それは6月21日に来た一通のメールから始まった。
「初めまして。〇〇と申します。別府市の北部〇〇に住んでます。辛うじて昭和ひとけた生まれに留まっています。音楽・オーディオが好きですが、私のは庶民派のレベルで自慢できるようなものは持っていません。しかし、モノづくりが好きでスピーカーのエンクロージャーを何台か作ったり、手ごろなアンプキットを作ったりしています。
スピーカーは専らフルレンジです。音楽のジャンルはジャズでアキシオム80さんとは違いますが、音楽を楽しむという意味では同じかなと思っています。さて、私が所有しているマランツのアンプ1150ですが、長年愛用してきましたがつい最近故障してしまいました。・・・・・」
という内容で、要は「別府市内でアンプを修繕してくれるところをご存じないですか?」ということだった。
真空管アンプの修繕なら、県外だが“一押し”の方を知っているものの、「1150」はトランジスターアンプなので心当たりがない。「ご要望に添えなくてまことにすません」と丁重にお断りしたが、数日経って再度メールが届いた。
「修理を手掛ける所が別府にないかとネット検索をしていたところ一軒見つかりました。出張はしないという事なので決心をして老躯にむち打って持込みました。主業務はパソコンの修理という事なのですがAudioもやりますということなので先ず診断を依頼しました。担当の方は昔Pioneerで25年くらいAudioのサービスエンジニアをされていたという年輩の方でした。
翌日診断結果の連絡があり、リレー基盤の基盤割れということで修復可能ということでした。ジャンパーで回路を作り、DC Offset, Idling current等の確認と内部の清掃をやるということでしたので修理を依頼しました。どうやら私がリレーを交換したときに基盤に無理な力が加わった二次災害だったようです。
翌日の夕刻できたという連絡で取りに行き、今日自宅で接続をしました。昔の性能が甦って喜んでいます。分かってみれば単純な故障でしたが、私は3本の線の切断だけに気を取られていたので思い付かないことでした。別府も小さいがこんな所もあるんだと再認識しました。」
すぐに返事のメールを送った。
「いやあ、良かったですねえ!たちどころに修理個所を発見して直してくれるとは、その技術者の方はなかなかの腕と思いますよ。参考のためにその修理会社名を教えていただけませんか?また、よろしかったらぜひ我が家に試聴にお見えになってください。人様にわざわざお聴かせするほどの音ではありませんが。」
そして、阿吽の呼吸で30日の日曜日13時から我が家で試聴の運びとなった。
当日は小雨模様の中、13時前後に自宅の前に出て目印の積もりでつっ立っていたところ、カーナビを利用されて迷うことなくご到着。
「いやあ、初めまして。どうかよろしくお願いします」。
さっそくオーディオルームにご案内して、ジャズがお好きと伺っていたので初めにJBLシステムで「ベイシー・ビッグ・バンド」。最後まで聴いたうえで、今度は「AXIOM80」システムに切り替えた。
「実に澄み切った音が出てますねえ。しかも芯がしっかりしています。この音なら1日中聴いてもまったく疲れませんね」と、お気に入りのご様子でほっとした。
後はずっとこのシステムで聴きながらお互いに積もる身の上話(笑)。音楽・オーディオという共通の素地があるので溶け込むのは早い。
Yさんは福岡のご出身で「修猷館高校~九大~三菱重工業(飛行機部門)~定年退職後に大学教授」との経歴をお伺いして、私も福岡生まれの福岡育ちですよ、と話が弾んだ。
マランツ1150へのこだわりの理由は、お嬢様が勤め始めてはじめてのボーナスで買ってくれた思い出深いアンプだそうで、大いに納得。
さらに、一人息子だったので卒業後は親から遠く離れて就職することに“ためらい”を覚えていたが、ご母堂が「社会人になったら親の周りをウロウロしてはいけません」と言ってくれたので気が楽になったとのこと。
いやあ、実に立派なお母さんですねえ!
オーディオ歴をお伺いすると、フルレンジSPの熱烈な愛好者でJBLの「LE8T」、三菱の「P610B」、ナショナルの「8PWX」と名機がズラリ。しかも先般「LE8T」のエッジをわざわざアメリカから取り寄せてご自分で張り替えられたそうで、相当ご熱心なマニアとお見受けした。
これは是非、近いうちにお伺いして聴かせていただかねばと、大いに意欲が湧いた。ジャズ中心に声楽、ヴァイオリンなどを織り交ぜていろんなソースをかけながら駄弁っているとあっという間に3時間ほどが経過して、辞去された。
その日の夜のうちにYさんからメールが届いた。
「今日は貴重な試聴の機会を設けて頂き有り難うございました。耳と目の保養になりました。本当に素晴らしい音でしたし、音楽も良かったです。それにお話が大変楽しかったです。時には折角の名演をつい忘れたりして演奏者には申し訳ない気持ちです。また同じ大学の出身ということも奇遇でした。明日からもう7月ですが、来週お時間の取れる日がありましたら、拙宅にもおいで下さい。御都合をお知らせ下さい。宜しかったら奥様もご一緒に来られると家内も喜びます。」
こちらこそ、ありがとうございました。ぜひ、2~3日中にお伺いさせていただきます。