振り返ってみると、およそ40年ほどになるオーディオ人生。
幸い、いろんな方のご協力のおかげで、ようやく満足のいく音になってきたが、あとはもう少し低域のボンつきが改善し、分解能が上がってくれれば言うことなし。
オーディオ・マニアとは、とにかく限りなく欲深い人種である。
4月27日(水)、夕食を終えて一服していたときのこと、ふと突然、低域のユニットを「フォステクス」から「アルテック」に替えてみようかと思い立ち、フラフラとスピーカー・ボックスに近づいた。
本年の年頭所感にも述べたとおり、これは積年の宿題となっていて、そのため3年ほどかけてコツコツとユニットや補助バッフルなどの材料集めをし、ようやく準備万端の状況にあるところ。
しかし、言葉にするとあっけないが簡単に済む作業ではない。
スピーカーの裏蓋を開けて低域用のユニット(フォステクスのSLEー20W)を取り外してアルテックの403A(口径20cm)を取り付けるというわけだが、そのユニットがそれぞれ3本もあるのでたいへん。
19時ごろからとりかかっったので、その日の作業は22時ごろに中断して眠りについたものの、さすがにチョッピリ興奮して熟眠というわけにはいかず、翌朝の早朝3時半にいきなり目が醒めるとすぐに作業続行。
スピーカーを倒して裏返しにし、裏蓋のネジを15本緩めて旧ユニットの取り付けネジ(各4個)を外し、結線をすべて取り外して、新しいユニットの取り付け完了。
一つだけならまだしも、これが左右両チャンネルだからひと苦労。その次にSPコードをプラス、マイナスを間違えないように半田付け。
その後に、吸音材として10個ぐらいに小分けした羽毛の木綿袋をぎゅうぎゅう詰めに押し込んだ。
この吸音材は「聴きやすい音質」になるかどうかの命運を左右する程の大切な存在だが、この辺は市販のスピーカーを購入して”ただ鳴らす”だけの人には到底味わえない奥深さが存在する。
さて、裏蓋を締め、重たいスピーカーをやっとこさ持ち上げて起き上がらせると、早速音出し。
オーディオ・マニアならお分かりのとおり、「果たしてどういう音が出てくれるのか」と、このときが至福の瞬間である。
しかし、思うようにいかないのが人生でありオーディオの世界。
あれっ、右チャンネルの下から二番目のユニットからまったく音が出てこない。おまけに左チャンネルの同位置のユニットからは「ビビリ音」がする。
「あ~あ」と、慨嘆!
3セットともオークションで購入したユニットだが、どうやらそのうちの1セットだけ不良品をつかまされたようである。
ひどい出品者もいるものだが、購入したときにすぐに確認しなかった自分も悪い。
相当の日数も経っており出品者も定かでないので、クレーム処理は無理なのですぐに修繕に出すことにしたが、またもや作業が振り出しに戻るのが何とも残念で億劫極りない。
”やれやれ”である。「オーディオは根気」と無理矢理、自分に言い聞かせた。
この1月に心臓の手術をしたばかりで「力仕事」はなるべく避けたほうがいいのだが、まあ大好きなオーディオで命を縮めても仕方がないか~。
早朝8時を待って岡山のSP修理専門店に電話したところ、「ひとまずアルテックを送ってください」という返事だったが連休前の仕上がりは請け負いかねるという冷たい返事。
さ~て、この目前のクライシスをどう乗り越えようかとしばし思案投げ首。選択肢は二つ。
1 このまま作業を中断してアルテックの修理が終わるまで待つ
2 当面、アルテックのユニットを二つにして聴きながら待つ
そして「窮すれば通ず」突然、三つ目の案が浮上した。
アルテックのユニットを一つにして、フォステクスのユニットを二つ使うとどういう音になるんだろう?
科学のプロセスとは観察から生まれた疑問を説明する仮説を作り、その仮説を実験的に検証する作業といわれている。
納得できる結論を得られるまで仮説の検証を繰り返し、失望と興奮を味わいつつ充分に練られた仮説であれば検証の結果、否定されても何らかの充実感を覚えられようというもの。
ちょっと大げさな物言いになったが「オーディオの愉しみ」とは、この「仮説と検証」が簡単に実験出来ることにあるのではなかろうか。
そして、うまくいけば「音楽芸術」を高い次元で手に入れることが出来る!
この場合の仮説とは、SPユニット「アキシオム80」とやや反応が鈍い「フォステクスのユニット」との間のつながりを良くするために、コーン紙が軽くて(音声信号への)反応が早い「アルテック」を1本、その間に挟んでやればいいという推論。
その結果、次の右の写真のようになった。(左は旧)
早速、音出し。う~む、これはなかなかいける!
早速、湯布院のAさんに連絡をとって来てもらい試聴してもらったところ、「アルテックの個性が強すぎてアキシオムの良さを殺しているような気がします。以前の音の方が自分は好きです。」とやや否定的。
そう言われてみると、ジャズやボーカルなどは抜群にいいのだがクラシックとなるとアキシオム特有のふっくらとした上品な響きが削がれている印象を受ける。
しかし、アルッテクの音量さえ絞り込めればこの問題は解決しそうな気がする。正直言って、この着想は簡単に捨てる気になれない。
Aさんが帰られた後で何か方法は無いものかと考えた挙句、一つだけ思いついた。それはアルテックの音声コードをアキシオムと同じように「バッファーアンプ」から引っ張ってくること。
この辺を細かく説明すると”込み入ってくる”ので省略するが、この接続で試してみると明らかに効果ありでアルテックが随分おとなしくなり、アキシオムの良さが引き立ってきて一件落着。
今回の改造劇はアルテックの1ペアが故障したおかげで思わぬ展開となり、「災い転じて福?」の気がするのだが、まあ1ヶ月ほどこれでじっくりと聴いてみることにした。
そのうちアルテックの負傷が癒えて還ってきたら、再度「アルテック3本」に挑戦してみてもいい。