「あなた、昨晩は凄い“いびき”をかいてたわよ。」と、家内。
「ほう、そうかい。昨日は久しぶりに飲み過ぎたからな~」。
7月初旬のこと、高校時代の同級生で福岡のオーディオ仲間3人が今年に入って2回目の試聴会に来てくれた。前回は3月だったのでおよそ3か月ぶりで、今回も4時間ほど試聴した後の18時頃からクルマで15分ほどの料亭で痛飲した結果がこれだった。
U君、O君、そしてS君、いずれ劣らぬ音楽好きのオーディオマニアたち、そして極め付きの酒豪たち(笑)。
今回の試聴会のハイライトは何といっても世界でたった1枚のCDの試聴だった。
モーツァルトのピアノソナタ(全17曲)全集は愛してやまない座右の盤だが、U君も負けず劣らずの愛好家。とうとう、自分で8名のピアニストを網羅した独自のCDを編集し作成してしまった。「iTunes」を使えば簡単だろうが、音質に配慮して習熟したパソコン技術を駆使しての作品。
曲目はピアノソナタ8番(K.310)の第一楽章と第二楽章で、それぞれ2枚のCDに分割して収集。
ピアニストの順番は次のとおり。
1 イングリッド・ヘブラー 2 ウラディミール・アシュケナージ 3 アンドラス・シフ 4 ディヌ・リパッティ 5 クラウディオ・アラウ 6 マリア・ジョアオ・ピリス 7 グレン・グールド 8 内田 光子
いずれ劣らぬ超一流の豪華メンバー。
はじめに「AXIOM80」システムで通して聴き、その次に今度はJBLシステムで端折って聴いてみて、最終的に各自好みの演奏家を選ぼうという趣向である。個人的に「K.310」は二楽章の方が好みなので、我がままを通らせてもらって二枚目のCDで試聴開始。全体で75分程度。
特上の録音のもとに、こうやって8名のピアニストを一気に聴き比べるとそれぞれの個性が手に取るように分かり、実に興味深かった。もちろん音楽だってそれぞれ別物になる。第一、演奏時間からしてそれぞれ違う。
ヘブラー女史=9分40秒、アシュケナージ=9分37秒、シフ=7分52秒、リパッティ=6分22秒、アラウ=10分11秒、グールド=6分19秒、内田光子=10分42秒といった具合。最短(グールド)と最長(内田光子)で何と4分以上の差がある!
ネット配信に押されてCDの売れ行きが落ちる一方だが、販売側も工夫してこういう小品に限ってはレーベルの壁を越えて演奏者ごとの聴き比べが出来るCDの新たな企画を考えたらどうだろうか。
さて、各自のピアニストの好みだが結論からいくと、O君がヘブラー、S君がピリスを推した。さすがに衆目の一致するところで極めて妥当な線だと思う。
ただ、あえて自分の意見を述べさせてもらうとグールド、ピリス、ヘブラーの順番と公言させてもらった。リパッティも好きだが録音が古くて、少し精彩を欠いた。レコードで聴くならおそらく違うだろう。グールドに関してはどうもその“エキセントリック”さによって好き嫌いが極端に分かれるようで非常に惜しいことだが、いったんその世界に嵌ってしまうと、もう完全に虜になって簡単には抜け出せない。
ところで、一同固唾をのんでCDを傾聴していたわけだが、途中で音が「ルルル」と2度ほど再生しきれずに流れてしまった。いわゆる音飛び現象。
「アレッ、よりによってピリスのときに」と慌てた。原盤が悪いのか、CDトランポート(ワディア270)の読み取りが悪いのか、そのどちらかである。U君が自宅で再生したときはそういう現象が起きなかったので、明らかに犯人は我が家のワディア270にある。読み取り機能不全とくれば、原因は自ずと絞られる。ピックアップレンズの埃である。
丁度、O君が湿式のCDクリーナーを持参していたので、それでレンズのクリーニングをさせてもらうと、ものの見事に治った。しかも以前に比べて音の透明度がはるかに向上したのには驚いた。これは思わぬ収穫!
「CD再生のための読み取りのときに補正機能の余分な操作が無くなったおかげだろう」と、U君。
「レンズはしっかり機器の中に内臓されているのであまり掃除する必要はないと思っていたんだけどねえ」と、自分。
「トレイの開け閉めで当然空気が入るし、内部の熱によって空気が対流するので、レンズに埃がつくのはあたり前。せめて1か月に1度くらいはレンズをクリーニングした方がいいよ」と、これまたU君。
「大河の流れも一滴から始まる」というが、音の入り口の一番最初の部分に当たるCDトランスポートのピックアップレンズの汚れに起因した音質がずっと増幅されていってスピーカーから音として出てくるのだから、考えてみただけで背筋がゾッとする話。
レンズはくれぐれも定期的に掃除しましょう!
ちなみにCDコピーのときに重宝しているパソコン用外付けCDドライブ「プレクスター」のレンズもついでにクリーニングしたところ、その後いっさいコピーミスが無くなって、CD-R盤の廃棄が出なくなったのには驚いた。
さて、モーツァルトの試聴後は、さまざまなジャンルの音楽を2系統のシステムで聴いてもらった。
「結局、どちらのシステムが好きだった?」と、終わりごろに訊いてみると異口同音に「AXIOM80の方が好き」。
しかし、JBLの実力はとてもこんなものではないはず。きっと自分の鳴らし方が悪いに違いない。皆さんの指摘のポイントはどうやらボーカルの再生時のようなので、とりあえず低音から高音まで3つのユニットの位相調整に後日改めてチャレンジしてみることにした。マルチ・チャンネル・システムはやはり難しい。
試聴会の都度、こうして何がしかの課題が浮上してきてオーディオ人生の充実に貢献してくれるが、これも仲間たちのお蔭!