「我が大物たちの記録」より
今回は神谷利男氏の「尺をとおり越してしまった大あまご」と題した作品を3回に分けて掲載です、まずⅠです。
「尺アマゴ釣りたい!」
渓流釣りの目標である「尺」という寸法。たった30センチの魚な のですが、それより小さいサイズとは天と地の差があるのが、尺アマゴ という大きな価値。それまで、いわゆる「泣き尺」といわれる28 から29センチのアマゴは何尾かキャッチしていたのですが、尺に 届かなかった。今年は絶対に尺を釣る!と意気込んだ、あれはいつだったかなあ、それまでの人生で最も仕事が忙しかった日々でありながら、 最もフライフィッシングに時間とお金と情熱を費やした年でした。
フライフィッシングのシーズンは、2月の岐阜県長良川の解禁か ら始まる。昔は、海に下った天然アマゴが遡上してくるシラメを釣ることだったのですが、河口堰工事などで、遡上するシラメも激減。漁協の 放流したアマゴを釣るのが、今のシラメ釣りとなってからは久しい。
今 の日本で、天然魚を求めることは、宝探しのようなもので、私は基本的 にはそうした指向はない。天然魚、放流魚にかかわらず、魚という生き 物が大好きで、それを釣る事が大好き。それも難しければ難しいほど、釣りそのものは楽しくなる。道楽って、そういうもの。天然魚は、それ が生息している場所まで行き着くのに、途方もなく時間と労力がる。私 は、その労力と時間を釣りそのものにかけたいと思っている。
私が最も好きな釣りは、フライフィッシングによる長良川のシラメ釣 り。2月のシラメは、サイズにして18から20センチ 程度でとても小さい。でも何故面白いのか? それは、高速道路に近いかなり下流域という場所と、その時期にシラメが餌にしているユスリカ という超小型の水生昆虫がキーワード。大きな川でロングキャストし、 遠くで極小のユスリカにライズする小さな魚を釣る。この難しさが最高に面白い。
すべてがパーフェクトにいかないと絶対に釣れない。だから 釣るために研究し、練習する。もし、一尾でもキャッチすれば、間違い なくその日のヒーロー。釣りは、川に沢山魚がいて、でも釣れない。そんな状況が最高に楽しい。
毎年待ち合わせして、長良川に一緒に釣りに行く名古屋の友人から、
「尺アマゴがバンバンライズしてるよ」という知らせが届いたのは
シラメのシーズンも終わり、渓流シーズンも本番にさしかかった頃だっ た。
場所は、長野県の飯田市を流れる天竜川支流の松川。
「でも、シチュエーションは最悪だよ。生活排水が流れてくるような場 所だし。」
先の天然魚の話ではないけど、そういうことは全然気にしないので
「今週末に、行きたい!」
ということで、名古屋で待ち合わせし、友人の車で飯田を目指した。明日に続く