CD番号 CACD 5.00273 F(2枚組)
収録年 1937年
評 価(A+、A-、B、C、Dの5段階)
総 合 A-
指揮者 A+ アルトゥーロ トスカニーニ(1867~1957)
管弦楽団 A- ウィーン フィルハーモニー
合唱団 A- ウィーン国立歌劇場合唱団
ザラストロ A+ アレキサンダー キプニス
夜の女王 A- ジュリー オスバツ
タミーノ A+ ヘルゲ ロスヴェンゲ
パミーナ A- ジャーミラ ノヴォトナ
パパゲーノ A- ウィリ ドムグラフ ファスヴェンダー
音 質 D
私 見
70年前の収録ということで、この録音の悪いCD盤をどのように再生するか、オーディオ装置の真価が問われるところである。
ひとつの方法として、こういう録音の悪い盤は可能な範囲でかなり大きい音で聴くことがコツで、その音が不自然にならないように調整すれば、時間の経過とともに自然に聴覚のフィルターが働いて録音の悪さが気にならなくなってくる。
さて、視聴結果だが一言でいって凄く人を惹き込む力を持っており、感動できる魔笛だった。ところどころカットされており、第二幕のエンディングでは録音の悪さで息も絶え絶えだがそれでも魔笛を沢山聴かれた方にお薦めしたい盤である。
全体的に大変メリハリのきいた緊張感の漂う演奏と進行で、厳しいことで知られるマエストロ「トスカニーニ」の指揮のもとで一糸乱れぬ行進を思わせるが、大事なポイントでは歌手を解放しているとみえてクライマックスの高揚感が見事である。
とにかく、当時の最高の歌手達が持てるだけの実力をフルに発揮した印象で、気迫、声量の豊かさ、声質の張りと艶いずれも現代の歌手達とは一線を画す印象を受けた。
特に、男性陣に特筆すべきものがあり、思わずすごい、スゴイを連発した。タミーノ役のロスヴェンゲはじぶんが最高のモーツァルト・テナーと思っていたあのペーター・シュライアーを凌ぐほどの歌唱力だったし、ザラストロ役も深々とした豊かな低音で周囲を圧倒する。その他の歌手も、極めてレベルが高い。
この魔笛は雑音が物凄くて聴くに堪えないが、まるで”それがどうした”といわんばかりに内容が濃い。明らかに芸術がテクノロジー(録音技術)を超越しているのではないかと思った。
これを敷衍していくとコンピューターが最後まで人間に追いつけない領域とは芸術に対する感性の分野ではなかろうかなどと勝手に連想したりしたが、自分自身にとってオーディオに対する考え方も含めて大変勉強になったCD盤だった。