佐藤功の釣ったろ釣られたろ日誌

釣り・釣りの思い出・釣り界のこと・ボヤキ.etc

神谷利男氏の「尺をとおり越してしまった大あまご」Ⅱ

2011-01-13 18:20:19 | 釣り

遠 いとはいえ、ほとんどの行程が、高速道路を使えるので快適です。それ にしても、釣りに行くときの、車の中での会話って、ホント楽しい。ワ クワクします。もちろん、女の話などは一切なく、釣り、釣り道具、釣り自慢などの話と時々、食いモンの話。それらのテーマが何度も回転し てゆく、そんなイメージです。ロングドライプの後、飯田市に着いた。 高速道路を降りて、20分ほど走った市内を流れる、松川。両岸が 綺麗に、いやフィッシャーマンからすれば、綺麗でもなんでもなく、自 然破壊。確かにシチュエーションは最悪。

 

「変な場所でしょう。でも、デカイのがいるんだわぁ」という釣友の言 葉に、以前釣り雑誌の読んだ、家庭排水が流れる河川では水質が富栄養 化して水生昆虫も増え、それを餌にした巨大な渓流魚が育つ、という記事を思い出した。そこには、スマートで弾丸のようなトラウトではな く、まるでヘラブナのような体高をしたアマゴの写真が掲載されてい た。私はそのアマゴを決して不細工だとは思わず、パワフルなイメージで、出来るならそんなアマゴをかけて、川を引きずられたいと思ったほ どだった。そんな食欲旺盛なヤツほど、実は賢い。だから大きくなった わけで、川を眺めながらそんな事を考えていた。イブニングまで少し時間があったので、上流の様子を見に行くことにした。そのポイントは、 護岸整備されていなく、巨大なプールとなっていた。水深は深く、水の 透明度もそれほど高くはなかった。

「ここで、先週一緒に行った連れが、尺アマゴを釣ったんだわ。」

「朝? イブニング?」

「イブニングライズ。 結構ライズしてたけど、なかなか喰ってくれな くてね。ティペット切れたりもしたしね」

今は、まったく魚の気配すらないのだが、ここで夕方、カゲロウがふ化 すると、魚の活性が高まり大変な事になるようだ。ただし、いつも起こ るとは限らない。水温や水量、先行者の有無など、タイミングが合わないと決して尺アマゴにはありつけない。

「このポイントは、先週の釣りで荒れてるし、さっき見た下流でやりま しょう。」

という釣友の言葉にうなずき移動した。

 

再び護岸された岸に立つ。ここは50メートルおきに堰堤が作られ ている。川に降りるためにはブロックを這って降りなければならない。しかも、土手もないのでウェーディングするしかないのだ。なんとも厄 介な釣り場だなあと思った矢先、1つライズリングが広がった。

堰堤と堰堤の間の水面は鏡のようにフラット。その水面が乱れたのだ。

「ライズが始まったよ!」まだ上にいる釣友の声が聞こえた。

14番のオリーブのソラックスダンをティペットに結び、フロータントで ドレッシングする。

ロッドは、最も好きなロッド、フランス製のバンブーロッド、ペゾンの コロラド。

パラボリックでありながらスローなアクションは、このフラットな流れ にぴったりのロッドだと思った。リールは、サセックスのはハニーカム ゴールド。ラインは、3MマスタリーのXPS。この美しき道 具を使う至福の瞬間が、釣りのもう1つの楽しみでもある。

ライズリングをつくったアマゴは決して定位置でライズせず、様々な場 所でライズを繰り返している。キャストしても、かなり上流でライズし たりと、そう簡単には釣れないなと思った。でもチャンスは必ずある。タイミングが合えば、魚は反応する。その為のテクニックは十分練習し てきている。

辺りが、少し暗くなってくるとライズも安定してきた。しかし、もう1 つ厄介なことに気づいた。富栄養化した川では、水面張力の変化で、フ ライやティペットへの抵抗が増えて、フライが自然に流れてくれないのだ。いわゆるドラッグがかかってしまう。ドラッグのかかったフライに は、まず魚は出ない。左リーチをダグ・スイッシャーのように大きくか け、フライ先行をいつも以上にシビアに心がける。そして、遂に私のフライを喰ってくれた。

「来た!」 フックアップ。「やった!」心臓が割れそうだ。

しかし「ジジッ、ジーッ!」とフライリールが鳴り、一瞬でティペット が切られてしまった。

「デカイ!」という私の声に、友人は

「尺はないかなあ、9寸(27センチ)くらいかな」

やはりここの魚は、太っていてパワーがある。だから、サイズ以上の強 烈な引きをするようだ。

「オモロイ! 最高やん!」

結局その日は、友人が言ったように、27センチのでっぷりと太っ たアマゴを釣ったのみに終わった。帰路につく時、この川が得体のしれないアマゴを育んでいるような気がして、少し怖くなった。

 

一瞬で、ティペットを切ったアマゴの感触が忘れられないのと、「尺ア マゴ」を釣るという目標が松川という場所でリンクし、帰ってからも落 ち着けない日々を過ごした。

週末が近づくと、インターネットで松川の天気予報を調べたり、ペゾン の竿では、細いティペットには不安に思い、新しいタックルを新調した りした。

 

相変わらず仕事は激務だったが、週末の松川のために生きてい た、といっても過言ではない、そんな時期を送った。そして最大のタッ クルのメルセデス・ベンツのステーションワゴンを買った。松川までの行程をいかに楽しく過ごせるか。最高のタックルで、最高のアマゴを釣 る。松川で釣る。いつのまにか、それは完全な台本のように自分の中で 作られていった。

 

初めて名古屋の釣友と行って以来、単独でほぼ隔週、京都から松川に 通った。行ったものの、大雨&濁流で全く釣りにならなかった日もあっ た。金曜の夜に出発して、日曜の晩に帰ってきた時もあった。日帰りした日もあった。何かに取り憑かれていたような日々だった。

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