなかろうか。

こうしてみると、音符は文字と同様に記号の一種なのだから「数理文学解析」と「数理音符解析」(?)とを合体して、モーツァルトになりきったコンピューターが新作オペラを作曲するなんてことが何だか夢物語ではないような気になってくるから不思議。

まあ、自分が存命中は無理な相談だろうが(笑)。

とはいえ、モーツァルト好きのS君(高校の同級生)に言わせると、おそらく「コンピューターがモーツァルトにとって代わるなんて、それだけで”嫌だ”なあ」と、眉をひそめる顔が彷彿と浮かんでくる!

 


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