佐藤功の釣ったろ釣られたろ日誌

釣り・釣りの思い出・釣り界のこと・ボヤキ.etc

神谷利男氏の「尺をとおり越してしまった大あまご」Ⅲ

2011-01-14 18:24:03 | 釣り

クライマックスは、家族を連れての旅行を兼ねて行った初夏の季節に起 こった。それまで確実に尺を越えるアマゴを何度か掛けてはいたが、結 局キャッチできずにいた。天竜川の近くの温泉宿に着くや否や、家族をおいて、一人松川に向かう。

チャンスは今日のイブニングと明日の朝し かない。夕方、まだ少し明るい時間に川に降りたった。

 

しばらく水面凝 視すると、プールの底にかすかに見えたのは、大アマゴのシルエット。 これはある日の早朝、ライズしていたアマゴかもしれない。軽く尺を越 える大アマゴのライズ。そしてこのライズを、「捕った!」と思った瞬間、対岸まで一気に走られて。ラインブレーク。愛用のバンブーロッド を折ってしまいたい衝動にかられたほど悔しかった。

 

すべてが終わった と思ったが、諦めきれずにまたここに立つ自分がいる。

タックルは、ロッドが、トム・モーガン ロッドスミス。カーボンで 8フィート6インチ 3ピースの4番。リールは、ロッドス ミス・サラシーネ。ラインは、3Mマスタリー XPS WF#4。ドライフライにはまだ時間的に早かったので、プールの底のシルエットにめがけて、ソーヤーニンフの16番に小さなガン玉を1 つかませてキャストするアイデアを思いついた。

 

水深がかなりあるの で、その鼻ツラをめがけてニンフを流さなければ絶対に喰ってくれな い。いや、たとえ流れても無視するか見破るかも?。そんな不安もあったが、フランク・ソーヤーがデザインしたこの傑作フライは、多分どん な賢い大アマゴでもだまされるはずだと確信してキャストする。一投目 は、魚の1メートルほど上を流れる。もちろん何の反応もない。二投目は、もう少し近くを流れたようだ。

 

一瞬、魚が少し動いた気がした。

「フライを見ているかもしれない。」

そして三投目。水深が深いのでもちろん小さなフライは全く見えない が、動物的な感と釣りの経験からか、ほぼ魚の前を流れたと確信。心臓 はバクバクと鼓動をうち、アドレナリンが湧き出る感覚が全身を覆う。そして、一瞬、ほんの一瞬だけ、魚が口を開いた時に見えるエラブタが 白く見えた。同時に、ロッドが動き、そして大きくしなった。

 

カクン、カクンと水の底からの感触が伝わる。

「デカイ、これはめちゃくちゃデカイ!」

 

ニンフだったので、ドライフライよりティペットを太くする事が出来た ので、一瞬で切られずに済んだ。トム・モーガンのロッドは、魚の突進 をうまく吸収してくれたし、サラシオーネのリールも、適度なドラグのテンションで魚をいなしてくれた。プールの下流まで魚を寄せ、ベスト の背中につるしたランディングネットを引き出す。「尺」を想定してい たネットなので、一度で成功せずに、二度目にやっとキャッチする事ができた。

 

横たわるアマゴを見て、その想定外の大きさに驚いた。メジャーを持つ 手の震えが止まらない。そしてサイズを知った時は、もう脱力感で近く の石にしばらく座り込んでしまった。 40センチジャストの大アマゴ。

 

尺を通り越して、40センチまでいってしまったのだ。

呆然としながらも、嬉しさがこみ上げてきた。

タバコを辞めたので、なんか手持ちぶさただった。もう少し魚を見ていたかったが、大アマゴもかなり疲れたと見えて、大 きく呼吸している。

 

「サンクス!」という言葉をつぶやいて、そっとリリース。

しばらくじっとしていたが、元気にプールの底へ向かって泳いでいった。

 

温泉宿に帰ると子供達は、プールで泳いでいた。

「釣りは、終わったの」と聞いてきたので

「もう 終わったよ。一緒に泳ごう。」

子供の嬉しそうな顔を見て、これまで週末になれば釣りばかりしてい た、馬鹿な親を恥じた。「しばらく釣りは辞めよう」と自然に思った。 事実その日以来、釣りに以前ほど燃えなくなってしまった自分がいる。目標を失ったからか、家族の事かはわからないが、この日以来、確実に 釣りへの想いは変わってしまった。決してつまらなくなったわけでもな く、嫌いになったわけでもない。ただ、何と言うのか、

「もう ええかな。」

という、そんな曖昧な理由かな。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする