伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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2月は自宅に引き籠もり、長年仕舞い込んでいた「 水 石 」の再吟味

2023年02月22日 | 石のはなし

志摩市大王町名田・大野浜産の 「鉄丸石」 ~ 左右幅約10cm

 今年の冬は、伊勢の町も冷たい寒風に晒される日々が多く、パソコンを見る事以外には何をするでもなく、自宅に引き籠もりがちのままに2月も下旬となった。 この間に成した事と言えば、玄関続きの土間の片づけぐらいである。
 2畳半ほどのスペースに、運び込んでから手つかずのままの大型水石がごろごろと転がり、幾つかのダンボール箱には封じ込めた未手入れの中型~小型の水石やら、長年にわたって採集をして来た鉱石を含む大・小の鉱物、そして標本の整理で生じた数多くの標本小箱やケース箱などが無造作に詰め込まれ、山積みされている。
 山積みの間隙には、採集用具とディスクグラインダーが数個、さらに工具などの道具箱が所狭しとひしめき、置きっぱなしになっている。

 毎日少しずつ片付けても、丸2ヶ月はかかりそうである。 この土間を片付けるべく、2月に入ってから箱を開け、その中から手頃な水石を幾つか引っ張り出してみた。
 昭和年代からずっと当地方で揚石をして来た良石ばかりなので、丹念に芯出しをし、底面の切断も含め研磨をすれば、結構感じの良い水石になるレベルのものである。
 どれもこれも手間暇がかかる荒石なので、長年放っておいたダンボール箱の中から、昭和年代以降は殆ど知られていない当地方( 伊勢志摩 ~ 奥伊勢 )の水石を幾つか選んで、何とか観賞用に仕上げてみた。


藤川産のやや風化した 「七華石の芯出し研磨石」 ~ 左右幅約10cm


1.風化した「七華石」の芯出し研磨石
 既に何度も紹介をして来た、奥伊勢・藤川産の銘石であるが、昭和30年代の半ば頃から世に出始めた石灰岩質の「色彩石」である。 かつての度会郡七保村永会( 現 大紀町 )付近を原産とする、縞帯模様など多彩な色模様の大変きれいな片状岩( 研磨石 )である。
 少し風化した表面の粗雑な薄汚いような転石でも、丹念に研磨をし、手入れや見立て、台座等の工夫によっては、かなりの絶品となる。 上載写真の赤味がかった「七華石」は、時間をかけての芯出し研磨と、底面の程良いカットによって、仙境を彷彿とする山水景のちょっとした名石となりました。
奥伊勢産の 「神代石」 ( 昭和年代の呼称 ・ 形状は 「伊勢古谷石」 ~ 左右幅約16cm )

2.昭和年代に「神代石」として紹介された、輝緑凝灰岩の風化芯出し石
 この石は、最初は五十鈴川上流の高麗広が原産地だったと思われるが、薄い藤色系の輝緑凝灰岩の風化岩で、穿ちや皺( しゅん )に富み、風化した表面は白っぽい肌色 ~ 黄白色で、山水景石( 主に遠山石、滝石、土坡 等 )や奇形石( 化け石 )を形成する土中石( 山石 )である。
 五十鈴川に流下した転石は、母岩を覆っていた表面の風化残渣土や表層皮殻が水流によって自然に拭われ、そのまま見事な鑑賞用の水石として紹介されたが、原産地は伊勢神宮の宮域なので、高麗広に住む現地住民の方々以外には、揚石はもとより、表立っては持ち出せなかった名石である。 今にして思う事は、当地の山野は一般人には立入禁止の宮域ゆえにか、目にしていたのは希代の絶品ばかりであった。
 その後は、伊勢市の矢持町・横輪町の界隈から度会郡内( 度会町の火打石や小萩 )にかけても、同様の石質の水石が産し、チョコレート色系の銘石「伊勢古谷石」( 石質は輝緑凝灰岩、及び泥質石灰岩 ~ 珪質石灰岩 )と同一視され、水石趣味者の激減もあってか 「神代石」の名前は殆ど聞かれなくなり、石質の共通性から「伊勢古谷石」に吸収されたのではないかと考えられる。
 上載写真の石は、かつて度会町火打石の彦山川で揚石をした川流れの転石で、ダンボール箱の中から荒石を引っ張り出し、底面のみカットをした同質の風化岩です。

伊勢市南方産 「赤肌石」 ( 右側は芯出し研磨石 ~ 左右幅約9cm )   

3.伊勢市南方の鍛冶屋トンネル付近産の「赤肌石」( 仮名 )
 この石は、珪質岩 ~ 珪質石灰岩の土中石( 山石 )ですが、芯出しをすると結構良い感じの赤身を帯びた肌色や、淡橙色 ~ 薄桃色の色彩石となります。 石質も良く、中には表面が「伊勢古谷石」類似の山水景を呈する風化岩も見られますし、方解石の細脈等の貫入もあり、きれいな「滝石」を呈するもあります。
 カットをした断面は、ハムやベーコンのような感じで、同じ珪質岩 ( チャート ) の「伊勢赤石」のそれとは明らかに異なります。今では全く知られていませんが、鍛冶屋トンネルの南出口下の林道沿いが原産地です。
志摩町片田・麦崎産のミニサイズの 「鉄丸石」 ~ 左右の長径約5㎝

4.志摩の海岸産の「鉄丸石」
 静岡県の安部川や富士川、三重県の東紀州から和歌山県の南紀海岸などに産する「鉄丸石」は、球形の泥質岩等のノジュール( 団塊 )である事が殆どで、表面が川泥等に含まれる水酸化鉄の浸潤で茶褐色 ~ 黒褐色に変色・変質し、外面を覆う褐鉄鉱質の薄い被殻と、緻密な内部の泥質岩の芯から出来ている。 鑑賞石としての「鉄丸石」には、外皮が半分程削り取られ、程よく芯のむき出した半くずれのものが珍重されている。
 サイズは、ソフトボール大程のものが大半であり、中には内部の芯まで完全に水酸化鉄( 褐鉄鉱 )や、時には硫化鉄鉱( 黄鉄鉱 )に置換した鉱物質のものも見られる。
 さて、志摩地方各地の海岸に産する「鉄丸石」は、表面が二酸化マンガン鉱に置き換わった、麦崎( 志摩町片田 )の泥質岩中のノジュールやコンクリーション( 結核 )を除けば、他のものは全て表面のみ変色をした現地性の漂礫( 亜角礫 ~ 亜円礫 )である。
 ぐるりが水酸化鉄等に置換し、変質した皮膜や皮殻を持つものは滅多に無く、しかも角ばったものの方が多くて、水石としての「鉄丸石」の形状には程遠く、「…丸石」と称するのは少し可笑しな気がしないでもない。 さりとて「鉄角石」とも呼びがたいので、あえて「鉄丸石」とした次第である。
 冒頭に掲載した写真の「鉄丸石」は、大王町名田の大野浜産の類似礫( 珪質頁岩 )を、程良く研磨してみたものです。



   

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