伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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伊勢志摩の 「 奇 石 」 について

2021年05月29日 | 石のはなし


大王町名田・大野浜産の 「稲妻模様の断層石」 ~ 左右幅約12cm

 三重県の伊勢志摩地方は、志摩半島を中心に岬や島嶼、大小の溺れ谷より成る湾入が続き、この複雑なリアス式海岸が織り成す四季折々の風光は、伊勢神宮の周辺と共に旅情にあふれ、三重県下最大の観光地である 「伊勢志摩国立公園」 ( 海の自然公園 ) となっています。
 当地方のこの複雑な地形の骨格を成す地質構造は、殆どの地域が中央構造線より南の 「西南日本外帯地質区」 であり、西方の紀伊山地へと続いています。

 外帯の地質区を細かく見ると、北より広域変成岩の 「三波川変成帯」 、古生代 ~ 中生代の堆積岩より成る 「秩父塁帯」 、中生代の地層 ( 付加体と考えられている互層 ) より成る 「四万十塁帯」 と、これを不整合に覆う新生代更新世の海成段丘堆積層 ( 鵜方層 ) で構成され、各ゾーンが帯状に東西に広がり、火成岩である塩基性深成岩類 ( 斑糲岩、橄欖岩、蛇紋岩 等 ) も貫入し、朝熊山 ( 海抜 555m ) 等の高峰を形成しています。

 このような地質環境にある伊勢志摩には、古来より神聖視された二見浦 ( ふたみがうら ) の夫婦岩をはじめ、数多くの謂れ石や名物岩等が点在し、山地や谷川等から産する優れた水石や盆石、庭石類と共に、「奇石」 の産出も少なくありません。
 江戸時代には、 「勢州八奇石」 と題した書物も書かれています。

 今回は、一般には殆ど知られていない、手に取って観察の出来るサイズの伊勢志摩地方産出の 「奇石」 を幾つか取り上げ、まとめて紹介を致します。


 ◆ 伊勢市 … 神足石、食いちがい石、褐鉄鉱質の団塊 ( 鈴石を含む )、白鉄鉱質団塊 ~ 結核
            
五十鈴川産の 「神足石」 ~ 右側の長さは約10cm

 1.神足石 ( しんそくせき )
   産 地 伊勢市宇治今在家町、宇治橋付近より下流の五十鈴川

 神足石は、五十鈴川の宇治橋上流の法度口 ( はとぐち ) 付近の川原の転石として産した記録のある、人の足形をした河床礫 ( 亜角礫 ~ 亜円礫 ) です。
 発見並びに命名は、寛政年間 ( 1789年 ~ 1800年 ) に、宇治今在家町在住の里人 ( 民間人 ) であった山中明海によってなされ、その後は伊勢神宮 ( 内宮 ) の参詣者らによって拾われて来た経緯があります。
 江戸時代の旅行案内書である 「伊勢参宮名所図会」 や、明治初期の 「神都名勝誌」 ( 神宮司廳 発行 ) 等の古文書にも、神足石の写図入りの記述が見られます。
 神足石の大きさは、記述によれば 2cm ~ 20cm で、小判形等の長軸の一端にV字形の欠刻を生じています。
 この欠刻の多くは、2方向に斜交する節理 ( ヒビ破れ ) の交線付近の一端が差別的に水流の侵食を受けて、あたかも足袋のような足形や、ハート形に凹んだものと考えられます。
 五十鈴川の川上原産の緑色岩 ( 角閃岩 ・ 斑糲岩 ・ 輝緑岩 ・ ヒン岩 ・ 緑色片岩 等 ) の場合は、地学的な成因に基づき必然的に生じた川流れの奇形礫ですが、五十鈴川ではなぜか輝緑凝灰岩や砂岩、硬砂岩等の堆積岩類にもよく見られます。
 詳細は、既にブログのバックナンバー ( 伊勢 ・ 志摩 ・ 度会の石紀行 その5 ) に、記載を致しました。

宮川右岸の平岩露頭産の 「食いちがい石」 ~ 左右幅約10cm

 2.食いちがい石 ( くいちがいいし )
   産 地 伊勢市辻久留二丁目、宮川右岸の 「平岩露頭」 

 食い違い石につきましては、ブログのバックナンバー ( 伊勢 ・ 志摩 ・ 度会の石紀行 その 6 ) に既に記載を致しましたので、説明は省略し、写真のみ掲載を致しました。


かつて伊勢市白石山から産した 「団塊状の褐鉄鉱」 ~ 最大径約5cm

 3.褐鉄鉱質の団塊 ( 鈴石を含む )
   産 地 伊勢市浦口三丁目、旧 白石山の段丘堆積層

 この産地は、筆者が小学4年生の頃に、白石山の細道の路面から切通しにかけての丘陵地の地層 ( 砂礫層 ) の中で発見したものです。 鉱層を成して膨縮する褐鉄鉱の一部に球状の膨らみが見られ、振ると微かに音がするものがあって、当時は貴重な 「鈴石」 ( 鳴石 ) とは知らずに、中を見るためによく破ってしまいました。
 現在、この細道のあった場所は、県立宇治山田高校のグランドの一部になっていますので、 原産地は褐鉄鉱の鉱層と共に消滅し、絶産となってしまいました。


