伊勢すずめのすずろある記

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伊勢志摩 ~ 奥伊勢地方の「化け石」雑感

2015年11月15日 | 石のはなし

和歌山県産の「熊野化け石」(海岸の海石。高さ約14㎝)

 水石の中に「化け石」(ばけいし)と言うのがある。特に「熊野化け石」は、紀州の「古谷石」に次ぐ銘石として、全国的によく知られている。この水石の原産地は、主に熊野川右岸の上流(和歌山県)で、熊野本宮のあるあたり一帯の支流の谷間である。石質は、古谷石類似の土中石(どちゅうせき)の芯出し石で、概ね珪質頁岩や粘板岩、泥質石灰岩等のようである。
 形状は、特に決まっておらず、山水景石や形象石(姿石)の他、亀甲石などもあり、その多くはいわゆる「奇石」として珍重されている。
 現在では、和歌山県下の海岸の海石(うみいし)や、三重県側の熊野川流域支流の河谷(かこく)等から産する類似品についても、「熊野化け石」と呼称しているようである。
化け石ぎみの「伊勢古谷石」の名石 ~ 彦山川産、左右幅約24㎝


 さて、伊勢志摩から奥伊勢にかけての、中央構造線外帯の急峻な山地や渓流(殆どが秩父累帯)等からも、形状や色調の酷似した名石が産し、当地では「伊勢古谷石」と称しているが、その殆どが山地の土中石(芯出し石)か、渓流等に崩落した川流れの転石である。山水景を呈するものもあれば、様々な形象石(姿石)や奇石の類も少なくない。原岩は、頁岩の他、チョコレート色の輝緑凝灰岩や赤色粘板岩、泥質石灰岩などである。
 これらも「熊野化け石」風に言うならば、「伊勢石の化け石」である。
旧・紀勢町産の伊勢古谷石の「化け石」~ 左右幅約15㎝


 そもそも「化け石」の「化け(る)」とは、本来「風化作用」の事であり、「破砕」「分解」「溶食」(ようしょく。溶解侵食の事)「変質」「変形」など、地質時代を介しての地質作用によって生じる岩石の土壌化であり、風化途上における地表及び地表付近の岩石の「特殊な石」(鑑賞石=水石)への変化を意味する。
 古生物が「石化」(せきか)して「化石」(かせき)となる事は周知の通りであるが、これは地質学的には「続成作用」(ぞくせいさよう)の範疇であり、水石で言う「化け石」の変化とは区別される。
( 例外として、「珪化木」だけは、水石として鑑賞出来る形状・石質であれば、「化け石」の部類となるようである )

石灰岩の奇石 =「化け石」~ 小萩川産、左右幅約13㎝


 特に、水石用語の「奇石」や「珍石」と「化け石」との厳密な区別は無く、字の如く解釈をすれば、奇石は見た目が「奇異な形状の石」であり、珍石はやはり見た目が「珍しい形・質の石」となる。付け加えるならば、奇石は石質よりも形状の妙味をよりどころとし、珍石は形状と石質を総合して言い表わしているように思う。
「化け石」の呼称は、おそらく「熊野化け石」にちなんだものであろうが、本来の意味は、山地の原岩や川流れの転石の形状が自然界において、さらに何らかの地質作用や溶食作用を蒙った結果、特異な形姿へと変化した水石を指すのであろう。
伊勢市高麗広産の「化け石」~ かつて「神代石」とも呼ばれていた奇石である。左右幅約15㎝


 一例をあげると、例えば当地方の「紫雲石」の多くは、岩石種が堆積岩の「輝緑凝灰岩」であり、節理や破れ目に貫入した方解石などの筋脈や、石灰岩レンズを挟雑するタイプのこの原岩が、岩盤から崩壊して山土(やまつち)まみれの遊離した風化母材となり、さらに腐植による変質や加水分解、酸化分解などによって、より一層風化作用を受ける。
 その後、手ごろなサイズとなったこの岩塊が、谷間の渓流や海食崖直下の荒磯などに崩落し、転石となって水流等による差別的な溶食作用を経ると、名石の「伊勢古谷石」へと化けてしまう。
 これが奇形を呈する水石(形象石)ならば、「奇石」=「化け石」となる次第だ。

度会町小萩産の伊勢古谷石の「化け石」」= 奇石でもある。高さ約23㎝  一般に山水景石や奇石、化け石は、殆どが堆積岩で、砂質岩(砂岩、硬砂岩)や泥質岩(シルト岩、泥岩、頁岩、粘板岩)、凝灰質岩、輝緑凝灰岩、泥質石灰岩、珪質頁岩、石灰角礫岩、チャート、及びこれらの混成堆積岩やそれらの互層岩等に多く見られる。
 そもそも水石のルーツは、山地や川床、海岸などの岩盤を構成する地層であり、山地だと地表から地下に向かって、表土(腐植を含む土層)、風化帯(主に岩盤から遊離した角礫と風化土の混在した漸移層)、風化母材(巨礫や岩塊のみのゾーン)、母岩層(未風化の岩盤・地層)となっている。
 母材のゾーンから地表までの風化帯の厚さは、その地方の地形や地質、水系、気候、植生などによって左右され、一様では無く一定していない。又、風化作用によって生じる土壌も、砂勝ちのものから粘土質のものまで千差万別である。
芯だけになった川流れの「伊勢古谷石」~ 小萩川産。左右幅約18㎝


 風化残渣の表皮殻などをまとった山石(やまいし。土中石)の「化け石」は、一種の「腐れ角礫」(くされかくれき。腐蝕岩)であり、土砂崩れ地帯の崖錐(がいすい)やガレ谷に露出する風化帯に集中している。たとえそれが腐植まみれの見栄えのしない汚らしい真っ黒な塊状岩であっても、丹念に芯出しをすればいっぱしの「化け石」となるケースが少なくない。
 又、現地性の谷落石や川流れの転石の場合は、自然に風化岩の芯がむき出し状態になり、正に「化け石」そのものとなって揚石される事もある。海岸の荒磯の海石についても、この事は当てはまる。
「古谷石」の化け石( = 奇石、銘:唐獅子)~ 和歌山県産の名石。左右幅約18㎝


 最後に付け加えると、龍眼石やさざれ石など、石灰質を介在させる川石などには、一旦程よい水石形となったものが、さらに川泥や川苔の影響を受け、又、差別的な溶食作用が過度に進行した結果、二次的に形姿や色合いを変えたような化け石もある。

 今回解説を試みた当地方の「化け石」は、「奇石」や「珍石」も含めて、水石として鑑賞に値するレベルの変形岩、変質岩、変色岩を指し、角礫~亜角礫から亜円礫に至る途上の「奇形の水石」、と言えるのではないかと思う次第である。

チャート系五色石の「化け石」~ 伊勢市南方産。左右幅約21㎝

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