伊勢市大仏山公園産の 「白鉄鉱を含む団塊」 ~ 最長約5cm

 4.白鉄鉱質団塊 ~ 結核
   産 地 伊勢市小俣町東新村 「県営 大仏山公園」

 大仏山公園産の 「白鉄鉱質団塊 ~ 結核 」 は、かつて平成の初期に公園の造成工事中に露出した、新第三紀の細粒砂岩 ~ シルト岩の地層の中に、筆者が見つけたもので、表面は褐鉄鉱 ~ 黄鉄鉱ですが、その後内部を調べた処、硫化鉄鉱質の一部に 「白鉄鉱」 が混在する事が判りました。大仏山公園産の 「白鉄鉱を含む団塊とその内部」 ~ 右の長さ約4cm
 サイズは、丸っぽい団塊 ( ノジュール ) は梅干し大程度で、細長い結核 ( コンクリーション ) は、唐辛子程度です。
 現在、この露頭は舗装道路の下に埋没していたり、植え込み等でコーティングされていますので、当時多産していた植物化石類と共に絶産となり、現地に行っても僅かに地層の一部が出ているだけで、全く採集は出来ません。


 ◆ 鳥羽市 … 鏡  肌
鳥羽市安楽島町村山産の 「赤鉄鉱の鏡肌」 ~ 横幅約14cm
 1.鏡 肌 ( 鏡 石 ・ スリッケンサイド )
   産 地 鳥羽市河内町 ・ 鳥羽市安楽島町村山

 「鏡肌」 は、断層によって生じた鏡面を有する 「断層面」 の一部ですが、ズレの方向性を示す擦痕を伴っているのが普通です。 この鏡面は、断層粘土によってスベスベに磨かれていたり、赤鉄鉱の被膜が生じていたりするものがあり、まさに天然の 「石の鏡」 と言えます。
 巨岩を成すものは 「鏡石」 や 「鏡岩」 と称し、類似の 「鸚鵡石」 と共に全国各地にあり、古来の名所や名物岩となっています。
 伊勢志摩地方では、高麗広 ( 宇治今在家町 ) にある五十鈴川右岸川岸の 「鏡石」 が古来有名ですが、伊勢神宮の宮域になりますので、近づけません。
 当地のこの 「鏡石」 の事は、ブログのバックナンバー ( 伊勢 ・ 志摩 ・ 度会の石紀行 その11 ) を参照して下さい。


 ◆ 志摩市 … 鍾乳石、高師小僧、漂礫の断層石、黄色玉石
磯部町・廃窯の穴産の 「つらら石」 ~ 左端の長さ約12cm
 1.鍾乳石 ( 鍾乳石 )
   産 地 志摩市磯部町恵利原、通称 「廃窯の穴」 ( 鍾乳洞 )

 「鍾乳石」 は、特に珍しいものでは無く、 「つらら石」 や 「石筍」 などは、「 奇石 」 と呼べるものでは無いと思いますが、中にはいろんな形状やサイズの奇形を呈するものもあります。
 特に 「ヘリクタイト」 や 「ヘリグマイト」 、 「洞窟珊瑚」 などの特異な形態の奇形鍾乳石は、 「奇石」 に値すると思います。
 伊勢市から志摩市にかけての石灰岩地帯には、数多くの鍾乳洞がありますが、珍しい形状の鍾乳石の見られる場所は殆ど無く、いろんな形状の鍾乳石がたくさんあって、容易に採集が出来るのはこの鍾乳洞のみです。


志摩市裏城産の 「ウバメガシの根毛に生じた高師小僧」

 2.高師小僧 ( たかしこぞう )
   産 地 志摩市阿児町裏城、他

 「高師小僧」 は、その原産地が愛知県豊橋市近郊の 「高師ヶ原」 なので、この名前がついていますが、地下水や鉄バクテリアの作用によって生成する、粘土と水酸化鉄がミックス状態となって、植物根などを中心に被殻状に取り巻いた、地層中の二次生成物です。
 志摩市阿児町鵜方から神明にかけての海成段丘堆積層内に産し、多くは黄褐色樹枝状や円筒形ですが、中には鍔状の突起の生じたものや、落花生のような豆状 ~ 球状を成すものもあります。

裏城産の 「鍔付きの高師小僧」 ~ 最長約8cm
 全国各地の第四紀の地層 ( 主に更新統 )などから産し、俗に 「鬼わらび」 とか 「狐の小枕」 などと呼ばれていますが、志摩市ではかつて裏城団地の造成工事中に、地表に近い黄土色粘土層や、その下の灰黒色粘土層の中から無数に見つかりました。
 当地方の高師小僧は、現在も生成中であり、即成の二次鉱物 ( 沼鉄鉱の一種 ) になりますが、既に江戸時代から知られており、当時の唯一の石類書 ( 稀覯本 ) である 「雲根志」 ( 木内石亭 著 ) にも 「土殷孽 ( どいんけつ ) 」 ( 古名 ) として 取り上げられ、以下の記述が見られます。

 「志州シメの浦に産する物、花のごとく実のごとくなる物あり」 ( 注 : シメの浦 三重県志摩市阿児町神明の浦の事か? )

志摩市大王町名田・大野浜産の 「断層石」 ~ 横幅約12cm

 3.漂礫の断層石 ( ひょうれきのだんそういし )
   産 地 志摩市大王町名田、大野浜及び名田漁港の海浜

 「断層石」 は、層内断層の浮き出た珪質岩や泥質岩の漂礫 ( 浜砂利 ) ですが、中には階段状断層が 「稲妻模様」 を呈するものも見られます。 これまでに、幾つかのブログ ( バックナンバーを参照 ) に記載を致しましたので、写真のみ掲載をし、詳細は省略を致します。

志摩市大王町名田・大野浜産の 「黄色玉石」

 4.黄色玉石 ( きいろだまいし )
   産 地 志摩市大王町名田、大野浜及び名田漁港の海浜

 「黄色玉石」 につきましては、先月のブログ ( 伊勢 ・ 志摩 ・ 度会の石紀行 その 12 ) に記述を致しましたので、この記事を参照して下さい。



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